第16話 魔系統
修行を開始し一ケ月が過ぎた頃、魔力操作を終えた俺は次の修行に移る。
「ではこれより次の修行に入る」
「はい! お願いします」
「と、その前に渡しておくものがある」
「なんですか?」
ギルさんは持ってきた鞄の中から見覚えのあるカードを取り出した。
「このカードを覚えているか? これはお前の冒険者カードだ。ニコルから魔力を操れるようになったら渡しておくよう言われていたからな」
「ああ! すっかり忘れてました!」
この街に初めて来て冒険者の登録をした際に貰ったカードだった。
「このカードはまだ誰の魔力も記憶してない新品だ。普通は受け取ってすぐ魔力を記憶させるんだが、お前は魔力をコントロールできなかったからな。早速、魔力をカードに記憶させてみろ」
「やってみます」
カードを受け取ると、両手で持ちまじまじと見つめながら魔力を流していく。
両手から伝わっていくとカードが黄金色の魔力に包まれる。
すると【オルバート・K・シン】【GGG】という文字が浮かび上がってきた。
「おお! すごい! ちゃんと記憶できてる」
「これはお前が持っていろ。失くすんじゃないぞ」
カードの原理はよく分かっていなかったが、あらためてギルドの一員だということを再確認することができた。
冒険者カードの記憶も終わりギルさんが口を開く。
「次は魔力の系統を理解し特技を考えてもらう。<魔系統>については座学で教えた通りだ。 確認のため説明してみせろ」
「はい、魔系統はこのようになっています」
俺は砂浜で拾った流木で文字を書き口頭で説明していく。
【魔系統】
魔系統とは主に8つの属性から成る
TYPE【増強】
本来存在するものを強化することができる
TYPE【自然】
魔力を用いて自然の力を発現することができる
TYPE【操縦】
本来存在するものを操作することができる
TYPE【領域】
魔力を用いてエリアを作ることができる
TYPE【召還】
魔力を用いて対象を出し入れすることができる
TYPE【変質】
本来存在するものを変化させることができる
TYPE【干渉】
本来存在するものに干渉することができる
TYPE【創造】
魔力を用いて新たなものを作り出すことができる
8つに分かれたTYPEは個人の先天的要因と後天的要因から分類される。
生まれつき素質のあるものや血縁によって他のTYPEを持ち合わせる者も存在する。
互いに優劣関係は無く能力の相性は発現した性質による。
座学で教わったことをしっかりと記憶していた。
「以上が座学で教わった魔系統についてです」
「いいだろう。能力は一芸でも極めれば強力な必殺技となる。では、これからシンのTYPEを調べる」
「どうやってTYPEを調べるんですか?」
「ちゃんと用意してある。 これを使うんだ」
ギルさんは鞄から小瓶と木箱を取り出し、木箱の中には石のようなものが8つ入っている。
先に小瓶を手渡してきた。
「それを飲め」
言われた通り小瓶の蓋を開け、鼻を近づけ匂いを嗅いでみた。
この匂いには覚えがある。
「この匂い……、酒ですか?」
「そうだ。酒を飲むと魔力が活性化して系統を調べやすくなる。 酔うほど飲まなくてもいい。一口だけで十分だ」
「いだだきます」
小瓶に口をつけクイッと酒を煽る。
味は日本酒に近いだろうか。アルコール度数は高くはないが喉を通るときのじんわりとした熱を感じる。
前世で酒は好きでいろいろな種類の酒を飲んできたので抵抗なく飲むことが出来た。
「美味しいですね、このお酒」
「なかなかいける口だな。修行が終わったら一杯やるか」
「いいですね! 楽しみが増えました」
小瓶をギルさんに返すと今度は木箱を渡された。
「この石は全て宝石の原石だ。この中にTYPE別の魔力が封じ込められている。 先人たちが何度もこれを使って己のTYPEを調べてきた。
今回のためにギルドから借りてきた。 この原石に魔力を流すと同じ系統が一つだけ反応して光る。やってみろ」
言われた通り木箱の原石に魔力を流すイメージをする。
すると変化はすぐに訪れた。
8つの原石のうち、一つだけが黄金色に輝きだし魔力を止めてもその原石は揺らぐように淡い光を放っていた。
「おお! 光ってる! これが俺のTYPEなんですね! これは何のTYPEなんですか?」
「これは碧玉の原石だ。つまりシンのTYPEは【創造】ということだな」
「【創造】ですか。いまいち実感がわかないな」
「創造は魔系統の中で一番、自由な能力だ。自分の望む能力を発現しやすいからな。 他のTYPEに比べて少ないからレアでもある。俺の知っている限りGGGにも一人しかいない」
「そうなんですか、なんだか嬉しいな。でもどんな能力にしよう……」
自分のTYPEが創造と知ったが逆に幅が広すぎて悩む。
「気持ちは分かるが長引くのも良くない。直感も大事だ。あれこれ考えず自分が好きだと思うものにすればいい」
「う~ん、好きなもの……。そういえばギルさんのTYPEってどれなんですか?」
「俺か? 俺は【変質】だ」
「変質かぁ。……ちなみにどんな能力か聞いたらまずいですか?」
「察しの通り、能力は安易に人に見せるものではない。自分の手の内を見せることは仲間内でも控える。 というより、俺の能力は【見せない】んじゃなくて【見せれない】んだ」
「そうですよね、変なこと聞いてすみません。」
見せれない能力とかめっちゃ気になる~。
「なかには自分から能力をひけらかす奴もいるがな。そういう奴は大抵、人に見せても問題ない能力がほとんどだが」
「奥が深そうですね。てことは、ギルさんは普段から能力を使わなくても強いんですね」
「それだけ基礎の魔力操作が大事ということだ。魔力の源が無ければ能力も霞むからな」
「そうか、スタミナの問題もあるのか……」
「それに俺自身、この能力はあまり好きじゃなくてな。 若気の至りで発現してしまったが、どうにも使い勝手が悪い」
「そうなんですか」
余計気になることを……。
「なんにせよ考えすぎるなよ。どつぼにはまると抜け出せないぞ」
「う~~ん」
考え込む俺を見てギルさんは持ってきた鞄から二本の木刀を取り出し一本を砂浜に突き刺した。
「シン、系統修行は後にして先に剣術の修行に移る。身体を動かせば頭もスッキリするだろう。次の修行は木刀を使って俺に一太刀でも入れたら終了だ」
「稽古ですね。分かりました。けどいいんですか?一太刀だけでいいなんて?」
「生意気な口を叩く前にかかってこい。それと俺は致命的な隙がある場合のみ反撃する。それ以外は受け一辺倒だ」
一太刀だけでいいなんて、……ちょろいな。
俺は木箱を返し木刀を抜き取ったあと両手で構える。
「では、始める。いつでもかかってこい」
そう言うとギルさんは木刀を右手に持ち肩にトントンと肩たたきでもするかのように叩き、余裕の棒立ちだ。
隙だらけだ。完全に舐められてるな。ここで一発喰らわせてやる!
ギルさんとの身長差から胴を目標にし、摺り足から懐に飛び込み勢いよく木刀を振るう。
しゃっ! 入るっ!!
しかし、次の瞬間。
大きな音が二つ重なるように鳴り響き、俺は砂浜にうずくまっていた。
原石を使ったTYPE診断の内訳
【増強】・・紅玉
【自然】・・翆玉
【操縦】・・黄玉
【領域】・・蒼玉
【召還】・・紫玉
【変質】・・白玉
【干渉】・・黒玉
【創造】・・碧玉
となっております。
参考までに。
第17話は明日、18時に更新致します。