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新たな新世界へ  作者: 先生きのこ
第一章  転生
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第14話  修行

生活必需品の買い物を終えギルドに戻った俺達はニコルさんと合流する。



「それが新しい武器だね、シン。 ちょっと見せてよ」


 ニコルさんに言われ、霧一振きりのひとふりを手渡す。

 刀身を引き抜きまじまじと刀を眺ている。



「ベルグさんがこれだけのものを初心者に売るなんて珍しいね。う~ん。いいオーラを発しているよ。

 下手にさわると指が落ちたことにも気が付かないほどの切れ味だ。高かったんじゃない?」


ニコルさんの言葉に青ざめる。



「先行投資ってやつだ。俺は青田買いする派なんだ」


 そのことをまるで気にしていないギルさんは呑気に欠伸をしている。刀を鞘に戻し俺に返すとニコルさんは続ける。



「それで今後の予定はどうするのかな?」


「これから俺はシンが一人前の冒険者になるまで稽古をつけるつもりだ。なんせ魔力やモンスターと魔族の区別もつかないど素人だからな。そのため当分ギルドの仕事はできなくなる」


「そう。ギルが第一線から退くのは痛手だけどなるべく早く戻ってきてよね。二人にはまだまだやってもらいたい仕事が山積みなんだからさ!」


「わかってる。 早速、明日から修行を開始する。俺はスパルタでいくが泣き言は吐くなよ、シン」


ギルさんはまるで獲物を前に舌舐めずりする野生のライオンのように、ニヤリと笑う。



「ひゃい」


その姿はまさに、蛇に睨まれた蛙ならぬ、獅子に睨まれた猿だった。




翌日。


まだ陽が登ってからさほど時間がたっていない時刻からギルさんに呼び出され身支度を整える。



「おはようございます。ギルさん。今日からよろしくお願いします」


「ああ」


「それで、なにから始めるんですか?」


「ついて来れば分かる。行くぞ」



 そうして歩くこと20分。

 二人は海辺の砂浜に到着した。朝日を浴びた海はその光を乱反射し水面が輝いている。

 朝のひんやりとした心地よい潮風が肺を満たし清々しい気持ちになる。砂の地面に寄せては返す波が自然のリズムを刻んでいた。



「はーーー! 気持ちいいですね! ギルさん。海に来たのなんて久しぶりですよ!」


「よかったな。これから毎日来ることになるぞ。早速始めるぞ」


「はい! お願いします!」


「まず刀を貸せ。当分使わないし邪魔になるからな」


「え? 刀使わないんですか? どうぞ」


刀を受け取ったギルさんは背負っていた鞄にしまい砂地に置く。



「では修行を始める。まずは全力で魔力を練ってみろ」


さも当たり前のように促してくるギルさんだが問題が一つ。



「……ギルさん。 魔力ってどうやって練るんですか?」


「そうか、魔力のことも知らないんだな。 いいか、魔力ってのは全ての力の源だ」


「誰もが魔力を持って生まれるがその量には個人差がある。魔力の多寡で勝敗は決まらないが優劣は大きく変わる。

 筋力・スタミナ・治癒・能力その他すべての力に関係している。それが魔力だ」



「俺が手本を見せてやろう」


 そう言うとギルさんは両手の拳を握り魔力を練り始める。

 すると変化はすぐに訪れた。



 魔力を練る前は感じられなかった圧がギルさんの全身から溢れ出す。それは視覚でも捉えることができ色がついていた。


 紅い空気。


それはまるで湯気のように全身から漲っておりさっきまでとは違い全身を押されるかのような迫力を感じる。



「これが魔力だ。魔力には色がついててな、俺は紅だ。そして魔力は有限で使いきれば死に至る。 だが素人は使い切る前に気絶しちまうがな。

お前はまだ魔力の練り方を知らないだろうから体で覚えてもらう」



そのままギルさんは大きな手の平を俺のへそにあてがう。すると、



「!!!」



 熱い。

ギルさんに触られた臍のあたりから全身に向かって熱が巡る。その熱はどんどん高くなり触れられている箇所が火傷しそうだ。



「魔力ってのは人に移るもんでな。俺の魔力に触発されたお前の魔力を強制的に引っ張り出す」



 熱が全身に巡り体温が急激に上昇している。

額には汗が滲み、歯を食いしばる。まるで体中の汗腺が開いているかのようだ。



手を放すと紅かった魔力は次第に紫に変わり、臍の辺りから徐々に黄金色に変わっていった。



「シンの魔力の色は黄金色のようだな」


「ですね。……ところでギルさん。これどうやって止めるんですか? もう……キツくなってきました」


「そりゃそうだ。魔力をコントロールできないと全速力で走っている時より疲れるからな。ヤバイと思うなら自分で止めてみろ。でなきゃ死ぬぞ」


「ええ!? 教えてくれないんですかっ!? くそーーーーー!! 止まれーーーー!!」



力ずくで止めようと力むが魔力は止まってくれず、それどころか余計に溢れだし逆効果だった。



「あれっ!? だめ? ヤバイ、止まんない!! どうしよ!?」


 困った俺は救いの眼差しを向けるが腕を組んだまま片眉をあげるだけで何も教えてくれそうにない。

心なしかこの状況を楽しんでいるようにも見える。



「くそがーーーー!!! ぐぬぬぬぬぬ!!!」


しかし、結果はさっきと変わらず流れ出る魔力。



「お前は馬鹿か。力んだところで無駄に溢れるだけだ。イメージしろ! 流れ出る魔力の流れを少しずつ緩やかにし、やがて留める!流れが止まったら体内に押し戻し蓋をするんだ! 全身が難しいなら右手だけに集中しろ!」



 言われた通り、右手の拳を凝視し頭でイメージする。

ゆっくり、ゆっくり、ゆっくり、流れを止める。


 すると変化が現れた。

激流のように流れ出ていた魔力が次第にゆっくりとなっていった。



「やった! 流れが遅くなった! 右手だけだけど!!」


「そのまま右手から腕を遡り、肩、胸、頭とイメージするんだ。イメージできたら左手に移り、やがては下半身へ。そのまま全身の流れを留めるんだ」



 徐々に視線を移していきゆっくりではあるが体に纏わせることができた。滝のように汗が流れ大粒の雫となり砂浜を濡らす。息も荒く、目が霞む。



「いいぞ! 流れを止めたら次は体内に押し戻すんだ!」



 目を瞑り、瞑想する。

 自分の身体から出ている魔力を体内に戻すイメージ。



そして、ついに。



「シン、目を開けろ」


目を開け両手を見てみるとそこにはいつもと変わらぬ両手だった。



「やった……。やったぞ!! 魔力を操れるようになったんだ!!」


息も絶え絶え、肩で息をし流れる汗は止まらないが達成感が全身を包む。



「ああ、よくやった。初めてにしては上出来だ。喉が渇いたろう水だ」


 ギルさんから手渡された瓶に入っている水を一気に飲み干す。喉がカラカラだった。



「どうだ? 魔力を感じることができたか?」


「はい! 分かります! 凄まじいエネルギーを感じました!! これが魔力っ!!」


「よし、まずは第一目標はクリアだな。では次の修行に入る」


「え? もうですか? 少し休ませぇttっ!!」



 俺の願いを聞く前にギルさんがもう一度魔力を使い、臍に平手を打ちこんでくる。


平手を受けると、たちまち魔力の枷が外れ再度、強制的に全身から魔力が溢れ出す。


 間髪入れずに第2ラウンドが始まった。



「がはっ!!」



 突然の掌打と魔力放出のマラソンが同時に襲う。痛みと疲労感から頭の働きが鈍る。

 もはや立っていることさえも苦しく、両膝を地面に着き腹を抱えながらうずくまる。



「イメージだ! さっきできたんだ。もう一度やってみせろ!」


言葉で言うのは簡単かもしれないけどこっちは必死なのにっ!



 全身から黄金色の魔力が溢れながらイメージする。

 しかし、疲労が蓄積し先ほどのように集中できない。


 目を開けていても焦点が合わなくなってきた。

 眩暈がひどい、吐きそうだ。……寒い。 やべぇ、意識が飛びそうだ……。



 そうして俺はうずくまったまま気絶してしまった。先ほどまで流れ出ていた魔力が自然に止まる。



「10分か……」



懐から懐中時計を取り出し、時刻を見るその表情は歓喜でも落胆でもなく、不穏な顔をしていた。


第15話は明日、18時に更新致します。

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