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新たな新世界へ  作者: 先生きのこ
第三章  果たせぬ約束
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第136話  GGG防衛チーム 三日目 衝突

♢ ミーティア東門  Savinaサヴィナ・J・Nicoleニコル ♢


 僕とギルが同時に能力を発動した瞬間、相対する銀鬼も戦闘態勢に移ると隣に立つ黒鬼に顎で下がるように指示を出す。



「俺一人でいい。黒鬼グレンデルはそいつを逃がすな」


「……チッ、わぁっーたよ」


 銀鬼の言葉に不満がありながらも渋々、従う姿勢から優位はハッキリしているようだ。

 けれど、僕とギルを相手に一人で相手をするには些か傲慢すぎる。なんにせよ二体一の状況を向こうから作ってくれるなら願ったり叶ったりだ。

 その余裕を後悔する暇も与えずに終わらせてみせよう。



『ナディ、行くよ』


 迷路での戦闘で協力してもらった《火の妖精族ナディ》を再び呼び出し、投擲用のナイフを両手に構える。それとほぼ同時にギルが銀鬼へと突進するのを確認し僕はその後ろからサポートする。


 ギルが先行し僕が後方から援護する。

 これが僕たちの戦い方であり必勝の戦法だ。

 単純、故に強力。 

 

 能力を発動した状態のギルの近接戦闘についていくのは至難の業。それよりも距離をとりターゲットの逃げる先を先読みし、回避不可能の一手を打つ。

 

 時には行動を制限するための楔として敵を誘い込み、足を削ぐ。たとえ一瞬でも足を止めたなら間髪入れずにギルの牙が襲い掛かる。

 近接戦闘において右に出るものはいないほどの実力者であるギルの格闘センスはこれまで相手が誰であろうと必ず圧倒してきた。

 そして、今回もそうなるはず。


 だが、その思いはいとも容易く崩れ去った。 


   

 魔力を纏った銀鬼は真正面からギルと対峙すると目まぐるしく繰り出される攻撃を一撃も喰らうことなく最小限の動きで防いでみせた。

 そればかりか反撃までしてみせ、躱したギルの鬣が風に揺れている。奴は能力を発動中のギルの動きを完全に見切っていた。



「どうした、そんなものか? そんなんじゃ、仲間を取り戻せず街が死ぬぞ?」


「ウゥゥガァアアァァァァッッ!!」


 わざと挑発するかのような言動にまだ余裕を感じさせるが、その言葉によって更なる怒りを燃え上がらせ怒りの燃料を投下してくるとは好都合。ギルの怒りを買うということは首を絞める行為とは知らずに。


 しかし、野生の獣さながらに牙を剥き一撃を繰り出すごとに土埃が舞い空気を切り裂く音が響いているが、いまだに致命打を与えられずにいる。

 ギルの攻撃は確実に鋭さを増し休む暇もなく続けられていたが銀鬼は集中力を欠くことなく、いなしていた。



『確かに豪語するだけの力はあるようだけど僕がいることを忘れてない?』


 奴がギルと攻防を繰り広げている間に布石は打った。

 それは地面に円状に突き刺した文様入りのナイフ。ナディの力と僕の合図でたちまち燃え上がる炎は踏み込んだ者の足を止める。

 長年の付き合いで僕の能力を把握しているギルは万が一にも踏み込むことはない。

 激高しながらもうまく罠へと誘導してくれるだろう。

 


 さぁ、舞台は整った。

 あとはタイミングを見計らい能力を発動させるだけ。

 その余裕の表情は見飽きた。今度は窮地に追い詰められた苦悶の表情を見せてもらおうか。


 そして、ギルの放った渾身の突きが奴の脇腹をかすめたとき、大きく後ろに踏み込んだ奴の右足が罠に掛かった。罠の範囲に踏み込んだ瞬間を見逃さず発動させる。

 


ファム(発火)

  

 瞬く間に燃え上がった炎は重心の乗った右足の膝近くまで一気に燃え上がらせた。



「む?」


 突如、燃え上がった異変を感じ取った銀鬼はバク転をするように後方へと高く跳び上がり、戦闘が始まってから初めて距離を取る。

 その一瞬の隙をみすみす逃すほどギルは甘くない。


 後方に宙返りをした際に生じた刹那ほどの短い間、視界からギルが消える。

 再度、視界に捉えたときは攻撃を受けたときだ。


 ブスッ



「くっ!」


 空中に跳び上がった奴の二の腕にはギルが腰に備えていたはずの十手が突き刺さっていた。

 ギルは奴が跳び上がったと同時に十手を目一杯の力で投げつけ、身動きの取れない空中で確実に命中させた。

 

 だが、驚くべきは奴の反応の速さと堅牢さ。

 銀鬼が十手を視認し咄嗟に腕を出さなければ胸へと突き刺さっていたであろう十手を腕を犠牲にすることで致命傷を防いでいる。

 常人ならばたとえ腕を出そうがギルの魔力の籠った十手ならば腕を貫通し、あまつさえ身体も貫通せしめたことだろう。


 それを片腕一本で済んでいるのは元々のポテンシャルの高さ故だろう。



「俺の血を流させたのはいつ以来だろうな。もう少しやれると思ったが、ここまでにしとくか」


 腕に突き刺さった十手を抜き取り流れ出る血液を舌で舐めとると、ほくそ笑む銀鬼。

 奴の言葉がただの強がりや虚勢でないことは分かっている。

 なぜなら奴は未だに能力を使用せず、純粋な魔力と己の肉体のみで僕たちを相手取っており更には鬼神化という奥の手まで隠し持っているのだから。



『できれば事が済むまで遊んでいてほしかったな。遊ぶ時間は長いほうがいいでしょ?』


「それが、思った以上に危険な玩具みたいでな。さっさと片付けることにした」


『そう? つれないな』


 そうして軽口を叩いてはいるが、焦りは隠しきれていないだろう。

 今の攻防で左腕に与えた傷は効果があったが罠に踏み込んだ右足は衣服が焦げた程度で全く傷になっていないはず。奴にダメージを与えるには直接触れる必要がありそうだ。

  

 純粋な魔力量では圧倒的に奴に軍配が上がる。

 僕一人で奴を捉えることは不可能と考えたほうがいいな。そればかりか、個人で戦っていたのなら間違いなく奴の実力が上だろう。


 せめてもの救いはギルの攻撃を無視できない程度には切迫しているということだけ。

 

 ハハ、この感覚久しぶりだな。これは未踏地以来の窮地、ってやつだね。

 まったく……、まるで得体の知れない猛獣を前にしてるみたいだ。



「いい武器だ。返してやるよ」


 と、銀鬼が呟いたと思ったとき。

 手にもっていた十手を勢いよくギルへと投げつける。

 目にも留まらぬ速さで投擲された十手は一直線にギルへと向かって飛んでいくが、もとはギルの武器。扱いに長けた十手の持ち手をしっかり受け取るとなんのダメージを受けることなく手にした。


 が、投擲のすぐ後に駆け出した銀鬼がギルの眼前へと迫り、ギルの腹部へと強烈な蹴りを喰らわせた。

 決して油断などしていないにも関わらず、一撃を貰ったギルは後方へと吹き飛ばされてしまう。



『ギルッ!』


 門へと激突したギルは瓦礫の中に埋もれてしまったが、これくらいでやられるほどぬるくない。

 しかし、向こうから近づいてきた好機を逃さず心臓目掛けて魔力を纏ったナイフを突き刺す。

 この距離なら回避することは難しいだろう。


 突き立てたナイフは確かに銀鬼の体へと接触したが切先が触れた程度で奥まで進んでいかず、ガチガチと小刻みに音を立てていた。

 それでも、まだだ!



ファム(発火)


 ゼロ距離で炎上させたナイフは内側を燃やすことは叶わなかったが、奴の体を燃え上がらせる。

 上半身の服が燃えたことが気に障ったのか、燃え上がる服をはぎ取るように脱ぎ捨て俊敏なバックステップで距離を取った。



かしらぁ! やっぱ俺も戦ったほうが良かっただろ? なぁ!? 今からでもやらせろや!」


 傍から見ていては銀鬼がダメージを負ったように見えたであろう黒鬼が声を荒げ、餌を前にお預けを喰らった犬のように興奮気味に目を血走らせながら喚いている。

 正直、銀鬼一人だけでもキツイというのにここで黒鬼も加わるとなると分が悪い。



「……グレンデル。そいつ(シン)を連れて森まで戻れ。こいつらはここで殺しきる」


 しかし、銀鬼の下した決断はこのまま二体一を続けるというものだった。



「あぁ!? どうせ殺すんなら俺にもやらせろや! そっちのほうが楽しいだろうが!」


 すでに我慢の限界が近いのか先ほど以上に駄々をこねている黒鬼は簡単には引き下がろうとせず、黒々しい体に溢れ出た魔力が滲んでいる。

 見た目通り血の気の多い性格のようだ。



「ここからは俺も本気でいく。それでも残りたいなら好きにしろ。俺に殺されようともな」


「ぐっ……、なんだっつーんだ。あいつら、頭が変化しなきゃならねーほどの相手かよ?」


「俺の勘が言っている。ここであいつらを消しておかないと面倒なことになる」


「……わかったよ」


 そういうと了承した様子の黒鬼は踵を返しシンを引きずるように引っ張り始めた。

 怪我だらけの体ながら必死に抵抗していたシンだが、猿ぐつわを嵌められ拘束されたままでは何の抵抗にもならず成すがままだった。



『行かせない!』


 強引にシンを引っ張っていく黒鬼に目掛け文様入りの投げナイフを投擲する。

 ナイフは一直線に黒鬼へと飛んでいき背中へと命中しようとしたとき、瞬時に移動した銀鬼が空中でナイフを掴み取った。

 叩き落とすわけでもなく、平気な顔で刀身を鷲掴みにして。傷を負ったばかりの左手でさも何事もなかったように。


 僕のナイフでは傷すら付けられないと言われているような屈辱的な感覚に陥ってしまう。

 が、どうせ掴んだなら燃やしてやるまで。



ファム(発火)


 発声と同時に勢いよく燃え上がるナイフは銀鬼の左手もろとも炎上させた。

 ブスブスと黒煙を起こして燃え上がるが、じきに火が弱まるとその手は煤がついた程度にしか変化は見られない。この結果には流石に参ってしまった。



『困ったなぁ。切れない、炎も効かない。あと僕に残されたものはなんだろう?』


「“ 死 ”だ」


『それは勘弁してもらいたいね』


 だが、奴はまだ知らない。

 僕に残されたものがまだあるということに。

 なぜ、僕が呪術師という職に就いた本当の意味を。



『ナディ、戻ってくれ。ありがとう』


 人差し指を軽く一振りし、ナディを還す。

 銀鬼相手ではこれ以上の効果を認められそうにないので、大人しく指示に従ってくれるナディ。

 戻ったナディの代わりとして今度は黒いワンピースと翼をもった妖艶なイシスを呼び出す。



『イシス、左目(・・)だ。今度こそ……、今度こそ仲間を守るための力を僕に貸してくれ』


 コクリと小さく頷いたイシスは契約を結び履行する。

 それは代償を伴う禁忌の力。

 自らに呪いを付与し生贄を捧げることで初めて発動する能力。



 《闇の妖精族イシス》

 彼女は闇の眷属の妖精であり、僕が提示した生贄を捧げる代わりに一時的だが膨大な魔力を与えてくれる。その魔力は捧げる生贄によって総量が変化し、捧げた生贄は永遠に戻ってはこない。



『これでもう後には引けない。今、ここでお前を駆除する。団長として、冒険者として』


 左目に宿った黒い呪いは眼球を闇に染め上げる。

 そして、これまで感じたことのないほどの魔力が体を包んでいく。

 


『シンを返してもらう』


 だが、切り札を持っているのは相手も同じようで僕がイシスと契約を交わしている間に奴もまたがあった。


 銀色に輝き光沢のある体躯。

 体の隅々まで充実し力強さを増した魔力。

 額から聳え立つ一本角。

 

 まるで、神を前にしたかのような神々しい光に包まれながら静かにたたずんでいる。

 銀鬼は鬼神化へと変化を遂げていた。



「ガァァアアアァァッッッ!!」


 突如、響いた咆哮は獅子の雄叫び。

 決壊した門から瓦礫を拭き飛ばし、先ほど以上に膨れ上がった紅い魔力を迸らせ睨みつけるギル。

 その目は怒りに燃え、剥き出しの牙は見るものに恐怖を植え付ける。

 

 刻一刻と遠ざかっていくシンを取り戻すため、敵を打つ。


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