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新たな新世界へ  作者: 先生きのこ
第三章  果たせぬ約束
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第135話  GGG防衛チーム 三日目 鬼の計略

♢ ミーティア街道  Savinaサヴィナ・J・Nicoleニコル ♢


 点々と残されたまだ新しい血痕を辿り攫われたシンをギルと共に追う。

 僕達が緑鬼に囚われていた正確な時間は不明だが、その間にギルドの仲間を次々と手をかけ撃破したほどの実力。


 シンや右京はまだしもスウィフトまでもがやられたとなると銀鬼はかなりの強者。

 それはギルドで対面した際にも肌で感じた禍々しい魔力が物語っている。 



 やはりあの時、犠牲覚悟で戦っていれば違う結果になったのではないか?

 そもそも西門にいたはずのシンがなぜギルドにいたのだろうか?

 どうして北門の護衛に就いていたはずの右京とスウィフトがギルドにいたんだ?

 


 クソッ、今更、後悔しても遅いのに。

 全ては現実として起こってしまった。


 それに、その都度の決断は最良だったはず。

 今すべきことは過去を悔やむことより一刻も早くシンを取り戻すこと。それのみに集中するべきだ。



 待っててねシン。

 頼りない団長代理だけれど君は必ず助け出す!



 そうして風のような素早さで街を駆け抜け後を追うと、どうやら銀鬼は東へと向かっているようだった。

 もし、東門から外へ逃げられているとなると奴の仲間が待ち伏せや、罠が仕掛けられている可能性があるため危険が一気に増してしまう。

 そうさせないためにも街の中で奴に追い付かねばならない。 



 しかし、銀鬼はなぜシンを倒すだけに留まらず、攫うという行動に出たのか?

 ……人質?


 いや、それなら右京やスウィフトでも良かったはずだし、そもそも僕達をおびき寄せるメリットがない。

 戦闘になること必至の上、僕達だって手練れだ。そうなれば銀鬼やつとてタダでは済まないはず。


 ……違う。そうじゃない。

 今回の騒動やギルドのメンバーに手を掛けていく行為から鬼人族は“ 鬼退治 ”の復讐で動いていることは明らか。


 でも、それだけじゃない。

 これまでの一連の騒動から奴等はもっと恐ろしい計画を立てていた。


 ・鎧ガザミによるミーティア港襲撃。

 ・オルバートの森の異変と鬼人族の目撃。

 ・襲撃による門の破壊、及び制圧。

 


 僕の至った推測が正しければ鬼人族はなるべく多くの人を街に閉じ込め、外に出したくはないはず。

 となると、シンを攫った理由はシン個人にあるということ。

 なぜシンを狙うのか分からないけど、それだけの理由があったから攫ったんだ。



 ……急ごう。

 全てが終わってしまう前に。


 なんとしてでも──。



♢ ♢ ♢

 

 そうして血痕を頼りに後を追い続けると、ついに東門まで到着してしまった。

 辺りには破壊された家屋の残骸と応援に駆けつけたものの闘い敗れたと思しき紅龍騎士団が光を失い、見開いた眼は一目で絶命しているのが分かってしまう。

 更に東門は崩れ落ち、荷車はおろか一般の人では通り抜けることさえ難しいほどに破壊されていた。


 

 戦闘が行われたのは確実。

 心臓の鼓動が五月蠅いほどに高鳴る。

 東門には僕が護衛任務として指示したモーガンと左京が来ているはずだから。


 それなのに先ほどから二人の姿が見えない。

 どうか……、頼むから二人とも無事でいてくれ……。


 しかし、その願いはいとも容易く砕かれた。

 


「……モーガン」


 門のすぐそばで仰向けに倒れていたゴリラの獣人はピクリとも動かないまま沈黙している。


 一体、どれほどの暴力をその身に受けたのだろうか。

 その顔は元の顔が分からないほど腫れあがり、体中が血で汚れている。 

 とうに意識はなく、ひゅっひゅっという不規則で浅い呼吸音のみが存命であることを示していた。

 


 ……遅かった。本当に、……すまない。

  

 仲間の痛ましい姿を目にしながらも、すぐさま懐から万能魔力回復薬エリクシルを取り出しモーガンの口の中へと流し込む。万能魔力回復薬エリクシルによってなんとか命を繋ぎ止めたモーガンは傷こそ癒えたものの、意識はいまだ戻らない。


 怒りと悲しみ、虚無感や己の無力さから言葉を失ってしまう。

 だが、ここで項垂れている時間など残されていない。

 僕にはまだやるべきことがたくさんある。

 

 モーガンがここにいるということは共に行動していた左京もいるはず。

 周囲を見渡すと、すでにギルが左京を見つけ声を掛けているところであった。

 けれど、どこか様子がおかしい。



「左京、左京! どうした? 何があった?」


 肩を揺すり何度も問いかけるギルの声に全く反応しない。

 一見、無傷のように見えたが膝を曲げ顔を埋めるように小さく蹲ったまま応答がない。

  

 半ば強引ではあるが無理やり腕をほどいて顔を上げさせると、その顔は酷く憔悴しているようで泣きはらした目は赤く腫れている。

 僕とギルの顔を見るや否や、みるみる顔が歪んでいき大粒の涙をこぼし始めた。



「……ご、ごめん、……なさい。……ごめん……なさい。ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」


 突然、謝り続ける左京は嗚咽を漏らしながら尚も泣き続けるとまた顔を伏せてしまった。

 残された状況から何が起きたかを察し、出来るならば左京の傍にいてやりたい。

 が、今はどうしても時間がない。

 

 そして僕はまた一つ決断する。

 


『行こう、ギル。シンを取り戻しに』


 ほんの僅かな時間だったがギルも選択したようで短く答えた。



「……ああ」


 腰を上げ、門の外へと続く血痕を見やる。

 二人で歩き始めると同じくして動かない左京にせめてもの言葉を掛けた。



『泣いてもいい。自分に負けるな、左京。たった一人のお姉さんを守ってあげて』


 そう言い残して走り出す。

 後ろの気配から左京が顔を上げた様に思えたが振り向かず、真っ直ぐ駆けていく。



 ごめんね、左京。

 次に会った時はたくさん話をしよう。

 きっと今よりずっと逞しくなった君の顔を見せてくれ。



♢ ♢ ♢


 崩れ落ちた東門だが僕やギルにとっては大した障害にはならず、足場を確かめつつ飛び越えていき街の外へと到達した。

 そこには、待っていたと言わんばかりに立つ人物が二人。



『……へぇ、遠くに逃げたとばかり思ってたけど、まさか僕達を待ってるとは思わなかったな。大人しく仲間シンを返してくれる気になった?』


 そう問いかけ、相対するは仏頂面の黒鬼と不敵に笑う銀鬼。

 傍には顔面と左足が血だらけなったシンが黒鬼に拘束されたまま立ち尽くしている。

 意識はあるが必死に抵抗したのか体中、泥と血でボロボロに汚れているのが見て取れた。


 その姿を見たギルから、隣に立っているだけで凄まじい威圧感のある魔力を放っているのが手に取るように分かる。

 こうなるといつ飛び掛かってもおかしくない。

 しかし、ギルの殺気を正面から受けているにも関わらず平気な顔で銀鬼は答えた。



「あぁ、いいとも。ただし、お前等で殺しあえ。残ったほうにこいつを返してやるよ」


 ふざけたことを……。

 たとえ僕とギルが殺しあったとして返す気がないのは分かりきってるのに。



『そんな条件、飲めるわけないよね。それに殺しあったとして仲間を返す保障がどこにある?』


「それは信じてもらうしかないな。取引で嘘はつかない」 


『だとしても無理だね。そもそもお前達の目的は何だ? 五年前の復讐か?』


 しかし、僕の言葉を聞いた銀鬼は鼻で軽く笑った。 



「フッ、そんなわけないだろ? 考えてもみろ。たかだか数人で街にいる全員を相手にするとでも思ったか? ただお前等が邪魔だったから殺しておくだけだ。

 死ぬのは弱いからだ。強ければ生き残る。まぁ、お前らに恨みがあるのは事実だがな」


 そう言って、銀鬼は懐から羊皮紙を取り出すとペラペラ捲っていきその中から二枚を取り出す。



「ギルドGGGの現団長ニコル、同じくGGGの四ツ星(クアドラプル)ギルフィード。お前等には死ぬ前に聞いておくことがある。“予知の能力者”はどこだ?」


『ッ!!』


 なぜ、奴がそのことを知っている?

 彼女(・・)の存在は限られたものにしか知られていないはずなのに……。



『予知? さて、なんのことか分からないな』


「白を切るならそれでもいい、知ってる奴に当たるまで殺していくだけだ」


『みんなが殺されていくのを僕らが黙って見てるとでも?』


「だから邪魔なんだ」


『なるほどね。……でも僕らを殺せたとしても、蟲が全てを(・・・・・)食べてしまうかもしれないのに?』


 今度は銀鬼の表情が一瞬、曇るのを僕は見逃さなかった。



「フフ……、流石はGGGの団長様だ。すでに此方の計画はお見通しのようで。なら話は早い。予知の能力者の居場所を吐けば攻撃を中止してやる。今ならまだ間に合うが……、悩む時間はそう長くはないぞ」


 と、そこまで黙って聞いてくれたギルが口を開く。



「虫? 虫とは何のことだ?」

 

 銀鬼とのやり取りで確信へと変わった推測をギルに説明する。



『オルバートの森で天玉甲蟲(土還し)の異変があったよね。あれは鬼人族こいつらの仕業だったんだ。なんらかの能力で蟲を巨大化・凶暴化させ、腹を空かせた蟲を一斉に街へと送り込む。まるで港に突然現れた鎧ガザミのように、ね』


「な!? じゃあ、街の門を破壊したのは……」


『ああ。街から人が逃げられないよう蓋をしたんだよ。鬼人族こいつらは単なる陽動。本当の目的は天玉甲蟲(土還し)による街の殲滅だ。文字通り全てを土に還すつもりなんだろう』


 明らかになった計画の全貌はミーティアの全てを破壊し尽くす、悪魔の所業。

 地獄の顕現ともいえる計略はすぐそこまで迫ってきていた。


 だからこそ、奴らは少数での戦力でも攻撃を仕掛けてきたのだ。

 一匹一匹の力は大したことがなくとも、巨大化した土還しが何千何万と押し寄せたなら人間に防ぐ手立ては無い。


 ただただ迫りくる蟲の奔流に飲み込まれ、街を捨てる他に助かる道は残されていない。



『鬼人族の攻撃は二か月前から始まっていたんだ。

 鎧ガザミによる港のテロ行為は船による脱出経路の破壊とテスト。オルバートの森の異変は蟲の生態を狂わせたことによる変化。

 蟲を操り、森を壊し、街を消す。

 まさに五年前の復讐を晴らすにはこれ以上ない打ってつけの方法なわけだ。

 ……全く、反吐が出る』


 そこまで言い切ると、両手を広げた銀鬼が愉快で堪らないといった表情を浮かべる。



「さぁ! どうする!? 仲間を差し出して街を救うか、仲間を助けるために街もろとも死ぬか? 好きな方を選べ!」


 仲間か、街の全てか。


 究極の選択を迫られた僕は答えを導くことが出来ないでいた。

 無理難題を押し付けられ、更に時間も限られている。


 どうする? どうすればいい?

 こんなの選べるわけがない!!


 そんな悩む僕の背を押してくれる頼れる存在がすぐそばにいた。



「迷うな、ニコル。お前の指示に俺は従う。どんな結果になろうともお前を信じる」


 つい先ほども聞いたばかりの痺れるような言葉に決心がついた。

 ……ありがとう。ギル。



『戦うさ! 戦ってシンを取り戻し、蟲も止める! 僕達で全てを救ってみせる!!』


「おう!!」


 その瞬間。

 僕とギルの能力が同時に発動した。

 これまで抑えていた怒りを一気に開放する。 


【 精霊達の言霊(シャーマン・ハーツ) 】  発動


【 最後の牙(レッド・ファング) 】   発動



 GGGにおいて三つの最高戦力のうち二つが今まさに開放された瞬間だった。


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