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新たな新世界へ  作者: 先生きのこ
第三章  果たせぬ約束
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第133話  GGG防衛チーム 三日目 力の差

お待たせしました。

♢ ギルドGGGホーム  Olbatoオルバート・K・Shinシン ♢


 目の前に投げ飛ばされたボロボロの右京とスウィフトさんを見た瞬間。

 俺の思考はただ一つのことだけしか考えられなかった。


 奴をぶっ飛ばす──。


 

 隣でスコルピオンが何か言っているが、まったく頭に入ってこない。

 耳で聞こえてはいても脳内まで届かない。


 銀鬼と相対した時点で力の差は肌で感じていた。

 それも、どう足掻いても勝ち目がないほどの実力差を。

 

 だが、それでも。

 ここで死んでしまったとしても。



「お前だけは!! 許さねぇッッ!!」


 家とも呼べるGGGのギルドを破壊され、家族ともいえる仲間を傷つけられた怒りをここで開放する。

 堪らず雄叫びをあげ、刀を抜き取り突進する。


 策なんてない。

 ただこれ以上、黙って立っていることが出来なかった。



 しかし俺の渾身の雄叫びと全魔力を開放したにも関わらず、奴は動じる素振りを全く見せないまま小さくため息を吐いた。

 それはまるで、聞き分けのない子供の駄々を面倒くさがりながらあしらうように。



『やれやれ……、お前もあいつらと同じく話す気はないか。なら、お前の体に聞こうか』


 銀鬼がそう呟いた直後、俺の斬撃が奴の首筋まで肉薄する。

 近距離まで接近しているのにまるで意に介さず棒立ちしているので容赦なく攻撃する。


 いくら奴が相当の手練れでもこの距離から躱すことは不可能。切断に至るまで無抵抗とは思えないが、初撃は与えられる。


 怒り任せの渾身の一振りは、余裕の表情の銀鬼の首へとヒットした。



 が……、それだけだった。



「なっ!?」


 確かに刃が首に当たっているにも関わらず、切断するどころか皮一枚たりとも切れていない。

 ピタリとその場で制止し何事もなかったのように涼しい顔をしている。


 名刀『霧一振きりのひとふり

 ただ振り回しているだけでも普通の人間の手足など造作もなく切断できる業物。

 それに加え、俺自身の魔力を刀にも纏わせているので切れ味は段違いに上がっている。


 今の霧一振の斬撃なら鉄だろうと一刀両断できるだろう。

 にも関わらず、奴の皮一枚すら切れない。傷つけられない。


 

 こんなことが可能なのか?

 力の差があるとはいえ、これほどまでなのか?

 今日までのギルさんとのキツイ修行は一体何だったのだろうか。


 たった一振りで俺の全てを否定されたかのような絶望的な差を突き付けられた。

 と、同時に理解する。



 《 奴は人間ではない 》


 鬼人族であるため人間と鬼とのハーフという意味合いではなく、もっと根底から異なるような異質な感触が伝わってきた。

 背筋の凍るかのようなゾクリとした気配に、攻撃を仕掛けたはずの俺が棒立ちのままの奴に気圧されてしまう。


 しかし、それで諦めるわけにはいかない。

 切れないならば、突き刺すまで。


 今度は両腕を引き、切っ先を勢いよく突き立てた。

 狙うは心臓。

 一点集中した攻撃ならば僅かでもダメージを与えられるはず。

 そうでなければ、もう俺に残された手段はない。



「ハァァァッッ!!」


 決死の覚悟で突き刺した刃は不快な金属の擦れる音を鳴らし、止まった。

 音の原因は奴の右手が刀を鷲掴みしたことによる擦過音のようだ。


 常人なら指が切れ落ちることだろう。

 しかし、銀鬼は当然の結果と言わんばかりに平然と刀を持ち、刀傷は少しも付いていない。


 その光景を目にした瞬間。

 大いなる絶望と困惑、少しの諦念が湧き上がる。

 

 それは、死を覚悟で飛び出した俺の想いを嘲笑うに十分な行為であった──。



 パギャッ


 瞬間。

 目の前が真っ白になり身体が宙に浮く感覚に陥り、追随するかのように猛烈な痛みが顔面を襲う。



「ぐっ、ぅあああああああっっ!!」


 あまりの痛みに悶絶し、刀を持っていない右手で顔を抑えると夥しいまでの血がダラダラと流れ出ている。

 何をされたのかすら理解できない。

 分かったのは攻撃され、鼻の骨が折れたということ。


 ズキズキと痛む患部は次第に熱を持ち始め息が出来ず、口呼吸に切り替える。



「大丈夫かシン! 立て! 逃げるぞ!」


 すぐ横でスコルピオンの焦る声が響くが、足がいうことを聞いてくれない。

 立とうとしても力が入らず、勝手に足が震えている。


 勇ましく飛び出していったのに一撃もらっただけで俺の胸中は様変わりしていた。



 怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い。

 殺される!!


 今までだって傷を負うことは何度もあった。

 イグ・ボアに襲われたとき。

 鎧ガザミと戦ったとき。

 黒鬼と戦闘したとき。


 体のダメージが酷くとも、心が折れたことなど一度もなかった。

 それなのに、今回はたった一撃で心がへし折られてしまった。



 あまりにも強すぎる。

 次元が違う。

 実力が違うのは、やる前から分かっていたはずなのに頭のどこかでなんとかなると慢心していた。

 

 痛みによるものか敵わないと悟ったことなのか、俺の目からは涙が零れ落ちていた。



「馬鹿野郎ッ! 泣いてる場合か! 立て、逃げるんだよ!!」


 必死に逃げようと脱力した俺の腕を掴んで立たせようとするスコルピオンだが、肝心の俺が立てないので逃げようにも逃げれないでいる。


 なんとかブレる視線で前を向くと銀鬼が一歩、また一歩と恐怖を煽るかのように近づいてきている。

 急ぐ素振りを見せないのはたとえ逃げられたとしても容易に追いつくことができるという確信があるからか。


 このまま黙って座っている俺の未来に待つのは凄惨な拷問。

 女性である右京とスウィフトさん、そしてアイシャさんを瀕死に追いやるまで打ちのめした奴に慈悲はない。


 そこで、ついさっきの出来事なのに頭から抜け落ちていた三人のことを思い出した瞬間。

 震える身に僅かながら勇気が戻って来た。



 そうだ……。

 ここで俺が諦めたら誰が奴をぶっ飛ばすんだ?

 誰が三人の仇をとるんだ?


 今、俺にできることは泣くことなんかじゃない!

 涙を拭き、立って奴に一矢報いること!


 そこまで考えが至ったとき、堪らず叫ぶ。



「ゥオオオオオッッ!!」


 そして、怯えて震える体を抑え付けるため刀の切っ先を左足の甲に突き刺した(・・・・・)



「っぐぅぅ!!」


 片膝を着いた状態で突き刺した刀はいとも簡単に左足を貫き、瞬く間に靴が赤く染まっていく。


 鼻と足。

 二か所からの激痛に意識を手放してしまいそうになるが、歯を食いしばってなんとか持ちこたえる。

 

  

「バッカ! 何やってんだ!? 今から逃げるのに自分で足を刺してどうする!?」


 そんな俺の奇行に驚いているスコルピオンは目を丸くして怒鳴る。



「うるせぇ、俺は逃げない。仲間の仇をとるんだ」


「おまっ!? たった今、奴に敵わないことは分かっただろうが! これ以上お前になにが出来るってんだ!?」


「逃げるならお前一人で逃げろ。それくらいの時間稼ぎはしてみせる」


「無理だっつーの! お前なんか瞬殺だろ! まだ相手の強さが分かんねぇのかよ!」


「うるせぇッ! いいから、行け!!」


 腕を持つスコルピオンの手を無理矢理解き、立ち上がる。

 足を刺したことで体の震えは止まり、頭も痛みで満たされているので恐怖心も和らいでいた。


 

「あぁ~、クソが! お前一人おいて逃げられる訳ねーだろが! 俺も戦う」

 

 なんと、あれだけ逃げ腰だったスコルピオンは逃げることを止め魔力を纏い戦う意志を見せた。



「ここで逃げたら俺の生き様に反するからな。精々、俺たちが死ぬ前に奴の気が変わることを祈ろうぜ」


 そうして纏っていた白いローブを脱ぎ捨てると、下半身は先日闘技場で見たばかりの黄金の蠍の尻尾のような鎧を着込み、上半身は裸のままであった。

 両足を地に着きゆらゆらと鎌首をもたげている尻尾は銀鬼に狙いを定め、今か今かと待ち続けている。


 初めから全力でやるつもりなのか小細工抜きで挑む様子。

 その手にはどこから出したのか、これまた黄金の長い槍を持っていた。



「スコルピオンお前、殺されるぞ。いいから、逃げろ」


「ハッ! もう今更遅ぇよ。こうなったらとことんやるまでだ。それに、俺は強運の持ち主でな。夢を叶えるまで、死なねぇよ」


「……分かった。なら、二人で奴に一泡吹かせてやろうぜ」


「ああ! 行くぞシン!」


「おう!」


 決意も固まり足から抜き取った刀の先は血で赤く染まっていた。

 まるで霧一振が俺の生き血を吸っているかのように怪しく光り、面妖な輝きを放っている。



 対する銀鬼は歩みを止めパラパラと羊皮紙の束を捲っており、最後のページまで一瞥したのち残念そうに息を吐いた。



『どうやらお前(スコルピオン)はここのギルド員じゃないようだな。用済みだ、死にたくなければ消えろ』


 羊皮紙の束を懐にしまうと、雑にそう吐き捨てる。

 先ほどまでのスコルピオンなら喜んで受け入れただろう。

 しかし、今は奴にも戦う理由ができたようなので踏みとどまった。



「御忠告どうも。けど、そうもいかねぇんだわ。俺等二人で逃げていいんなら喜んでそうするけど?」


『お前一人だけだ。そっちのガキには使い道がある』


「そうかい。なら、無理な話だね」


『よっぽど死にたいか』  


 形勢は何も変わらず、むしろ俺が手傷を負ったぶん不利になったか。

 それでもここに残り戦うことを選択したのは俺自身。


 今度ばかりは恐れない。

 それに、実力は未知数だがスコルピオンもいる。

 闘技場で戦った相手と今度は手を組んで戦うなんておかしな縁だが、こうして隣に立ってくれているだけで随分と心強く感じる。


 真っ直ぐ、銀鬼を見据え正真正銘、最後の闘いが始まった。


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