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新たな新世界へ  作者: 先生きのこ
第三章  果たせぬ約束
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第129話  GGG防衛チーム 三日目 迷路の怪物

♢ ミーティア 大通り Savinaサヴィナ・J・Nicoleニコル ♢



 迷路に入ってからというもの、どれだけ時間が経っただろうか。

 

 どこまでも続く道。

 変わらない景色。

 過ぎていく時間。 


 スタート地点を離れてから大分時間が過ぎてしまったが僕はいまだに怪物キングを見つけられないでいた。


 いや、僕だけじゃない。

 今も迷路内に閉じ込められたままということは一緒に入ったギルとソフィーも中にいるということ。

 それはつまり、二人も怪物と出会えておらず、たとえ出会えたとしても怪物に負けたか逃げられたということになる。


 もし、戦闘に突入したならば何かしら戦闘音や魔力の干渉がありそうなものだが依然として感じられない。

 それにあの二人が戦闘で負けるとは考えにくい。


 となるとやはり、誰も怪物キングと出会えていないと考えたほうが自然だろう。

 この迷路がどれだけの大きさは計り知れないが三人で手分けして捜してみても見つからないということは何か小細工が仕掛けられているのかもしれない。


 頭上にはどういう訳かさっきまで僕たちのいたミーティアの街並みが逆さまになって反映されており、その様子は大分落ち着きを取り戻したようで火災の発生した現場も鎮火されている。

 


 けど、それじゃダメなんだ!

 一刻も早く皆に危険を知らせないと取り返しのつかないことになる!


 なんとかここを抜け出して街に戻らないと。

 焦る思考は判断を鈍らせる。先ずは僕自身が落ち着かないと。


 一旦、情報を整理するために足を止め壁に寄り掛かって考えてみる。

 

 僕はここに来るまでただ闇雲に歩いていたわけではない。

 迷路を解く方法の一つに『壁に右手をつけて進んでいけば、いずれはゴールにたどり着く』というものがある。しかしこれは、時間が掛かり過ぎるため得策とは言えない。

 最善は迷路の頭上から全体を俯瞰することだが、それも鬼人族の能力によって防がれている。


 それにこの迷路を出るにはゴールを見つけることではなく、怪物を倒さなければならないのだ。


 それでも、この方法を採用したのは同じ場所を何度も行き来しないために活用している。

 同じ道を何度も通らないように壁や地面に目印を付けようともしたが、緑鬼の能力の一つなのか付けた目印はすぐに消えてしまった。 

 

 

 そもそも、怪物キングとは一体なんなのだろう?


 僕は怪物というイメージから根拠もないのに生き物を連想していた。

 生き物ならば自分の足で歩くことも可能だろうし、逆にその場から動かないこともできる。

 誰かが近づいてくるのが分かればこっそり逃げていくことも考えられる。

 

 しかし、僕やソフィーはともかくギルの索敵能力を躱しながら一方的に逃げられるだろうか?

 

 無理だ。 

 そんなことを続けていれば必ず尻尾を出す。

 逃げた先に僕やソフィーがいるとも限らないし、その先が袋小路であればいずれ発見できる。

 たまたま僕等で挟み撃ちする形になった、ということもあるだろうし。


 自分で歩き回っていれば発見されるリスクも高まるしその分、体力も減っていく。


  

 となると、怪物キングは一定の場所から動いていないと考えるべきか?

 というより生き物であるかどうかも怪しくなってきた。


 もし、仮に生き物でないとしたらどうやって敵の目を欺く?

 ただ敵が来ないことを祈るだけの敵ならこれほど苦労しないだろう。 

 


 ……擬態か?

 擬態ならば袋小路の奥に隠れていたとしても視認した時点でいないと判断したなら探しに行かないだろうし十分あり得る。

 

 よし、その線でいってみるか。



 【 精霊達の言霊(シャーマン・ハーツ) 】  発動


 エメラルドグリーンの魔力を纏いながら能力を発動させると、魔力を糧にしてとあるものが姿を現した。

 それは、手の平サイズの妖精。


 透明な羽と緑のワンピースのような衣服を着込んでおり、僕の手の平の上で両手を挙げ大きく伸びをしている。見た目は小さな少女だがその姿は特別な資質を持ったものにしか見えない。

 


『やぁ、フューイ。実はちょっと困ったことになっててね、力を貸してほしいんだ』


 キャッキャと笑う妖精フューイは僕の手からフワリと飛び上がると、コクコクと頷いてくれている。



『ありがとう。お願いというのは君の目で壁に隠れているものを探し出してほしいんだ。僕の目じゃ他の壁と見分けがつかないからね』


 ウフフ、と笑った妖精はすぐさま飛び立つと風のような速さで飛んでいき辺りの壁を調べ始めた。

 

 《風の妖精族フューイ》

 彼女は風のように身軽で、その目は何でも見通すことができる。

 魔力や物体はもちろんのこと、僅かな痕跡や残り香、人間には捉えることができない不可視光線までも見えているため、主に罠の発見や解除に努めてもらっている。


 しかしその分、体は非力で脆弱。

 もし、敵に攻撃されたら瞬く間に命を落としてしまうだろう。


 だが今回は相手が動かず、隠れてじっとしているだけなら危害を加えられる可能性は低いはず。

 


『あんまり遠くへ行っちゃダメだよ』


 元気に飛び回るのはいいが、僕から離れすぎてしまえばそれだけ危険が増す。

 置いていかれないように僕も走るが彼女ほど早くはない。


 そうして迷路の奥へと進んでいった。



♢ ♢ ♢


 フューイに道案内兼捜索を行ってもらってから数刻。

 とある一角でフューイが前進するのをやめた。


 そこは入り組んだ迷路の突き当りに位置し、一見すると何の変哲もなく僕一人ならば素通りしてしまうような場所。

 そこでフューイは行き止まりの壁を指さし、キッとした表情で睨みつけている。

 


『ここなんだね。ありがとう、あとは僕がやる。フューイは危険だから戻ってくれ』


 僕の指示を聞いた妖精は空中でくるりと一回転すると鱗粉のような光の粒子を散らしながらどこかへと消えていく。



『やはり睨んだ通り隠れてたみたいだね』


 敵は見つけた。

 さて、どうするか。二人を捜して三人で怪物と戦うか。

 いや、最初に決めた通り見つけたなら一人でも戦うべきだ。


 それに時間もない。

 ここに来るまでかなりの時間を使ってしまった。僕一人で仕留めるのが最善の手だ。


 怪物キングとの戦闘前に再度能力を発動し準備を整える。



 【 精霊達の言霊(シャーマン・ハーツ) 】  発動

 

 今回、呼び出したのは先ほどとは別の妖精。

 


『おいで、ナディ。君の力を貸しておくれ』


 すると今度は赤いワンピースを着た妖精がフワリと現れる。

 炎のような髪をした妖精ナディは嬉しそうに飛び回ると僕の頬にチュッとキスをしてくれた。



『行こうか』


 見たところ何もなく壁に囲まれただけの空間だが、確かにここにいる。

 いつ何が起きてもいいよう魔力を全身に滾らせながら近づき、壁の前に立ったところで思いっきり殴りつけた。



 バッアアァァンンン


 すると、これまでの壁とは明らかに違う手応えを感じ、衝撃を吸収するでもなくボロボロと瓦礫となって崩れていく。


 そして、見つけた。



「ぅおーっと! 見つかっちまったか。思いの他バレるのが早かったが、仕方ねぇ。お前は俺の手で直々に殺してやるぜ」


 緑色の肌。隆起した額の角。ひょろ長い手足。二ヤついた笑み。

 その手には飲みかけの酒瓶と周りには何本もの空いた瓶が転がっている。

  


『一度だけ忠告しよう。今すぐ能力を解いて僕たちを開放するんだ。それと、君たちの目的も吐いてもらう。あと何故、僕たちだけを捉えたんだ? あぁ、あと君と一緒にいた銀髪の男の行方も教えてもらおうか』


「はぁ? いっぺんに言うんじゃねぇよ、めんどくせぇな。まっ、聞いたところで答えるわけねぇけどな」


『そう、残念だ。なら無理やりにでも吐いてもらうしかないようだね』


 その言葉を聞いた緑鬼は飲みかけの酒瓶を乱暴に放り投げると甲高い音を立てて割れた。

 


「酒ばっか飲んでて暇してたんだ。テメェの肉を酒のアテにしてやらぁ」


 警告を聞く様子もなく、それどころか好戦的に魔力を滾らせていることから戦闘は避けられない。

 あの様子では更正の余地もないな。


 これで気兼ねなくできるから気が楽だよ。



『行くよ、ナディ』


 前後左右に隠れるような道もなく、一本道で相対する僕と緑鬼との一騎打ちが始まった。



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