第13話 鍛冶師のベルグ
晴れてGGGのメンバーとして入団した俺はギルさんに連れられ街を歩く。
ニコルさんは食堂を出た後に仕事があると言いギルドに残ったため別行動となった。
「まずは武器の調達だな」
そう言ったギルさんは街の通りを歩き一軒の建物の前に辿りつく。
どうやらお店のようで看板には【ベルグ鍛冶店】と書かれている。
ギルさんにとって馴染の店のようで何かと融通も利くので今後の為にも俺に紹介してくれるそうだ。
扉を開けると入口の扉についていた来客を知らせる小さな鉄製の鐘がカランカランと鳴り、乾いた音が店内に響く。
店内のカウンターには白髪でオールバック、整えられた白い口髭と丸型の眼鏡を付け深い皺が刻まれた爺さんが布でダガーを磨いているところだった。
「おや、いらっしゃいギル。また武器の点検か?」
「やあ、ベルグ。今日はコイツの武器を見繕ってほしくてな」
ギルさんの身体の陰から見えるように前に出て自己紹介をする。
「初めまして。オルバート・K・シンと申します。よろしくお願いします」
「オルバート? あそこは人が住むようなところは無かったはずじゃが」
「ベルグ、コイツは記憶喪失なんだ。一番古い記憶がオルバートだから名前もそうした。今日からGGGのメンバーだ。面倒見てやってくれ」
「ふむ、記憶喪失……。難儀なことじゃのう。まぁよかろう、GGGのメンバーなら問題ないわい。店の奥へ来なさい」
カウンター横の扉を進むと、そこは開けた空間に大きな竈のある鍛冶場だった。
壁には特大の槌や鋸が掛けられ、床には何かの生成に使われたであろう鉱石の塊が置かれている。
その一角に木製の箱にパーツ事に雑多に置かれた装備品が並ぶ。
「それで、どんな武器を御所望かな?」
「今コイツに使える最高の武器を用意してほしい。支払いは俺がもつ」
「ほほ、それは珍奇なことじゃのう。何やら企んでおるのか?」
丸眼鏡の奥からベルグさんの鋭い眼差しが真意を見抜こうと覗いている。
「そんなんじゃない。これも縁あってのことだ」
「ほっほ、余計な詮索はやめるとするかの。若いの、こっちへ来なさい」
ベルグさんの傍に寄ると頭、首、肩、二の腕、手、胸、脇、腹、背中、腰、股間、尻尾、尻、太もも、ふくらはぎ、脛、足の順に揉まれるように触っていく。
「………」
「なるほどの。ならばこれがいいかの」
ベルグさんはふむふむと一人で何かを確かめるように頷き、床に手を付けるとそこから朱い魔法陣のような光がじんわりと浮かび上がってくる。
その中央からどこから出てきたのか取っ手のついた長方形の箱を引っ張り上げた。
「おぉ~」
その一連の動作を見ているだけで思わず、感嘆の声が漏れる。
ドスンと重厚な音を響かせ床に置き、厳重な留め具を外し蓋を開けた。その箱の中に入っていたものが姿を現す。
それは、まさに日本刀であった。
「【ベルグシリーズNO.13】名を【霧一振】。その名の通り、一振りで霧をも切ることから命名した。初心者にはもったいないくらいの業物じゃ」
ベルグさんが漆喰の塗られた刀を持ち上げ、手渡してくる。
刀を受け取るとずっしりとした重さとなぜか波打つような触感が手から伝わってきた。
「抜いてみぃ。それで分かる」
言われるまま胸の前に刀を持ち上げ鞘から刀を引き抜く。
シャラララララ、という甲高くどこか小気味良い音を鳴らしながら刀身を引き抜くと刃が光を浴びる。
窓から差し込む陽光に錆一つない刀身が反射し鏡のような輝きを放つ。心なしか波打つ紋様は淡く蒼白い光を放っている。
角度を変えるたび表情が変わる刀をいつまで見ていても飽きない程に美しい。
「すごい綺麗だ。いい、これがいい。これじゃなきゃダメです。これ以外は考えれられない」
俺は刀に一目惚れした。
「ふむ、大丈夫なようじゃの」
「大丈夫? というと?」
「刀は言葉を持たぬが、持ち主を選ぶ。お主は合格のようじゃの」
刀が持ち主を選ぶ? そんなことがあるのか?
「シン、その刀でいいんだな」
「はい、これがいいです」
「いいだろう。ベルグこの刀を貰いたい。しかし初心者にベルグシリーズを売るなんてこれも珍奇なことじゃないのか?」
「ほっほ、そうじゃな。まさに奇怪なことじゃて」
二人はクツクツと笑っているがベルグシリーズというのは、かなり高価なものということだけは分かった。
その値段を聞くのも畏れ多く、それを一括で買ってしまい譲ってくれるギルさんの財力にも畏れをなしてしまう。
刀を受けとった俺とギルさんはベルグ鍛冶店を後にし、街を歩いているときに今まで疑問に思っていたことを聞いてみる。
「ギルさん、どうしてここまで俺によくしてくれるんですか? この刀だってかなり高価なものですよね? それをタダで譲ってくれるなんて……」
「言っただろ。これも縁だって。俺がやると言ってるんだ。気にするな」
「ですが申し訳なくて……」
「それにタダじゃない」
「え?」
「グスマンを助けに行くのを手伝ってくれるんだろ? ならさっさと強くなってもらわんとな」
そう言ってギルさんは俺の背中を叩いた。
照れ隠しと気合いを入れてくれたんだろうけど、めっちゃ痛い。
そのあとも街で買い物を続け生活に必要な最低限の荷物を購入しギルドに戻った。
俺にはまだ宿に泊まるお金もなかったのでニコルさんに頼みギルドの3階にある宿泊施設の空き部屋を一つ貸してもらえることになった。
部屋は広くはないが生活するための設備は整っており日常生活には困らない。
食事は2階の食堂で事足りるのでこれも問題ない。
修行を終え、お金を稼げるようになるまでの仮住まいとなった。
第14話は明日、18時に更新致します。