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新たな新世界へ  作者: 先生きのこ
第三章  果たせぬ約束
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第115話  GGG調査チーム 三日目 凶悪な相性

♢ オルバートの森 入り口 ♢



 現在この戦地で行われていた戦闘は大きな局面を迎えていた。

 それは、鬼神化した青鬼と赤鬼、両名による能力である。



 青鬼は【死の再利用(ザ・ファントム)】を発動したことによる巨大な白骨融合個体キメラを作り出し、その心臓部に死体の肉をかき集めて作った肉団子に籠城している。


 赤鬼は【百鬼夜行(デス・パレード)】を発動し、何体もの魑魅魍魎を召喚することで圧倒的な数の戦力を投入してきた。



 一方、GGG調査チームと編成部隊を率いていた鉄巨人バスコ卿は鬼人族の能力により窮地へと追いやられることとなった……。




♢ アラタ ♢


 白骨融合個体キメラに肉団子が合体したことによって敵は一つになったが、脅威が減ったわけではない。むしろ、操る対象が少なくなったことでより細かい指示を伝えることが出来るのか、その動きは一層鋭くなっていった。


 こちらもなんとか応戦しているが、いくら手足の骨を砕いても全くダメージを与えられていないのかすぐに補強されてしまう。

 トラがキメラを駆け上って剥き出しの心臓部を狙うも、そこに到達する前に振り払われてしまっていた。


 

 と、そんな時。

 すぐ隣で戦っている熊八の方にも動きがあったのか上空にとてつもなく大きなサークルが現れた。

 その中からわらわらと出てくる魔物の類が溢れ出し、ついにはこちらの戦場にまで影響してくる。

 


「おいおい、なんだこいつらは!? どいつもこいつも気味わりぃ形しやがって! それにこの数はなんだ!? 百や千ってもんじゃねぇぞ!」


「まず、間違いなく向こうの敵の能力でしょうね。私も初めて見る個体ばかりですので、ただの動物とはわけが違います。用心しましょう」


 背中を預けているハルシアも疲れが蓄積し始めているのか肩で息をして苦しそうだ。

 ただでさえ、キメラとの戦闘で手一杯なのに新手が増えたとなると形勢が悪い方にばかり傾いていく。



「どうしますかぃ、主? ここもすぐに新手で囲まれてしまいやす」 


 何度も何度も心臓部へと登っていくトラだが、青鬼も来ると分かっていれば防ぐことはさほど難しいことではないのか、一太刀たりとも入れさせてくれないまま時間だけが過ぎていく。

 


「……これはマズイですね。青鬼が無理に仕掛けてこないのも消耗戦になればこちらが不利になると分かってるからでしょう。魔力が残ってるうちに撤退も頭に入れておかないとなりませんね」


 ハルシアの言葉に思わず生唾を飲み込むと最悪な局面が脳裏をよぎってしまう。

 だが、こんなときだからこそ頼れる存在が俺達にはついていた。


 俺達を中心に包囲網が出来上がっていく輪の一箇所から轟音とともに魔物が弾け飛んで穴が生まれた。

 そこには巨大な鉄の鎧を着た老齢の人物、バスコ卿と俺たちの師匠である熊八が突破口を開く。



「こっちだ! 固まって戦うぞ!」


 熊八の声に導かれるように駆け寄り合流を果たす。

 そこには編成部隊の生き残りである傭兵が負傷者を支えることで、なんとか命を繋ぎ止めていた。

 それでも数日前に見た人数より大きく数を減らしていたことはすぐに分かる。



「無事か? 遅くなってすまねぇ」


 俺達を見るや心配そうな表情で労う熊八だが、その熊八もだいぶ激しい戦いを繰り広げていたことが容易に窺い知れるほど体に傷がついていた。



「私とトラは大丈夫です。けど、アラタさんが負傷してしまいました」


 黙っているか、平気な素振りをしてやり過ごそうとする前にハルシアに先を越されてしまう。

 


「大丈夫だ! これくらいなんともない! それよりこれからどうするんだ?」


 周りを見ると、せっかく崩れた包囲網は俺達を中心に再度、周りを固められてしまった。今度ばかりは隙がないほど埋め尽くされ、ここを突破するのはなかなかに骨が折れそうだ。

 更には、倒れていた魔物も青鬼の能力によって起き上がると動く屍となってこちらを睨みつけている。


 その一部始終を見ていた熊八もこれで青鬼の能力を理解したのか、悩むように唸っていた。



「そういうことか……。こうなるとマジぃな。いくら雑魚を相手にしても体力の無駄ってわけだ。あちらさんも能力の使いどころをよく分かってらっしゃる」


 赤鬼による幾数体もの魔物召喚。 

 たとえ、蹴散らしても青鬼によって何度でも復活する。

 戦いが長引けば長引くほどに敵戦力は増幅し、こちらは不利になる。


 二つの能力は最悪の相性となって無限にも等しい戦力を手に入れていた。

 


「して、死体を操っている輩はどこだ? 先ずはその者を止めねば、この地獄は永遠と続くであろうぞ」


 すでにバスコ卿も現状を理解しているのか復活の原因ともなる青鬼を探していた。

 卿の言う通り、この敵を止めるには正しい順序を踏まねばならない。



 第一に青鬼を仕留め、死体の復活を止める。

 第二に赤鬼を仕留め、留まる様子の無い召喚を止める。


 この順番でなければならない。

 その間、雑魚を倒してもいいが生きているかどうかの違いだけで戦力が低下するわけではない。


 

「死体を動かしている能力の青鬼はあの白骨融合個体キメラの心臓の中に隠れてます。倒そうにもなかなか近寄らせてくれず、足元を崩してもすぐに治ってしまいますし。正直、私達ではあの敵を倒す方法が見つかりませんでした」


 こちらの戦況を報告するハルシアは己の無力さを痛感しているのか、悔しそうにそう告げていた。

 そして、それは俺も同じであった。



「なるほどの。では、あの奇妙な動く標本は儂に任せてもらおうか。儂の大剣なら一撃で粉々にできるであろうからな」 


 ガシャリと鉄の擦れる音を鳴らして大剣を肩に乗せた卿は自信に満ちた表情で真っ白な顎髭を撫でていた。卿ほどの巨躯の持ち主であれば今言ったことも可能であると豪語したのも頷ける。



「その後の止めは任せたぞ。熊八殿」


「ああ、任せとけ。肉を引きはがすのは得意だからな」


 不敵に笑いながら空恐ろしいことを言ってのけた熊八だが、これほど納得いく言葉もそうない。

 やはり四ツ星(クアドラプル)の冒険者が二人揃っただけで不安で苦しい戦いにも一息つける安心感が生まれた。



「動けるものは負傷者をカバーしつつ、雑魚を任せたぞ。では、行くぞぉ!」


 卿が一際、大きな声を張り上げ突進していくと、その踏み出す足で小さな魔物を踏みつぶしていく。

 キメラとはかなり距離があったが一歩一歩が大股で、あっという間にキメラと相対すると剥き出しの骨格に向け強烈な斬撃を振り下ろす。

 


「ぬぅん!!」


 キメラも負けじと頭から何本も生えた角を卿に突き刺そうとしたが、その分厚い鎧を貫通するには至らず却って骨が折れてしまっていた。

 そして、背骨から叩き切るような重い一撃が直撃した。



 バキバキバキッッ

 

 骨の折れる軽い音が次々と鳴り響きながら、これまでどうしても到達することが出来なかった心臓部がキメラから逃げるように動き出す。


 その一瞬を見逃さなかった熊八は【熊蜂(くまんばち)】を発動させ、瞬時に肉団子の前へと移動すると己の爪で肉団子を引き裂いた。



「まだまだぁ! 喰らいやがれっ! <心停止(アレスト)>!」


 更に、念のためと言わんばかりに滾らせた魔力を電気に変換し、隠れても無駄なよう肉団子に強烈な電撃を与えている。



「よっしゃ! やったぞ成功だ! あの二人流石だな!」


 新手の魔物の数は多いものの、個体の強さは大したことがなく俺でさえも魔力を使用していれば倒せてしまう。そんな中、遠くで敵の本丸を叩き潰した姿を目にして歓喜に沸いた。


 瞬く光と雷鳴のあとの肉団子はバラバラに崩れていき、次第に内部が露見していく。

 砕けたキメラもこれまでと違って起き上がる様子がないので、青鬼を仕留めた。



 ……かに、見えた。

 


「青鬼がいねぇ? どうなってやがる?」


 崩れた肉団子をくまなく探していた熊八だが、どれだけ目を凝らして探しても中にいるはずの青鬼の姿を見つけることが出来ないでいた。



『残念だったな。お前等が必至に倒したキメラはただの人形さ。本体()はお前等が呑気に話してる間にとっくに抜け出てたっつーわけだ』


 どこからともなく聞こえてきた声は姿を見せず、魔物の影に隠れて出てこない。

 音を頼りに見つけ出そうにも騒音の大きい戦場では難しいことであった。


 それと同時に、熊八はまんまと嵌められことに気付く。



「しまっ……、」


 そう。

 熊八とバスコ卿。

 最大戦力を誇る二人が白骨融合個体キメラを一番に狙いに来ることを鬼人族は見抜いていたのだ。


 だからこそ、わざわざ二人をおびき出すためにキメラを離れた場所で待機させていたのだ。

 そして、その理由は一つ。



『 キャハ♪ 』


 負傷者を庇いながら二人を見送っていた俺達に赤鬼の狂気に満ちた笑い声がすぐそばで聞こえてきた。

 


 背筋が凍るほどの悪寒を感じた瞬間。

 悪辣なる殺気が、純然たる狂気が、…………ハルシア(・・・・)に向けられていた。



「……え?」



 ザクッ


 殺気に気付き咄嗟に振り返ったハルシアの腹部に赤鬼の手が突き刺さり、貫通していた(・・・・・・)。 



「……ッガフ」


 口から大きく喀血したハルシアは大量の血を吐き出し、激痛に顔を歪め、着用していた服が血によってみるみる赤く染まっていく。


 その様を俺はすぐ近くで目の当たりにしながら──。



「ハルシアッーーーーーーーーーー!!」


 その瞬間だけ騒々しい戦渦の中。

 俺の叫び声だけが朝焼けの空に突き刺さるように響くと、虚しく消えていった。



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