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新たな新世界へ  作者: 先生きのこ
第三章  果たせぬ約束
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第114話  GGG調査チーム 三日目 赤鬼の能力

♢ オルバートの森  入り口  熊八 ♢



 ハルシアとアラタに指示を出したあと、赤鬼の襲撃を受けているバスコ卿の援護に向かうべくグリフォンから飛び降りた。

 空中を落下中に【熊蜂くまんばち】を発動させ着地と同時に地面を蹴って戦地へと急ぐ。


 そこで目にしたものはあまりにも惨い光景であった。

 草原に横たわる何体もの死体、死体、死体。


 どれも損傷が深く手足が千切れているものや上半身と下半身が分かれているものが辺り一面に転がっており凄惨な様相を呈していた。辛うじて生きている者も数名いるが傷を負った仲間の命を繋ぎ止めようと手当てをしており戦うどころではない。



 その元凶であり今なお暴れまわっているドラゴンは背中に小さな赤鬼の幼女を乗せ、残った人間を駆逐せんと牙を向けている。

 当初、五十人はいたであろう編隊はその数を激減させ、立っている者は十人に満たなかった。

 


 そんな中、勇敢にもたった一人でドラゴンに挑んでいる者がいる。

 四ツ星(クアドラプル)の冒険者であり、この部隊を率いていた人物。鉄巨人バスコ卿である。


 彼はすでに自身の能力を発動させ、銀色に鈍く光っている鋼鉄の鎧を全身に纏いドラゴンの魔爪を凌いでいた。その手には何百kgはあろうかという巨大で重厚な剣を軽々と振り回し、鬼気迫る表情でドラゴンと戦っている。

 現状をいち早く把握し、バスコ卿の援護をするべく跳んだ。



「今行くぞ! ハァッ!」


 まだ気付かれていない距離から瞬時に近づきドラゴンの直上へとジャンプして接近する。

 いかに凶暴なドラゴンを使役しているとはいえ、主人の赤鬼さえ仕留めてしまえば後はどうとでもなる。

 そこで魔力による電撃の出力を一気に上げ、ドラゴンの背中に乗っている赤鬼目掛けて必中であり得意技のいかずちを放出した。

 

 

 バヂヂィィイインン


「うっし! 直撃だ」


 雷は眩い光とほんの僅かに遅れて雷鳴を轟かせるとドラゴンとその背中に乗る赤鬼に命中した。

 それまでバスコ卿と一対一で戦っており、俺の存在に気付いていなかったためモロに電撃を浴びている。


 全身を駆け巡る電流は筋肉を強張らせドラゴンの動きがピタリと止まった。

 その一瞬を見逃さなかったバスコ卿は魔力を滾らせた渾身の一振りをドラゴンの首へと振り落とす。



「ッ! ぅうおおおぉぉぉぉぉ!!」


 ギャイイィィィンン

 

 しかし、振り下ろした斬撃がドラゴンの首をねることはなかった。

 大きく傷つき溶岩のような真っ赤な鮮血を流してはいるものの鋼の如き堅牢な鱗に守られ、命を奪うまでには至らない。


 首に食い込んだ剣を引き抜くためドラゴンを足蹴にして距離をとったバスコ卿の隣に降り立つと語り掛けてきた。

 


「先ほどの電撃は其方の力か。おかげで奴に一撃入れることができた。助太刀、感謝する」


 バスコ卿の横に並ぶとその大きさがよりハッキリと感じられる。

 目測で十mはありそうな巨体に全身を包む鎧は二つ名通りの出で立ちであり、威圧感もまた凄まじい。

 


「いいってことよ。だが、まずはあいつを止めねぇとな」


 俺たちと睨みあうように佇んでいるドラゴンは傷を受けた痛みと苛立ちから激高しているのが手に取るように分かり、グルルと低く唸るように喉を鳴らしている。口から洩れる呼気で火花が散り、その双眸は烈火の如く色づいていた。


 そして、それ以上に厄介で危険な存在もまた怒りを露わにしている。



『……いったいなぁ。せっかくいいところだったのに……。あたち(・・・)のジャマをするなら、コロしちゃうんだから』


 電撃による白煙を燻らせながらゆっくりと面を上げた赤鬼は静かに怒り、禍々しい殺気を放つ。

 意識を手放すわけでも戦意を失うわけでもなく、更なる抵抗を見せられると少しばかり気落ちしてしまう。



「ったく、最近手合わせする輩はみ~んな電気の耐性でもあるのか? 本来なら一撃必殺を誇る技だっつーのに。……嫌になるぜ」 


 初手で仕留めきることは叶わなかったが手傷は負わせた。

 俺とバスコ卿、二人ならばなんとか勝ちを拾えるだろう。


 と、辟易していると隣に立つバスコ卿がこれまでの闘いから得た情報を共有してくれる。



彼奴(赤鬼)はおそらく操縦タイプか召喚タイプのどちらかであろう。襲撃を受けてから一度たりとも離れず頑なに寄り添っておるからな。ならば彼奴(赤鬼)とドラゴンを引き離すことさえ出来れば我らの勝利。もっとも、今のままドラゴンを倒すという手もあるが、それは骨が折れるでの」


「ガハハ、同感だ。なら俺が赤鬼を引きはがす。それまでドラゴンの注意を引いてくれねぇか?」


「任された。しかし、なるべく早めに頼むぞ。老体には些か堪えるでの」


「おぅよ!」


 手短に作戦を立てるとすぐさま各々の役割に取り掛かる。

 両手で握りしめた大剣を振り上げたバスコ卿は大股でドラゴンに向かって突進していき攻撃範囲に入る直前に横薙ぎに地面に刃を打ち付け、いとも容易く地面を砕いた。


 砕かれた大小様々な礫は落石の如く飛んでいき、さながら散弾銃のように広範囲に拡散していく。



『うっとうしいなぁ! ヤきハラっちゃえ!』


 赤鬼の指示を受けたドラゴンは一度溜めを作ったあと大きく口を開いてそこから超高温の火炎を吐き出した。

 炎に焼かれた礫はたちまち勢いを無くし、ぼたぼたと地面に転がっていく。

  

 それでも勢いが衰えなかった炎は熱風を巻き起こしながらバスコ卿へと炎が向かっていき、咄嗟に露出していた肌を隠しはしたものの一瞬にして全身が炎に包まれる。



「バスコ卿っ!!」


 しかし、火達磨ひだるまになりながらも進むことを止めず、ついに大剣の届く間合いまで詰め寄ると目にも留まらぬ速さで刀を振り下ろす。

 これには流石に赤鬼も予想だにしていなかったのかその顔は驚きに満ちている。



『なっ!? なんで、シなないんだよぉー! もぅ! シんじゃえ、シんじゃえ、シんじゃえーーー!』 


 放たれ続ける火炎に一切、怯まない卿の一撃はドラゴンの頭蓋を捉えたかに見えたが僅かに身を逸らしたことによって即死は免れていた。

 それでも振り切った刃はドラゴンの片翼に命中し両断する。これによって大きく機動力を削ぐことに成功した。



 ギャァァァァオオォウンン


 翼を切断された激痛に大きくのけぞったドラゴンはたまらず炎のブレスを止めると、尻尾を巻いて後退していく。



「ぶっふわぁー!! ぁあっっついのーー!!」


 その間、卿も大剣を放り投げ、熱の籠った鎧を無造作に脱ぎ捨て大きく息を吸い呼吸を整える。

 露わになった髪の毛は炎によって焼け焦げており立派な口髭もチリチリと燻り異臭が立ち込めていた。


 どうやら炎に包まれている間は息を止め、喉が焼けるのを防いでいたらしい。

 無鉄砲のように見えて被害を最小限に抑えているあたりに経験を感じさせる。



「ガッハハ、どんでもねぇ野郎だな。流石だぜ」


 だが、武器も鎧も投げ捨て無防備な状態のバスコ卿を放っておくほどヌルい相手ではなかった。

 翼を失った直後で動くだけでも激痛が走るだろうに……、それでも赤鬼の命ずるまま従順に行動に移したドラゴンは鋭利な牙がいくつも生えた口を開いて卿に噛み付こうとしていた。



「させるかよっ!」


 魔力を瞬時に練り上げ軽々と地面を蹴って飛び上がり、空中で一回転して全魔力を込めた電撃付きの踵落としをドラゴンの上顎にお見舞いする。

 これによって強制的に口を閉じらせ、脳を揺らす。


 もはや立っていられなかったのか前のめりに転ぶように倒れると、その身を地面に擦るように横たえた。



「よし、今のうちに赤鬼を捉えるぞ」


 しかし、ドラゴンの背中に目を向けると、すでにそこには赤鬼の姿はなくはるか後方で一人立ち尽くしていた。

 


「ほぅ、これまで頑として離れなかったにしては随分あっさりと見切りをつけたものだな。だが、それは悪手ではないかのっ!」

 

 卿は落ちていた大剣を手にし、言葉を言い終えると同時に横たわっていたドラゴンの首を刎ね飛ばした(・・・・・・)



 ドラゴンの最後は断末魔もなく、ゆっくりと瞼を閉じると静かに息を引き取った。

 そのことを確認したあと俺は赤鬼に問いかける。



「これで頼みの綱のドラゴンもいなくなった。これ以上、戦うのは無意味だ。大人しく投降しろ。命までは取らねぇ」


 なるべく刺激しないよう諭すように問いかけたものの、赤鬼は全く聞き入れる素振りを見せない。

 それどころかみるみる顔を歪ませ、拳を固く握り、ギリギリと歯ぎしりが鳴るほどに歯を噛み締めている。



『よくも……、よくもあたち(・・・)のドラゴンをコロしたわね。あんたたちゼッタイ、ユルさない……。ユルさないんだからーーーーーッ!!』


 突如、奇声を上げた赤鬼はこれまで見せなかった変化が現れた。

 それは、幼女の小さな額から生えていた一本の角。


 その角が膨大な魔力を伴いながらメキメキと伸びていくと捻じ曲がった立派な角に成長していく。

 赤黒い魔力によって逆立つ髪の毛と浮き上がる血管。

 辺りに撒き散らされる不吉な気配によってただ事ではないと認識する。


 小さな体を屈めるようにして魔力を凝縮していき、痛みを伴うのか叫び声を上げた。



『う、うぅ、ぅわあぁぁぁぎゃゃああぁぁーーーッ!!」


 あまりに常軌を逸した光景に目を奪われていると、鎧を付け直し装備を整えた卿が目を見開いた。



「い、イカン! あれは鬼神化だ! しかも奴は一本角! 完全に変化される前に仕留めねば! 行くぞ!」


「お、おう」


 卿に言われるまま止めに入ろうとした瞬間。

 魔力の爆発が起きたかのように赤鬼を中心に突風が吹き荒れた。



 その直後。


 赤鬼のいる頭上のはるか上空に超巨大な幾何学模様の魔法陣のサークルが浮かび上がった。

 その大きさは軽く百mは越えており、特殊な朱色の文様からあるものたち(・・・・・・)が姿を現した。



「クッ、遅かったか……」


「な、なんだありゃ……」


 悔やむ卿の傍らで、今まさに起こっている現象に目を奪われる。



 それは、魔法陣のサークルから次々と生み落とされるように現れる、魔物の群れであった。


 その群れはゴブリン、人狼、巨大な怪鳥、目玉が六つある蛙、翼の生えた狼、山羊の下半身をもった男、人間の女の頭をした蛇、荷馬車ほどのナメクジなど、この世のものとは思えない奇怪な生物が次々と立ちはだかる。

 

 そんなもの達が、うじゃうじゃと赤鬼を守るように黒い影となって重なっていく。

 数はもはや数えることが億劫になるほどまで増え続けている。



 やがて、最後の一体が召喚され終わったのか魔物の群れの中から角が伸びた赤鬼が不吉な笑みを浮かべながら歩み出てきた。



「これがあたち(・・・)のチカラ。【百鬼夜行(デス・パレード)】。あんたたちなんか、シんじゃえ」



 赤鬼の言葉を最後に蠢く魔物たちが俺達を殺すべく一斉に動き出した。



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