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新たな新世界へ  作者: 先生きのこ
第三章  果たせぬ約束
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第106話  GGG防衛チーム 一日目 闘技場

♢ ギルド【GGG】 ホーム  Olbatoオルバート・K・Shinシン ♢



「ここは……?」


 目立つように掲げられた看板には【異種格闘技場 狂騒乱舞】と書かれている。

 その外観はまるでコロッセオのような円形状の石造りで建立されており行きかう人の数も多い。辺りを見回してみると強面の男や武装した亜人など目を合わせたら碌なことが無いような連中がウロウロしていた。

 時折、建物の内側から歓声や野太い罵声までもが外にまで響いてきている。



「ここは腕っぷしに自信があるものが己の強さを誇示するための場所だ。中で行われているのは一対一での決闘。勝者には賞金や名声が与えられ、敗者は負け犬の烙印を押される。闘技場のメッカは中央セントラルなんだが、あまりの人気からここミーティアでも行われるようになった。ちなみに、お前はすでに登録済みで午後の部に出場予定だからな」


「……へ?」


 あろうことか俺の知らないところでギルさんは勝手に出場選手に登録していた。

 さっきまでギルドにいなかったのは、この闘技場にエントリーしていたためか……。

 薄々、勘付いてはいたが無茶なことを平気で押し付けてくる恐ろしい師匠だ。



「ちょっと待ってください! いきなり決闘って聞いてないですよ!」


「そりゃあ、言ってないからな」


「ぐっ……! それに修行をつけてくれるんじゃなかったんですか!? 俺の能力の発現に協力してくれるって言ったじゃないですか!」


「だから協力してるだろう。いいか、お前は魔力を操れるようになりはしたものの圧倒的に経験が足りなすぎる。これからはお前を叩きのめしてやろうとする相手と戦って戦って戦いまくって経験を培うんだ。その中で自分に必要なものを自分で見つけるんだ。実戦から学ぶものは多い。分かったな?」


「……ひゃい」


「ちなみに、ここでは勝者を予想してギャンブルも行われている。賭け金や倍率によって一攫千金も夢じゃない。俺はすでにお前の初試合に10(プラ)賭けてあるからな。なに、たとえ負けても殺されることはないから心配するな。ルール違反で殺した方は反則負けになるからな」


 死んでしまったら試合に勝っても意味ないと思うんだけどなぁ……。

 それに初出場の俺にいきなり10(プラ)も賭けるなんて、ギルさんは大穴狙いのギャンブラーなのか?

 闘技場側も本人でない人物がエントリーしているのに、そのまま受け付けてしまうなんて管理が杜撰すぎるのではないだろうか? 


 なんにせよ俺が出場することは決定事項のようなので腹を括るしかない。驚きはしたものの確かにここでなら実戦経験を積むことができる。

 多少、強引なやり口ではあるが師匠の言うことを信じて進むしかないだろう。



「……分かりました。それで、俺の対戦相手は誰ですか?」


「フッ、覚悟はできたようだな。付いてこい。中を案内がてら教えてやる」


 その後、施設内をギルさんに案内してもらうと闘技場について詳しいことが分かった。

 まず、闘技場で行われている内容は三つに大別されている。



 一つ目は一対一での《対人戦》。

 障害物が何もない、まっさらな舞台で相手を戦闘不能にさせるか降参させたものが勝利する。場外はなく武器の使用は自由。制限時間内に勝敗が決まらなかった場合は審判によるジャッジが下される。

 また、審判が危険と判断した場合は試合を中断させることもある。戦闘によって相手を死に至らしめた場合は反則負けとなりペナルティを負う。(なお、闘技場の舞台の上では暗黙の了解として治外法権となっている)



 二つ目は人とモンスターでの《対獣戦》。

 闘技場で用意されたモンスターを相手に一人で戦いに挑む。おおまかな条件は対人戦と同じだが、決定的な違いがある。

 それはモンスターを殺めてもいい反面、モンスターに殺されても文句は言えないということ。死を覚悟したうえでのデスマッチとなっている。(年齢制限や出場には審査が必要など細かな規約が定められている)



 三つ目はモンスター対モンスターでの《獣王戦》。

 モンスターを飼育テイムしている主人が相手のモンスターと戦わせる。主人が降参するかモンスターが戦闘不能に陥った場合、勝敗が決する。モンスターは闘技場で用意されているものやエントリーした者同士で争われる。(戦いによってモンスターが負傷または死亡しても罪には問われない)



 今回、俺がエントリーされたのは《対人戦》である。

 地域によって人気に差はあるもののミーティアでの一番人気は《対獣戦》らしい。

 命を賭した戦いは見る者を釘付けにし、血の気の多い熱狂的なファンが多いのだそう。観客の目の前で行われる人とモンスターとの殺しあいは民衆の中で過激な娯楽となり、一度その魅力に憑りつかれたものは中毒のように止められないのだという。


 人は殺してはいけないのに、モンスターは殺しても構わないという偏った思想は人間特有の醜悪な一面を覗かせるがこの世界では容認されているのだ。

 まぁ、地球でも闘牛は行われているのだが……。


 しかし、暗い一面ばかりではなく輝かしい面も持ち合わせている。

 獰猛なモンスターと死闘を繰り広げた末に勝利した者は勇猛果敢な英雄として人々から惜しみない拍手と名誉を受ける。

 その褒賞金ファイトマネーもまた凄まじい額だという。


 俺は闘技場初出場ということで、ギルさんの酌量? もあってか対人戦での出場となった。

 その対戦相手の情報も闘技場内の対戦表に掲示されており、そこにはこのように記されていた。



 【初 ギルドGGG <Olbatoオルバート・K・Shinシン>】 2.8


             VS


 【初 ギルドMonchu(モンチュ) <RaRaララ・V・Scorpionスコルピオン>】 1.2



「どうやらシンの対戦相手も初出場らしいな。お互い条件は同じ。勝つぞ」


 そういって肩に手を掛けニヤリと笑うギルさんだが、ハッキリ言って自信ない。

 第一、俺は能力を発現していないが相手は闘技場に出場してくるほどの実力なので発現していて当然だろう。むしろ、能力が発現していないのに出場するほうがおかしい。

 

 そこで名前の隣に表示されている数字に気が付いた。

 おそらく試合に賭けられたオッズだろうが、両者とも初出場だというのに差が出ているではないか。

 

 しかも俺の方が値が高い。つまり観客は俺が負けると思っているのだ。 

 そして、ギルさんに聞かずともその理由が分かってしまう。先の未踏地での失敗がいまだ民衆の意識下で尾を引いており舐められている。

 


 『GGGのメンバーに賭けるのは金の無駄だ』と。


 ふざけやがって。

 そんなレッテル俺が剥がしてやる。



「俄然、やる気が出てきました。俺、絶対勝ちますから」


「……そうか。ちゃんと見てるぞ」


 ギルさんは何も言わなかったが、その表情はこちらの思惑を見抜いているのか深くは聞いてこなかった。


 

『あんちゃん、言うね~。そういう強気な姿勢好きだな~』


 と、俺とギルさんの会話を聞いていたのか隣で対戦表を見ていた人物が声を掛けてきた。

 ふと視線を向けると、その人は足まで覆い隠す白いマントと頭に被っているフードにすっぽりと全身を包まれている。

 そのままなおも話し続けていく。



『でも、まぁ。試合に出るからには勝つ気でいくのは当然だよな。けど……、』

  

「けど?」


 俺が疑問を投げかけると、それまで被っていたフードを脱ぎ顔が露わになった。

 そいつは若い男で焼けた小麦色の肌。黒い長髪を三つ編みに編み込んで背中に流しており、化粧をしているのか目の周辺が黒く塗られ目尻まで伸びている。

 その真っ直ぐな視線と目が合うと、精悍な青年という印象を受けた。

 


『勝つのは俺だから。ギルドGGGのシン』


 あろうことか、その男は対戦相手のスコルピオンであった。



「あんたが俺の相手か。悪いけどこっちも負けられないんだ。なにせ、師匠は俺に10(プラ)も賭けてしまってね」


 俺がギルさんに目配せするのを見て、スコルピオンは快活に笑った。



『ハッハッハ! これはまた、大きく出たな! へぇ~……。う~ん。確かに、この人は強そうだ。今の俺じゃ勝てないや』


 ギルさんの実力を肌で感じているのか、まじまじと見ていたスコルピオンはあっさりと負けを認めた。どうやら相手の実力が分からないほど馬鹿ではないらしい。

 それでも、『今の』というあたりに野心を覗かせてはいるが。



『ともあれ決闘は決闘。正々堂々と勝負しようじゃないか。よろしくな!』


 握手を求める手を差し出してきたので、俺も応える。



「こちらこそよろしく。負けても恨むなよ?」


『そっちこそ』


 お互い握手をしながら笑顔ではあるが、握った手はギリギリと痛いくらいに締め付けあい、すでに勝負は始まっていた。



『ハッハッハ』


「へっへっへ」


 どちらも痛みを堪えながらおくびにも表情には出してたまるかと、顔を繕いながら握りしめる。

 けれど、これではキリがないのでどちらともなく手を離し勝負は試合までお預けとなった。



『お前、面白い奴だな。試合が楽しみだ』


「俺も初戦がお前で良かったよ。思う存分やれそうだ」



 そして、その時はすぐに訪れた──。



『ぅぅレディィィーース、エーーーン、ジェントゥルメェーーーン!!』


 会場全体に響き渡る大声でアナウンスした主は魔道具なのか拡声器のようなものを持っており、発信源からほど近くにいる俺は五月蠅いくらいだった。



『会場にお集まりの皆様ァ、ぅお待たせ致しましたァ! 午後の部ッ、開っ! 幕っ! でぇーーーす!!』

 

 わざとらしいほどに抑揚をつけてアナウンスする人物は奇抜な髪型と刺々しいファッションに身を包んでおり、一気に会場を盛り上げている。

 アナウンスが響くと共に、荒々しい太鼓が地鳴りのように打ち鳴らされ体の奥まで振動していた。

 ここに立って出番を待っていると今更ながらに緊張してくる。



『さァ! 午後の部、一組目のカードはァ! 初出場同士の戦いィィ! 新たな英雄が生まれるか、はたまたクズ野郎が生まれるかァ、篤とご覧くださいィィ!』


 なんてアナウンスだ。

 だが、それに呼応するかのように会場は絶叫の渦が巻き起こり異様な熱気がここまで伝わってくる。



『それではッ、入場してもらいましょうゥ! まずは東門からの登場! ギルドMonchu(モンチュ)所属ゥ、RaRaララ・V・Scorpionスコルピオンーーーッ!!』


 その言葉を言い終わると共に盛大なファンファーレが鳴り響く。

 乾いた空気が地面の砂塵を巻き起こし、その向こう側から自信満々に中央へと歩いてくる奴が現れた。


 その姿は全身を覆う白いローブが風にはためき、一筋縄ではいかない強者の雰囲気を纏っている。

 スコルピオンの入場によりボルテージの上がった客席はけたたましい音や声を発しながら囃し立てていた。

 会場の視線を一身に受けつつも片手を揚げ応えている精悍な立ち姿から女性の黄色い声も声援に混じっている。


 ……羨ましくなんてないんだからな。



『続きましてェ、西門からの入場ォ! ギルドGGG所属ゥ、Olbatoオルバート・K・Shinシン-----っ!!』


 アナウンスが俺の名前を高らかに読み上げると、先ほどとは違うファンファーレが演奏されたので入場門を潜って会場へと歩き出す。

 それまでの薄暗い室内から太陽光が降り注ぐ場内に進んでいくと、眉を顰めるほどの光量につい目を細めてしまう。


 そこはまるで別世界だった。


 周りを埋め尽くす人、人、人。

 見下ろしてくる奇異なる目や好奇の視線。

 欲にまみれた下卑た口元や狂気の表情。


 欲望渦巻く場内は汚い言葉を投げかけてくるものや応援の声も聞こえてくる。

 人の愚直で純粋な熱気に充てられ、全身が粟立つ。


 俺は堪らずニヤけてしまった。



「ハッハ! すげぇ、たまんねぇ!!」


 これまで感じたことの無い高揚と上気した感覚が脳を痺れさせる。

 ……気持ちいいぃぃ!!


 たかが無名の新人同士の前哨戦でこれほどの熱気なのだ。

 もし、これが有名ランカー同士の決闘であったなら会場全体が揺れるだろう。 

 

 見てみたいっ! 感じてみたいっ! やってみたいっ!!


 舞台の中央で待つスコルピオンもまた笑っており、これから始まる闘いを待ち望んでいる。

 言葉を交わさずとも俺と奴の考えは一致していた。



『両者、前へッ! 午後の部一組目、試合開始ィィ!!』


 アナウンスの合図によってスコルピオンと俺との決闘が始まった。



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