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新たな新世界へ  作者: 先生きのこ
第三章  果たせぬ約束
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第105話  GGG防衛チーム 一日目 先輩冒険者

♢ ギルド【GGG】 ホーム  Olbatoオルバート・K・Shinシン ♢



 ゴリさんから逃げるように右京がしがみ付いた人物はまるで旅人を彷彿とさせる恰好をしていた。


 風化した竹のような色合いのローブを羽織り全体的に細い体型。

 足は襟の長い緋色のブーツと手には白い手袋。

 頭にはブーツと同じ緋色のとんがり帽子を眼深に被りピンで留めてある一本の鳥の羽がお洒落。

 ローブの後ろが燕尾服のように二股に別れており地面に擦れてしまいそうなほど長く、右京とそこまで身長差がないので身長は百六十cmほどだろうか。

 肌の露出を抑え、落ち着いた印象を受ける淑やかな女性だ。



「モーガン、右京が怖がっとるじゃろ。スキンシップもほどほどにのぅ」


 その声は少し擦れ気味で女性にしては声が低い。

 だが、それがなんとも心地よく響き子守唄であったら最適なことだろう。近くに歩いてくると太陽に照らされた干し草のような懐かしい香りがふわりと薫ってくる。



「むぅ、吾輩としたことが。ならば右京、仲直りのハグをしようではないか」


「それが嫌だって言ってんのよ。いいからそこにいて」


 相変わらず棘のある言葉を浴びせる右京だが、ゴリさんは全く気にしていない様子。

 そんな二人をよそにローブを着た女性が声を掛けてきた。



「そなたがシンじゃな。何度か見かけることはあったが、こうして面と向かって話すのは初めてじゃのぅ」


 どうやら俺が気付いていなかっただけで、向こうは俺のことを知っているらしい。



「初めまして。オルバート・K・シンと言います。まだまだ若輩者ですが宜しくお願いします」


「うむ。儂の名は【Paulポル・O・Swiftスウィフト】じゃ。よろしくの」


 先輩冒険者であるスウィフトさんと握手を交わす。

 その手は手袋越しでも華奢であるのが分かり心配してしまうほどに痩せている。

 脂肪がついていないため体温が低いのか、季節は夏だというのに長袖長ズボンを着用していた。



『ちょうどよかった! モーガンとスウィフトにも依頼を頼もうと思っていたから一緒に聞いてくれる? 他のメンバーは遠征任務中で人手が足らなくてさ』


 ニコルさんが席に座るよう勧めると皆が席に着き今後の任務について説明を始める。

 先ほど食堂で見せてくれた防衛任務の羊皮紙を広げ、同じ説明を繰り返す。 

 俺は黙って聞き自分の役割を再確認する。



『……とまぁ、こんな具合なんだ。すでに調査チームも動き始めた。先日のテロから考えて、そう遠くない日に鬼人族が何らかのアクションを起こしてくるのは間違いないだろう。だから僕たちはそれに備え準備しておく。どんな状況に陥っても対処できるようにね』


 一通り説明を受けた面々は渋面を呈しながら内容を聞いていた。

 真っ先に口を開いたのはゴリさんである。



「むぅん、鬼人族には困ったものだな。過去から何も学んでおらぬではないか。まだ傷口も癒えていないだろうに」


「仕方ないじゃろ……。それが奴等の生きる理由であり本能なのじゃ。儂たちが食事を摂るように鬼人族は戦うのじゃろぅ」


 沈痛な面持ちで溜息を吐いているスウィフトさん。

 とんがり帽子によって影を帯びた表情がより暗くなった気がした。



『そこで、君たちには街の防衛チームに努めてもらい三班に分けようと思う。モーガンと左京は街の東門へ。スウィフトと右京は北門をお願い。シンとギルは西門を頼む。鎧ガザミの襲撃のあった南の海岸沿いは議会で雇われた冒険者や傭兵で堅められているから僕たちは必要ないだろう』


 依頼を受けたそれぞれは相槌を打ち、守るべき場所を把握したようだ。



「ニコル様はどうされるんですか?」


 その右京の問いかけにニコルさんは真面目な顔をして答える。



『僕はギルドに待機して臨機応変に対応する予定。敵がどこから攻めてくるか分からないからね。なるべくギルドにいるつもりだけど状況によっては離れるかもしれないから何かあったらアイシャに報告してくれ。彼女はここに残ってもらうから』


「分かりましたわ。私、ニコル様のお役に立てるよう頑張ります!」


『うん、ありがとう。でも、無理だけはしないでね。今回の依頼はギルドを代表して僕が受諾した。戦力は限られ、それぞれ持ち場は離れるけど連絡を密に取ることを忘れないで。何かあったらすぐに応援を送るから』


 その後、細かなやり取りと意見をすり合わせたのち準備に取り掛かるためニコルさんと俺を残して各々ギルドを出ていった。 

 俺もすぐさま行動に移りたいのだが肝心のギルさんが出ていったっきり、いまだ戻ってきていない。

 


『さてと、それじゃあ僕も人と会う約束があるから出てくるけどシンはどうするの?』


「俺はギルさんに修行を付けてもらうため、ここで待ってます。ニコルさんはギルさんがどこに行ったか聞いてませんか?」


 依頼の羊皮紙や書類を鞄にしまっていたニコルさんは、う~んと唸ると行き先を考えてくれている。

 しかし、行き先も聞いておらず、これといって思い当たる節が見当たらないのかなかなか答えが出てこない。



『僕も分からないなぁ~。けど、出ていくとき急いでたから今後に関わる大事なことだと思うよ。ギルを信じてもう少し待ってあげて』


「もちろんです。なんてったって俺はギルさんの弟子ですから」


 その言葉を聞いたニコルさんは優しく微笑むと小さく頷いた。



『そうだよね。いらぬ世話だったかな? では先に行くね。ああ、それと……。いや、これはまだいいか』


 何かを言いかけた様子だがそれを言葉にすることなく飲み込んだ。

 そのまま鞄を抱えると、ひらひらと手を振ってギルドを出ていった。



 相変わらず仕事の多い立場で気苦労も絶えないはずだが、それをおくびにも出さず常に笑顔で振る舞っている。

 ニコルさんはメンバーから団長と呼ばれることを嫌い、事あるごとに団長代行と言って認めはしないが十分にその役割を果たしていると思う。 

 

 俺はGGG設立者の団長を知らないけれどニコルさんほどの人物からあれだけ信頼を置かれているのだから、その人もまた一角の人物なのだろう。

 そして未踏地で待つ団長を迎えにいくためにも、こうして日頃から任務をこなしていく。


 一歩、一歩前に進むことが大事なのだ。

 焦ってはいけない。

 時には休んでもいい。けれど、やめてしまうことだけはダメだ。


 そのためにも今、俺にできることは少しでも強くなり役に立つこと。

 自分自身まだまだであると痛感しているが確実に力は付けている。



 強くなれる。

 この仲間たちと。

 今は、そのことだけを信じて生きていこう──。




♢ ♢ ♢


「待たせたな。早速だが、ついてこい」


 ニコルさんと別れてから一時間ほど経過したあと、ようやくギルさんが戻って来た。

 戻ってきて早々、どこかに向かうらしく前を歩いている。



「ギルさん。今までどこに行ってたんですか? これから何処に行くんですか?」


 ずいぶんと暇を持て余していたためどこに行っていたのか気になり、街を歩きながら聞いてみる。

 


「お前が強くなるための準備をしていた。今までは俺とマンツーマンでの修行だったが、今日からは別メニューを行う。それと、お前の能力を発現するためのヒントになればと思ってな。ついてからのお楽しみだ」


 なにやら意味深なことを言っているが、行き先については教えてくれない。

 だが、俺は知っている。


 ギルさんのことだ。

 こうやってハッキリと目的地を告げないときは、いつも決まって過酷な試練を用意していることを。

 

 それを聞いて俺が逃げ腰になってしまわないように直前まではぐらかしているのだ。

 ……今のうちに気を引き締めておこう。



 そうして、とある建物の前でギルさんが立ち止まる。

 どうやら目的地に到着したようだ。


 その建物の看板には目立つ見出しでこう書かれていた。



【 異種格闘技場 狂騒乱舞 】




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