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新たな新世界へ  作者: 先生きのこ
第三章  果たせぬ約束
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第99話  ニコルの能力

♢ ギルド【GGG】 ホーム  Olbatoオルバート・K・Shinシン ♢



 六人の右手を重ね合わせたところでニコルさんの能力が発動した。



『 偉大なる大精霊よ。迷い、救いを求める子らに有為の言葉を導き給え 』


【 精霊達の言霊シャーマン・ハーツ 】  発動


 能力が発動すると、全員の右手から右腕にかけて文字とも絵とも覚束おぼつかない不思議な黒い模様がじわじわと浮かび上がり、肩に到達したところでゆっくりと体内に染み込むように消えていった。

 その不思議な現象は痛みや熱など何も感覚に訴えかけるものはなく、視覚のみで捉えることができる。


 全員の腕に同様の現象が済み、全ての文字が消えたところでニコルさんが手を離す。



『はい、終わり! もう、手を離してもいいよ。無事に済んだから』


 その言葉を受け皆が自分の腕を確かめながら訝しむような目で右腕を触っている。

 だが、特に変化した様子もなく至って普通の手だ。



「これがニコルさんの能力なんですね。一体、何をしたんですか?」


 異変はなくとも得体のしれない文字が体に刻まれたとなれば気になって仕方ないので聞いてみると、笑顔で答えてくれる。



『僕の精霊達の言霊シャーマン・ハーツは、精霊の力を借りて言霊ことだまを付与する能力なんだ。今、全員に施した力は<秘密の言霊>。うっかりシンやアラタの事を転生者だと喋ってしまわないよう無意識に避けるよう命じたんだ。それでも、頑なな意思の元では能力を跳ね返すことも出来るから気を付けてね』


 ふむ。

 つまり酔った勢いで話してしまうことも、つい口が滑ってしまう心配もなくなったというわけか。それは便利だ。これまで意識的に避けていたから凄く助かる。

 それにしても、魔力でそんなことも可能だなんて相変わらず何でもありだな。



『それと注意事項が一つ。この秘密を他人に漏らした場合、能力によって罰を受けるから決して他言しないように』


 人差し指を立て、笑顔のまま恐ろしいことを告げた。

 罰? そんなの聞いてないぞ。



「そんな大事なことを後から言うなんて酷くないですか?」


『ん? 僕は初めに確認したよね? この件はここにいる六人だけの秘密だって。皆も頷いてたじゃない』

 

「そ、それはそうですけど。まさか、罰せられるとは……」


『大丈夫! 簡単には解けないような強力なまじないだから滅多なことじゃ口にできないよ。それとも、シンは誰かにこの秘密を打ち明けるつもりだったのかい?』


「いえ、そんなことはないですけど……」


『なら問題ない! そんなに怖がらなくとも心配ないさ。いざとなったら僕がどうにかしてみせるから』


「はぁ……」


 本当に大丈夫だろうか?

 けれど、もう儀式? は済んでしまったので今更、後戻りも出来ない。口にしなければ日常生活には問題なさそうなのでそれほど思い悩む必要もないのだろうか? 

 俺以外だって同じ誓約を交わしたわけだし、この秘密を共有したメンバーなら話しても大丈夫そうだ。



 その後、遅めの朝食を用意してもらい朝飯抜きは回避することができた。

 これまでは俺も提供する側だったが、転生後は料理をしたいと思うこともなくなりあれほど滾っていた情熱は別のことへと移り変わっている。



『それで、今後のことを指示しておきたいんだけど何か用事のある者はいるかな?』


 朝食のデザートである果物の盛り合わせをつまみながら、俺達に質問したニコルさんは何やら計画がある様子。

 俺の予定としては昨日Cランク任務を終え、ミーティアに帰って来たばかりなので色々とやることがある。まずは、右京と左京に会わないと。

 そういえば鬼人族のことについて何か進展はあったのだろうか?


 と、そこでギルさんが一番に口を開いた。



「俺はシンに修行をつける。鬼人族の一件で早めに戦力になってもらわないと困るからな。近々、奴等との衝突は免れんだろう。せめて、自分の身は自分で守れるくらいにな」


「はい、宜しくお願いします!」


 それは俺も痛感していたことだ。

 やはり必殺技である能力を発現しないことには役に立てない。


 ニコルさんは何度か頷いたあと視線を移す。



『熊八は?』


「俺はいつも通り食堂の準備と食材調達だな。ハルシアとアラタも同じだ」


『そう。けど数日は食堂は閉めて僕からの依頼を頼まれてほしいんだ。三人ともね』


 俺とギルさんに依頼は頼めないと判断したニコルさんは熊八さん、ハルシアさん、アラタの三人に依頼を頼むようだ。おそらくだが、鬼人族やつら絡みなのは間違いないだろう。



「なんでぃ。鬼人族となんかあったのか? 喧嘩か?」


 心なしか楽しそうにも見える熊八さんは荒っぽいことが好きみたいだな。どことなくギルさんと似たような匂いがする。



『うん。ちょっと困ったことになってね。実は先日、オルバートの森でこんなことがあったんだ……』


 それからニコルさんは俺達が発見したイグ・ボアの白骨死体と天玉甲蟲の異変・鬼人族の襲撃を簡潔に説明した。



『……そのことを踏まえ議会は急遽、先遣隊を派遣し第一陣を送り込んだんだ。もう森に到着した頃なんじゃないかな? そこで今朝になってGGGにも特別任務の達しが届いた。依頼内容は二つ。一つは天玉甲蟲の異変の調査。二つ目は鬼人族の襲撃に備えること。これがその依頼書ね』


 懐から取り出した二枚の羊皮紙をそれぞれ受け取り、目を通していく。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


【依頼内容】 生物調査

天玉甲蟲の異変の原因解明 


【依者主】 ミーティア議会所 生物部 ハイネ

オルバートの森で確認された天玉甲蟲の異常行動を解明して頂きたい。

解決への手掛かりとなる情報は議会で買い取り、調査内容によって値段を考慮致します。


【納品期限】

12日以内


【場所】

オルバートの森周辺


【報酬】

情報により変動


【難易度ランク】


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


【依頼内容】 防衛

マスウード・ミーティアの防衛


【依者主】 ミーティア議会所 防衛部 カーター

鬼人族の目撃情報が寄せられたため、警戒レベルをレベルⅢまで引き上げます。

腕の立つ傭兵・冒険者を募集し、議会の試験基準を満たした者に防衛任務に就いて頂きます。


【納品期限】

20日以内


【場所】

ミーティア全域


【報酬】

日給 2G

戦闘が行われた場合、特別手当あり


【難易度ランク】


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 一通り目を通してみると街を挙げての一大事になっているではないか。それほど鬼人族とは厄介な相手なのだ。奴らの実力は身を以って知っているのでどれほど危険な連中であるかは言うまでもない。

 


『そこで、僕の采配でGGGを三つのチームに分けることにした。森への調査チーム・街の防衛チーム・待機チームの三隊だ。ギルとシンは防衛チーム。熊八とハルシアは調査チーム。僕は待機チームで臨機応変に指示を出す。アラタも待機ね』


 俺は防衛チームか。ギルさんと一緒なら修行を見てもらえるためどこでもよかったが、街ならすぐに取り掛かれるから有難い。奴等が襲撃してくる前に能力を発現しなければ森での二の舞になるため、なんとしても成功させなければ。


 しかし、ニコルさんの編成に異を唱える輩が残っていた。

 それはもう一人の転生者であるアラタだった。



「待ってくれ! 俺も調査チームに入れてくれ! 絶対に役にたってみせるから!」


 事もあろうかチームの異動を申し出てきたのだ。

 ニコルさんが決めたチーム分けに意見するとは身の程知らずめ。俺と同じ時期に転生してきたクセに何ができる? 大方、自分の師匠や仲のいい人と組みたいだけだろう。お前は修学旅行前の中学生か。

 

 その言葉にニコルさんは毅然とした態度で返す。



『アラタの気持ちも分かるがこれはバランスを考えて決定したことなんだ。それに、今のオルバートの森は危険だ。君が同行したことによって仲間の負担になるかもしれないんだよ?』


 いつになく厳しい言葉を投げかけたニコルさんだが、それはギルド全員のためを想ってのことだろう。 

 現に団長の采配に文句がないのか熊八さんやハルシアさんも同行することに賛同していない。

 はっきり言ってしまえばいいのに「お前は足手まといだ」と。


 それでも、引き下がらないアラタは尚も説得している。



「ニコルは俺が皆の足手まといになると思っているんだろ?」


 お? 自分でも分かってるじゃないか。なら、大人しくお留守番してるんだな。その間に俺は能力を発現してお前との差を広げてやる。

 


「だがな、それは俺の能力を知らないからだろ? 見せてやるよ。俺の能力チカラを」


 なん、だと……? まさかアラタはすでに能力を発現しているのか?

 挑戦的な目つきで自信を滲ませているからには、よっぽど自信があるのだろう。とても嘘をついているようには見えない。



『へぇ、アラタの能力か……。う~ん、気になるね』


 何ということだ。あいつは俺よりも早く能力を発現していた。同じ転生者として負けた気がする。

 少しばかり顎に手を置き悩んでいたニコルさんは、興味が湧いたのか提案を受け入れた。 



『いいだろう。アラタの能力次第では調査チームへの異動を許可しよう。見せてくれ、君の実力を』


 

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