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新たな新世界へ  作者: 先生きのこ
第三章  果たせぬ約束
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第98話  二人の転生者

♢ ギルド【GGG】 ホーム  Olbatoオルバート・K・shinシン ♢



『そろそろ時間だ。行こうか』


 ニコルさんとの打ち合わせを終えたあとギルさんと三人で二階の食堂に向かう。

 いまだに半信半疑ではあるが、俺以外の転生者と会わせるとなれば否が応でも参加せねばなるまい。



『あ、そうそう。全員と面識があるのは僕だけだから進行役は任せてね。それと、アラタはまだ誰にも転生者だと気付かれてないと思ってるはずだから、あまりプレッシャーをかけないように。シンは要所、要所で答えてくれればいいから。ギルはアラタと会ったことあったっけ?』


 二階へと続く階段を降りながら問いかけるニコルさん。

 俺だって相当驚いたのだ。ましてや、秘密にしていたはずなのに露呈しているとは思いもしないだろうな。どんな反応するか楽しみになってきたな。



「無い。熊八の弟子が入ったって噂は聞いてたが都合がつかなくてな。それに、あの時は参加出来なかったしな」


『あはは、それは僕も申し訳ないと思ってるよ』


 ギルさんは俺との修行に付きっ切りだったし、修行が明けてからは鎧ガザミや鬼人族などのトラブル続きだったので忙しくしていたのだろう。

 約束を取り付けでもしない限り、ありそうでなかなか難しいものだ。

 それにしても、あの時ってなんだろう?



『では、心の準備はいいかな諸君。救世主達のご対面だ』


 不敵な笑みを浮かべながら軽口を叩いているが、俺にはその自覚が全くないのでやめてほしい。今更だが、地球出身の人間と会うのは初めてのことなので緊張してきた。朝食を抜いたのは正解だったかもしれない。


 両開きの扉を開け、ニコルさんを先頭に食堂内へと進んでいく。

 その先には、いつも働いている可愛いらしい女の子と何度か見かけたことのある熊の獣人。見た目のインパクトが大きいのですぐに目に付く。

 

 そして、もう一人。



 見た目は街にいそうな普通の青年。

 他に人もいないので、この男が転生者で間違いないだろう。見た目では全然分からないな。


 髪は黒く背は俺より少し高いか? 白いシャツにベスト、黒のパンツ。どことなく、ふてぶてしい印象を受けるのは気のせいだろうか。

 今は食堂の営業を終えたのかテーブルを拭いているところだった。

 それにしても、もう一人の救世主であり職業も板前だなんて何かと接点が多いので親近感が湧いてくるな。



『やあ! 皆、待たせたね! ゆっくり落ち着いて話をしたかったから、あえてこの時間に来たんだ。もう、閉めるよね?』


 開口一番、そう告げたニコルさんは何度か問答したあと静かに扉の鍵を閉めた。

 これから始まる内容を他人に聞かれたくはないのは俺も同じなので有難い。



『これから話す内容は、事と次第によっては他言無用。場合によっては【命の誓い】を立てるかもしれない。いいね。あ、長くなると思うから先にお水を貰えるかな?』


 命の誓い? 

 初めて聞いた言葉だった。重苦しい雰囲気を漂わせる言葉だけに部屋の空気がピンと張り詰めた。


 三対三でテーブルについた俺達はいよいよ本題に入る。

 座り順は左からニコルさん、ギルさん、俺。向かい側はニコルさんの前が女の子、ギルさんの前が熊の獣人、俺の前が転生者だ。


 早速、口火を切ったのはニコルさんの唐突な質問だった。



『 アラタ、【チキュウ】って知ってるかい? 』


 予想だにしていなかった、まさかの問いかけに目を見開き驚いている。

 すぐに表情を戻し何食わぬ顔でとぼけたフリをしているが、前以て情報を共有していた俺から見れば一発で嘘をついているのが見て取れる。


 その後も、次々と鋭い質問を畳みかけていくニコルさん。


 この反応。

 こいつ……、本物だな。


 特に“板前”という言葉に過敏に反応し、みるみる顔が汗ばんできている。

 どれだけ平静を取り繕おうとしても、重大な秘密がバレたとなれば誰だって落ち着いてなどはいられないだろう。


 しかし、人が必死で嘘を誤魔化そうとしている姿を見るのは滑稽だな。

 フフ……。なんとも愉快だ。

 順番が逆でなくて心底良かった。



 苦しい問いかけに居た堪れない様子のアラタとかいう男は居心地悪そうにソワソワし始める。

 すると、それを察したニコルさんが気を利かせ話題を変えメンバーの自己紹介に移った。


 淡々とギルさんが紹介を終え、順番に自己紹介をしていく。

 いつも食事を提供してくれた二人は熊八さんとハルシアさんというのか。覚えておこう。

 一緒に働くことは無いが、これからもお世話になるのだから。



『それじゃ、最後はシンお願い』


 最後に俺の番となったので、立ち上がり一礼してから口を開く。

 ふと、視線に気がつきアラタに目を向けてみると敵意満々の顔でこちらを睨みつけており相当、御立腹の様子。

 

 同情はするがそう睨むなよ。

 ちょっとばかし、からかっただけじゃないか。結構、楽しめたし。

 よし、ダメ押しでいっちょかましてやるか。



「 俺の名は【Olbatoオルバート・K・shinシン】。ギルさんの弟子で職業は冒険者・・・。そして、地球からの転生者だ 」


 俺の言葉を聞いた対面に座る三人は皆驚いていたが、アラタだけは怒りと焦りの表情を含んでいた。

 おそらく俺の暴言によって頭がいっぱいいっぱいのはずだ。


 さて、どんな反応を示すのかな?



 ガタンッ


「いい加減にしろ! ちょっと、お前来い!!」


 ついに我慢の限界がきたのか、椅子が倒れる勢いで立ち上がったアラタは鋭い目つきで俺を睨んでいる。

 


「なんで? 言いたいことがあるならここで言えばいい。それとも、皆には聞かれたくない話なのか?」


「いいから黙ってついてこい! お前、自分で何言ってるのか分かってんのか!?」


「もちろん。俺が地球から転生してきたってことだけど? そして、君もだろ」


「っざけんなぁーー!!」


 どうやら堪忍袋の緒が切れたのかテーブル越しに胸倉を掴まれそうになる。

 咄嗟に魔力を纏い、ガードする。


 ……が、いらぬ手間のようだった。



「黙れ。座ってろ」


「喧嘩すんなら外でやれよな。テーブルが傷つくだろが」


 喧嘩の仲裁に入ったのはそれぞれの師匠であるギルさんと熊八さんだった。

 熊八さんは掴みかかろうとするアラタの背中の服を引っ張って動けなくし、ギルさんは怒気を孕んだ重い一言を放つ。



 ギルさんに言われては反論できないのでおずおずと椅子に座る。

 別に俺は喧嘩するつもりはなかったのに、あちらさんがやる気満々だったので受けて立っただけだ。まぁ、多少煽った面があるのは自覚してるけどさ。

 アラタも師匠に言われて冷静さを取り戻したのか、ドカッと音を立てて怒りを露わにしたまま座った。



『まぁまぁ、そういきり立たないで。二人は唯一の同期で特別な間柄なんだから。仲良くしてね』


 まるでこの場にそぐわない朗らかな口調のニコルさんだが、その目は笑っていなかった。

 今、確信した。この人はキレると恐ろしいタイプの人だと。



『さて、自己紹介も済んだことだし話を進めようか。僕も朝から何も食べずにいてお腹が減ってるんだ。二人とも、いいね?』


 朝食を摂っていないのは俺も同じだが口にできるはずもなく、ただ首肯する。

 優しく諭すような言葉の裏には『これ以上、邪魔をするなら実力で黙らせる』と言わんばかりの語気が含まれていた。



『順番が逆になっちゃったけど、今シンが言ったことは本当かな? アラタ』


 すぐには認めないものの暴露されたことと、秘密裏に調べられていたことに観念したのか重い口をポツポツと開き始めた。



「……ああ、そうだよ。そいつの言う通り俺は転生者だ。……熊八にもハルシアにも言ってないのにどうやって調べたんだか」


『やっぱり! 本人が認めてくれて良かったよ! これで君たちが救世主だと確信が持てて僕も安心だ!』


「救世主?」


 どうやらアラタもそのことに関しては何も聞かされていないようなので気持ちは分かる。

 と、そこで待ったがかかった。



「ちょっと待ってくれ。さっきから、一体何の話をしてんだ? 転生者がどうとか救世主がなんとか」


「そうですよ! ニコルさんは全部知ってるみたいですけど私と熊八さんは初耳です。ちゃんと説明して下さい!」


 ほら、みたことか。世話になった人にくらい言っておけばこんなことにはならなかったハズなのに。

 アラタは馬鹿だな。



『あぁ! ごめんね。それじゃ、団長として僕が説明させてもらうね。実は……』


 それからニコルさんは俺との出会いと占いのおみくじのこと。アラタが転生者の可能性があることを一から丁寧に説明していった。

 その内容を聞いていた分ではアラタも俺と同じ時期に転生し、似たような条件下で目覚めたようだった。


 違ったのは目覚めた場所と助けてもらった人だけ。

 けれど、こうして同じギルドに所属しているのは運命の悪戯なのだろうか。それとも……。



「なるほどな。にわかには信じらんねぇが、筋は通ってるな。しかし、それならそうと言ってくれりゃあ良かったのによぉ」


「仕方ないだろ。本当のことを言ったって頭の打ちどころが悪かったと思われるのがオチじゃねーか」


 難しい顔をしながらいまいち腑に落ちていない表情の熊八さんは唸っている。

 だから俺のようにすれば話はスムーズに進み信頼も預けることができたのだ。


 と、そこでニコルさんがパンと一度、柏手を打ち場を纏め始める。



『なんにせよ、こうして二人が同じギルドに所属して優秀な師匠に弟子入りしたんだ。これからは己の腕を磨いていけばいいじゃない! アラタは“イタマエ”として、シンは“冒険者”として。それがギルドのためにも繋がるんだから!』


「そうなんですかね……?」


『そうだよ! では最後に全員にまじないを施そうと思う。皆、右手を出して』


 まじない? そういえば、ニコルさんは何かとそう言っては物をくれたな。これがニコルさんの職業である呪術師の能力なのだろうか?



『あらかじめ言っておくけど、今話した内容は他言無用。ここにいる六人だけの秘密ね。いいかな?』


 全員の顔を順番に見渡していき、それぞれが頷くのを確認しテーブルの中央に手を重ね合わせニコルさんを見る。

 自然と笑顔になったニコルさんは一度、顔を俯かせたあとキッと表情を正し仕事に取り掛かった。



『今から行う術式は秘術に値する特別なものだ。呪いが終わるまで決して手を離さないで』


 その瞬間。

 ニコルさんの身体から鮮やかなエメラルドグリーンの魔力の光が溢れ出し、六人の手を伝って全身を包み込む。

 まるで深い森の中に立っているかのような、優しい森の香りと暖かな温もりが感覚を刺激する。耳を澄ませば川のせせらぎや、鳥の鳴き声が聞こえてきそうなほどだ。

 

 

『じゃあ、いくよ』


 その言葉を皮切りにニコルさんの能力が発動した。



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