第1話 さよなら現世。おはよう世界。
初投稿です。
小説を書くのも初めてです。
誤字、脱字には気を付けておりますが完全ではありません。
基本的に思いつき、妄想で書いております。
それでもOKの方は暫しお付き合い下さい。
それでは、ごゆっくりどうぞ。
俺は板前である。
男子高を卒業し板前になるために十八歳から料理の世界に足を踏み入れた。実家を離れ都会にある会社の寮に移り住み、一から調理の技術を磨くこと十年。
自分の店を持つという夢をひたすら追い続け、ようやくお店を持てるだけの資金を集めた。
せっせと真面目に働き、お店が定休日には飲食店のバイトを入れ開店資金の足しにした。
浪費をできる限り抑えるため、お酒は付き合いで少々、煙草も吸わない。ギャンブルも一切やらない。彼女もいない……。
寮に帰るのは寝るためだけだった。
友人からは「つまらない人生だな」と、からかわれることもあった。
分かっている。充分すぎるほど。
だが来る日も来る日も自分のお店を持つという夢だけを信じ、技術を磨いてきた。
それというのも手に職をつければ食いっぱぐれることはなくお金も稼げると考えたからだ。
苦節十年。
努力と気合と根性で耐え抜いた。そしてようやく自分の店を持つことができたのだ。
駅からすぐそばではないが、人通りも多く道路に面した立地。夜になれば仕事帰りにお酒を求めたサラリーマンやカップルで賑わう町並みだ。需要はある。
当時、無知な若者であった俺に調理技術を教えてくれた料理長には感謝してもしきれない程の恩がある。退職するときも、借店舗を探すのも、オープン準備を整える手伝いをしてくれたのも料理長だ。
先輩や知人には「まだお店を持つのは早いのでは」「うまくいったら俺を雇ってくれよ」などと言われることもあったが俺はやんわりとその場をやり過ごしてきた。
これ以上、待てるか。
ただ一人、料理長だけは応援してくれた。
そして開店前夜を控えた夜。とうとう明日お店はオープンを迎える。
俺は最終チェックのため一人お店に残り落ち度がないか細部まで確認していた。
こういうことは自分の目で見ないと落ち着かない性分なのである。
和風居酒屋「味蕾」
それがこのお店の名前である。
由来は人間の舌にある微細な味を感じる器官の名前から拝借した。
お店はお世辞にも大きいとは言えずカウンター八席、四人掛けのテーブル二組、お座敷の六人掛け一部屋だ。従業員も社員は俺一人。他はアルバイト五人をシフト制で雇っているのみ。
店内は古木を主体としたインテリアにし古民家を連想させる造りにした。
個人的趣味も取り入れ、簡素ながら皆が落ち着いて過ごせる空間を作りたかったのだ。
料理は和食をメインとしたものを揃え、お酒には力を入れた。
ビールはもちろん、日本酒・焼酎・ワイン・カクテル・梅酒一通り揃えた。
注文されるかどうか分からないが、できるだけお客さんの好みに合わせられるよう配慮したつもりだ。
うまくいくかは分からない。だが、出来得る限りのことはしてきた。
あとはお客さんが教えてくれる。
料理の仕込みをすべて終わらせ、最終チェックも一段落したところで一人カウンターに座り、日本酒を舐める程度に嗜んでいた。
これまでの日々を思い出し感傷に浸っているとつい、独りごとが口から零れた。
「長かったなぁ……。十年……か」
今宵の酒は目に染みる。
明日は各関係者、友人の予約でいっぱいだ。
このままだとアパートに帰るのが遅くなると気持ちを切り替えクイッと日本酒を煽り、席を立ったその時だった。
けたたましい音と凄まじい衝撃が店内に響き渡る。
刹那。
ガラスの割れる音や瓦礫の砕ける音と共にピカピカに磨いたキッチンの壁が崩れ落ちザルやボウル、各種調味料、包丁などが飛び散る。
果ては、重厚感のあるガスコンロや流し台までもが突然の衝撃に吹き飛ばされ滅茶苦茶に破壊されていく。
破壊の限りを尽くす物体の正体は中型のトラックであった。もはやフロント部分は原型を留めていない。それでも尚、トラックの勢いは収まらずキッチンを通り越しカウンターにまで迫ってくる。
あまりの突然の出来事になす術もなく、一連の動作を目にすることしかできない。
なんだ、こいつっ!!
念願の初店舗&オープン前日でピッカピカの店内に車で突っ込むとは何事だ!?
許さん。ぜっったい許さん!! 万死に値する!!
あぁ、せっかくギンギンに研いだ包丁が刃こぼれしてるじゃないかぁ。
残念だがこいつのせいでオープンは延期だな……。
って、こっち向かってくるじゃねーか!!
避けないと!!
と、そんな時。
不意にこれまで出会ってきた人々の顔が瞬時に思い浮かぶ。
料理長の厳しくも温かい目。
両親の泣いて喜ぶ顔。
悪友の悪だくみをしている姿。
初恋の幼馴染の物憂げな表情。
しかし、やけにゆっくりだな? まるでスローモーションのような。
あれ? これっていわゆる走馬灯ってやつなんじゃ……。
ドンッッ
「っぶひゅっ」
鈍い音と共に肺から押し出された声にならない息が漏れ、勢いの衰えないトラックが俺を吹き飛ばす。
そのまま壁に打ち付けられ鮮血が飛び散った。それはまるで熟れたトマトが潰れたように。
薄れる意識の中、様々な刺激・感情が脳を駆け巡るなか思った。
クソッ! 超いてぇぇ……。これって結構ヤバイんじゃね?
俺死ぬのか?
嘘だろ!? 人生これからってときに……。
彼女だって一度もできたことないのに。
もちろんアレもまだだっつーのに!!
……くそ。
真面目にコツコツ頑張ってきたのにこの仕打ちはあんまりじゃないか、……神様。
???『なら、やりなおしちゃう?』
「っ!?」
まさに俺の意識が途切れる寸前、確かに聞こえた声。
その声の意味も発したものの姿も何一つ分からないまま意識は途切れた。
そして、目を覚ましたときそこは屋内ではなく
心地よい風が吹く昼の草原の上だった。
初投稿のため第2話は一時間後に更新致します。