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試作1  作者: 仙人掌
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第三話 世界の変化と最後の日常

◯主人公の「親友」

名前 天夜優姫

性別 女

年齢 8歳→12歳

身長 149センチ

体重 41キロ

経歴 市立橘小学校卒業(名目上)

詳細 地下施設で少年兵として灰宮理人と共に教育されていたが、共に脱出。吸血鬼の襲撃により神上特区の行方不明者へとなる(記録的に死亡扱い)。


  第三次世界大戦

 それは理人が地下施設に誘拐された年。

 二月十四日の世界標準時間、午後十一時六分。日本時間にして二月十五日、午前七時。

 バレンタインデーという祝日に起こった世界的規模の大戦争、別名【バレンタインの悲劇】と呼ばれる。

 始まりはEUでの、ある議題の食い違いからだった。フランスの政策を支持する西派と、ドイツの政策を支持する東派の二つに議会は分かれた。

 と言っても、議論が分かれるなど政治の場ではよくある事である。

 では何故、世界規模までの戦争に膨らんだのか?

 原因は当時フランスの大統領が、ドイツ人の工作員に暗殺されるという事件が起こったからである。

 それによりフランスは、対独伊宣戦を発表。するとイタリアとドイツの二カ国に侵攻し、英独伊による対仏戦争とともにヨーロッパ戦争として始まり、そして十ヶ月後の十二月二十五日に米中が日本に開戦を宣言したことよって、戦火は文字通り全世界に拡大し、人類史上三度目にして最大規模の戦争になってしまった。

 戦争の影響で世界の勢力図は、ロシア・日本・イタリア・ドイツ・オーストラリアの五カ国を中心とする連合国とアメリカ・フランス・中国・イギリスの四カ国を中心とする枢軸国の二つに分裂した。

 その後も戦争は続き、戦時中にできた【南太平洋連合】の代表国であるオーストラリアのシドニーにて、翌年の九月三日に停戦合意に至り、互いに矛を収めることになる。

 地図の上では、ありとあらゆるラインが元に戻され、戦争以前の状態に正された。

 世界中の人々は、この戦争で大量破壊兵器が使わず、長期化にならなかったことは奇跡だ、と口々にそう言った。

 ある偉人は「第三次世界大戦についてはわかりませんが、第四次世界大戦ならわかります。石と棍棒でしょう」と警告した。

 そう「警告」された人類が、早期に終結できたのは各国が話し合いに応じた結果だと言えよう。

 そして四ヵ月後、戦争が起こった本当の原因が、国連から世界に向けて放送された。

 ロシアを拠点とするテロ組織【世界の調整者】が、暗躍した事によるものだと。

 その放送を聞いていた世界中の人間は怒りを露にした。だが、皆はすぐに安心へと変わった。ネズミが虎に躍りかかったようなものだからである。

 勿論、テロリストの危険性を考慮しても、最新の科学技術を駆使した国連軍(アメリカ・EU・ロシア・中国など)が掃討をするのである。

 テロ組織が大国の軍隊を相手にする訳だから、【世界の調整者】が壊滅することは、予想ではなく確定と呼んでいい程だった。

 だがそれは、対人戦闘のみを想定した話である事を、この時はまだ誰一人として考える事はなかった。

 掃討作戦当日の四月三日、ロシア某市で“最悪な問題”が起こり、人類は恐怖のドン底へと叩き落とされる事になる。

 最悪な問題、それは今まで人類の歴史の裏側でひっそりと、しかし確実に蠢いてきた存在。

 即ち、吸血鬼(ヴァンパイア)の出現である。

 彼らは一時間の内にその都市の全てを占拠し、そこにあったテレビ局を使い、全世界へと映像を流した。


<――人間諸君聞こえるかね? 今日、ここにいる人間らは我々【終わりなき帝国】の第四始祖ルテア・ストラフィア直下騎士団が……皆殺しにした!>


 代表らしき白いマントを纏った肌が異常に白く金髪赤眼の男が、カメラに向かってそう宣言した。

 今、そう宣言した男のすぐ後ろには、数百にも及ぶであろう死体が積み重なり合い、不気味な黒い山をいくつも形成していた。


<ご理解できただろうか? 我ら【終わりなき帝国】の吸血鬼はたった今、貴様ら人間に対して宣戦を布告したのだ。戦争だ! 世界の安寧を守るため、我らは欲深い貴様ら人間に裁きを与える!!>


 微笑を浮かべながらその男は、愉快そうに言葉を続ける。

 すると、画面の外から白いフードを被った吸血鬼が駆け寄り、何かを囁く。


「……そうか、ならば私一人でいい」

「了解しました」


 男はカメラに向かって、ニィとその発達した犬歯を、いや牙を見せつけた。


「情報だ、今しがた五百名ほどの軍人が完全武装して到着したようだ。そこで私は君達にデモンストレーションを見せようと思う。我らの戦力は、私一人で武装はしない。どうだ、これなら分かりやすいだろう?」


 これが本来の人間同士の争いであるならば、ただの無謀であるだろう。

 それを見ていた視聴者たちも何をバカな、と考えたに違いない。

 この問題は人間の力によって以外と呆気なく終わりそうだ、と。

 しかし、現実は無情であった。


「ああああああぁぁぁぁっ!!」

「たすっ、助けてくれ! ぎゃあああああ……!」

「死ねっ! 死ねよ!! 死んでくれよ、この化け物がぁぁ!!」


 銃弾も効かず、


「もういやだぁぁぁ!!」「はっ、私から逃げれるのか?」


 逃走することも出来ず、

 一人、また一人と殺される。

 猫がネズミで遊ぶように弄ばれれ、肉片へと形状を変えていく。

 映像を見ていた視聴者は、政治家から民間人に至るまでもう、これが簡単に終わるのだと思えるものは残っていなかった。

 その男は宣言通りに一人で出撃し、ものの二分たらずで全ての軍人を殺し終えた。

 それから吸血鬼の侵攻は始まり、【終わりなき帝国】の支配領土はロシアの三分の二、中国北部、朝鮮半島の半分にまで広がった。




 そして、現在。

 吸血鬼と同じように世界の裏側に存在していた者たちも、吸血鬼に抗う為、表の世界に現れ世間に認知されるようになった。

 それが、この国で言うところの【日本浄鬼軍】である。

 一部では、もう人類は終わり新しい吸血鬼の時代の幕開けだ、なんて言ってる人間もいるが、俺はそう思わない。

 なぜなら本当に神なんてろくでもないのがいるんだったら、こんな世界になった時点でそんな考えの人間なんか真っ先に消されちまうと思うからだ。

 だから俺は……必死に今を生きる。そして、俺が護る……。皆を、絶対に……吸血鬼の支配から。

 それがこの暗黒時代に生まれてきた俺の義務であり、あの街で死んでいった人達に対する責任と謝罪だと思うから……。




 目覚ましがセットした時間に鳴る五分前。

 そこでハッと、意識が目覚め理人はその衝動で、反射的にベットから上半身を起こす。

 急な運動に身体はついていけず、心臓はバクバクと音をたて、呼吸は速まり出した。

 まだ、春先なので暑気が全身にまとわりついているようだ。

 着ているパジャマが汗でぐっしょりと濡れて、不快感を感じる。

 額に張り付いた黒髪を手で払い、理人は乱れた呼吸ゆっくりと整えながら思う。

 久しぶりに嫌な夢を見てしまった、と。

 まるで現実のように感覚があり、とてもではないが夢とは思えないそんな夢。

 と、その時。

 ――ジリリリリリ!!

 と、背中越しに凄まじい音を出され、理人は最悪の目覚めで朝を迎えた。時刻は午前七時。


「はぁ、びっくりした……」


 昨夜寝る前に見たテレビのせいで夢にまでその内容が反映しちまった。

 小難しいニュースなんかに時間を使ったせいで激しく頭が痛い……。

 しばらくして辺りを見るが、起きたばかりなのであまり見えない。

 なので、何度もまばたきを繰り返した。すると、徐々に鮮明に見えていく。


「ん、眩しい…」


 そう小さく理人は呟いた。

 少し目を細めて見た窓側は、カーテンの隙間から入ってくる直射日光。

 今は朝だと、無言の肯定を太陽は教えてきた。

 それと同時に、涼しい風。外から聞こえてくる爽やかな鳥の声。朝から出掛ける人たちの雑音。

 いつも通りの代わり映えしない朝。だが、それのお陰で暗い気分は払拭された。

 理人は、ベットから起き上がり、自分の部屋をじっくりと見渡す。

 六畳ほどの狭い部屋に、フローリングの床。

 真ん中にある小さなテーブル。

 自分の腰あたりの高さにある勉強机に、背丈より大きい二つのタンス。

 下の階段へと繋がるドア。

 いつもの光景が目に映った。

 ……とりあえず下に降りて水でも飲もう。

 そう考えた理人は、まだやる気がない足を使い階段を降りて、キッチンの冷蔵庫からお茶を取り出して一口飲む。

 冷たい喉ごしに、体中が目覚め始める。それとほぼ同時に盛大な欠伸が出た。

 この倉本家は、基本的に放任主義の共働きだ。育ての両親はこの地方都市の企業の会社員とそのパートナーで、一週間近く海外に朝早くからよく出張する事もあるので、一緒に食事ができるのは一日から長くて三日間だけ。

 義妹の(はるか)の方は、イギリスに居る叔父の家で、一昨年の冬からケンブリッジ大学に飛び級している。

 まぁ、普通の家庭とは言いがたいがいつものことだから、気にはならない……。

 ふとテーブルを見ると、律義にも朝食の用意だけはされてあった。


「まったく、仕事忙しいだろうに……。いつもありがとう」


 苦笑混じりに理人は礼を言いつつ朝食を食べて、歯を磨き、髪を整えて、足早に自分の寝室へと戻っていった。

 そして、寝室の扉を開ける。

 寝室へとたどり着いた理人は迷わず右側のタンスを開け、制服を取り出し着替える。

 そして、着替え終わった自分の姿を簡単に確認する。

 平均的な体つきよりやや筋肉質。目と耳にかかるくらいの長さの黒髪が、横へと流れている。

 どちらかと言えば年の割に幼さが感じられる顔つきだ。

 続いて、制服を見る。

 黒を基調とし、白い線が施されているブレザーの制服に、赤い色のネクタイ。生地はおそらく軽度の呪術を通さないように特殊な糸で織られている。それ以外にも防弾、防衝撃の機能があるようだ。 一通り、準備を終えた理人は自分の寝室を出た。

 直後、玄関のチャイムが鳴る。


<ピンポーン>


「はい、ちょっと待ってください!」


 と、理人は軽く返事をしながら思う。

 迎えが少し早すぎではないだろうか……。

 そう思いながら、所々錆び付いた玄関の扉を開けた。

 すると、目の前には黒い旧日本軍の軍服を着て、腰に日本刀らしきものを差している一人の青年が立っていた。

 軍服の胸章とから【日本浄鬼軍】のものだと分かった。

 そして、理人はその人物の顔を確認すると、自分がよく知っている人間だと理解した。

 年齢はたしか自分より上の二十六歳で、外見はボサボサの黒い髪、耳にかかるほどの長さがある。

 そんなやる気なさそうな顔立ちをしてるのに、鋭利な目つきでこちらを見ている。

 ほんの少し間が空いた後、その青年は理人に聞いてきた。


「よっ、理人、今日入隊式だろ? 俺の車で送ってやるんだから、朝飯用意しろ!」


 そう青年は、楽しそうに笑って言った。

 対して理人は、その青年が言い終わると同時に、玄関の扉を素早く閉めた。

 自分が知っている青年は、否、よく知っている青年は目の前で人指し指で指して、嬉々とした表情をし、さも当然の対価だと言わんばかりに話した。

 そんな奴は入れる気にならない。だから念のため、鍵も閉めておく。


「朝から、会いたくない奴に会うと気分が滅入るな……」


 理人がそう言いながら、玄関から数歩離れると、


<ピンポーン>


 と玄関のチャイムが、また鳴った。

 理人は、舌打ちを一つした後、振り返って考える。

 押し売りでも、無言でドアを閉められれば諦めるものだ。中々にしつこい精神力を持ち合わせた強敵だ。

 だが、このまま待っていても知り合いである以上、帰ってはくれないだろう。それに、ほんの少しばかりの恩はある、だから無下にはしにくい……。

 悩んだ末、理人はドアを開けた。


「はい……」


 相手の様子を伺うように、小さめの声で言う。

 しかし、相手はさすがに苛ついたようで怒り半分混じった声と共に、


「普通にドア閉めるな、よっ!」


 最後の「よっ!」で理人の太ももに蹴りを浴びせた。

 しかし、相手は蹴る力を抑えているようで、あまり痛みを感じなかった。それを優しさと言っていいものか悩むところだ。


「さすが、大人に成りきれない代表のアホ宗介だな」

 痛くも何ともない足を、さすりながら理人は悪態を吐いた。

 悪態を吐かれた人物、宗介は目を細めて言う。


「うるさい、早く俺を家に入れて飯を献上しろ」


 相変わらず宗介は、不遜な態度で接してくるので、後で前園さんにメールしておこうと、理人は心の中で思った。

 宗介と下らない一悶着があった理人は、仕方なく宗介を部屋に入れた。

 だが、このまま朝食を作るのは癪なので盛大な罠を仕掛ける事を、理人は決意し、すぐに支度に取りかかる。

 と、言っても冷蔵庫にあるトーストと牛乳を取り出し、オーブンで焼いて注ぐだけの簡単な朝飯だ。

 そして、キッチンの前で罠作りに取りかかる。

コップの中に牛乳を注ぎ、激辛唐辛子を入れていく。どれくらい入れれば辛さを感じるのかは、既に自分で実証済みだ。

 しかし、罠を作ることだけに集中してはいけない。

 なので、テーブルに座っている宗介を確認。

 ……気づいていないようだ。

 そう理人が安堵し、次の作戦へと移行する。腹がよじれるような激痛に襲われたという設定で、理人は呻き声を上げた。


「ぐあっ……」

「ん? どうした理人?」


 理人の状態の変化に気づいた宗介は、静かに聞いた。


「……昨日、賞味期限が切れたのを食べたから腹が痛い」


 宗介の問いに理人はそんな風に答え、トイレへと向かった。

 トイレの中で理人は、宗介の足音が聞こえないか耳を済ませた。

 大丈夫だ、足音は聞こえない。宗介は動いてないようだ。

 トイレから出て、すぐに激辛唐辛子入りの牛乳コップを宗介に渡した。

 宗介は疑いもせず、口をつけた。

 さあ、どんな反応をするんだ?

 理人は期待に膨らんだ顔をこらえながら、宗介の真向かいに座った。

 しかし、数十秒待っても宗介の顔色の変化は表れない……。

 変化が表れない宗介に理人は思案する。

 実は辛いものが好き、辛みが時間と共に飛んでいった、などなど。

 だがそこで、唐突に記憶の中からある言葉が引っ張り出された。


 ――味覚障害。


 たしか、食べ物の味がわからなくなる病気で、年をとると起こりやすい病気だったはず。

 それならば、辛さを感じないのにも得心がいく。

 まさか、宗介が味覚障害に陥っていたとは、まさに寝耳に水である。

 これは意外と落ち込む、知り合いが病気になっている事に気づかないなんて……。

 そう理人が思いながら、自分の分を飲むと、


「がっ、ぐあっ……、ごふっ」


 喉から激しい痛みと辛みが広がっていく。まさにそれは、激辛唐辛子入りの牛乳だった。

 いつの間にか、コップの位置が正確に、しかも理人に気づかれる事なく宗介によってすり替えられていた。

 たまらず理人は、目の前の犯人に鋭い視線を送った。

 すると、


「ぷはっ!」



 宗介は盛大に噴き出した。

 押し殺せなかったものが止めどなく溢れて出るように、笑い続ける。


「……くっ、くっくっ、……はははははっ!!」


 宗介の笑いの発作は、そう簡単には収まってくれそうになかった。


「おい、笑いすぎだぞ?」


 理人は真剣な表情で、宗介を威嚇する。

 その言葉を聞いて、宗介はようやく笑いを止めた。


「そう、だな」


 だが、まだ少し、宗介の口調は怪しい。


「だから、笑うなって言ってるだろう!」

「これが笑わずにいられるか。バカ理人」


 宗介が、再びこみ上げてくる笑いの衝動を堪えているのが、よく分かった。


「もういい、テレビ見るから、食器は全部自分で洗え!」


 そう言って理人はリビングでテレビをつけた。そして、十数分後、キッチンにいる宗介の所へと戻っていった。

 宗介は、理人が言った通りに、すでに洗い物を終えて待っていた。

 理人に気づいた宗介は、口を開いた。


「お、理人、その制服似合ってるじゃないか」


 それを聞いた理人は、どこか恥ずかしい気持ちになり、顔が赤くなった。

 そして、反射的に宗介から理人は顔を背けた。


「ふっ、じゃあ学校まで行くぞ」

 不敵な笑みを理人に見せながら宗介はそう言った。

 その後、この対極の二人は家を出た。


【バレンタインの悲劇】……あるテロ組織によって引き起こされた第三次世界大戦。

【世界の調停者】……第三次世界大戦を引き起こしたが国連軍と吸血鬼の勢力によって存在が現時点で分からなくなった最悪のテロ組織。


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