人暦2845年
本編第四部第四章の前半と内容が重複しております。
その日、"彼女"は昨晩に見た奇妙な星の並びに興味を持ち、ふらりと遊民達の幕屋から出た。そして、訪れた都市の路地の奥に占卓を置いた。
暫し路地を通る人や猫などを眺めやりながら、"彼女"は前を横切る一人の戦士装束の娘に、何か感じるものを覚えた。
「もし……そこのお嬢さん。」
"彼女"の呼びかけに、娘は一拍置いて振り返った。改めて周囲を見渡し、呼び止められたのが自分であることを確認して、娘は"彼女"に言葉を返した。
「……何か?」
訝しげな様子を窺わせる表情の娘を見上げながら、"彼女"は親しげに言葉を返した。
「……いや、何ね……面白い星をお持ちじゃと思いましてな……一つ、占わせていただけないかな?」
"彼女"の言葉に娘は、足を止め"彼女"の方に歩み寄っていた。
占いの礼を言って立ち去る娘の背を眺めつつ、"彼女"は何気無く占札の一枚を手に取る。九つの首を持つ大蛇の上で舞う美しい踊り子の絵が描かれている。
「……"夢幻神"……こうも、長く生きて面白い者に会うとは……我等が母なる闇神竜様に感謝せねばな……」
そう言って、天上の母神に祈りを捧げていると、傍らから声がかけられた。
「黒鱗のお婆、久しぶりだね。覚えてるかい?」
それは気取った装いに軽い口調の旅の詩人……それは独立し、"彼女"の集落を出て行った間もない青年だった。
「おやおや、これはリュッセル坊やじゃないか……もう歌はちゃんと歌えるかい……?」
"彼女"はそこに立つ詩人――リュッセルに向かって、まるで孫に語りかけるような穏やかな声音で、語りかける。その言葉にリュッセルは少々憮然とした様子で言葉を返した。
「酷いな~~。……そりゃ、お婆に比べりゃヒヨッコだけどさ…………今、創ってる詩があるんだ。聞くかい?」
「ほぉぉぉ、それなら一つ、どれ程腕を上げたか聞いてあげるとしようかねぇ……」
リュッセルの言葉に、"彼女"はフードに隠れた顔から覗く目を細めてそう答えた。




