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そのはち

見知った顔、見知らぬ顔。

「あちら」と「こちら」の様々な違いに思いをめぐらす。


この「if」の世界は、「あちら」と異なる選択肢を選んだ人たちの次元せかいの一つ。


「こちら」とも「あちら」とも違う選択肢を選んだ人たちの世界もまたあるのだろう。






…まぁ、そんな感じで。


視線の先にある鏡を見て、大きく息を吐いた。

「あー、解る、解る。なんで、こんな所に鏡が、ってカンジよねぇ」

「しかも、無駄に大きいしぃ」

寄贈○○年度卒業生一同。…誰だよ、こんな物贈ろうなんて思った奴…しかも、保健室の側面に。


「えー真奈美ちゃんはスタイルいいから関係ないでしょ」

「そんな事ないよー里美だって細いじゃん」

「ほら、そこ騒がない。次、二組の女子。胸囲から順番に進んで頂戴」

はい、ご想像ついたと思いますが、現在身体測定の真っ最中です。まだまだ、育ち盛りの成長期。この先体形なんて様々に変化していくのですが、それでもやっぱり気になるもの。


「あーキリ、ウエストほっそい~」

「ホントだ~制服や体操服じゃ全然わかんなかった」

「胸囲やお尻が大きいもん。安産型って、従兄弟に笑われたし」

全体的にぽっちゃりしていた、あちらの時と違って、ウエスト周りだけは細かったりする。自分でも運動とかして気をつけているからね。でも持って生まれた骨格はどうしようもない。余りお肉はついていなくても、ウエストが強調されないセーラー服じゃ、ぽっちゃり型に見られることもしばしばだ。顔が丸いって事もあるけどね。

関係ないけど、大きいのは「胸囲」であって、「胸」ではない、念のため。



この先、ボディコン、ワンレン時代がここにもやってくるのだろうか。だからといって、お立ち台に立ちたいとは思わないけど。


ここら辺りが、実母のDNAだなぁ、と思う。兄も弟もこの時代稀有な八頭身体形の持ち主だ。父方のDNAで多少のパーツは似通っていても、初見で私たちが兄妹と解る人はほぼ皆無、と言ってもいい。せいぜい「従兄妹」レベルの相違だ。だから、いまだに「あんなのが、佐野先輩の妹なの」とか「先輩が可哀想」と聞こえよがしに言われるのだ。

こうして身体全体を見ることができる鏡なんかあると、溜息以外の何も出ない。




周囲の友人たちが「気にしちゃだめだよ」とか「無視しちゃいなよ」と言ってくれて、私も頷くが、実際怖いのは先輩方の嫌味ではなく、そう言われている事を知ったときの兄の反応だ。正確には「兄たち」になる。勿論慎兄も込みで。シスコン公言して憚らないもんねぇ「弟妹大事にして何が悪い」って。その上黒いからなぁ、外面大王だけど。慎兄も兄貴ほどじゃないけど、「イイ性格」しているもん。

どっちが影響されたのか知らないけど、「あちら」の慎兄と微妙に違う。まぁ、私が知らなかっただけかもしれないけどね。

でも、あの「闇」の時期は乗り越えた…というか、気が付いたら過ぎ去っていたから、一安心なんだよね。







「佐野先輩も苦労するわよね、あんな子が妹なんて」

「だから、中学にも遊びに来ないんじゃない?恥ずかしくってさ」

身体測定が終わって教室に戻る途中、すれ違いざまに笑いながら話す先輩たちに、むっとしたように里美ちゃんが視線を向けるけど、とりあえず怒りを納めてもらう。



「よく言うよ、佐野先輩のこと直接知りもしないくせに」

兄貴がらみで私に何かしようとしたり、言うのはほとんど他の小学校の出身者だった。同小出身者は、同級生は勿論、先輩たちも、そんなことはしない。「本当に」兄貴を知っている人は尚の事。何故かって?訊かないでくださいよ、あはははは。

「放っておきなよ。どうせ、言うだけで古賀君たちがいるから何も出来ないし」

里美ちゃんを宥めるように真奈美ちゃんがいう。



「古賀くんっていえばさ」

思い出し笑いをしながら、里美ちゃんが私の方を見た。

「部活できかれちゃった。須本くんと古賀くん、どっちがキリの彼氏って」

はぁ、と胡乱な目をして彼女の方を見ると、真奈美ちゃんもくすくすと笑っていた。

男女が寄れば、話せば、きゃあきゃあのお年頃。そんな話も珍しくは無い。っていうか、水面下ではもっと色々言われているんだろうな、悪意込みで。好きに言ってくれって感じです。

「てか、須本くん彼女いるよ」

「「ええええっ!?」」

綺麗にハモる二人に、思わず吹き出しちゃった。いいよね、別に本人隠していないし、部活内じゃ有名な話しだし。

「桜花中の同い年のお嬢さん。一度部活見に来ていて紹介してもらった…いっちゃぁ何だけど、勿体無いような可愛いコ」

うわーうそー、とか、信じられないーとか聞こえるけど、笑ってスルー。しかも、彼女の方がベタ惚れと見た。紹介してもらう間、不安そうな顔で見られていたもんなぁ。




練習中色々話したんだけど、何でも不良に絡まれているところを通りかかった二人…つまり古賀君もいたわけ…に助けてもらったんだそうだ。なんて、お約束的な展開。

不良たちを追い払った後、怖くなって泣いた彼女を一生懸命慰めて、送って行ったのが須本君だということで、しかも助けた側なのに、怖い思いをさせたことをご両親に謝ったんだそうだ。

何者だ、お前。本当に中一か、と心の中で思わず突っ込んだ。

外見は強面だけど、その礼儀正しさに、すっかりご両親が気に入ったそうで…勿論、彼女自身もだけど。


桜花といえば、この辺りで1,2のお嬢様学校なんだけど、少しも気取ったところが無い純粋培養のお嬢さんって感じで本当にいい子なんだよね。少なくとも私の周囲には居なかったタイプだ。




また一人、知らなかった相手と友達になれて嬉しかったりする。



「美女と野獣」…野獣は失礼か。でも、そんな言葉が一番しっくりくるカップルだね、うん。





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