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そのなな

「護ってくれるんだって」

突然切り出した私に、二対の瞳が集まる。

「躾のなっていない、お兄様方のファンから」

片方は「へ?」という顔をして、もう片方は「あちゃぁ」と顔を半分覆う。




「突然呼び出して『家に連れて行け』ってナニサマ?」

半分覆っていた手を、両方に変えた相手に大きく息を吐く。

「言っておくけど、慎兄のファンからも目を付けられているみたいだよ、私。同小の先輩が注意するように教えてくれた」

はぁ?と未だ分かっていない相手に、大きく息をついて、いい加減氷の解けてきたジュースを飲む。

私の進んだ中学は、近隣の3つの小学校の出身者から成り立つ。同じ小学校の先輩たちは兄貴たちの私への構い方をよく知っているので、何も言わないが、他の小学校の出身の先輩たちにとって、妹、もしくは妹同然の幼馴染という私の存在は、あまり面白くはないらしい。


それと同時に、今回のように何らかの形で兄に近づこうと利用する人たちもいる。



余りにも兄がきらびやか過ぎて、見過ごされそうだが、慎兄もそこそこのイケメンだ。兄が天上の相手なら、慎兄は親しみやすいタイプ。相応にもてるし、ファンも居る。

兄も慎兄も自分の事で家族を煩わせることは酷く嫌う。…自分自身が煩わせるのは、全く別の話だけれど。だから、同じ小学校出身の兄のファンは、兄のことで私に関わってくることはしない。今回のように私を利用しよう、なんて考えるのは他の小学校出身の、しかも兄の事を良く分かっていない相手だ。自分で何とかしようと思わず、妹の私を使おうと考える程度なら、古賀君たちが近くに居る、というだけで十分牽制になる。




「文句は言わせないよ?そもそも発端はお兄ちゃん達なんだから」

屁理屈だとは分かっているが、中学生レベルなら十分正論でまかり通るはずだ。いくら、兄貴が天才肌の腹黒だろうと、高校生程度が、妹の中学生活をどうこうさせれるはずが無い。

そこまで計算に入れる辺り、我ながらどうよ?と思いはするけれど。

「本当に大丈夫なんだろうな」


向こうでの私は、古賀君たちと一緒のクラスになったことは無い。こうやって「違い」を目の当たりにして思うことは、この先どう進むのかという、不安と楽しさ。――今のところは楽しさが勝っているようだけど。


「少なくとも、私は信頼している」

兄貴二人はお互いに顔を見合わせて溜息を吐いた。どことなく諦めを含んだそれに、心の中で「当たり前だ」と毒づく。

誰の所為だと思っているんだ。

「余り遅くなるなよ」

「うん」

っていうか、いくら運動部とはいえ中学の部活なんだから最終下校時間は決まっている。それに同じ小学校区の古賀君たちがある程度のところまでは送ってくれるはずだ。彼らにはそういった「男気」みたいなものが有るから。



「うちの高校の奴らは俺が何とかしておく。って、いってもお前に何かしよう、なんて命知らずは居ないと思うけどな」

慎兄の言葉と同時に見せた兄貴の笑みに対してのコメントは避けておく。

後はお互いの近況報告と雑談。お風呂から尚志が上がってきたので、リビングに移動して少し遊んでから慎兄が帰っていった。









「桐子」

風呂上りの兄がノックして入ってくる。っていうか、ノックするなら返事を待って開けようね。そして、なんですか、その無駄な色気は。実の兄ながら頭が痛い。ときめかないのは、頭のどこかで「高校生のガキ」扱いしている私がいるからだ。



「そいつイイオトコか?」

何言っているんだこのシスコン。溜息を飲み込んで笑顔で応える。

「お兄ちゃんよりは劣るけどね」

無口な硬派の不良。昭和のよき時代に漫画やドラマの中で存在した…古賀君はそんな存在だ。平成で言う「ジャニーズ系」の顔立ちだから、外見からは思いもつかないけど。そういえば、向こうでも遠巻きに見つめる女の子って居たよな。いかん、別の意味で危ないかもしれない。何か対策を立てねば。



「何よからぬことを考えているんだ」

「自己防衛の方法」

ぐ、と息が詰まったような音が聞こえた。そうだ、反省しろ。てめぇの無駄なフェロモンのせいで妹さんが苦労しているんだ。

それでなくても、先生にも先輩たちにも「佐野 匠の妹」で見られているんだ。三年間の苦労が目に浮かぶようだ。一応覚悟はして入学したんだけどね。運動は兎も角勉強の方は怠っては居ないから、兄の様にはいかないけど、そこそこの成績は保っているけど…運動部との両立かぁ、しんどそうだな。

「お兄ちゃん、勉強よろしくね」

にっこり笑う兄に「しまった」と心の中で悔やむ。シスコンではあるが、手を抜かない。それが、佐野匠という人物である。




天武の才を持っている人間が努力を怠らないとこんな風になる、という見本でも有る。だが、この妙な努力型って完全に父親方の血だよねぇ。今更誰も言わないけど、姿かたちも父に良く似ている…正確には祖父に、だ。祖父の若い頃を少し現代風にアレンジして、いい男振りを上げると兄になる。



伯母たちから聞いた話じゃ、祖父は相当もてたらしい。自慢げに語る伯母たちだけど、一昨年亡くなった祖母の事を考えると気の毒にもなる。女関係で苦労したみたいだし…当の祖父は私が二歳のときに亡くなっているから、記憶にすら無い。



兄を見るたび、微妙な表情をした祖母を思い出し、再び溜息を吐いた。


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