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そのご

沢山のお気に入り登録ありがとうございます。

「古賀君?」

私の声にお姉さまがたが反応する。一見爽やか系のイケメンは周囲の様子に軽く眉をひそめ視線を合わせた。

「今、大丈夫か?」

古賀君の横に居たもう一人が声をかけてきた。

「あ、うん大丈夫だよ、須本くん。何?」

今度こそお姉さま方の顔色が変わった。だろうなぁ、それ狙って、わざと名前を呼んだんだもん。



「じゃぁ、私たちは行くわね」

「い、今の話はまた今度ね」

そそくさと去っていく後姿を見てほっと一息ついた。同じように見送った二人は呆れたような顔をしている。

「…キリちゃん大丈夫?」

物陰から顔を出した相手に、思わず笑顔を向けた。

「さっちゃん。古賀君たちを連れてきてくれたの?」

ありがとう、と笑うと小学校からの友人はふるふると首を振った。

「本当は北野先輩に言おうと思っていたんだけど、丁度古賀君たちがキリちゃん探していたから」

だろうなぁ、内気なさっちゃんが自分から男子に…しかも古賀君たちに話しかけるなんて、まずありえない。



「お前、何かやったの?」

「原因はお兄ちゃん。ファンの躾くらいしてから卒業してほしかったなぁ」

「ファンの躾って…お前なぁ」

呆れ半分の古賀君とは対照的に、須本君はひどく楽しそうに私を見る。

「佐野先輩は、去年卒業したばかりなのにすでに伝説化しているからなぁ。さっきも先輩たちに言われたよ『佐野さんがいたなら、お前たちに大きい顔させないですんだのに』ってさ」

「ナニソレ」

溜息混じりに言うと、私は再びさっちゃんへと向き直った。

「ごめんね、本当にありがとう」

「ううん、キリちゃんに何も無くてよかった。じゃぁ、部活があるから行くね」

「うん、北野先輩たちによろしく」

入学早々美術部に入った彼女は、笑って頷くと駆けていった。さっき名前が出た「北野先輩」は小学校の頃からの顔見知りで、美術部の部長だ。






「で、改めてご用はなぁに?」

「…童謡調で言うなよ。この間の返事、そろそろ聞かせてくれねぇ?」

丁度その時、近くを通りかかった生徒が私たちを見て、ぎょっとした顔をすると遠巻きにして去っていった。

そういえば、ここ体育倉庫に近いから、たまに部活の人たちが通るんだよね。お姉さまがたも場所の選択誤ったとしか思えませんね。


「場所、変えよっか」

「そうだな」










「で、なんで『ここ』なんだ?」

「いや、こういうところの方が変な目で見られなくていいかなぁ、と」

「別の意味で見られている気がする」


そういって、私たちが集まっているのは、職員室の傍にある小教室。試験中立ち入り禁止になる為、質問や用事で訪れた生徒はここで先生に対応してもらうのだ。だから、試験中以外は意味の無い場所でもあったりする。

元々は職員用の物置だった部屋なので、普通の教室の三分の一くらいの広さしかないけど、椅子と机も装備されている。ただ、オープンスペースなのでドアは無い…つまり、廊下から丸見え状態なのだ。


「で、返事は?」

「返事、ねぇ。私運動苦手だよ、知っているでしょ?」

せっかくの「やり直しの人生だ、頑張ろう」という決心は、もともとの面倒くさがりの性格も加わって、有る一定方向には向かなかった…つまり、運動方面である。

一応理論として「やりかた」が解っている、逆上がりや跳び箱は、人並みにはこなすが、それ以外は平均以下と、いう状態だ。瞬発力もなければ持久力もない。動体視力も良くないので球技も得意じゃない。泳げないわけではないけど、それだけ、という代物だ。




「だれも、選手やれっていっているわけじゃないだろ?それ以前の問題だし。マネージャーなんだから、お茶とかタオルの準備したり、軽い怪我の手当て、そんなところだと思うぜ?グラウンドの整備とか力仕事は男がやるしさ」

「そこなんだよね、何故に私、っていうか、女子?男子にやらせればいいじゃん?」

「女子マネのほうが、なんかいいじゃん。それに、俺たちに向かって気軽に声掛けれる女ってお前くらいだし」

下の自販機で買ってきた紙パックのコーヒー牛乳を差し出して、須本君が笑顔で言う…が、わりと強面系の彼の笑顔は、別方向の方が威力がありそうだ。まぁ、正直慣れているから気にしないけど。


あ、買収行為には応じませんことよ、アタクシ。と、コーヒー牛乳を須本君に押し返す。




「キリ」

名前の「桐子」の桐の字の呼び方から付けられた私のあだ名。普段苗字で呼ぶことが多い古賀君がこう呼ぶときは決まって碌な事が無い。

「あの、先輩たちみたいのから護ってやれるが、どうだ?」




…ちくしょう。



もう一度目の前に来たコーヒー牛乳にストローを自棄気味に挿した。



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