そのにじゅういち
良い子も悪い子も真似をしてはいけない描写が入ります。
ご寛恕下さい。
「結構図太いのね」
「でなきゃ、冬馬先生と二人きりになる、なんてできないわよね」
「このコ、弓道部の古賀くんにも媚うっているのよ、なんかいやらしいわよね」
私を一人にすることを、友人たちは酷く嫌がったが、いくらなんでも四六時中一緒、という訳にはいかない。
送るから待っていろ、という古賀くんや石田君の申し出を丁重に辞退し、岐路に着いた…まぁ、罠を張られていることは想定内だったけど。
ちなみに、今回の犠牲者である上履きや、辞書(机の中で無残な姿になっていたのは、重いから、という理由で置きっ放しにしてあった、辞書の数々だった…下手すりゃ教科書より高いじゃん)は証拠物件として鵜飼先生に提出済みだ。そもそもの発端はこの方なので、当然といえば当然でしょう。流石に青くなっていらっしゃったが。
まさか、自分の勤めている学校の生徒が、こんなことをするとは思わなかったらしい。図書館の司書様らしくありませんな、事実は小説より…っていうじゃありませんか。
さて、どうしよう。
俯いて表情を隠しながら、考える。こういうタイプは、何を言っても逆手を取る。本当のことを言うのが一番なんだけど、それを信じるかどうか疑問でもある。真実を聞いて逆切れしかねないし…というか、するだろう。
「すみません。冬馬先生には用事を頼まれただけですから…失礼します」
足早に逃げようとするのを阻まれた。大勢で一人を追い詰めようとする辺り、お約束のシュチュエーションの内容は決まっている、という事か。やれやれ。
「この後、用事があるので…すみません」
「見え透いた嘘いってるんじゃないわよ」
本当だったらどうするんですか、という突っ込みはしないけど。思うんだけど、一体何がしたいんだろう、こちとら関係ないっていっているんだし。まぁ、悔し紛れの憂さ晴らしか?先生の用事を言いつけられても今度から断りますから、とか何とか言って通じるかな。
「ああ、ここにいたんだ」
その声に、視線を向けるとにっこり笑顔の怖い鬼畜眼鏡…もとい、浅香先輩がそこにいた。
「待ち合わせの時間になっても来ないから、心配になって探しに来たんだ」
甘い声で私に笑顔を向ける。が、言われている本人より周囲のお嬢さん達が赤くなっているってどういうことかな?
「制服からすると、商業の先輩?何かあった?」
あくまで私に向ける声は甘い。他に人がいなかったら、止めてくれと泣いているか、脱兎のごとく逃げていただろう甘さ。
「彼女が何か?」
問いかけは柔らかい、しかしその中に潜むブリザードを周囲のお嬢さんたちは気が付いただろうか。
気が付いていないだろうな。だって、こんな猛吹雪の中、顔を赤らめたままでいらっしゃる。
「桐子?」
呼ばれたことの無い、名前を呼び捨てられ顔を上げると浅香先輩は、これでもか、ってくらいの笑顔を見せてくださる。面白がっている事が一目瞭然です、はい。
「なんでもないです、先輩」
首を振ると、先輩は「うん?」と私の顔を覗き込む。ひたすら柔らかい笑顔を浮かべたままで。
うわあああ、怖いです。先輩怖いっす。
「引き止めて、悪かったわね」
「ごめんなさい、失礼します」
慌ててお帰りになられる先輩方に思わず息を大きく吐いた。
「大丈夫か?」
本来の先輩の声音に、ほっとしながら頭を下げる。
「はい、助かりました。ありがとうございます」
うん、と頭を軽くなで、先輩は笑顔のまま口を開く。
「さて、洗いざらい吐け」
頭に置かれた手に圧力が加わっているのは気のせいですか?
「成程、先輩よりランク上の先生、ね」
自販機の缶コーヒーを一つ私に渡して、先輩は息を吐いた。少しいった場所にある児童公園のベンチ。子供たちが数人遊んでいる…長閑だなぁ。
「司書の先生…その先生の先輩にに当たる方なんですが、その方に言わせると、優しい、というと聞こえがいいけど、ただ単にお人好しな性格らしくて女の子たちを邪険に扱うことがない、というタイプらしくて…」
「増長する、って訳か。で、たまたま仕事を手伝ったお前に矛先が向いた、と」
笑っちゃったんだよね、勿論心の中でだけどさ、冬馬先生の台詞が「皆いい子なんだけど、おしゃべりに夢中で手が動いてくれないんだよね」…って、しかも「鵜飼先輩が、集中して速い仕事してくれて助かっている。っていっていたから、ついお願いしちゃって、悪かったね」
…それでこれかよ。よかったね、先輩方、兄貴が地元にいなくて。あの方、家族に敵意を向けられると相手が誰であれ容赦しませんから。
「本当に助かりました。でも、先輩どうしてあそこに?」
「予備校の近道。っていっても本屋経由だから普段は使わないんだよ。ホントお前って悪運強いよな」
ナンデスカ、その悪運って。
しかも、あのタイミング。一体何時から聞いていらっしゃったのやら。
「あ、じゃあ、先輩、時間大丈夫なんですか?」
「構わないさ、一度や二度サボったくらいで下がるような成績じゃ、この先やっていけないし」
「すみません」
謝りながらも、何かむかつく。兄貴と似たような人種がここにもいたよ。
この一件が別方向に飛び火する、なんて思わなかったけどね。
連続投稿ラストです。




