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そのじゅうろく

待ち合わせの場所に立っている3人を見て、古賀は軽く目を見開いた。


「よう、久しぶり」

「元気だった?」

残る一人は、笑顔のまま手を振る。

「成程な。一人では来ないと思っていたが…『結城』を引っ張り出してきたか」

彼女らしいといえば、彼女らしい人選といえよう。理由付けで映画に誘えるほどに仲が良く、自分の意を汲み取ってくれなおかつ、古賀と普通に接することが出来る…そんな相手は限られてくる。



「完吾までは考えもしたが、竜司か、意外だったな」

「相手がコバさんだったら、しーちゃん役に立たないもん」

「キリ酷いっ!」

「否定できないだろう?姉貴」



くすくす笑うのは、結城 竜司。むくれている少女は結城 忍。双子の彼らは古賀たちの中学の同級生だった。余談ではあるが、ここで名前が出た「小林 完吾」というのは、忍の彼氏である。



「カレカノとの行動はあぶれたものをカップルにする。須本君と美波ちゃんで懲りたもんね」

「私たちの映画代はキリ持ち。そんなのいい、って言ったんだけどね」

「ただで頼み事は出来ないって、ほんっと、堅いよな。キリらしいっていえば、そうなんだけど」

そして、自分の分を古賀が払うことによって、ワリカンという形で落ち着かせようという目論見なのだろう。侮れない奴と苦笑する。


「牽制役はお断り、と言っているにも関わらず、こんなまねする古賀君が悪い。私は平穏無事な学生生活を送りたいだけだもんね」

「…平穏無事?キリが?」

「しーちゃん、酷いっ」

さっきのお返しだよ、と笑いながら少女たちは先に進む。それを苦笑しながら少年たちは付いて行く。



「諦めろ、古賀。本気で惚れているなら兎も角、曖昧な状態でキリを…っていうか、相手を束縛しようなんて、らしくないぞ」

周囲に怖がられている、敬遠されているという自覚のある古賀にとって、竜司たちのように面と向かって意見してくれる友人の存在というのが、とても稀有なものだと知っている。彼らとの付き合いもきっかけは桐子だった。彼女の友人が自分の友人になっていった。


「いくら、友達の友達でも、気に入らなきゃ直接の友達にならないでしょ」

そう言って、彼の世界を広げていったのも彼女だ。大切だとは思う。牽制いう名を借りて傍に起きたいほどに。


だけど。



「お見通し、ってやつか?」

「解らないはずないだろう?俺たちだって同じなんだから…まぁ、キリに限ったわけじゃないけどさ」

仲のいい彼らグループは、寄り添うことはないけれど、離れることも無い、と常日頃周囲に言っていた。男女間の友情なんて信じない、と言う者は、始めから相手にしない。


「それだけじゃ、無いけどな」

友人の言葉に、竜司は口の端を上げる。

「周囲にそう思わせて、もしアイツに好きな男が出来たらどうする?」

「大人しく身を引くさ」

「じゃあ、お前に惚れた女ができたとき、キリの立場は?」

驚いた顔を見せた古賀に彼は笑みを深くした。

「捨てられた女、のレッテルを貼るのか?」

「竜司」

「お前はそんなつもりはなくても、『彼女』がそれを許容するとは限らない」

友人の笑みは変わらない。口の端は上がってはいるが、瞳は笑っては居なかった。

「そんな女をお前が選ぶとは思わないが…俺たちは、お前よりキリの方が大事なんだ。悪いな」


声をなくし、立ち止まった友人に合わせて竜司も足を止める。聞くつもりは無くても、聞こえていた会話に少女たちも立ち止まった。


「やっぱり、気づいていなかったわね。こういう時って、絶対女の子の方が不利になる、って」

「そこで、気が付いたら古賀君じゃないでしょう」

「…キリ」

声を落として、睨んでいるが、周囲は何処吹く風、だ。

「イイオトコって得よね。振れば『当然』振られれば『あんな女が』陰口、嫌がらせ、引っかぶるのは常にオンナ、よ」

「しーちゃん」

流石にそこまで酷くないでしょ、と桐子が笑えば、とんでもない、と返ってくる。

「それを全て呑んでこそ、のオトコ、よ」

「なんだろう、何故か凄い惚気を聞いたような気がする」

ぶっ飛んだ忍の理論は今に始まった事ではない。

「コバがそこまでイイオトコだとは思わないな、キリの兄貴じゃあるまいし」

「完吾くんは素敵だもんっ!」

あー、はいはい、と周囲の友人は笑い、忍は口を尖らせる。


「友人として必要ならいつでも付き合ってあげる。でも『利用』しようとは思わないでね」

「キリ…悪い」

彼女が被る『負』の方が多い。それに気づかなかったのは自分の落ち度。いや、分かっていても彼女なら許してくれる、そう思った自分の甘え。

深々と溜息を吐く古賀に、友人たちは顔を見合わせて苦笑するのだった。




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