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そのじゅうさん

二人と別れた後、ふと思い出して向かった先に目的の店は無かった。これが違う川の流れか、と改めて思う。

高校生になってから、友人と見つけた小さな雑貨店。通ううちに、オーナーと仲良くなって、店の奥でお茶するほどになった店。



少し離れた場所にある小さな喫茶店に入ると、見知った顔と目が合って少し驚いた。

手招きされて、向かい側に座る。



「一人か?」

「今更ですね、お久しぶりです浅香先輩。はい、一人ですよ」

手招きするくらいだから、向こうも一人だろうと判断して、カフェオレをオーダーする。


「いやさ、お前って古賀や須本とセットのような気がして」

「マクドのポテトですか?私。先輩こそどうされたんですか?北野先輩はご一緒じゃないんですか?」

私の言葉に、先輩の顔が歪む。まずいな、何かあったのか?

「隠していても仕方ないな…たった今別れた」

「へ?」

固まる私に先輩は苦笑を向けた。

「やっぱ、違う学校はきついな。好きな男ができたんだってよ」

小中と先輩だった北野先輩の彼氏。中学時代は誰もが羨む美男美女の秀才の二人。私が知り合ったのも北野先輩経由で、少し恥ずかしそうな嬉しそうな声で「彼氏の浅香くん」と、紹介してもらった。




「北野先輩らしいですね」

え?と顔を上げる先輩に笑顔を見せた。

「自然消滅だって可能なのに、きちんとおっしゃるなんて、先輩らしいです」

頭が良くて、美人で、それを少しも気にかけず、気さくで優しくて…本当に憧れの先輩だった。いや、今だって尊敬できる女性の一人だ。

その先輩が、高校が別になっただけで気持ちが移ったとは思えないから、高校でよほど素敵な人がいたか…もしくは。


お待たせしました、と運ばれてきたカフェオレに口を付けると、前の席で大きく息を吐く気配がした。

「そうだ、な。涼子らしい、か。うん、そうだ」

銀縁の眼鏡…鬼畜眼鏡系の美男子。まぁ、こちらでは通じない説明だけどね。そして、実際外見を裏切らないご性格をしていらっしゃる。と、いっても普段は物腰の柔らかな温厚な紳士、なんだけどな。ホント、最初のうちは流石北野先輩の彼氏だって感心していたもん。



「キリ?」

北野先輩の影響で浅香先輩も私をこう呼ぶ。それはさておき、自分の中の考えを心の中に仕舞いこんだ。

「いえ、以前知人に言われたことがあるんですよ。私の周囲って恋愛外の位置でやたら美形率が高いって」

は?言う顔をする先輩に苦笑を見せる。こちらではなく、向こうで言われた言葉。


『佐野さんの周囲ってカッコいい人多いよね。相手にされていないみたいだけど』


しっかり悪意のこもった言葉だったけど、否定は出来なかった。ただ、相手にされていない、というより恋愛対象にならない、というのが正確だろう。後輩として、友人としての付き合いはあったのだから。特に先輩たちの一部は先輩が結婚するまで付き合いがあったくらいだ。



「美形率、ね。ひょっとして俺も込み?」

「それは、勿論」

大きく息を吐いて、先輩は椅子の背に身体を預けた。

「筆頭は佐野先輩、か。望月先輩に古賀、楠本も知り合いだっけ?」

楠本とは中学の一年先輩。委員会で一緒になって仲良くなった…この方ももてた。と、いうかこの方のおかげで周囲の美形率が跳ね上がったのだ。後で知ったのだけど、さっちゃんの従兄でもある。隠しているのは、芸名を言えば誰もが…とまではいかないけれど、それなりに知名度のある芸能人だからだ。



「楠本先輩つながりの皆様は、この際省いてもいいかと」

私の言葉に先輩は爆笑する。店のお客さんの視線を集めるので勘弁して欲しいんですけど。ただでさえ、さっきから女性客の視線が痛いので。

「涼子に岩下も可愛い系だよな」

「さっちゃん、さらに磨きがかかりましたよ。本人無自覚ですけど。告白とかはされていませんが、時間の問題かと」


さっちゃんは可愛い。アイドル並みのの可愛さだ。ただ、内気な性格で男子が話しかけようにも、すぐに他の子の背中に隠れてしまうけど。


他にも思い当たる人物の名前を挙げていき「成程」と笑う。

「確かに高いな…それでも、本人浮いた話はなし、か」

「何気に酷いことおっしゃいますね、先輩。『仲良きことは美しき哉』ですよ」

「武者小路実篤、か。本当に討てば響く奴だよなお前。だから人が集まるんだ」

「ありがとうございます…って褒めていただいているんですよね?」

「これが、褒め言葉以外の何に聞こえるんだ?」

あはははは、と笑って誤魔化す。そういえば、この方兄貴と同じ高校だったんだ。偏差値…うぇ、考えたくないです。






それから、暫く色々話したのだけど…一部聞くんじゃなかったネタも込みで…楽しいひと時を過ごさせてもらった。


「さんきゅ、いい気晴らしになった」

伝票を別になっていた私のものと一緒に持つと先輩はさっきとは違う。穏やかな笑顔を見せてくれた。

店を出て、お財布を出すと軽く押しとどめられる。

「可愛い後輩に、優しい先輩さまが奢ってやるって言っているんだ。財布は仕舞っておけ」

うん、まぁ、そうですね。

「ありがとうございます。ごちそうさまでした」

ぺこり、と頭を下げると先輩は私の頭をひと撫でして街中に消えていった。




「ありゃ、しんどいわ、確かに」

小さく呟く。北野先輩が離れていった理由に考えられる一つの要因。勿論、推測でしかないけれど。

「イイオトコ過ぎるっていうのも、問題だわね」


外見だけの話ではないですよ。


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