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そのじゅう

クラス分けの掲示板を見て、ほっとしたのは言うまでもない。

同中出身の三島君と脇田さんが不思議そうな顔をした。

同じ中学から、この高校に進学したのは15人。割と近場だからね、それなりに人数は多い。

内訳は6人の女子が商業科。この科が学内で一番多い。4クラス。で、3クラスが女子クラスだそうだ。流石商業って言っちゃいけませんね。


4人が会計科。これは男女各二人。クラスも2クラス。私が進んだ情報処理が5人の2クラス。女子は私と脇田さん。男子が古賀君、石田君、三島君。

先程の三島君と脇田さんが同じクラス。クラス替えは行わないので、3年間一緒だ。

ええ、古賀君とは無事に別クラスになりましたよ、はい。






この間一緒に出かけて、古賀君のイケメン度を再確認しちゃったからね。それでなくても、入学前の諸行事で、結構噂になっているみたいだし、ようやく兄貴が東京に行って、少しは平穏になったんだから、これ以上煩わされるのは御免だ。

そう言うと、二人揃って微妙な表情を見せた。

「それは、どうかと思うよ」

ねぇ、と脇田さんが三島君に言うと彼も首を縦に振った。

「古賀が佐野さんに対するのと他の女子に対するのとは明らかに違うしね」

まぁ、恋愛っていうのとは少し違うみたいだけど、と加えて三島君が笑う。中学のとき、噂になった私たちだけど、余りにも古賀君が私を「女の子扱い」していないので、気が付いたら、そんな話も掻き消えていた。


そういえば、この間私服であったとき驚いていたもんねぇ、しかも、色気方面とは全く別の方向で。



「そういえば、佐野先輩と望月先輩一緒に住むんだって?」

望月は慎兄の苗字。三島君はバスケ部出身なので兄貴たちとも面識があったりする。本人の印象は眼鏡を掛けた文系男子って風貌で、スポーツやっていたように見えないけどね。背は高いけど。

「…なんだろう、妙な響きに聞こえる」

ぼそりと呟く脇田さんに、三島君がきょとんとした顔を見せた。わはは、アナタそっち方面の方でしたか、とは口に出さずにおく。

「うん、本当は寮に入るってやっていたけど、見学に行って早々挫折したみたい」

帰ってきて二人とも「人間の住むところじゃない」とか「縦社会から暫く離れたい」とか言っていたもんねぇ。

「兄貴は掃除とかはできるんだけど、基本家事能力皆無だから、慎兄が一緒なら心配ないけど」

「へぇ、佐野先輩でも出来ないことあるんだ」

今まで家でやらなかったしね。しかし、兄貴の作る料理を食べたいとは思わないね、わたしゃ。あれはある意味「兵器」だと思う。

「望月先輩、料理できるの?」

「うん、慎兄は上手いよ。前の彼女と別れた原因になるくらい。なんか、女の子としての自信無くすんだって」

「なんだ、それ?」



慎兄が中二のとき、おばさん…お母さんを亡くしている。それが「むこう」で不良となっていく、そもそもの発端だったんだけど、こちらでは兄貴の存在と、おじさんの選択が別だった事、お姉ちゃんの結婚相手が近場だった為そういう事にはならなかった。

荒れていく慎兄を知っているから、心の底からほっとしたのだ。



そんな事情で、慎兄は家事ができる、というよりやらざるを得なかったのだ。イベントのお弁当とかは兄貴のついでに、と義母が作っていたりしていたけどね。ここが、実母と違うところだ。あの女は…いや、止めよう。




「いやぁ、慎兄は良いお嫁さんになるよ。だから、兄貴の事は心配していない」

「佐野さん…キリちゃんって呼んでもいい?」

「うん、私も恵子ちゃんって呼んでいい?」

手を取り合って「うふふ」とやっている私たちに、三島君が怖いものを見るような目をした。失礼な。







さて、とりあえず言い訳をさせていただくと。

避けていたわけではない。決して意図して避けていた訳ではないのだ。

入学前に、高校は自分が入りたい部活をさせてくれと言ってあったので、中学のときのように巻き込まれることは無かった。加えて、新入生向けのオリエンテーリングやら何やらでクラスが違えば会わない時が多い。通学方法も違うし。

だから、気を抜いていたのかもしれない。


そして、何故にここにいる。いや、どうして私の自転車を知っている。そして、人の自転車の籠に鞄を入れるんじゃねぇ。


「乗れ」

「二人乗りは校則違反…それ以前に道路交通法違反でしょ」

昔兄貴とやってパトカーのスピーカーで注意された事がある。小中学生相手にきついわ、お巡りさん。

年頃の男女。自転車に二人乗り。シュチュエーションとしては萌えるけど…古賀君相手だと、我が身が可愛い。



「ちっ」と、軽い舌打ちの音と共に差し出される掌、ついで視線は私の鞄から自転車の籠へと移る。中学3年間のマネージャーと学年リーダー(最終的には当然主将だけど)の関係は、アイコンタクトで話が通じるという、色々な意味で自分的に残念な結果を生むことになった。

元々口数が多くない古賀君の性格もそれに拍車を掛けるし。


彼の掌に自転車の鍵を渡し、籠に自分の鞄を入れると、古賀君が自転車の鍵をはずして押し始めた。わはは、歩くんですね。確かに歩いて帰れない距離ではありませんが。




「で、御用はなぁに?」

「…それやめろ。部活は決めたのか?」

「うん、茶華道部」

「…へ?」

嫌いじゃないんだよ、お茶とお花。大学とOL時代、結婚するまでしていたから。

「週に二回。火曜はお花、金曜はお茶。いいねぇ、お抹茶に和菓子」

「目的はそこか」

呆れたような溜息に内心ガッツポーズ。少なくとも、この部活なら古賀君の介入は防げる、なんて自意識過剰かしら?でも、少なくとも直接の接触は格段に減るでしょう、うん。

「古賀君は?」

「弓道」

おお、羽織袴ですか、カッコいいね。一層ファンが増えるでしょう。

「頑張ってね」

「暇なときにでも、マネージャー…」

「断る」



人を牽制の道具にするのは止めようね、古賀君。



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