変化
神姫の二話めです。少女の切なる思いを描きました。気に入ってもらえると光栄です。
第二話
またもや目が覚めると、灰色のコンクリート造りの部屋にいた。先ほどと違うのは体の節々が痛いこと。そして足がとんでもないほどに痛い事(きっと折れてるだろう)。
何故そんなに私を欲するのか。
「ボス、こいつ暴れたんでやっちまいました」
「美味しさには少し欠けるが良いだろう」
「すんません」
「『すんません』じゃなくて『すみません』だ」
「へい」
「ボス。分け前はどのくらいですか」
「こんな珍しい物はないからな。いつもより多めにやる」
「ありがとうございます」
やはり私は食用なのだ。どうにかして此処を出ねば。どうやって?彼奴らはここへは来ないのだ。別に死んでも良いが、こいつらの栄養分になるのは嫌だ。生理的に受け付けない。でも、護身用の小刀はないし、顔を上げれば余計に私を欲するだろう。
シュッ。ナイフをケースから出す音がする。儚い人生の終わりが見えてきた。もうどうにでもなれ。煮ようが焼こうが私にはもう関係のないことだ。
「やはり生で食べたいからな。急所はさけておこう。まずは腕だ」
さらっとおぞましいことを。
ナイフを振り上げる音がする。三途の川が見えてきた。
私自身が血にまみれて死ぬ夢を見た。そして、男達が眼をぎらつかせて私の躰を喰らっているのを。 しかし、目が覚めれば私は生きていた。それは、黒服の人が男達を縛り上げていたからである。
「なんで?」
私は呟いてしまった。私の声など聞きたくもないだろうに。
「すみませんでした。貴方様のことをお守りできなかった。心より謝罪申し上げます」
深々と頭を下げる。なんで?
「なんで?」
もう一度言った。気に入られようと、気に入られまいがべつにいい。私はとにかく聞いた。
「何で私を助けるの?なんで?存在する価値もないのに」
これが私の枷。私はいる価値なんてない。私は誰から見ても、奇妙な異物。人間とも思って貰えない。ただの、『邪魔者』と『ゴミ』
「貴方様は私たちの希望の星です。みすみすと殺されるわけにはいきません。又、その目とその腕の華は我々一族の証です。 自分の仲間を殺されるわけにはいきません」
覚悟の決まった眼。先ほどの黒服の人とは雲泥の差があった。
「私は誰からもいても良いなんて言われた事なんてない。だから、貴方達の世界にいてもきっと棄てられる―」
「今私たちの世界では戦が絶えません。新たな指導者を巡って」
「私は、どんな身分の子だったの―?」
はっきりとわかった訳ではない。でも私は。
「私たちの王となる娘です。身分が高くなければ眼は紅くならない」
何故、私をはやく拾ってくれなかったの?
「聞きたいことがあるんです」
「何でしょうか」
「私をつけ回していたあの男は何ですか」
怒りと驚きで冷静になっていた。今、有るのはいつもとおなじ空虚の感情。
「男? 嗚呼。下っ端の下っ端の奴らですね。彼奴らが何か」
えっ?何。今目の前にいるいかにも従順そうな男が命令したのではないのか。訳がわからない。
「私が生まれたときからずっとつけ回して」
「私はそんなことを一言も言っていないのに。ただ貴方様を守れといっただけなのに。
申し訳ありません」
頭を深々と下げて謝った。
ん?まて。
この私に頭を下げた?
あり得ない。
きっと夢なんだ。
全て上手く行くという。
夢を見ることを自分で殺したのではなかったのか?
「謝って欲しいわけではありません。
これから私は何をすれと言うんですか。貴方達の世界にいって新しい王となり、戦を止めろと言えば良いんですか?」
やはり何の感情もこもっていない声で黒服の人に問いた。
「そう言うことになりますね。私たちは出会ってしまったから」
最後の一言は自分に向けていっていたように見えた。
少女は空虚の感情と向き合った。今まで辛い思いをしてきたのに今更、と叫びたかった。どうして私を落とし子にしてしまったの、と泣き付きたかった。私は、私は。必要とされるほど大事な人間じゃない。後ろ向きな感情を全て吐き出したかった。でもその感情を捨ててまで私は生きてきたんだ。
今更、何をしようと言うんだ。
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