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深く暗い森  作者:
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書簡

 第一王子の三年ぶりの帰郷に城内はにわかに活気づいていた。厨房や広間では久々の王子王女勢ぞろいに従者達が数時間後の晩餐の準備に大忙しであった。

 そんな中、人払いされた西の宮の一室で王と王弟、五人の王子たちが円卓を囲んでいた。王の手には一通の書簡が握られていた。


「ナシオン王家からの書簡です」


 第二王子のユースタスが口を開く。書簡には四匹の獅子と二本の剣が交差した紋章が全体に空押しされている。ナシオン王家の紋章であった。王が書簡に目を通し、隣に座っていた弟であるマークス・カー・ライザーを見た。


「ナシオン王家とエルドラド王家の縁組の申し込みか。もし断ればコンラルド王家と縁組すると言っている。このことコンラルドには?」

「鷹からは特に何もない。コンラルドは南と陸続きの国だからな。もしかすると隣のセロから通してるのかもしれんが。」


 マークスはエストラド王家の王立騎士団の将軍で、偵察諜報活動を行う「鷹」と呼ばれる間諜を各国に放っていた。マークスは眉間にシワを寄せ、白髪混じりのヒゲを撫で付けながら言った。やや小太りで横に並ぶと兄である王とあまり似ていないのがわかる。


 元来、北と南は祖を同じくはしているが世襲君主制の在り方の違いに端を発し、近年は南の急速な発展もともなって両国間に不穏な空気が漂っている。特にナシオンは新興国の中でも発展めざましく南の国々を牽引する最列強の国であった。

 その国と、南の一つ「灰の国」セロを挟んで、唯一陸続きで南と隣接しているのが、北の「白の国」コンラルドである。コンラルドは北の中でも最小で、国土のほとんどが険しい山岳地帯であった。北と南の中間にある為四季は豊かだが嵐や地震等災害は多く、しかしその地形により北と南の防衛境界線ともなっている。


「あそこは北の中でも神族の数も少ないが・・・クローディアが嫁いだばかりだろう?」


 第三王子のクラウスが元第一王女で今はコンラルドに嫁いだ妹の名前を出すと、マークスが苦々しく吐き捨てた。


「お前はいつの話をしてるんだ?もう二年も前だぞ!元々あちらの神族の後継者不足でタダも同然に嫁に出したのだ。二年も世継ぎができんとは・・・エストラド王家に泥を塗りおって!」


 マークスは忠実な純血主義者だが、軍人だからか神族同士の結婚を政治的策略としてしか見ない面があった。クラウスが叔父の言い草に意見しようとするのを第四王子のレクターが遮った。


「おそらくユリウス兄上とシュバイザー王家との話が耳に届いたんでしょうね」


 「黒の国」シュバイザーは「北の七国」でもエルドラドに次ぐ大国である。近年、近々学都から戻るユリウスに各国から婚姻の打診がきており、その最有力国がシュバイザーであった。


「いかんいかん!儂がようやくとりつけた縁談ぞ!また緋狗の姫なんぞ言語道断だ!!」

 

 王子たちの表情が瞬時に強張り、一堂に立ち上った。狗とは南の者に対する蔑称であり、緋とは国、つまりナシオンに対する侮蔑の言葉であった。そしてその意味はユリウスの母である前王妃をあからさまに示していた。


「叔父上とて兄上の前であまりに言葉がすぎる!」

「マークス」


王が静かにしかし威圧的な瞳で隣の弟を制する。睨まれた弟は一瞬たじろいたが、すぐに反抗の視線を向ける。


「しかし兄上!ユリウスの妃をナシオンから娶るとなると六国の神族連中をはじめ国中の純血主義者達が黙っていませんぞ!!26年前をお忘れか!?」

「マークス!!」


 王が怒鳴り声と共に拳を叩きつけたので円卓が揺れる。温厚堅実な父のこのような怒鳴り声を聞いたのは王子たちは初めてであった。今度はマークスも二の句がつげず、押し黙るよりなかった。

 沈黙を破ったのは当事者であるにも関わらず静観していた第一王子だった。


「ナシオンの目的は私ではありません。」


 一同の視線がユリウスに向けられる。低くしかし良く通る声で淡々と告げる。


「いえ、一番の目的ではないと言ったほうが正しいでしょうか。もしくは保険か」

「私もそう思います」


 同意するのはユースタスであった。



「おそらく目的はサーシャです」














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