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「大体よぉ~、お前見栄えこそまさに天使の様な美貌をしていても、本当は足とか脇とかヘソとか口とか、メッチャ臭ぇんだろう? てーか、お前インポだから女に興味ないみてぇな事言ってんじゃねぇの? あ、それとも何か? お前ひょっとしてモーホーとか? あり得そ~! 受身側だろう? でもお前のケツにゃあ、サンドワームとか棲みついてそうだよな。うわぁ~、酸っぱい! 酸っぱいぜコメット。お前が放つスメルは。個室で二人っきりになったらたちまちそのスメルでチアノーゼに陥りそうだなコメット。アッハッハッハ!」


 飛行機の中で、クランプスが鐘電話を使ってひたすらコメットに向けて、嫌がらせの言葉を送っていた。


「なんて幼稚な発想なんでしょう……」


「言っている事が陰険ね」


「ホント、ラプスはインキンタムシだよね」


「誰がインキンだゴルァ!! 聞こえてんぞルペン! 陰険とインキンはまるで意味が違うだろうが!!」


 ドンターとヴィクセンの言葉に引き続き、もれなくついでにとばかり便乗宜しく口にした双子の兄へ、クランプスは鐘電話から口を離すと賺さず我鳴った。


「うわぁ~! 凄いな。こんな鉄の塊が空を飛ぶんだから、人間の科学の進歩も馬鹿に出来ないな! 僕、飛行機乗るの初めてだから嬉しいよ!」


「そうだね。人間の卑猥な珍歩も馬鹿に出来ないらしいよ。今度は男の上に乗ってみたら? ランサーはまだバージ――ンぎゃっ!」


 飛行機の窓から外を眺めてはしゃぐプランサーに、そう囁きかけるキューピッドへ一切の躊躇いも感じない肘鉄が、さり気無く顎へとプランサーから放たれる。

 そんな中、機内アナウンスが入ってきた。


『お客様の中に、お医者様はいらっしゃいませんでしょうか? 乗客の方から体調不良者がおられます』


「ハッ! これはドラマや映画でよく見る、有名なシーンが現実のものに! 面白そうだから、ちょっくら見てくらぁ」


「何を言ってるだルドリー。これ! そんな野次馬根性丸出しに、いや、野次トナカイ根性丸出しにするのは見っとも無いからやめなさい!」


 席を立つや颯爽と現場に向かいだした妻を、ニコラオスが慌てて後を追いかけた。そして現場に辿り着くと、その患者は――。


「え? ダンサー?」


「え? マジ?」


 ルドルフの言葉に、ニコラオスも覗き込むとそこには、白目をむいて痙攣を起こしているダンサーの姿があった。

 すると背後から、冷静な声が割って入る。


「ダンサーは、常に踊っていないと死んでしまうんですよ」


 冷静沈着で紳士的なトナカイのドンターだ。


「なんだその、まるで回遊魚みたいな言い方は!?」


「マグロと一緒で踊ってないと、呼吸が出来なくなるってのか?」


 ルドルフとニコラオスが半ば呆れながら言った。


「そうです。彼女は生れ落ちた時には既に、まるでまな板の上の鯉の様に、跳ね回っていたらしいですから」


「めんどくさっ!」


 それを聞くなり、思わず一緒になって声を揃えるルドルフとニコラオスだった。




「あ~、死ぬかと思ったわ……。夢で死んだサンタさんがお花畑の向こうで手を振っている姿まで見ちゃったくらい」


 飛行機が着陸し、ようやく外に出られたダンサーは顔面蒼白でそうぼやいた。


「サンタさんって、ワシの事だよね? 確かにワシ、サンタさんで世の中通ってる存在だよね? なんで? それなのになんで、お前の死の間際で見たあの世の中に、ワシが手を振ってた? てか、今生きてるよね? ほら、こうして生きてるよね?」


 ニコラオスは心配しただけに、こめかみに青筋立てて確認する。


「ちょっと酷いッスよ。なんでおいらだけ、貨物置場に乗せられるんスか」


 半ば乗り物酔いして、やたらと口から生唾を垂らしながらヒグマのブリッツェンが、不満を口にする。


「仕方ねぇだろ。お前見るからにあからさまな熊なんだから」


 エアターミナルを歩きながら、クランプスがそう言ってのける。


「でもウリ坊のダッシャーは、丸ごとイノシシじゃないスか」


「あの子は手乗りサイズに小さいからね。ママンの懐でも、充分収まるから大丈夫だったんだよ」


「じゃあおいら、今度から球乗りの曲芸覚えれば、乗せて貰えるッスか?」


「うん。根本的に“乗り”の意味違うからな。お前は寧ろ、上に2~3人を乗せられるダブルかトリプルサイズだから、無茶を言わないように」


 クランペンの言葉に、的外れな質問をするブリッツェンへ冷静に対応するクランプス。

 こうして一行は、プレゼント配りに向けてエアターミナルを後にした。


「そうそう。お前さぁ。コメットって名前やめて、米粒に改名しろよ。そしたら俺が指でこねて丸めて、ブリッツェンの鼻孔スライムとフュージョンさせてやるよ。そしたら少しはメタルスライムくらいに、強くなるんじゃね? いや、逃げ足速くなるか? それはそれでいいかもな。ブリッツェンが鼻をかもうとしても、その素早さでかむにかめない、みたいな? よし決めた。お前今日から、いやこの瞬間から早速コメットじゃなくて鼻からメタルな」


 相変わらず道を練り歩きながらも、鐘電話からコメットへ罵倒し続けるクランプス。


「最初の米粒の改名、既に革命的なまでにメタルへ進化を遂げちゃってるよね。最早名前の共通点が“コメ”から“メ”だけになってるし」


 それを聞いていたクランペンが、横槍を入れる。

 ちなみに、町にサンタがやって来たら基本、彼らの息子であるこの双子の兄弟はサンタやトナカイ達とは別行動になる。別行動に――。


「さっさと仕事終わらせて帰りましょうよ~。おいらもうマジ眠いッス」


「って、なんでお前まで俺らに付いて来てんの!?」


 本来はサンタである、ニコラオス組にいるべきヒグマのブリッツェンが一緒にいる事に気付いて、クランプスは憮然とする。


「なんかオッカさんが言うには、おいらはこっち組が相応しいって……」


「差別? ヒグマだから差別したのかお袋は!」


「いいじゃない。普段はラプス一人で悪い子に脅迫だったのが、もう一つ巨大な力が加わるんだから、一石二鳥じゃない」


「つか、ヒグマ一頭だけで、脅迫を通り越して軽く殺傷力抜群になるからな? そこんとこ、分かって言ってんのか?」


「アハハ。僕は脅迫じゃなくて女の子相手の鎖でお仕置き担当だから、どうだっていいよ☆」


「凄ぇ投げ遣りだなお前。俺はそんな兄に育てた覚えはないぞ。ラプス」


「当たり前でしょ~。僕はもっぱら、パパンに性教育を受けてたんだから」


「間違ってる。明らかに何かとんでもなく間違ってる。仮にもサンタを名乗るジジイが、実子相手にエロ育成するのは」


 そうぼやくクランプスだったが、その本人は母親ルドルフから脅迫育成を受けていたりする。


「ほら、もう見えてきたよ。悪い子がいる家が。行ってきなよラプス。ちなみに僕は、その隣で悪い女の子にお仕置きしてるから用があったら、気軽に呼びに来てね」


「ドSチックバイオエロスに、一体何の用事があって呼び出さにゃならんのだ。とりま、一仕事終えたら携帯連絡な」


「OK. じゃあ良いクリスマスイヴをね♪」


 クランペンは満面の笑顔でウィンクすると、先に歩き出しその場から離れた。


「よし。俺らも一丁、ド派手に行こうぜフレンド!」


 兄の背中を見送ってから、クランプスは背後にいるブリッツェンへと振り返った。直後。


「ブゥェックション!! てやんでぃ!」


 ブリッツェンの豪快なくしゃみを諸に顔面で受けたクランプスは、見事なまでに彼の鼻からスライムと口からリキッドゼラチンの吐出物を、浴びる羽目になった。

 ブリッツェンがクランプスからストンピングを喰らったのは、言うまでもない……。



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