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「お呼びですか? ミセス・ルドリー」
そう言って真っ先にやって来たのは、ソリを引く順番では五番目を担当しているドンターだった。
彼は冷静沈着で紳士的な性格をしていて、今も立派にスーツを着こなしトレンチコートを上から羽織っている。
……え? トナカイだろうって?
はい。そうですよ。勿論ですとも。トナカイです。
Yes. He is a reindeer.(はい。彼はトナカイです)。
特に耳の辺りを重点的にですが。
じゃあ擬人化と大差ないだろうですって?
あなた。今まで何を読んできたのですか。
サンタクロースであるニコラオスの妻ルドルフをご覧なさい。
彼女もトナカイじゃないですか。
何か問題でも御座いましたでしょうか?
何ですって?
結局擬人化じゃないかですって!?
……それでもトナカイなんだからいいじゃないか!!
「おい。何かナレーター的なもんが争ってないか?」
「そぉう? 僕には開き直っているように聞こえるけど」
ラプスとラペンが地の文に対して意見しあっているようだ。
よし。読者諸君よ。ここはひとまず本題に戻ろう。続きは感想で会おう!
そんなこんなで、とにかくやって来た“トナカイ”のドンターに、同じく“トナカイ”のルドルフは無愛想に答える(作者の意地でトナカイを強調)。
「だから来たんだろうあんたは」
「尤もですね。では、皆が集まるまで紅茶を頂いても宜しいですか?」
「勝手にしな」
「では、有難く」
素っ気無く傲慢な態度であるルドルフの態度に、これと言って不愉快さを示す事もなくいつもの事として、平然とドンターはキッチンへ赴くと紅茶の用意を始めた。
「お? なんでぃ。紅茶作ってんのかドンター。だったらついでに僕のも作ってよ。砂糖とミルクたっぷりで宜しく!」
次にやって来たのは、ソリを引く順番では三番目を担当していて嗅覚が優れている、プランサーだ。
見た目はカジュアルな男装をしているが、れっきとした女の子だ。
頭に生えている立派な角がトナカイらしい。
……いや、違った。トナカイなんだから当たり前だ。
ちょっと人によっては角の生えた、ボーイッシュな女の子に見えるだろうがトナカイであるのは確かだ!
「いいタイミングで来ましたね。プリン。とびきり甘いミルクティーをご所望ですか。構いませんよ」
「おいドンター! プリンって女みたいな愛称で呼ぶなって言ったろう! ランサーだよ!」
「おやおや。レディーに対する私なりの、嗜みなのですがねぇ」
ムキになって文句を言うプランサーに、ドンターはキッチンで彼女の分の紅茶も作りながら、静かに苦笑する。
「今の時間に会議だなんて、いい迷惑だわ。せっかくお肌の手入れをして、今から寝ようとしていたのに」
そう愚痴を言いながらやって来たのは、ソリを引く順番では四番目を担当するヴィクセン。
とにかくオシャレに気を使う女性で、お尻にあるトナカイのシッポが余計に彼女をキュートでチャーミングに魅せている。
同じくやって来たのは、ソリを引く順番では七番目を担当しているキューピッド。
彼はルドルフを見つけるなり、その粘っこく甘ったるい声で口説きに掛かった。
「やぁハニー。この僕をこんな時間に呼び出すなんて、ついに老いぼれジジイに愛想が尽きたのかい?」
そうしてルドルフの両手をギュッと握り締めると、そのトナカイらしいつぶらな瞳で彼女をジッと熱く見詰めた。
「誰が老いぼれジジイだコルァ! 仮にも主に向かって! この色ボケトナカイ!!」
賺さずニコラオスがキューピッドにツッコミを入れる。
「召集命令の時に言っただろう。コメットとダンサーの奴が付き合いだして、デートしたいからソリ引き休むって言いやがったと」
ルドルフはそうぶっきら棒に言うと、キューピッドの手を振り払う。
「ああ。ダンサーがね。きっとそれは、コメットの差し金だと思うよ。僕が彼女と付き合った時は、そんないい加減さは見せなかったからね」
「お前、ダンサーと付き合ってたんかい!」
クランプスのツッコミに、彼はそのつぶらな瞳をウィンクして見せながら、平然と頷く。
「ああ。サマーバケーション中に、一ヶ月間だけ。彼女サイコーだよ。踊り子しているだけあって、もうベッドでも相手を飽きさせないくらい踊り狂ってくれてさ。もう僕ばかりがイキまくりだったよ」
「手当たり次第なんだね。キューピー」
「いや、お前が言うなラペン」
キューピッドのさも自慢げにいう言葉に、まるで他人事のように口を挟む兄クランペンへ、クランプスは容赦なく指摘する。
「今度ラペンも彼女と試してみたら?」
「残念ながら、僕は人間にしか興味なくてね。そんなトナカイ相手するような、獣姦ジジイとは違うんだよ」
キューピッドの誘いに、そうやんわりと断るクランペンへ、父親の鋭い言葉が向けられた。
「え? 今言った獣姦ジジイって、このパパンの事かい? クソ息子よ。お前は仮にもトナカイの母を持つ、ハーフだってのに?」
「私を愚弄する気かい? ラペン」
続いて母親の殺気めいた質問に、あくまで他人事の様にニッコリと微笑んで否定するクランペン。
「ヤダなぁママン。僕が本気でそんな事言うと思う? ラプスがそう言ってた受け入りだよ」
「いやちょっと待てこのクソ兄貴! てめぇ何勝手に俺のせいにしてやがる!? 俺はんな事一言も言った覚えはねぇよ!?」
しかしクランプスの必死の回避も空しく、母親ルドルフの怒りの鉄拳は既に彼へと降り注いでいた。
「キューピーとラペンが揃うと、ラプスはいつだって被害を被りますねぇ」
穏やかに言いながら、最早今いるみんなの分の紅茶を用意したドンターが半ば同情的に言いながら、席に着くとのんびりと紅茶を啜った。
一方、クランプスは母親の鉄拳を脳天から受けて、テーブルに突っ伏し白目を剥いて半気絶状態に陥っていた……。