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そうしてやって来た12月。
今月は24日のクリスマスイヴに向けてサンタファミリーは大忙しだ。
大忙しなんだけど、気付けば最近その主役のサンタクロースであるニコラオスの姿が見当たらないような気がしたが、あえてファミリーは気のせいだろうと思うようにした。
近代化した昨今、稀に届く希望するプレゼントをしたためた手紙はさることながら、大概はニコラオスの、タイトルを『よく考えるとサンタさんへは物欲こもった手紙ばかり』たるホームページに今年も炎上さながらのプレゼントを要求するコメントばかりが多く寄せられてきている。
・プリンセス人形の新作ドレスがほしいから、絶対もってきてね!
・マンガ本全巻そろえてプレゼントしてほしい。
・なんでも願いをかなえるランプはありますか?
・ピザ100枚とホットドック50個あれば生きていける。
・刑を受けて12年、そろそろシャバの空気が吸いたい。
・童貞守って30年、魔法使いになれると信じていたのに未だに魔法が使えません。何かコツがあったら教えてください。
「後20年修行しろ」
最後のコメントにポップコーン片手にぼやくのはニコラオスとルドルフの双子の息子の片割れ、クランプスだった。
「そんなのかわいそうだよ。せめて右手で股間にある魔法のスティックをしごけばミラクルな液体が出せますくらい、教えてあげたらいいのに」
双子の兄であるクランペンが携帯電話片手にオニャノコとメールをしながら他人事のように答える。
「ふーん、じゃあお前はやったのか? それを」
「ヤダなぁ。僕はそんな必要がないくらい事足りてるから」
「だろうともこのサディスト」
和やかな雰囲気で今日も双子の兄弟は仲むつまじくおしゃべりをしていた。
そんな中、また新たなコメントが一件。
・サンタさんが欲しいのでお先に頂きました。
「どんだけ貪欲なんだよこいつ。サンタさん手に入れれば一年中プレゼントが貰えると思ってんのか? 単細胞な奴だな」
「うちのパパンの財布の紐はママンが握ってるから不可能だよね」
「俺達実の息子だっておこずかいは家事手伝い制度で上下してくるのに、勝手な事気軽に抜かすな」
弟クランプスの言葉を愉快気に笑って反応する兄クランペン。
途端、部屋のドアが豪快に開け放たれたかと思うと、母親である真っ赤なお目々のトナカイ(擬人化)のルドルフ(当然メス)が眼を爛々とギラつかせながら現れた。
どうやら鼻息も荒い。
「どうしたんだよお袋。いきなり興奮なんかして」
息子クランプスの言葉にカッと見開いた目を向けるとルドルフは言い放った。
「どうしたもこうしたもないよ! もうここ数日、二コルがいないんだ! このままじゃ私は欲求不満で死んじまうよ!!」
「そんな事声を大にして息子に向かって言っちゃダメじゃないママン」
クランペンが首を振りながら呆れたように答える。
「言われてみれば親父いなかったな。気付かない振りしてたぜ」
「振りって事は気付いてたけどそうじゃないように振舞って立って事かい!?」
「ママンだって性欲が溜まるまではそうしてたの知ってるよ。お互い様だよね」
しかしルドルフはクランプスが前の椅子に座っているデスクの上のパソコンを見て、更に眼を煌々と稲光らせた。
「なんだいこれは!? 脅迫状じゃないか!! 二コルはさらわれたんだよ!!」
叫びながらルドルフはパソコンに飛びつく。
「……あんまり間の抜けた文章だったから気付かなかったぜ」
「まるでクリスマスカードみたいな書き方だね」
母親に指摘されてようやく事の真相に気付いた双子の息子達が、ルドルフからの灼眼ビームを発射されたのは言うまでもなく。
「トナカイ達も総動員してさっさと探しな! 主役がいなきゃクリスマスも始まらないよ!!」
「それを言うかな。去年は満足にプレゼント配りが当日にすら間に合わなかった立場で」
兄クランペンはあっけらかんな口調でにこやかに言いながら、母親の魔眼から盾にして焦げている弟クランプスをポイと放った。
次回に問題持ち越しちゃったよ。
サンタさん誘拐事件ってわけで。今年こそイヴまでに間に合えばいいな~と悠長に思っています←