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こうして月日は流れてもうすぐ10月。
サンタクロース、ニコラオスはトナカイ達に長い休暇を与えて彼らも一家揃って、のんびりくつろいでいた。
一方、ヒグマのブリッツェンは今年こそはと冬篭りに備えて、山の中で秋の実りを必死こいてむさぼっている。
熊は基本雑食だ。
しかも冬眠の為に多量のたんぱく質摂取が必要とされてくる。
フィンランドで共存しながら獲物とする代表的草食動物は勿論トナカイ。
なのでヒグマのブリッツェンは本日も毎年恒例トナカイ狩りをすべく、近場でクルクル踊っているトナカイに狙いを定めて、いざ飛び掛らんと立ち上がったその時。
一発の銃声が森の中を響き渡り、気付くとブリッツェンの頬の毛が焦げていた。
「おいそこの獣。貴様が狙ってるのはうちのダンサーだ。また今年も去年宜しくうちのソリの足を奪う気かい!? 大人しくサーモンでも食ってな!!」
その先には猟銃を構えた真っ赤なおめめを煌々と光らせているルドルフの姿があった。
「キュピー!」
もれなくウリ坊のダッシャーも彼女の腕の中で威嚇している。
「いやいやちょっと待ってくだせぇ奥さん。去年は勝手にそっちのダッシャーがこっちに突っ込んできたから偶然殺っちゃったんじゃないッスか!」
去年の出来事は事故である事を必死に強調するヒグマのブリッツェンだが、食っちゃったことには変わりない。
しかも、その代役がルドルフの腕の中に納まっているウリ坊なわけだが。
「しかも奥さんの息子が間違えて誤射しなければ、あっしが“ブリッツェン”を名乗る必要もなかったわけで、しかもその干し肉を一家揃って美味しく頂いちゃた事実も否めないだろうし。つか、なんでここにいるんスか」
それは勿論、冬に備えての食料調達に一家揃ってやって来たのだ。
ヒグマの言葉に目の色を変えると(もう既に灼眼に変わっているのだが)思い出したように息子のクランプスを振り返る。
「ラプーース!! 今度はうちのトナカイ連中を誤射すんじゃないよー!!」
「え?」
振り返るクランプス。
同時にとどろく銃声。暫しの間の後、何かが空から降ってきた。
ヒュルルルルルウゥゥ~~~……、ドサン!!
みんな一斉にそちらへと目を向ける。
そこには眩いばかりの腰まで長く伸ばした星の様な輝きを放つシャイニングゴールドに、その毛先にかけてエメラルドグリーンからブルーのグラデーションをした髪の、両足は黄金の蹄をしたトナカイの足を持つ半人半獣のコメットがうつ伏せに倒れていた。
紛れもなく飼い主のニコラオスに反抗的な堕天トナカイ王だった。
立派で大きな角の片方が恐らく銃弾により折れてしまっている。
「いやぁ~、なんてーの? ほら、空見上げて鳥でも狩ろうかなぁ~とか思ったら、トナカイ飛んでんじゃん? だからこれは珍しいと思ってつい引き金をだな」
「珍しいって、過去毎年空飛ぶトナカイでプレゼント配りしてる立場だよ。僕達」
クランプスのとぼけた発言に、双子の兄クランペンが柔和な口調でさりげなく指摘する。
「いや~っはっはっはっは! 最近のトナカイファミリーは豚とか熊とかいる始末だから、もうどうでもいいかななんて思えてさぁ!」
「豚じゃない! ウリ坊だ!」
「キュピブッキー!!」
母親ルドルフの鋭い言葉に、ウリ坊ダッシャーも一緒になって抗議する。
「いやでもあれだぜ? 今年こそは誤射しないように~って、空に銃口構えてたのに、そこに飛んでくるトナカイの方がバカなんじゃねぇの?」
「確かに射程範囲内に来られたら、撃ちたくはなるよねぇ」
クランプスの意見に、静かに微笑みながら賛同するクランペン。
「そうだな。バカだな。よし、そんなヤツは見なかったことにしてこの際このまま埋めちゃおう。普段からいけ好かないヤツなんだし」
「今時トナカイで空飛ぶなんて、ロマンはあっても時代錯誤じゃしな。その気になったらいくらでもセスナ機でもチャーターすればいいし、埋めちゃえ埋めちゃえ」
口々に好き勝手言うルドルフとニコラオスを含めたサンタファミリーに、ついにコメットが髪を振り乱しながら怒り心頭に立ち上がった。
「貴様らっ! 雪の中でも問題なく行けるのは誰のお陰だと思っているんだ! 予はそう簡単には埋められはせんからなぁ! バカにするのも大概にしろ!?」
やや半泣きになっているコメット。
この堕天してもトナカイ守護天使および王である立場の自分が、ここまで侮辱されるのは辛抱堪らずに涙腺も思わず弛むらしい。
「大体トナカイが調子くれて飛んでっから撃ち落される羽目になるんだよ。草食系は草食系らしく地面で草でも食んでろ」
「仕方ないだろう飛行能力がある以上! 鳥に飛ぶなと命じるようなものだぞ!」
クランプスとコメットが言い争っている中、ヒグマのブリッツェンはクランペンと向き合っていた。
「なんスかラペンの兄さん」
「いや、気付いていないようだから言っておくけど、僕達のファミリーになったからにはお前に 冬 眠 の 二 文 字 は な い 。よ?」
――いっそ、永眠したい!!
にこやかな笑顔で容赦なくそう指摘したクランペンに、ブリッツェンは頭を抱えると天を仰ぎながら心の底から思うのだった。
気分転換でバカになれる作品。多分ww