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「汝等、“ジングルベル”とやらの歌詞を存じるか」


 警察に連行されてしまったサンタの代わりに、せっせとプレゼント配りに従事していたトナカイ達の前に、黄金に輝く蹄で空を駆けて来たコメットが突然やって来て、言いながらみんなの前に静かに降り立った。

 するとそれに賺さず反応したのは、歌って踊れるダンサーだった。


「はいはいは~い! 勿論知ってるわ!」


「では歌ってみよ」


 コメットに促されて、嬉々とするダンサーの様子に他のトナカイ達はウンザリした顔をする。

 せっかく落ち着いてる時に、また面倒かけるなよ……。

 これがみんなの心境だった。そんなみんなを他所に、早速歌いながら踊りだすダンサー。


「ジングルベル、ジングルベル、鈴が鳴る♪ ソリを飛ばして歌えや歌え♪ ジングルベル、ジングルベル、鈴が鳴る♪ 馬をとばして、いざ歌え♪」


「そこだぁ!」


 途端にコメットの両目がカッと見開かれ、鋭い声を放った。


「この歌では、トナカイじゃない。馬なのだ!」


「おお。そうだったのか」


 半ば共感するように、プランサーが感嘆の言葉を口にする。


「つまり馬である以上、何も我々がサンタに仕える道理はないのだ……」


「♪野を越えて、丘を越え、雪を浴び、ソリは走る♪ 高らかに、声あわせ、歌えや楽しいソリの歌♪」


「よって、諸君らはサンタのジジイに代用されているに過ぎず……」


「♪ジングルベル、ジングルベル、鈴が鳴る♪ ソリを飛ばして歌えや歌え♪ ジングルベル、ジングルベル、鈴が鳴る♪ 馬をとばして、いざ歌え♪」


「歌詞にもある通り、ここは我々でなく馬に働かせれば……」


「♪森を越え、山を越え、風を切り、ソリは走る♪ 白き粉、舞い上がり、飛び交う木々の葉、ソリの影♪」


「そうすれば我々の面倒や負担もなくなり……」


「♪ジングルベル、ジングルベル、鈴が鳴る♪ ソリを飛ばして歌えや歌え♪ ジングルベル、ジングルベル、鈴が鳴る♪ 馬をとばして、いざ歌――」


「ええい喧しい!! このダンス馬鹿が! ()が話している時くらいは、歌い狂うのを控えろ!!」


「まぁそれ以前に、今のご時世ソリ移動ってのも疑問なところよね」


「ヴィッキー! それ言っちゃお終いだよ!? 清純な子供の夢を壊しちゃうよ!?」


 他のトナカイ達を自分側に懐柔せんとばかりに、説得している傍でそのコメットの努力に水を差す如く声高々に歌い踊り、すっかり自分の世界に没頭しているダンサーに怒鳴りつけるコメット。

 そのすぐ後に小首を傾げて口にするヴィクセンへ、ツッコミ担当を立候補すべく賺さずプランサーが慌てる。


「そうだ。それも一理にあるだろう」


 改めて冷静さを取り戻すとコメットは、勝ち誇ったように長い黄金に毛先に至るところで、エメラルドとブルーのグラデーションが入っている髪を、サッと背後に払う。

 その拍子にその長髪からラメのような、黄金に煌めく粒子が飛散する。


「でもこのタイミングで現れたところを見ると、コメット。ニコルとルドリー(ハニー)がいなくなるのを待ってたんだね」


「予にとっては邪魔者だからな」


「つまりこっそりと、我々の様子を影で伺っておられた訳ですか」


「チャンスを狙う為だ」


 キューピッドとドンターの言葉に、滔々(とうとう)と答えるコメット。


「しかも今回、コメットがソリ引き辞退したせいで私達、今こうして地道にソリ無しで雪道を歩きながらプレゼント配ってるもの。これじゃあ、ただでさえリアルワールドではもう正月も明けたと言うのに、いつまで経っても終わらないわ」


「まぁ、確かにな。よし。じゃあコメット。今回だけはあんたの言い分に従うよ。馬を用意してくれないか」


 ヴィクセンのぼやきに、プランサーも仕方なさそうに納得するとコメットに頼んだ。

 いくら擬人化設定されているとは言え、トナカイが馬に跨る想像は滑稽に思えるが。


「お安い御用」


 コメットは言うや否や、指をパチンと鳴らした。

 するとそこに馬が現れた。

 しかも鮮血に塗れたような、真っ赤な色をしている。

 そう。鮮やかなまでの高級感漂う真っ赤な……。


「って、これ馬は馬でもそれをモチーフにした、馬のエンブレムの高級車じゃん!」


 プランサーは愕然としながらツッコミを入れる。

 そこに現れたのは、車好きな人ならもうご想像できるだろう。

 その通り。“フォード マスタング”のレッドカラーだ。


「エンブレムでも、馬である事には変わりあるまい。しかも、この予がわざわざ気を利かせてサンタカラーである、レッドを選考したのだ。感謝はされても文句を言われる筋合いはない」


 あくまで自己顕示欲が強烈なコメットである。

 まぁ、馬違いであるとは言えこれなら、雪も寒さも防げて行動範囲も広がる。

 用事を済ませたコメットは、再び星空へと姿を消した。


「でも、結局僕らが働く事には、変わりない事にコメットのヤツは気付いているんだろうか」


 キューピッドは運転席に乗り込み、エンジンをかける。

 助手席は紳士のドンターだ。

 後部座席にはメストナカイ三人衆が乗車したのだが。


「そんな細かい事はどうでもいい! さっさと車を出してくれ! ダンサーがまた死に掛けている!」


 プランサーが、車内では踊れないせいで痙攣を起こしているダンサーの身を案じながら、キューピッドに先を促すのだった。



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