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「オモチャで遊んだ後は、きちんとお片づけなさい!」
「ヤダよ。ママが片付けて」
「もう少し行儀良く食べなさい!」
「いいじゃん。ご飯の時くらい、楽にさせてよ」
「一体いつまで起きてるの! いい加減寝なさい!」
「だってまだ眠くないし」
「全く。どうしてこの子は悪い子なの」
とある家庭の親子の風景。
その男児はわがままで、母親に逆らってばかり。
ママはそんな息子の育児にとても苦労していました。
叱ってばかりいるので、夜眠る時はすっかり声が枯れてしまいます。
そんな母親の負担を減らすべく、今まさにここに母親の強い味方が参上した!
暗い夜の闇の中、不気味に鳴り響く濁った鐘の音……。
「悪い子はいねぇか~……」
まさに日本秋田の風物詩、ナマハゲな乗りした言葉が鐘の音に続く。
「何か外に変なのいるから、ママ苦情を言って追い払ってよ。DVDの音量が聞こえないから」
「DVDはいつでも見れるでしょう。いい加減寝なさいって言ってるのに、ママの言う事を聞かないなんて、どうしてそんなに悪い子なの――」
瞬間、突然窓ガラスがド派手にブチ破られた。
「てめぇかこのクソガキャアー! 誰が“変なの”だ! ああコラ! てめぇみたいなクソ生意気なガキを見ると、超絶ムカつくんだよ!!」
そう怒声を荒げて姿を現したのは、泣く子も悪い子も黙る“悪い子一斉処分セール実施中”の脅迫担当、クランプスだ。
「さっきから外で聞いてりゃ随分と、てめぇの親をナメきってるみてぇじゃねぇか。こんなDVDなどメーン! だ!」
そう言いながら、クランプスは当然の様に窓から室内に乗り込むと持っている錆びた鐘を、DVDに向かって振り下ろした。
よって、機体ごと破壊されてしまったDVD。
その様子に、男児は恐怖の衝撃を受けて硬直している。
それには、もれなく母親も同じだ。
「ようガキ。随分とガキであるのをいい事に、わがまま放題みてぇじゃねぇか。俺なんか、わがままなんか言えないくらい恐怖の母親がいるのによぉ。ズルイじゃねぇか。羨ましいじゃねぇか。その甘えられる母親がいるだけ華なんだぞコラ。こちとらそんな真似しようもんなら、目からビームでお袋に半殺しされちまうってぇのによぉ。まだ俺のお袋より優しいだけに、てめぇの母親の言う事を聞いて、リスペクト魂でこれからは良い子になりやがれ! 分かったか!」
後半に連れるに当たっては、最早ただの個人的な妬みに変わっている事をしっかり棚に上げて、男児の胸倉を掴むと立っている自分の目の高さまで持ち上げる。
そのクランプスの半ば一方的な説教に、男児は顔面蒼白のまま必死に首を縦に振った。
「よぅし。利口だ。また来年も来るから、そん時までいい子にしてりゃあサンタが俺でなく、ご褒美にプレゼント持って来るだろうよ。そのつもりで今から一年を過ごしやがれ」
そうしてクランプスはその男児を、乱暴にTVの前にあるソファーへと投げ捨てた。
フンと鼻を鳴らして愕然としている男児を見下すと、身を翻して颯爽と割れた窓から外へと出る為に、窓枠に片足をかける。
するとそんな彼に、恐怖で声を震わせる母親の声が届いた。
「あ、あの、こ、こちらは一体どうすれば……」
見ると、暖炉の前でヒグマのブリッツェンが丸くなって暖を取っていた。
「てめぇは何勝手にくつろいでいやがんだ! ブリッツェンの名に恥じぬよう、ちゃんと働きやがれ!!」
クランプスは憤怒しながら、ブリッツェンの巨体をいとも簡単にそして容赦なく足蹴しまくると、何事もなかったようにその家から立ち去って行った。
「……坊やが良い子にしてくれたら、来年はサンタに窓ガラス代請求しましょうね」
「う、うん。もう僕はママの言う事聞いて、良い子になるよ……。お、おやすみなさい……」
どうやらクランプスの、“悪い子一斉処分セール実施中”の効果は抜群だった。
犬は喜び庭駆け回り、猫は炬燵で丸くなるって、ウソだと思う。
だって雪が降ると犬だって、寒そうに丸くなって震えてるんだからw。