style.10
「あわてんぼうの♪ サンタクロース♪ クリスマス過ぎ~にやって来た♪」
自分の背後で、そう歌いながらクルクル踊っているメストナカイのダンサーを他所に、ニコラオスは必死に窓から室内を覗き込んでいた。
「むむぅ……。最近は煙突の家が少なくなったせいで、プレゼント配りも苦労するわい」
「急いでリンリンリン♪ 急いでリンリンリン♪ 鳴らしておくれよ鐘を~♪ リンリンリン♪ リンリンリン♪ リンリンリ~ン♪」
そのダンサーの6オクターブに響く歌声に、室内ではまさにその歌詞に合わせる如く、危険を感じて住人が電話をしていた。
よって、一台のパトカーがやって来て降車すると、窓を覗き込んでいるニコラオスに警告を発した。
「他人の家の覗きは、良くないよお爺さん」
「やや、これはおまわりさん。いやはや、最近の家屋は煙突がなくて困りますなぁ。おかげでクリスマスプレゼントを、子供達の枕元やツリーの下に置く事も出来ない」
ニコラオスのさも当然な言い方に、警察官は呆れながら適当にあしらった。
「分かってる? 覗きも立派な犯罪だって事を。それを今度は家宅侵入しようと企んでいるとは。クリスマスは一週間前に終わってるのに、気付いてますか? それとももしかして、アルツハイマーかな?」
「誰が“歩く大麻”だ! この格好を見て分からんか!? サンタだよサンタ! みんな大好き、人気者のサンタクロースだよ!?」
「三段背肉でしょう。その太っ腹なら。で? 何? 大麻っつった? 今。って事は、麻薬売人か何か?」
「麻薬売人でも三段背肉でもないわ! それに太いのは何も腹だけでなく、股間に寄生するワシのジュニアの方だって負けては――」
ガチャリ。
「は?」
おもむろに両手首に手錠をはめらる、みんな大好き人気者の筈なニコラオス。
「股間自慢する前に、よっぽど自分の言動を自主規制しなさい。はい。ちょっと署まで来てもらうよ。何もかもが怪しすぎるから」
「なーっ!? ただでさえクリスマス越してしまって急いでる時に、業務妨害で訴えてやるからな!!」
「はいはい。お爺さん。あんたみたいな人種が、我々警察の業務も忙しくさせてるんだよ。ホント年末年始は愚例爺ばかり出没して面倒だ。さ、早くパトカーに乗った乗った!」
「いやいやちょっと! ワシにはトナカイがいるからパトカーなど必要ない――」
言いながら、みんなに同意と救いを求める視線を送るべく見ると、みんな満面な笑顔で手を振っていた。
紳士であるドンターに至っては、早々と気を利かせて(!?)胸元で十字を切って天を仰いでいた。
ガビ━━━━Σ( ̄ロ ̄lll)━━━━ン!!
愕然となり、言葉を失ったニコラオスはそのまま車内に押し込まれると、静かにその場を彼を乗せたパトカーは走り去って行った。
「あわてんぼうの♪ サンタクロース♪ 覗き見してい~て捕まった♪ 怪しくコソコソ♪ 慌ててジタバタ♪ 情けない顔のジジイ~♪ ガチャリ♪ コソコソ♪ ジタバタ~♪」
ダンサーがとにかく踊り回る中、ヴィクセンが小首を傾げた。
「主がいなくなっちゃったけど、このプレゼントどうしようかしら?」
「困りきった♪ サンタのトナカイ♪ 仕方がないか~ら踊ったよ♪ 楽しくチャチャチャ♪ 楽しくチャチャチャ♪ みんなも踊ろよ私と~♪ ランランルン♪ ルンランラン♪ ランリンロ~――ンキャア!!」
「大体ダンサーが甲高い声でバカ踊りしながら歌ったりするから、住人に誤解されてニコルが警察に連行されるハメになったんだよ!」
ヴィクセンの言葉に、替え歌で横槍するかのように答えてきたダンサーへ足を引っ掛けて積雪に転倒させると、煩わしそうにプランサーが腕組みして叱責する。
そんな三頭のメストナカイのやり取りに、お調子者で軟派なキューピッドが提案した。
「仕方ないなぁ。こうなったら、僕達でプレゼント配りを行うとしかないよ」
もっともな意見に、彼の言葉にトナカイ達は大人しく賛同するしかなかった。
「えーと、出身国はイタリアのリキュア州パタラ町で、現在はフィンランドに在住。ここに来たのは、仕事の為……。まぁそこはいいとして、生年月日と本名を正直に答えてくれませんか」
「だからぁ~! 西暦352年12月6日生まれで、名前はニコラオス・シンタクラースだって、何回も言っておるだろうがい!」
「あくまで名前はともかくとして、苗字をイタリア発音のサンタクロースで誇張しますか……。大体352年生まれだと、軽く1600歳を超えてるからありえないでしょう」
「神に聖人として地上に召喚されたのだから、当然じゃ。天では地上で言う一年が百年の計算になる。つまり見栄えこそは地上の人間に合わせておるが、実際は16歳と言う事になる。だからワシの股間は今でも漲って――あ、ウソウソ! 今のは軽~いジョークだから! 年齢のとこだけ! でも他は本当なんじゃよ! マジ信じて!」
ニコラオスの言葉にいよいよイラついてきたらしい警察は、再び手錠をかけて留置所送りにしかけようとして、それに気付いた彼が慌てふためく。
「まったく。こんな如何にも的に長くヒゲを伸ばしてるから、自分がまるでサンタになったように錯覚するんでは? てか、これ付けヒゲでしょう? いい加減外して――」
警察官は取調室で言いながら、咄嗟にニコラオスの長いヒゲを取り外すべくギュッと掴んだ。途端。
「モロビトコゾリテムカェマツレ~~~~……」
と言いながらフニャフニャに脱力して、業務用デスクの上に突っ伏してしまった。
驚いた警察官は、慌てて手を離す。
「え? 何? その“諸人こぞりて迎え祭れ”って、確かそのクリスマスソングの冒頭の歌詞ですよね!?」
するとヒゲから手を離されたニコラオスは、ムクリと頭を持ち上げ上半身を起こすと言った。
「いや、まぁ、確かにそうなんだけど、ワシはヒゲを握られると力が抜けてしまうんじゃよ。そんな時に、咄嗟に脱力時に出てしまうのじゃ。今の言葉が」
「ハラホレヒレハレ、じゃなくて?」
「うん。ワシを含む聖人用として使用される、気が抜けたりズッコケの時の言葉」
「へぇ~……」
それを聞いて、つい面白くなってきたのか警察官の中に悪戯心が込み上げてきた。
隙を突いて再度、ニコラオスのヒゲを掴んでみる。
「モロビトコゾリテムカェマツレ~~~~……」
手を離す。それに再度起き上がったニコラオスが抗議を口にする。
「だから今言っただろう! ヒゲを掴まれると――」
ギュッ、グイッ!
「モロビトコゾリテムカェマツレ~~~~……」
ああ、面白い……!。・:*+((((*o・ω・)o)))゜。・:*+・ワクワク
こうしてすっかり、しばらくの間警察官のオモチャにされるニコラオスであった。
年明けちゃった……ww。il||liorzil||li