なんでもポイント鑑定団
「オープン・ザ・ポイント!」
司会者の声とともに、電光掲示板に数字が表示される。
『いち、じゅう、ひゃく、せん、まん……25000pt!』
「出ました、25000ポイント!」
表示された数字を見て、依頼人は両手をあげて大喜び。
「おめでとうございます。あなたの作品は25000ポイントと鑑定されました」
「ありがとうございます! 努力が報われました」
「テレビをご覧の皆さんも、自信作はぜひ『なんでもポイント鑑定団』へ!」
※
西暦2040年。
小説投稿サイト「小説家になろうよ」では、毎日たくさんの作品が投稿されていた。
しかし数年前から作品に対するポイントの不正が横行し、運営は日々対応に追われていた。
不正とはすなわち、読者になりすまし自作品に大量のポイントをつけることである。
ひとりふたりなら運営もすぐに対応できていたのだが、ユーザーの不正行為も狡猾となり、なかなか尻尾を出さなくなっていた。
それをいいことに不正行為はますます増え、ついにはランキング上位作品がすべて不正ポイントで作られたものとなった。
そこで運営は思い切った対策に出た。
読者によるポイント制を廃止したのだ。
代わりにAIによる自動ポイント付与を実装した。
これはどれだけの読者がどれだけの時間読んだかをAIが判断し独自にポイントをつけるというものだ。
つまり読者になりすましてポイントをつけることができなくなったのである。
しかし納得いかないのは作者のほうだ。
自分が自信を持って書いた作品をAIが勝手に判定するのだ。
心を込めて書いた作品に「0ポイント」と評価されることもあった。
そこで「小説家になろうよ」運営はテレビ局と提携し、プロの編集者が作品を読んで鑑定する『なんでもポイント鑑定団』を作った。
もともとは国内最大の小説投稿サイトである。
依頼の応募は殺到し、まだ見ぬ良作を求める読者の期待値もあり視聴率は高かった。
ここで高得点を出し、アニメ化した作品もあるくらいだ。
今回の依頼人も25000ポイントを獲得し、そのうち編集部から声がかかるだろうと誰もが思った。
そんな中、一人の男が自信作を依頼した。
作品名は『孤独のカラス』
一羽のカラスが孤独に生きていくハートフルストーリーである。
「小説家になろうよ」では珍しい重めの純文学作品だった。
「自信のほどはどうですか?」
司会者の質問に男は頭をかきながら「あまりありません」と苦笑いした。
本心では自信満々だったが、それを見せると視聴者から不興を買いそうなので、できるだけ謙虚な姿勢を貫こうと思ったのだ。
「あまり自信がないのに応募したんですか?」
司会者の意地の悪い質問にも、男は「自分の作品がどれくらいの評価か知りたかったので」ととぼけて見せた。
「単なる好奇心です」
「なるほど。それではズバリお聞きします。あなたの作品の予想ポイントは何ポイント?」
男は事前に渡されたフリップを堂々と掲げて見せた。
『500pt』
それが男が予想したポイントだった。
「ご、500ポイントですか?」
「いや、もう少し少ないかなと思います。わかりやすく500としただけで。実際は300くらいかも……」
ハハハと笑う男に、会場の客もつられて笑う。
「いやー、驚きましたね。まさか500ポイント予想の作品を応募してくるなんて」
「すいません、自己評価が低くて……。番組的には10000ポイントを超える作品の応募がいいんでしょうけど、さすがにそれはおこがましいと言うか……」
無論、ウソである。
男は自作品に絶対の自信を持っていた。
20000ポイントはくだらないだろうと踏んでいた。
いや、プロの編集者が鑑定するのだ。
50000ポイントは叩き出されるかもしれない。
そうなれば書籍化は当たり前。場合によってはアニメ化もあり得る。
男は近い将来起こるであろうサクセスストーリーに想いを馳せた。
「わかりました。それでは依頼者の作品『孤独のカラス』の鑑定にうつります」
その後、編集者たちの目で男の作品が鑑定されていく。
もちろんそれはテレビ上の演出で、実際は事前に編集者たちが読み込んでおり、すでにポイントが決められている状態だった。
それでも男は目の前で編集者たちが「ううむ」とうなりながら作品に目を通しているのが嬉しくて仕方なかった。
(どうだ、オレの作品は。面白いだろう? 見たこともない話だろう? 世の中の価値観が変わるぞ、絶対)
一通り鑑定の画が撮れたところで、ついにポイントの発表となった。
司会者がいつもの調子でかけ声をかける。
「オープン・ザ・ポイント!」
その声とともに、電光掲示板に数字が表示される。
男はいよいよだと胸を高鳴らせた。
『いち、じゅう……30pt!』
しかし電光掲示板に表示された数字は「30pt」だった。
「は?」と男は目を見開く。
30?
30000ではなく?
何度見直しても表示されている数字は「30pt」だった。
「ま、ま、まさかの30ポイント!」
司会者も驚きの声をあげる。
「この作品は30ポイントなんですか?」
問いかけると、メガネをかけた編集者は「はい」と頷いた。
「これはダメですね。何もかもがよろしくない。文章も構成も全然ダメです。まったく面白くない。本当は0ポイントでしたが、これを応募しようと思ったその勇気に免じて30ポイントのオマケをつけました」
男は編集者の言葉などまるで耳に入っていなかった。
それよりも表示されたポイントがあまりにも低すぎて愕然となる。
「……な、何かの間違いではありませんか?」
震える声で男は尋ねる。
しかし編集者は毅然とした態度で言った。
「間違いではありませんよ。あなたの作品はつまらない。オマケして30ポイントです」
まさに公開処刑だった。
自信満々で提出した作品が、公共の電波に乗って全国に「つまらない」と評されたのだ。
今すぐ穴を掘って身を隠したい気分だった。
「まあ、今回たまたま運がなかっただけですよ。気落ちせず作品を書き続けてください」
フォローに入る司会者に男は静かに笑った。
しかし、男は二度と筆を取ることはなかった。
それから数ヶ月後。
衝撃のニュースが飛び込んできた。
『なんでもポイント鑑定団』のヤラセが発覚したのだ。
番組に持ち込まれた作品で高得点だったものはすべてプロが書いた物であり、依頼者はその出版社の人間だった。
そして作品を鑑定していた編集者も、プロが書いた作品以外は読んでおらず適当にポイントをつけていただけであった。
今回、男が鑑定してもらった30ポイントの作品『孤独のカラス』は、歴代最低点を叩き出したものとして再注目を浴び、SNSを中心に爆発的な人気を誇った。
「普通に面白くね?」
「小説家になろうよでこんな重厚なストーリー初めて見た」
「これ、読まずに30ポイントつけた編集者終わってんな」
すでに書くことをやめた男のホーム画面には、多くの読者の励ましと応援のメッセージが届いた。
しかし、男はそのメッセージを二度と見ることはなかった。
お読みいただきありがとうございました。
実際の「なんでも鑑○団」とは違って完全にフィクションですので、鵜呑みにしないでくださいね(笑)




