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おじさんと母とわたし

掲載日:2025/11/17

いつも真剣なおじさんは母の幼馴染。ちょっとガサツな母は気にも留めないことをいつも気にしては母とわたしの面倒をみてくれる。わたしはこっそり思う。おじさんはおばさんで母がおじさんなんじゃないかと。それでも二人はおじさんはおじさんで、母は女だと主張する。

「承服しかねます」

「どうしても」

「どうしてもです」

「首になりたいのかと言っても」

「それは逆に訴えるときの証拠となります。今録音機械を」

「くそ」


ーパチパチパチ


拍手の方を見ると、そこには私の小さなころから会いに来てくれる母の親友であるおじさんがいた。

母はいつもこのおじさんを見ると「ちっ」と舌打ちをする。

昔はやんちゃをしていたらしいが、そのころの面影というなのメイクをしなくなっても、この癖だけは治らなかった。


「その癖治そうよ」

「いいんだよ。こいつにはこれくらいで」

「はぁあ」

「いいんだよ。こいつは俺をドMにしようと計画している頭のおかしいヤツだから」

「そんなことするわけねーだろ! きもちわるい。今更だ今更」

「うーん。いけないんだろうけれど……」

「うんうん気にしない。そう悟るようになるよね」

「なんだよそれ」

「いやいや」

「うん」

「ちっ。メシメシ!」

「それじゃ、こちらへどうぞ」

「うん」

「あぁ」


隣の部屋への扉が開いて、ダイニングキッチンが視界にひろがる。

テーブルの上には、おじさんの手作り料理が用意されていた。


「さぁ、座って座って」

「おう」

「はーい」


それぞれ決まった席に着く。

おじさんはキッチン側。その向い側に私。母は何故かここがいいと私とおじさんの間に横の席に椅子を置いた。

まぁ、広くテーブルを使えるし、母の顔もおじさんの顔も良く見える位置。


サラダが大盛で一番大きいであろうボールに入っている。

取り皿もある。

母も私もテーブルの上のメイン料理に目が行く前に声を揃えて感嘆してしまった。


「「ポテトサラダ~」」

「ふふふ。そうだろう」

「おう」

「今日は懐かしの食堂の味付け風にしました」

「なにっ!?」

「お代わりもあるので遠慮なく食べるように」

「おう!」

「はい」


こうして母と私の好物も作ってくれるおじさんは、母の幼馴染なのであるが、二人が言うには恋仲ではなく、もう飛び越えて家族みたいなものだという。

ので、一緒に住めるが夫婦にはならないとのこと。

いい夫婦関係な気がするのは内緒だ。

母が私を連れてひとりで育てようと悪戦苦闘している間に、おじさんと久しぶりに再開して、幼馴染のシングルマザーを母子ともに手助けできるし、昔みたいに過ごせるから。お前は気にすることはない。と言っていたおじさんも、今思い返すと何かあったんじゃないかと思う。そう思えるようになったのも、私が十歳を超えてからだった。それまでは、二人の喧嘩にイライラしたり、おじさんの存在に慣れるのに必死だった。

十歳を超えてからは、自分自身を客観的にみれるようになってきて、あのときはこうだったんじゃないかと思い返してはひとり頷くという遊びをしていた。


「おめぇ、それじゃ。これに付き合え」

「えっ?!」


そう言って指導し始めてきた母に付き合って冒頭のセリフがある。


「で、あの会話なんだったの?」

「こいつがひとりで社会に出て困難なシーンに遭遇しても乗り越えられるように、練習してんだ」

「これ、美味しい」

「ありがとう」

「あ、ホントだ」

「おお。いや、あんなことそうそうないからな」

「わかった」

「そうはいってもお前、話しには普遍的に出てくるだろう」

「お話しはお話し。現実にはそうそうない」

「そうなの?」

「あってたまるか。そこらじゅうの会社やオフィスでそんなドラマのような展開が繰り広げられてみろ。大人は何をしに会社に入って仕事してんだって話だろう。どれだけそんなことが繰り返せるだけの人員とお金と時間があると。ないだろう。そんなに余裕があるなら福利厚生や有給や育休やボーナスの充実を図ってくれ!」

「おぉ、燃えてんなぁ」

「当たり前だ。これらの福利厚生まで充実させ実施していき社内、いや社外にまで轟くような噂が立つほどに当たり前と化し、浸透させるのは並大抵ではないんだぞ」

「な、なるほど」

「あのころは、このために俺はこの会社に入ったのかと思ったほどだ」

「何を広めたんだ」

「禁煙と喫煙を分ける。かつ喫煙室という室内にして空調を入れる。そしてその室内の清掃軽減対策を練って提案し、肩身が狭くなっている喫煙者救出をした。最終的に、畳み六畳分の横に慣れる場所まで用意できたんだぞ」

「そいつぁいいなぁ。寝に行くか」

「あほか。部外者が喫煙室の畳を確かめに来訪するな。開店した店のお試しじゃないんだぞ」

「あはははは」

「自分で笑ってる」


母は自分から振っておいて、おじさんが突っ込みを入れる。そうして自分が一番楽しそうに笑っているのだ。


「夫婦でしょ」


ぼそっと言ったはずなのに、「「違う!」」と二人に声を合わせて言われた。


「あはははははは」

「そうだろう」

「ああぁ、お前も大変だな」

「もっと言え。労え俺を」

「でかしたでかした」


食べ終わった食器をキッチンのシンクへと運ぶ。


「「えらい!」」


声を揃えて褒めてくれるのはいいが、二人ともお酒を飲みだして声が大きい。母はただでさえ声が大きいのに。

二人の食べ終わった食器も下げていく。


「「さらにえらい!」」


はいはい。もう、二人が飲みだすとこうなるからいけない。私が大きくなって、食べ終わった食器を片せるようになったからかなぁ。

それとも、二人の仕事が忙しいのか。ストレスですかねぇ。


「あー、緊張する」

「なんでお前が緊張するんだよ。俺まで緊張するだろう」


飲み続けていた二人の前に、食器を片し終わった私は、水をもっていって、目の前に置いた。


「もう、遅いので、ねんねしてくださいよ~」

「…な…」

「…へ…」

「私も十歳になったんです。酔っ払いの二人にちゃんとしなさいと叱るくらいできるのです」

「おぉ、大きく出たな」

「叱ってください」

「お、お前気持ち悪いな」

「いや、年取るとホント叱ってくれる人減るよな」

「そうか」

「お前はもっとしっかりしろよ。お前に聞いた俺がばかだった」

「こら!」

「「はーい」」

「水飲んでください」

「はい」

「おう」

「飲んだら、歯を磨いて顔を洗って、服を着替えて、自分の部屋のベッドで寝てください。解ったら行動する」

「おう!」


二人ともにぎやかに歯を磨き終わると、ローキックをきめた母が先に顔を洗い、自室へ消えた。着替え終わったのか扉から顔を出して「おやすみ、愛しているぜ」というと部屋の中へと消えていった。

おじさんも「洗ってもらってごめんめ。おやすみ」と言って部屋へと消えていった。


「はぁ」


飲み終わったコップなどを下げて、洗い物を洗って、手を洗う。

テーブルを拭いて、自分用の水を用意して、テーブルに置く。

二人に続いて、自分も歯を磨き顔を洗う。そうして、部屋に戻る。もちろん。テーブルの置いておいた水を持っていく。


「明日は朝から漢字テストだったっけ」


問題は十問もある。はぁ。勉強しておいたっけか。

開いてみて、該当する漢字を見てみる。

うん。七割がた分かる。なら大丈夫だな。

対策することなく、ランドセルに明日の授業の教科書などを用意する。


「ふう」


水を飲んでから、パジャマに着替える。

また一週間が始まる。

頑張るぞ。

ん? 鏡の自分を見ながらこんなこと思うなんて、将来自分は働いてこうして一週間一週間と鏡に向かって呟くのか……疲れた三十路過ぎの女性の姿が浮かんだ。その女性は母のもとを訪れていたりした前住んでいたアパートのお隣さんの奥さんだ。


「ぎやー!」


ーバタン!


「どうした、おっきい声で叫んで」

「どうしたんだ、大丈夫か?」


二人の方へ振り向いた私は訴えた。


「このままじゃ私、捨てられて抜け殻になる!」

「は?」

「なにー!?」


母とおじさんにことの詳細を話すと、「ぷっ」と吹いたり、「あはははは」と笑っていた。


「真剣に身体にも顔にも疲れが現れてるのに」

「すねるなすねるな」

「あ、あ、ごめんよ。分かった分かったよ。俺の相棒肩こりほぐしたる君を貸してあげよう」


部屋を出ていったおじさんは本当に持ってくるようだ。


「よかったなぁ」

「それで、十歳になるとこんなに疲れやすくなるの?」

「「ぶっ」」


肩こりほぐしたる君を持ってきてくれたおじさんまでまた笑っている。

どうしようか。いや、腹も立つ。

腹立つ。ムカつく。


「ムカつく」


そう言ったら、体の中の何かが始めるような爽快感が走った。


「おぉ、ムカつく。いや、むかつく」

「お?」

「なんだなんだ」

「なんか爽快感すらあるよ」

「爽快感って言葉知ってるの?」

「飲み物に出てくる言葉でしょ」

「「あぁ、確かに宣伝してるときにでてくるか」」

「そう」

「いや、むかつく言って、爽快感って」

「あー」

「どうした?」

「なんか、なん、で」

「へ? お腹痛いのか?」

「え、疲れじゃないの?」

「大丈夫?」

「お腹痛いかも」


お腹を押さえて、横になった私の様子を見ていた母は言った。


「お前! お目でただ!!」

「お腹痛い」

「お目でたってお前。そんなわけ……おめでたいことには変わりなかった!」

「忘れてた!」

「買ってないのか?」

「子供サイズってコンビニに売ってるか?」

「さぁーなー」

「しかたない。いつものパンツにナプキン付けて寝かそう」

「ああ」

「着替えさせてやれ」

「おい、辛いかもしれないが起きろ!」

「怒鳴るな」

「あ、おう」

「いいか、病気でも何でもない。普通のことだ。女の子なら起ることが今起こっている。第二次成長期ってやつだ。保健体育で習ったか?」

「わ、わからない」

「そうか。とりあえず、ズボンとパンツを脱いで、新しいものに履き替えるぞ。その新しいパンツに夜用のナプキンを付けて履くんだ」

「な、なぷきん?」

「夏美、いいか。よくきけ。生理になったんだ、おまえ」

「病気じゃないの? お腹痛いのに」

「そうだ。お腹の中で骨盤や臓器が生理期間中の動きをし始めていて、お腹の中の臓器の中から排出しなければいけない物を一生懸命出しているんだ。そのときに発生する痛みを生理痛と言う」

「俺は外に出てるから、着替え終わったら言ってくれ。飲み物用意しておく」

「ああ」

「さぁ、いいね」

「うん」

「よし。任せた」

「任された」


扉を閉めるおじさんを見送った母は、私の身体を抱えるようにして、私をベッドに座る体制に移動させた。


「はぁ」

「お腹痛いのは、一時だけだ。これだけは人それぞれだから。はっきりとこれくらいとは言えないが」

「うん。お母さんもこれくらい痛いの?」

「うーん。痛くなったことはない」


りふじんだー!

今度漢字を検索して覚えとこう。


「ほら、着替えるぞ」

「あ、はい」

「安心しろ。病気でもないし、死ぬわけじゃない」

「ち、血が出てる」

「そういうもんだ」

「うー。女の子ならって言ってたけどおじさんもあるの?」

「男はない」


なんでだー!

世にいう、男は女の敵とはこの事か?

母に支えてもらいながら、なんだか奮えそうな手足でどうにか脱ぐ。

母はクローゼットから新しい服を出してくれた。


「あ、ナプキン」

「なに?」

「ちょっと、まっとれ。今持ってくる」

「え、行っちゃうの」

「それがないと、意味がない」

「そ、そんな」


扉の向こうに消える母の後ろ姿に視線をいつまでも向けていたら、なんだか情けなくて泣けてきた。


「こんなのってないよ」


最悪の夜だ。

戻ってきた母が持っていた夜用とかいうナプキンは、とても大きく。パンツ型になってないものの、おむつを彷彿とさせ、大人になったと思ったあの日、おむつを卒業した日を思い出して、涙をのんだ。


「あの日以来お世話にもうなることはないと思っていたのに」

「なにが」

「おむつ」

「あはははは。ばあさんになればまたお世話になるさ。誰だって。さぁ、履いた履いた」

「うん」


なんとか付け方を教わって履いたがゴワゴワするおしりに、恥ずかしさが押し寄せる。

母は、私をダイニングに連れていき、テーブルに座らせる。

おじさんが用意してくれた飲み物を出してくれた。


「ホッとチョコレートにミルクを混ぜたから。ふうふうして飲みな」

「うん」


言われた通り、ゆっくり上澄みをすするようにして飲んでホッとする。


「よし、ゆっくりのんでな」

「うん。ありがとう」

「いや、明日の夜は赤飯にしような」

「そうだな。お祝いだ」

「お祝い。りふじんなのに?」

「何言うんだ。おまえは立派に第二次成長するくらいに元気でここまで生きてこれたんだ。そのお祝いをして何が悪い!」

「いきてこれた?」

「そうだぞう。大きな病気になることもなく、健やかに成長してこれたんだ。どうやら第二次成長期も順調そうだし。大人の女性への階段を上ってるんだぞ、今」

「お、大人の階段」

「おう」

「安心して祝われて居なさい」

「は、はい」

「さてさて。洗い物洗い物」


私の部屋に消えていくおじさん。よごれたベッドとパジャマたちを洗ってくれるってことだ。

は、恥ずかしい。

慌てて椅子から降りようとすると、母が制止した。


「なにやってる。今はゆっくり座っていろ。後はあいつがしてくれるから」

「は、恥ずかしい」

「なぁに言う。ああやって何でもなく洗ってくれる男を将来選ぶんだぞ」

「え」

「汚いとかいう男が居たら、懲らしめてやれ」


部屋から出てきたおじさんは、「何の話?」「どうしたの」というと、洗面弾の方へと消えていった。手には汚れた布があった。


「ごめんなさん!」

「えっ?」

「あやまっとるぞー」

「あぁ、いいっていいて」


おじさんは手を濡らしたままこちらへ顔を出し、大丈夫だと返事をして戻っていった。


「うーん」

「明日夏美ようのパンツとナプキンを用意しておくからな」


母の言葉が右から左に移動する。

席を立って、おじさんのところへ向かう。


「夏美?」


「あ、どうしたの?」

まだ洗っていたおじさんの手元を見ると、薄くなっている赤い色と白い泡があった。


「どうやって洗うの?」

「生理の汚れはね、血などのタンパク質の汚れでもあるから、普通では落ちないんだ。何系でもいいけれど漂白剤がいるんだよ」

「ひょうはくざい?」

「そう、洗濯石鹸や洗濯剤と、柔軟剤の他に購入しているものあるでしょ」

「うん」

「それを、汚れた部分に直接塗るの」


おじさんは、丁寧に漂白剤が入ったボトルをこちらに見せてくれた。

「うちはこれね」「あいつ好みないから俺の好きなの選んでやった」などと言いつつボトルをもとの場所に戻している。


「この白い泡わね。反応して白くなっているんだよ。液体は透明感があるからね」

「えっ?」

「そう、変わるんだ。反応するんだよ」

「どうするの?」

「こうしてかけてから、少し時間をおいて、洗濯するんだ」

「洗濯機に入れるの?」

「ここからはそれぞれだと思うけれど、俺の場合だと、一度洗面台で軽く洗い流す。落ち具合を確かめるんだ。それで自分で納得のいく出来までもっていってから、他の洗濯ものと一緒に洗うんだ」

「な、なるほど」

「一般の家庭では、これくらいかなぁ。納得がいかない。お金の余裕がある場合は、クリーニングに持っていくと良いよ」

「わ、わかった」


ドキドキしていると、いつの間にかおじさんの方もひと段落着いたらしい。洗濯籠へ濡れたまま入れていた。


「よし。もう一杯飲みにいこう。付き合って」

「わかった。教えてくれてありがとうございます」

「なに、あらたまって」

「いや、大人の階段を上り始めたので」

「あはははは」


促されるまま、先にダイニングまで移動する。

今度は母が飲み物を入れてくれて待っていた。

甘くて暖かい生姜湯だった。




三人の寝室はそれぞれあれど、リビングダイニングは同じスペースを使っている。そんなシェアハウスのような彼らの織りなすお話しが描けて楽しかった。

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