(スピンオフ)第四章:『タベロニア空中庭園』第八話「実在する空中庭園!」
第八話「実在する空中庭園!」
ねこたは追い詰められていました。編集長に『にゃんだろう? 春のふしぎ特集』の企画を頼まれていました。さんざん出つくした企画なので、新しいものを何も提案できずにいました。第一締め切りまで、あと三日しかありません。
「今日こそは何かのアイディアを出そう!」と心に決めて気分転換に来ました。ごまんたるに着いた私は、コリー犬の姿でした。
「こんにちは! ガラガラ・・・」と入ると、大将は虎の姿でした。店は混み始める時間でした。
「よぉ! ねこた。久しぶりだべ。調子はどうだべ?」
「締め切りが近くて、悩んでおります」
「まぁ、飯でも食べて、ゆっくりしていくだべ。いい考えも浮かぶだべ」
「そうします」あれから何回か店に来ましたが、ドリームイーターは攻めてきませんでした。出来れば、この状況が続いて欲しかったです。
「今日は、ゆきおさんやホルモン氏はいるのですか?」
「あぁ、ゆきおは最近来ていないべ。どうも、海外巡業に行っているらしいべ」
「芸能人さんは、羨ましいですね。あちこち行けます」
「そうだべ。苦労もあるかも知れんが、人の出来ない体験を出来るのが一番羨ましいだ。ホルモン氏は選挙が近いんで、最近来てねぇべ」
「どちらもいないことが、珍しいですね」
「あぁ、鬱陶しいのがいないと寂しいもんだ」大将は明らかに、覇気がないように見えました。
「まぁ、そのうち来るでしょう」となぐさめながら、私はメニウを見ました。
『ごまんたる・春のスペシャル・メニウ』
≪銀河系・ステキ体験コース・20光年≫
≪世界七不思議・観光体験コース・20世紀≫
【オススメすいーつ!】
≪艶色の春・口紅はリップリン≫
≪浅葱色の夏・髪形はショートケーキ≫
≪琥珀色の秋・スカートはキュロットキャロットゼリー≫
≪象牙色の冬・足元はブーツぶあんカフェ≫
≪・・・≫
「(やはり、追い詰められている時は『ごまんたる』に限る・・・これだ!)」私は、ほくそ笑みました。注文をしようと思うと、コアラのお姉さんが来ました。
「あら? 今日は、お猿のお姉さんじゃないんですね?」
「お猿のお姉さんは、結婚してイラクに行きました。古代文明にふれながら暮らしたかったそうです」
「そうですか・・・」顔見知りが減ると寂しいもんです。
「(でも、ナゼ? イラクで古代文明と言えばアソコだ! メソポタミアのどこに興味を持ったのだろう・・・)」私には、分かりませんでした。考え事をしている私に、コアラのお姉さんは言いました。
「プライベートで、世界七不思議コースを食べたら魅了されたそうです」
「! そんなに面白いコースなのですか!」
「大将が言うには、危険なコースでもあるそうです。お気を付けください」と言って、とととと行ってしまいました。
「まぁ、死ぬことはないだろう」と私は思いました。危険とは、そういう意味ではなかったのです。
≪世界七不思議・観光体験コース 20世紀≫
◎ドリンク:面白ソーダ
(体験したことのないものが、一番面白いのです)
◎メイン・メニュー:
・そりゃねーぜ・ジェノベーゼ
(常識破りの味付けをしたパスタです)
・フランクフルトむやんくん
(この組み合わせは、反則です)
◎サラダ:まさらどーサラダ
(南インド料理をサラダにしてみました。いひょうをつかれたでしょう?)
◎デザート:
・なんてこった・パンナコッタ
(そんなこった、どんなもんだ)
大将が、コアラのお姉さんと一緒に料理を運んでくれました。
「ねこた。『THE ごまんたる』のコースだべ。楽しんでくれだべ」
「行ってきます」
すり~ぴん、すり~ぴん、お休みヨ~!
どり~みん、どり~みん、夢のなか~!
目覚めた時は、小高い丘に立っていました。周りは山に囲まれておりましたが、どの山も木の生えていない岩肌がむき出しになっていました。
目の前に、白いローブを着た精悍な顔つきの青年が立っていました。頭にかぶっているフードは、つばの部分が龍の顎のようになっており、樫の木の杖を持っていました。
「お目覚めですか? ようこそ、『タベロニア空中庭園』へ」
「はじめまして、こんにちは。ねこたと申します」
「ねこたさん、初めまして。私は、古代遺跡担当ガイド・ラゴン・リウと申します」青年は、軽く頭を下げました。物腰柔らかな態度で気品がありました。どこぞの貴族のような雰囲気でした。何でも見透かしているような視線は、悲しさと優しさに包まれていました。私は、質問せずにはいられませんでした。
「リウさん、質問を一つよろしいでしょうか?」
「はい、何でしょう?」質問が来ることが分かっている様子でした。
「リウさんは、ここの担当が長いのでしょうか?」
「長いです。億年単位と申しておきましょう」
「それでは、スイトルさんよりもご高齢と言うことになりますか?」
「なりますが、私に年齢は関係ありません」
「? と、言いますと?」
「私は、いわゆる不老不死なのです」
「・・・」リウさんは、クスリと笑い、
「猫忍法『開いた目がふさがらない』ですね?」と、言いました。
「この世に、不老不死はあるのですか?」
「ありません。ですが、信じるならば『あります』と言えます」私は、禅問答のようなやり取りに混乱しました。
「? それは、ここが夢の世界だからですか?」リウさんは、クスリと笑い、
「夢も現実も同じですよ。同じあなたが体験している事なのです」と、言いました。
「分かりませんね・・・」
「そのうち分かりますよ。アナタは現実世界のことも、まだごく一部しか分かっておりませんから・・・。全てを知るには、常しえの時間がかかるものです。私も全て分かっているわけではありません」この短時間のやり取りだけで、私は彼にすっかり魅了されてしまいました。私が何を質問するか分かっており、どのように答えるべきか決まっていたので会話はよどみなく進みました。
「アナタは好奇心が強いお方です。アナタが全てを理解する頃には、おじいさんになっているかも知れませんが説明しておきましょう。私は、ゾンビの神様に不老不死細胞を埋め込まれた仔犬なのです。その時は、ハンコウ太と呼ばれていました。仔犬が成長し、若返り成長し、その過程で進化を繰り返したのが、私なのです。同じような仲間があと二人いるハズなのです。タルオとたしな美です。何処で、何をしているのでしょう?」思い出しながら、微笑んでいました。だいぶ仲が良かったのでしょう。
「・・・それは本当ですか?」私は訝っていました。リウさんは、ニッコリと笑みを浮かべ、
「ウソですよ」と言いました。こう言ってくれることを嬉しく思いました。私のモヤモヤを薄めてくれました。そして、続けました。
「アナタの質問したいことは分かります。ここ『タベロニア空中庭園』は、現実世界では、『バビロニアの空中庭園』にあたります。古代ギリシャの旅行家フィロンにより紹介され、歴史家ヘロドトスにより『世界の七不思議』と名付けられました。ナゼ造られたのか? 何のために造られたのか? ナゼ記録が残っていないのか? 子々孫々の興味と好奇心をくすぐってきました」
「古代の人々にとっては、巨大建築物は一生に一度でも見るべきものだったのでしょう」
「『山の斜面に段々上に庭園が造られ、空中庭園と名付けられた』とする説もあります」
「そうですよね。私もそう思います。空中に庭園が浮かんでいるハズがありません・・・」リウさんは、カブリを振りました。
「そうではないのです。『空中庭園』は実在するのです」
「! ・・・」私は大きく目を開き口も開きました。
「新しい猫忍法ですね。『開いた目と口がふさがらない』ですか?」リウさんは、落ち着いていました。
「『論より証拠』です。お見せしましょう」と言って、リウさんは、私を手招きしました。
招きしました。




