(スピンオフ)第三章:『にゃんにゃん! 突撃! ネコ隊長!』 第七話「ナイトメア討伐編」
(スピンオフ)第三章:『にゃんにゃん! 突撃! ネコ隊長!』
第七話「ナイトメア討伐編」
『ナスビカ平原』を訪れてから、ひと月ほどが経っていました。その後、私は本物の史跡の取材旅行のため南米に出張していました。帰国後は有給休暇を合わせて、あと三日ほど会社を休む予定でした。帰国してすぐに立ち寄ったのは『ごまんたる』でした。
「だからね、おじい様。『ヒクマニア珍獣パーク』の生きものたちが何か変なの。こけら落としの後に三回ほど行ったけど、動物たちの態度が、どんどん悪くなっているの!」狸の姿のリコさんが、熊の姿の大将に説明していました。
「おかしいべ。そんなはずはないべ。何かの間違いじゃねぇか?」
「常連客のゆきおさんが、殴られたの。これは、問題よ」
「怪我をすることはねぇけど、暴力を振るわれたのは問題だべ・・・」
「あたし、もう一度調査してくるわ。一つ確認したいことがあるの」
「うむ、頼んだべ・・・」リコさんがパタパタと店を出るときにすれ違いました。
「あら? ねこたさん、お久しぶり~」
「あ! リコさん、お久しぶりです」
「最近見なかったわね~、どうしてたの?」
「昨日、南米の取材旅行から帰って来ました。これはお土産です」
「あら、ありがとう。お店の中に大将がいるから、渡してください。私チョット急ぐもので、失礼します」
「いってらっさ~い!」リコさんを見送って、私は店内に入りました。私の姿は、茶色のソマリでした。
「がらがら・・・、こんにちは~!」と言って店の中に入ると、大将が元気よく挨拶してくれました。お店はまだ、それほど混んでいませんでした。
「よぉ! ねこた、ずいぶんと久しぶりじゃねぇか!」
「ご無沙汰しております。ただ今、南米の出張から帰りました。これはお土産です」と言って、果物ケーキを渡しました。
「気をつかってもらって、悪いな。有り難く頂くよ」
「これはゆきおさんの分ですが、今日は来ていますか?」
「今日はいないよ」
「珍しいですね。いつも入りびたりなのに」大将は近づいて来て小声で言いました。
「大きな声じゃ言えないが、ゆきおの苦手な客が来ているんだよ。そこで突っ伏して寝ている角刈りで豚鼻のお客さんだ。通称ホルモン氏だ」私はチラリと見てみました。黒縁の丸メガネをかけていて、涎を垂らしながら寝ていました。第一印象は、かなり下品な方だと思いました。
「ZZZzzz・・・GGGggg・・・ぶっひ~ん。ZZZzzz・・・GGGggg・・・。ぶはっ~は~」聞いたことのないイビキでした。
「タニマチ気取りなんだが、ただの追っかけだ」大将がヒソヒソと教えてくれました。
【タニマチ】有名人を何かとサポートしてくれるありがたい存在。度を超すとあちこち連れまわしたり、友人に自慢するために無理を言ってくるようになる、迷惑な存在になる。
「それでは、これはゆきおさんが来たときに渡してください。干物なので、くさりません」
私は、タロイモとキャッサバの干物を渡しました。
「ゆきおのやつは、喜ぶだろう」私は、話題を変えました。
「リコさんが、あわてて出かけましたね? 何かありましたか?」
「あぁ、『ヒクマニア珍獣パーク』の様子を調査しに行ったんだ」
「とても刺激のある場所でしたね~」
「どうも、あれから生き物たちの態度が悪くなり、攻撃性が増しているらしい・・・」
「それは、危険ですね~」
「あぁ、お前たちが行って来た時よりも危険な状態らしい」
「けが人が出ないと良いですね」
「まぁ、けが人が出ることは無いんだが・・・」腕組みして悩む大将の背後で、何かがうごめきました。
「! 大将、後ろ! 何かがいます!」
「?」大将がふり返ると、額に十字の形に黄色い角が四本生えている、羽の生えた浅黒い仔猫ほどの小さな馬がゆらゆら飛んでいました。
「ユニコーンとペガサスを合わせたような姿ですが、何か小さいですね」と私が言うと、
「あれは夢魔だ!」と大将が言いました。大将は、ナイトメアに向き直り、
「お前たちの仕業か!」と言いました。
「うけけっけ~。ちがうけど、そうだよ~。早くみんな夢の中に行ってよ~。夢のエネルギーを吸わせてよ~」ユラユラ飛び回りながら言いました。
「うるせえ!」大将は包丁をやたらめったらに振り回しました。
「うけけっけ~。当たらないよ~」包丁で切られたと思ったら、ぼんやりと消えてしまいました。
「くっそー! 商売の邪魔だ!」
「大将、あれは何ですか?」
「あれは、夢喰い魔一族のナイトメア一派・レインボー姉弟の手下だ。角が四本生えているから四匹目のパシロ~だ! パシロ~がいるということは、近くにレインボー姉弟がいるはずだ! 気をつけろ!」私は辺りを伺いましたが、仲間らしきヒトはいませんでした。
「レインボー姉弟とは?」
「夢の中で寝ている人の夢のエネルギーを食べる魔族だ。人の夢など食べずに、普通に食事をすればいいのに・・・」
「それもそうですねぇ・・・」私は大将に同感でした。
【パシロ~】「下っ端、四郎」の略。賢明なる読者の想像通り、下っ端のナイトメアは、一郎から五郎までいるのです。レインボー姉弟の使い魔である。
【レインボー姉弟】夢喰い魔一族の一派。姉がサキュバスであり、弟がインキュバス。ともに夢の中の人間を襲う悪魔である。現実世界では、七色の変身能力を持つという。
「ねこた、質問だべ」
「何でしょうか?」
「モーツァルト、シューベルト、メンデルスゾーン、滝廉太郎、ショパン、ビゼー、・・・。共通点は何だべか?」
「全員、音楽家です」
「他には?」
「! みな短命です!」
「そうだべ、夢喰い魔一族は、生命力あふれる人間の夢の中に入るんだべ! 音楽家たちはのきなみ標的になったべ!」
「何と!」私は、驚愕しました。
「あいつらは、夢の中で寝ている人間の精気を吸い取ってしまうんだべ。魂と言いかえてもいいべ。精気を吸い取られた人間は、寿命が縮んでしまうんだべ! 店にとっては天敵だべ!」
「それでは、魔族が夢の中で暴れる前に行って、阻止するのはどうでしょう? 音楽家さんたちも死なずにすみます」
「ダメだべ! 夢の中で確定してしまったことは、後から変更できねぇべ。音楽家さんたちには悪いが、次の犠牲者が出る前に何とかしなければいけねぇべ!」
「う~む・・・。厄介なのが現れましたねぇ」私は、冷汗が出ました。再びパシロ~がぼんやりと現れて、
「うけけっけ~。1%しか、頂かないよ~。ウソだけど~。ヒトも平均寿命が延びているんでしょ? だったら少しくらいいいじゃん!」と言いながら、カウンターで寝ている角刈りの豚鼻のお客さんの背中から
「すうっ」と体内に入りました。
「そういう問題じゃねぇ! まずい! このお客さんの精気を吸い取る気だ! そうはいくか!」大将は立ち上がりました。
「大将! お店はどうなりますか?」
「今、案内人が誰もいないんだ! 俺が行くしかねえ!」
「それでは、お店がきりもり出来ないでしょう! 私が行きます!」
「ん? お前さん行ってくれるのか? 長旅で疲れているだろう?」
「お店の一大事です、行ってきます! 何をすればいいですか?」
「簡単だ! 夢の中から追い出してくれればいい! 出てきたところを捕まえる! これを持っていけ! 捕獲セットだ! 夢の中で捕まえられるときは、このビンに捕獲してくれ! クラッカーは、体にあてるだけでいい! 自動的に捕獲できる仕組みになっている」大将に、クラッカー一個と小ビンを渡されました。クラッカーは誕生日用で、布を被ったオバケのようなキャラクターが描いてあり、
「はじけようぜ!」としゃべっていました。ビンには『はちみちゅ150g』というラベルが貼ってありました。
「あまくておいしいヨ!」とほほ笑んでいる小さな蜂の絵も描いてありました。
「分かりました!」とは言ったものの、
「(これで、魔族と闘うのか・・・?)」と疑問にも思いました。そして私は、メニウを見ました。
≪銀河系・ステキ体験コース・15光年≫
≪散歩系・駐車場公園コース≫
≪暇つぶし系・ワニのうろこを数えようコース≫
≪おやつ系・砂漠で食後のお菓子コース≫
≪・・・≫
≪・・・≫
「うわっ! 増えている! しばらく見ないうちに!」私はたじろぎながら大将にたずねました。
「大将、どのメニウですか?」
「そのお客さんが食べていたのは、これだべ!」と言って、料理を運んできてくれました。
≪歴史ロマン系・奇跡の化石コース15千万年前≫
◎ドリンク:
・サンヨウチュウハイ(ノンアルコール)
◎メイン・ディッシュ:
・ナウマン象煮(雑炊にも出来ます)
・ぷてらの丼
・トリケラトプスし(十貫~十二貫)
・シソチョウどいい温度の味噌汁
◎デザート:
・フズリナタデココ
・アンコな芋(アンモナイト風味)
※ 『ごまんたる』でも、一二を争う奇抜でボリュームたっぷりな組み合わせです!
私は、嫌な予感がしました。正直な話、
「(このクラッカー一つで、きょうりうが沢山いる世界で闘うのか?)」と言う不安はありました。
「う~む、1億5000万年前だと、中生代のジュラ紀か・・・。きょうりうが沢山いるな~・・・。フズリナとナウマン象は時代が違うから、出てくることはないだろう・・・」ためらいながら、ペロリとたいらげ、まどろみ始めました。
「ねこた! たのんだぞ! 案内人が帰ってきたら、すぐに応援に出す!」大将の声が聞こえました。
「わ・か・り・ま・・・・、し・・・た・・・Zzzz・・・」
「そしてそいつは、ホルモン氏だ。面倒な客だ。危険だと思ったら、そいつを置いて逃げてこい!」既に深い眠りについていた私には、その声は半分しか聞こえていませんでした。
すり~ぴん、すり~ぴん、お休みヨ~
どり~みん、どり~みん、夢の中~
ご飯のあ~とにみるゆめは~
大海原で遊ぶゆめ~
泳いで、潜って、寝そべるよ~
くらげのようにのんびりと~
すり~ぴん、すり~ぴん、お休みヨ~
どり~みん、どり~みん、夢の中~
おひさまぽかぽか、うたたねる~
うちうでのびのび遊ぶゆめ~
風船、階段、花畑~
無限に時間をすごせます~
目覚めて(ウェイクアップ)、立ち上がる(ゲットアップ)と、ジャングルの入り口に立っていました。案内人がいないので不安しかありません。
「ぎゃお~~~っす! ぐわお~~~~っす! あざ~~~~~っす!」そこここから、きょうりうの鳴き声が聞こえてきます。恐怖しか感じません。私が現れたのを見て、パシロ~は逃げていきました。
「まて~!」私は追いかけました。地面が泥だらけで走りにくく、雨上がりのようにぐちょぐちょしていました。
「あ゛~~っ!、も゛~~~っ! 猫だから走りにくい。綺麗好きには不向きな世界だ!」私は、色々と試してみました。ナスビカ平原のように特大ジャンプが出来るかも知れません。
「ばっひょ~~~ん!」出来ました。すると空を飛んでいたプテラノドンに見つかりました。10匹以上飛んでいました。
「ぐえお~~~っ!」こちらめがけて突進してきました。
「やっべ~、食われる。逃げろ~!」私はあわてて空中で止まり、急降下しました。地面に降りると走って草むらに逃げました。
「(あっぶねぇ~。エサになって美味しく頂かれるところだった・・・)」息を整えました。空中の移動は危険なので、地面を速く移動できる方法を考えました。きょうりうにしては小型の80cmほどのジュラベナトルや、向こうには体長5mはあろうかというケントロサウルスも確認できました。ぐずぐずしてはいられません。
「マズイ! 見つかったら死ぬ! 案内人無しではどうすることも出来ない! 考えろ! 今何が出来る?」出来ることは限られていました。覚悟を決めて、猫忍法『鳥獣戯画』を使ってみることにしました。私は地面に枝で絵を描くことにしました。小さなコビトを描きましたが、腕が一本しか描けませんでした。
「ダメだ。地面がぐちょぐちょしてて、上手に描けない」私は、場所を変えて巨大アリを描きました。
「鳥獣入魂~!」とスイトルさんの真似をして言うと、地面が盛り上がり体長3mほどもあるカラフルな巨大アリが現れました。
「きゃっほっほ~~~っ」といって、それに乗って、捜索を再開しました。
【鳥獣戯画】日本最古のマンガとも言われる。平安時代ころから描かれていた動物や生き物の絵。当時の世相を反映して愉快に描かれたという。
「(これは、『ごまんたる』の案内人の特権なんだろうか?)」とも思いましたが、今は捜索に集中しました。
「何処だ? どこだ~?」丈が高い草むらから外に出ることなく、こそこそ探しました。
「どっへ~! た~すけて~!」ホルモン氏の声でした。プテラノドンから逃げ回っていました。追いついてアリに乗せて逃げ回りました。
「しっかりつかまってください。落ちないように!」
「ありがとう! 常連のねこたさん!」
「・・・?」私は返事をせずにアリを操縦して、草むらにかくれました。そして確認しました。
「なぜ、私がねこただと分かったのですか?」
「あなたがゆきおさんのお気に入りだからです」
「ただ、仲がいいだけです」
「うらやましいです」
「あなたも仲良くなればいいんです」
「・・・そう、ですね・・・」
「ところで、案内人はいないのですか?」
「ツケをためすぎているから、『ご自分で勝手に散策してくださいコース』を選んだわけではありません」
「(こんな危ない場所を!)・・・そのツケは、どうやってお支払いするおつもりですか?」
「ゆきおと仲良くなって、払ってもらおうとは思っていません」
「(それでは、嫌われるなぁ。それにしても見事な自己申告だ・・・)」私は、このヒトの全人格が理解できました。そして私たちは、しばらく沈黙して、これからどうするか考えました。
「・・・(どうしよう)」そこにパシロ~が現れました。
「うけけっけ~! み~つけた!」
「見つかった! あきらめた~」とホルモン氏は言いました。
「簡単に諦めないでください! 戦いましょう!」私はアリを突進させました。
「ざ~んねん!」パシロ~は空中でひらひらと攻撃をかわし、逃げまくりました。1mもあるストローを取り出し、アリに突き刺しました。
「ちゅ~、ちゅ~、ちゅ~」と吸い込むと、アリは空気が抜けたようにしぼんでしまいました。
「あっあ~!」私たちは驚かされました。
「何でぇ、味がしねぇや!」ストローを抜いて、こちらを見ました。
「ギョロリ!」
「たじたじ~」するとホルモン氏が、半歩後ろに下がりました。
「覚悟しろ!」パシロ~がストローの先っちょをこちらに向けると、ホルモン氏は私を蹴って転ばせました。手際よく私をしばり、パシロ~に差し出しました。
「これで、どうでしょう? ワシだけを助けてください!」
「う、む、悪くない・・・」突然のことに、パシロ~は戸惑っていました。パシロ~のような体の小さなものの言うことを聞く者が現れたことに驚いている様子でした。
「う~む。負けた・・・」私はあきらめました。私は色々な意味で負けたのです。
陽が沈みました。私は、木に縛り付けられながら月を見ていました。寒さは感じませんでした。きょうりうよけのたき火をかこみながら、ホルモン氏はパシロ~に接待されていました。
「あなた様は、なかなか見込みがありますな~」パシロ~が分かり易いお世辞を言いました。
「ぐっへっへっ、まんざらでもない。もっと褒めなさい。何十円でもやるぞ!」ホルモン氏は、おだてに弱い様子でした。
「うけけっけ~。ちきうは、あなた様を中心に回っております」
「うすうす気づいておった。ぐへへっ。ワシが地軸じゃ」肉や魚を食い散らかしながら、グビグビグビリとドリンクを飲み倒し、ホルモン氏はすっかり得意になっていました。
「(自分が『地軸』などとは・・・。何という思い上がりだろう・・・。『望月の歌』を詠む勢いだ・・・)」と、思いました。私はたまらず質問しました。
「ホルモンさん、あなたはどうやって帰りますか? 帰り方は、ご存知でしょうか?」すると、ホルモン氏はジロリとこちらをにらんで、ズケズケと近寄ってきました。
「ん~? あ~? お前は、今の自分の立場が分かっているのか?」
「・・・私は、あなたを助けにきました。大将から言われました」
「ん~? あの馬親父が? どーだって、いいんだよ。そんなことは。俺はVIPだからな! 特別待遇なのさ!」と、そっぽを向きました。
【VIP】特別な待遇を受けられる人物のこと。Very Important Personの略。通常よりもお金を多めに支払えば、特別のサービスを受けられる店が多いという。
「ぶひっ」鼻を鳴らし、こちらに向き直り、そしてまたそっぽを向きました。そして考えがまとまった様子でこちらに向き直り、私の肩を抱き、臭い息を吐きながら、
「おまえは帰り方を知っているのか?」と聞いてきました。
「知っています。アナタが一人で無事に帰れるなら安心しました。私は、あなたを連れて帰るのをあきらめました」と言うなり、態度が270度ほど変わりました。
「ならば、大人しくしておけよ。アイツをだまして、特別にお前を助けてやるよ。恩を忘れるなよ!」と言って、半分焦りながら私の腹をグリグリ小突きました。
「あまり食べ過ぎない方が良いですよ」と忠告すると、
「っるせえ! タダでたらふく食える時に、しこたまガッツリ食うんだ!」といきどおりました。
「『豚は太らせてから食べろ』と言います。食べ過ぎは危険ですし、たくさん食べさせられることにも注意が必要です」
【豚は太らせてから食え】ユダヤ発祥のイギリスのことわざだという。食べられる方は、たまったものではありません。ほとんどの場合、接待ではないかも知れません。甘い言葉には注意しましょう。
「心配してくれて、あ~りが~とよ~」と言って、私のほっぺを右手でつねりました。そして左手も加わり、左右に引っ張られたので、顔の幅が三倍になりました。
「なぜ、そんなことをするのですか? ・・・あなたを、おいて帰ってもいいですか?」
「・・・少し待っとけよ。ぺっ。お前と話していると飯がまずくなるよ! ぺっ」とツバを吐き捨てながら、食事に戻りました。
「いつまでも、何をしておる!」パシロ~が声を荒げました。
「へいへい、すみません。便所の場所を聞かれました」
「うけけっけ~、もらさせておけ!」
「それもそうですね・・・へへっ」ホルモン氏はもみ手をしながらへつらいました。
「今度、ワシね」と言って、誉める側と持ち上げる側が交代しました。
「最近の物価高はけしからん! しかし、ワシにも出来ないことはある! マヨネーズ一本の値段まで操作できるか!」ホルモン氏はいきどおりました。
「まったくその通りでございます。しょみんはその辺をわきまえるべきですっけっけ~」
「ぎょうしゃに圧力をかけるまでだ!」
「ホルモン様に逆らってはいけませんっけっけ~」パシロ~はコビへつらいました。
「今度、ボクね」と言って、誉める側と持ち上げる側が交代しました。
「こなた様も、かなた様も、私の働きを見ておられない! うけけっけ~けしからん!」
「まったく、パシロ~様の活躍がかすんでおります」ホルモン氏のもみ手は上手でした。
「一体いくつの活躍がなかったことになったものか!」
「次の人事異動が楽しみです。二階級特進もありえます」
「それは、あげ過ぎじゃがのぅ~、うけけっけ~!」
「わっはははは!」ホルモン氏とパシロ~は、どちらの立場が上なのか分かりませんでした。交代で誉めあって、威張り合っていました。月がいつもより丸く、明るく輝いていました。月の下半分が涙でにじんでおりました。情けなく感じましたが、悔しくはありませんでした。ヒトを信頼した結果なのです。今度はもう少し慎重に行動したいものです。何か変わるかも知れない、私は猫忍法『擬人化』を使ってみました。
「猫忍法『擬人化』~」するとお月さんに顔が現れました。
「よぉ! ねこた、初めてだな!」
「初めまして、月さん」
「何でぇ! しょぼくれやがって! お前には似合わないぞ!」
「すみません、こんな顔を見せてしまって・・・」
「お前、惑星たちと話したとき、俺を素通りしたろ? さみしいじゃねぇか!」
「ごめんなさい。そんなつもりはなかったのです」
「まぁ、いいや! 俺は今日はご機嫌なんだ!」
「それは、良かったです」
「困っているみたいだから、助けるよ!」
「ありがとうございます!」
「Encourage you anytime!(いつでもあなたを励まします)」と言って、キラキラ輝きました。
「今日は満月です。お月様、とってもきれいです!」
「ふふっ。今日は満月だ。だから俺は今フルパワーだ! つまり俺は、ラッキー月だ!」
「英語でも、日本語でもツイているのですね。素晴らしいです!」
「誉めてくれてアリガトよ! 手は貸せんが、アイディアはあげられるよ!」
「どうすれば、いいですか?」
「何か、自分に出来ることはないか? 一つ忘れているぞ!」
「・・・何だろう?」私は考え込みました。そして思い出しました。
「! ありました! ありがとうございます!」
「ふふっ。今度、遊びに来いよ!」
「お土産を持って行きます!」月さんは、欠けはじめました、するとお話も出来なくなりました。
「鳥獣入魂~」小声で言うと、先ほど描いたコビトがととと、とやって来ました。
「ゴメンね。腕が一本しかないからなんぎだね」コビトは片手をふりました。
「(そんなことないヨ!)」と言う意味だと思います。一晩中時間がありました。試しにコビトを動かして、色々な絵を描いてみました。
「(コビトは腕が一本しかないから、上手に描けないな・・・。違うのを描いてみるか・・・)」コビトは枝を落としたり、持ち換えたり、地面に線を描いては悩み、どこから手をつけようかウロウロしていました。だからとても時間がかかりました。
「(もっと簡単なやつにしよう。こんちうなら大丈夫か? 8の字を描かせよう。目玉が2つ。足はたくさん・・・。よし! これでいい)」完成したこんちうを動かすことにしました。
「鳥獣入魂~!」小声で言うと、ムカデこんちうが産まれました。小さいので目立ちませんでした。
「(ふふっ。一つ完成した。他にも色々描かせよう!)」そして、準備は整いました。パシロ~とホルモン氏は、食べ疲れて寝ていました。月明かりが綺麗だったので、きょうりうに見つかるのが心配でした。
「ぐっも~にん!」太陽さんが姿を現しました。希望の朝です。有り難い一日が始まりました。皆さん太陽が好きなので、太陽SUNと英語でまで敬意を払うのでしょう。
「どすっ、どすっ」日の出とともに、肉食巨大きょうりうがやってきました。5匹、6匹、・・・、10匹以上いました。ピンチです。まずはパシロ~とホルモン氏の反応を見てみました。縛られているふりをしていましたが、すでにムカデこんちうに描かせたカマキリこんちうに縄を切らせていました。
「うけけっけ~。ヤバい! きょうりうだ!」パシロ~があわてました。
「おやびん、どうしますか?」ホルモン氏は、パシロ~に指示をあおぎました。
「コイツをエサにして逃げようっけっけ!」エサに指名されたのは、私でした。スタコラサとパシロ~は逃げ出しました。
「合点承知! トンズラー」ホルモン氏は、軽薄で軽快な足取りで逃げました。二匹を尻目に、私は猫忍法を発動しました。
「鳥獣入魂~!」地面から、モリモリと土が盛り上がり色とりどりの獣たちが産まれてきました。既に自由の身である私は、ハチドリに乗ってきょうりうたちから無事に逃げきることが出来ました。
「ぐえ~~っ。アイツ飛べるのか~? ず~る~い~!」ホルモン氏は、うろたえていました。私は、産み出したこんちうたちできょうりうをけしかけ、パシロ~に突進させました。
「おまえ、ギセイになれ!」と、パシロ~はホルモン氏を転ばせて逃げました。
「すってんころりん」と、ホルモン氏は転びました。私は、ハチドリを
「ひゅ~~~~っん」と飛ばせ、ホルモン氏を背中に乗せました。
「たすかった~! ア~リガ~トよ~!」ホルモン氏は手のひらを綺麗にひっくり返しました。その時、
「バチバチバチ~」と、ハチドリと私たちに衝撃が走りました。地面に叩き落された私たちの目の前に、パシロ~と二人の人間型悪魔が立っていました。
「パシロ~や、何かとご苦労であったの~」女性に見える悪魔がパシロ~に言いました。
「ありがとうございます。サキュバスさま」
「その名は言うな。こなた様と呼びなさい」
「承知しました。レインボーこなた様」サキュバスと呼ばれた悪魔の持っている杖から衝撃波が放たれたのでした。
【レインボー・こなた】ヨーロッパでは、霊的な存在ともされるサッキュバスのこと。八頭身の美女の部類に入る外見で、二十代後半くらいに見えるが何千年生きているか分からない。腰まで伸びた長い青い髪に全身赤色のコスチュームを着ており、蝶のようなカラフルなヒラヒラが服に沢山ついているので女子プロレスラーのようにも見える。「闘う熱帯魚」と言う表現が適切であろう。そのいでたちに似つかわしくないドラゴンのものに見える緑色の羽があり、二本の黄色い角が生えていました。
「なかなか見事な豚ではないか」男性に見える悪魔がパシロ~に言いました。
「食べごろでございます。インキュバスさま」
「その名は言うな。かなた様と呼びなさい」
「承知しました。レインボーかなた様」
【レインボー・かなた】同じくインキュバスのこと。身長が高く男前で、二十代半ばに見えるが、何千年生きているか分からない。国境を越えて活躍している俳優のような雰囲気に見えるが、色白で目元が軽薄なので「無責任の塊」の印象を与える。漆黒のスーツに身を包んだ紳士に見える。女性とドラゴンのものに見える緑色の羽があり、二本の黄色い角が生えていました。
「このネコは邪魔だのぅ。パシロ~や、食べてしまいなさい!」こなたが命じました。
「美味しく頂きます!」と言って、私に突進してきました。私は、三人めがけてクラッカーを放ちました。
「猫忍法『二兎追うものは、三兎得る!』」
猫忍法【二兎追うものは、三兎得る!】
「二兎追う者は、一兎をも得ず」(ウサギを二匹追っかけるものは、一匹も得ることが出来ない)ということわざがあるが、令和の時代では、コストパフォーマンスとタイムパフォーマンスが重視されるので、同時に沢山手に入れることが推奨されている。決して欲張りの意味で使ってはいけない。
「すぽぽぽ~ン!」クラッカーは、10mほど飛びました。かなたとこなたには避けられましたが、パシロ~だけ捕獲出来ました。
「ほかくせいこう!」
「かなた様~、こなた様~、うけけっけ~」と言いながら、パシロ~は、ビンの中に縮小されながら封印されました。
「そのクラッカーは、われわれ夢喰い魔を捕獲出来るのかえ?」こなたが驚きながら聞きました。
「出来るとも! お前たちに触れさえすればよい!」私は高らかに答えました。
「う~む、何としてくれよう。しかし、クラッカーは、一発しかないようだの。お前の負けだ!」こなたが言い放ったので、私はめげずに言い返しました。
「予算の都合だ!」
「ど~~ん!」と、レインボー姉弟を威圧しました。その一瞬のためらいを私は逃しませんでした。こなたが杖を構えた途端に、私はヨロヨロのハチドリに乗ってホルモン氏を連れて逃げました。
「低予算でご苦労なことだ!」と、こなたは叫びました。
「ぎゅっいい~~~ん!」私は、猛スピードで逃げました。
「おのれ! 逃がすか! パシロ~を返せ!」とこなたが言いました。
「彼方に飛んでいけ!」とかなたが杖を振ると、こなたがプテラノドンの背中に飛ばされました。こなたがプテラノドンを操りながら杖を振りました。
「此方へ飛んで来い!」と言うと、かなたがこなたの後ろに瞬間移動しました。たて続けに、
「かなた!」と言うと、こなたが別のプテラノドンの背中に飛ばされていました。
「(アイツら、杖で飛ばしたり、引き寄せたり出来るのか?)」私は、いぶかりました。
「ぐえっ! 何だ、アイツら! 飛んだり、くっついたり、空中で移動しているぞ!」ホルモン氏が騒ぎ始めました。
「落ち着いてください! 何とかしますから!」
「できるわけねぇだろ! 一緒に死のうぜ! さみしくなんかないさ!」
「・・・(豚としんじゅう)・・・」
【豚としんじゅう】好ましくない相手と一緒に死亡すること。願わくば、避けたいものです。
「(これは、使いたくないな~)」新しい猫忍法が出来ましたが失敗作でした。
「うるさいから、チョット寝ててね」私がホルモン氏に首チョップをすると、ホルモン氏は気を失いました。ネコの手で気を失うとは、なんじゃくなお方です。
「(このヒト、VIPなんかじゃないんじゃないか?)」
その様子を、案内人が遠巻きに見ていました。
「ねこたさんを助けないんですか?」リコさんが聞きました。
「助けることは、いつでも出来る。今はねこたさんの底力を見てみたい」
「・・・そうですか・・・」
「他人の救い無しで、自力で拓けた道は本物の道だ。自信につながる」
「・・・そうですね・・・」リコさんは、ねこたが心配で仕方がありませんでした。
「お客さんを危険な目にあわせてしまっている。わたしは案内人失格だ。しかし、話では聞いていたが、夢喰い魔一族を直接見たのは初めてだ。勉強させていただこう」と言って、ぶわっさ、ぶわっさと飛び立ちました。
「行っくよ~」と言って、こなたがプテラノドンで体当たりしてきました。
「どっしん!」ハチドリがよろけました。
「どわっ!」私は、危うくビンを飛ばすところでしたが耐えました。
「今度はこっちだ!」と言って、かなたがプテラノドンで体当たりをしてきました。
「ぶわっ!」ハチドリは砕け散り、私たちは空中に放り出されました。
「やった~!」レインボー姉弟は、歓喜の声をあげました。
「鳥獣入魂~!」と言って、私は巨大クジラを出しました。クジラは私たちを背に乗せて優雅に飛びました。驚いたプテラノドンたちが、騒ぎ始めました。かなたとこなたが乗っているプテラノドンだけが、その場に残りました。こなたが杖を振ると、
「びゅわっ!」と、クジラが消え去り、私たちは地面に投げ出されました。
「(ダメか~!)」と思いながら私は、身軽に着地出来ました。一方のホルモン氏は尻から落ちて、目をさましました。そしてキョロキョロしながら状況を確認し始めました。周りはきょうりうだらけです。このままでは危険です。私たちが美味しく食べられる「肉祭り」が始まるのを待つばかりでした。
「勝負あったわね!」かなたとこなたが私たちの前に立ちはだかりました。そして、こなたが杖を構えると、私に向かって振り下ろしました。
「覚悟しなさい!」
「(ぐわっ! やられた! 死んだ!)」と思いました。しかしその時、突然地震が起こりました。
「神の怒りの苛烈さを知れ!」と言う野太い声とともに地面が揺れ、私たちは全員転びました。辺りにいたきょうりうたちは驚き逃げてしまいました。
「ぐわら、ぐわららら~~~!」向こうで火山も噴火しました。
「ずっど~~~~~っん!」と、雷がなれば天変地異の完成でした。
「突然、何ですの?」こなたがうろたえました。
「何だ? 何だ? 地震か?」かなたが動揺しました。二人とも、地面に這いつくばっていました。
「う、動けんではないか!」こなたは動揺していました。
「ね~さん、動けないよ~」かなたもひれ伏していました。
「ねこたどの。大変お待たせしました。遅れて申し訳ありません」現れたのは、金色と赤色に輝いたシソチョウにも見えるマスクを被った鳥型の紳士でした。
「わたくしは、原始時代担当のキョウリウ・アスリウです。以後お見知りおきください」私は立ち上がってお礼を言いました。
「助けて頂き、ありがとうございました。死ななくて済みました。この地震はアスリウさんのお力ですか?」
「はい。その通りです。普段は、興奮したきょうりうたちに対して使います。ですが、このように魔族が悪さをしたときも効果的に使えます」身動き出来ない魔族たちは黙って、私たちの話を聞いていました。
「私の杖の能力の一つである『神の怒り』は、大地を震わせ、威嚇して、その場にいる全員の動きを少しの間だけ止めることが出来ます。時間停止の能力があります。少し時間を頂きましょう」アスリウさんは、状況を整理し始めました。
「大将から、話は聞いております。ゆきおさんの追っかけのホルモン氏を追いかけて、使い魔のパシロ~がこの時代にやって来ました。パシロ~の知らせで、夢喰い魔一族の一派ナイトメアのサキュバスとインキュバスがやって来ました。この二人は、七色の変身能力を持つレインボー姉弟なのです。二人は、ホルモン氏の豊かな精気を吸い取るためについてきました。ねこた氏の活躍により、そのもくろみは阻止されました。今、目の前で姉弟は私の裁きを受けようとしています! 間違いありませんね?」と言って、レインボー姉弟を睨みました。
「これより、お前たちに『神の裁き』を下す。三つの裁きのうちのどれか一つが下されるので覚悟しなさい!」アスリウさんは、掌を見せ親指を一つ曲げました。
「一つ『神の雷』は、裁きを受けるものに身体的な苦痛を与える。体の痛みは延々と続く。3桁年間反省するが良い」アスリウさんは、人差し指を曲げました。
「二つ『忘却虚無』は、記憶が消され何度も生まれ変わらせられる。2桁回生まれ変わって反省するが良い。人生が軌道に乗った時に生まれ変わりが発動する恐ろしいものだ」アスリウさんは、中指を曲げました。
「三つ『星流しの刑』は、惑星のどこかに流されるが、行きつく先が太陽系とは限らない。『もう死ぬ』と言う経験を1桁回繰り返し反省しなさい。飛ばされるのが、心地よく生きていける星だと良いのぉ~」言い終わるとニヤリと笑みを浮かべました。かなたとこなたは身震いをしました。アスリウさんは杖を構え、
「罰を下す! 神の裁きを受けよ!」と、杖を振り下ろしました。
「くっ! 作戦は失敗ね! 退却だ!」とこなたが言いました。
「かなた!」と言って、かなたが杖を振ると、こなたは姿を消しました。どこからともなく、
「こなた!」と言う声が聞こえ、
「またな! くそネコ! 借りは返すぜ!」と言って、かなたも消えました。
「逃げられてしまいましたね。弟のかなたは、相手を遠くに飛ばすことが出来ます。姉のこなたは、相手を引き寄せることが出来ます。二人そろわれると厄介なのです」
「パシロ~だけ、捕獲出来ました」私は、ビンを抱えて言いました。
「今回は、それで良しとしましょう。魔族を捕獲できたのも初めてなのです」アスリウさんが言いました。
「そうなのですか・・・」私は、意外に思いました。
「ドイツも、コイツも! 消えやがった! これが本当の『トンズラー』だ!」ホルモン氏が騒ぎ始めました。
「ちょっと、ゴメン!」と言って、私はホルモン氏に首チョップをしました。
「いて~よ、いて~よ、ど・いて~よ~~~~~!」気絶しなかったので、パシロ~を捕獲した『はちみちゅ』のビンで、ホルモン氏の頭を
「ごすっ」と一発どつきました。そして気絶させました。
「痛くないハズなのに、にぎやかな方だ」私は、少し落ち着きました。
「賢明な判断ですな。この人物は、何かとトラブルメーカーなのです」
「まぁ、個性的な方ですから、仕方ありません」
「騙されて、利用されたのにお怒りでない。懐の深いお方です」
「まぁ、無事に帰れそうなので、問題ありません」
「お怪我はありませんか?」
「大丈夫です。それよりも、身を守るためとは言え、きょうりうをナイトメアたちにけしかけてすみませんでした」
「? 変わったお方ですね。ご心配いりません。ここは、弱肉強食の世界です。ここに来るお客様方は、きょうりうどうしを戦わせて興奮を味わいたい方ばかりです。ここでは戦いは、日常茶飯事なのです」
「さようでございましたか・・・」
「本来は、化石を組み合わせて、個性的なオリジナルきょうりうを復活させ、それで戦わせる場所なのですが、戦いを好まない方もいらっしゃいます」
「はぁ、・・・」
「オリジナルの翼竜や魚竜を作られて、それに乗って大自然を駆け回って楽しまれるお客様もいらっしゃいます」
「なるほど!」
「お楽しみ方は、ヒトそれぞれです」
「今度は、プライベートでお邪魔します」
「お待ちしております」
『ごまんたる』で目覚めた紳士と淑女のカップルは、寝ていたテーブル席からがばっと起き上がると荷物を持って、店から走って出て行きました。星の数で格付けされるような店に通うお客さんの服装でした。正直な話『ごまんたる』には場違いでした。
「てきとうに、マズかったぜ~!」と、男性客は捨て台詞を残しました。
「また来てあげるかも知れないわよ~! 気が向いたらね~!」女性も負けてはいませんでした。
「待て! 食い逃げだ!」と言って、大将は追いかけましたが、熊の姿だったのでスタミナ切れで逃げられてしまいました。二人は外に出た途端に、緑色の翼を羽ばたかせて飛んで逃げました。
「くっそー! 逃げられた! 警察に連絡だ。防犯カメラを確認しよう!」店に帰って、席を片付けていると一万円札が二枚出てきました。
「釣りはいらねぇ!」と、殴り書きがされていました。
「くっそー! これでは、警察に被害届を出せねぇべ。次に来たときに変装されていたら捕まえられねぇ!」大将は悔しがっていました。
これから会議が始まるというタイミングで、ホルモン氏は目覚めました。
「ん? おろ? 皆さんお揃いで、どうしましたか?」大将が口火を切りました。
「ホルモンや、ツケをしっかりと払うだべ」
「い~よ、この間競馬で123万8231円勝ったんだ!」
「なら、全部払えるべ。ツケは、52万4721円だべ」
「はいよ」と言って、ホルモン氏は、37万1052円払いました。
「ん? 全部払えるべ?」
「ダメだよ。全部精算すると、この店に出入り禁止になる。それは嫌だ」
「んでは、残りはいらねぇ。お前は次から出入り禁止だべ」
「それはね~よ~。あと追加で、2万32円払うよ。許してくれよ!」
「何で、面倒な金額を払うだか?」
「だって、簡単に計算されると悔しいじゃないか!」
「・・・」皆さん沈黙してしまいました。しゃべれば喋るほど、このヒトの人格が伝わってきます。
「お前の、そういうところが嫌いだべ」
「俺は、この店が大好きさ! おっさんも、そこそこね」と言って、ホルモン氏はチラリとリコさんを見ました。
「リコさん今日は、狸なの~。可愛いね~」
「あら、アリガト」リコさんは、そっけなく答えました。
「こうやってメガネの端っこで見ると、リコさんが二人に増えるんだ。歪んでいる方が可愛いときがあるから、それがたまらないんだ~」ホルモン氏は、堂々と失礼なことを言いました。
「あなたは、言わなくてもいいことを言って、ヒトを不快にさせるわね~。お願いだから、もう喋らないでよ!」プイと向こうを向いてしまいました。
「また、珍獣パークを案内してよ~。歴史体験でもいいんだ~。デートしてよ~」
「スケジュールがあえば、考えておきます」と言って、ブッツリと会話を切りました。すると今度は、アスリウさんに向かって、
「アスリウさん、今度はついて来てよ~。きょうりうの世界は一匹じゃ不安だよ~」
「お断りします。アナタは私から杖を奪い身動きを封印しました。そして星流しの刑を実行しようとしました。私は、アナタを許すことが出来ません。正直な話、今回はあちらの世界で死亡していただきたかった。そうすれば、きょうりう世界へは出入り禁止になります」大将も、リコさんもドン引きしました。私も話を聞いてウンザリしました。
「お前、そんな悪事を働いていただか!」ホルモン氏は、必死に否定しました。
「違うんだよ! 悪いのは俺じゃねぇ。俺の常識に好奇心が勝っちまったんだ! 悪いのは簡単に負ける俺の常識だ! 好奇心は、この店の中で一番重要視されるはずだ!」
「ナイトメアが現れなければ、お前は、放ったらかしだったべ・・・」大将は吐き捨てるように言いました。
「そんなこと言わずに、また次も助けてよ~。ツケは、近いうちに払うからさ~」大将は、苦虫をかみつぶしたような顔をしていました。
「・・・、そんだばツケは、残り13万3637円だ。確定申告しなけりゃなんねぇべ。迷惑ないように払うだべ」
「わかったよ~。競馬で儲かったらね~」と言って、ホルモン氏は席を立ちました。
「さ~て、クソして寝るか。起きてからクソをするか。今日最大の悩みだぜ!」と言って、帰りました。
「・・・」私たちは、ただただ沈黙していました。
「あれでも、現実世界では立派な政治家らしい。不動産屋からのし上がったみてえだ・・・」大将がつぶやきました。
「現実世界は関係ないわね。お店では、お店のルールがあるから」
「そうですね。私たちには関係ありませんね」アスリウさんも納得しました。
そしてその後、大将、リコさん、アスリウさん、私で緊急会議が開かれました。他の案内人さんたちには、後日決定事項が伝えられるそうです。
「おじい様、やはり私ではなくスイトルさんが、この会議に参加した方がいいと思うの」
と、リコさんが言いました。
「そんなことは問題ないべ。これはスイトルさんの意志だべ」
「スイトルさんの?」
「スイトルさんは、案内人で一番高齢だべ。余生はのんびり案内人をやりたいんだと言ってたべ」
「・・・」
「給料も一番高い。もっとも、受け取ってはいないが・・・。今は、ほとんど無報酬だ・・・。案内人の仕事は趣味でやりたいと言ってくださった・・・」
「・・・」
「そして、若いお前たちに、活躍の場を作って欲しいと仰っていたべ」
「・・・」
「だから、気にせず働いて、気にせずに活躍するだべ」
「分かりました・・・」リコさんが納得したところで会議は始まりました。
「『ごまんたる』は、夢喰い魔一族の標的にされたかも知れないべ」大将が言いました。
「しばらく大人しくしていましたが、活動を再開させましたか・・・」アスリウさんが言いました。
「『ヒクマニア珍獣パーク』は、やはり魔族の仕業でした。精気を吸い取られると、悪意に満ち溢れるのです。態度の悪かった動物たちは、精気を吸われていました」リコさんが言いました。
「『ごまんたる』では、食後に眠るから、お客様を狙いやすいです」アスリウさんが言いました。
「魔族を退治するには、夢の中でなければいけませんか?」私は、質問しました。
「あぁ、そうだ。現実世界では、一般人と魔族の見分けがつかねぇ。厄介だが、あっちの世界で捕まえるしかねぇ」
「あっちの世界で捕まえても封印出来るか分からないわ!」リコさんが言いました。
「あっちの世界で死んでしまうと、二度と立ち入れないだけですからねぇ」アスリウさんが言いました。
「そんな決まりがあるのですか。向こうの世界で死んでしまえば、出入り禁止になるだけですか・・・」
「お店の中で、やっつけるのはどうかしら?」リコさんが言いました。
「現実世界では、それは出来ない。立派な傷害罪だ。他のお客さんと見分けがつかねぇし」
「う~~~~~ん、・・・・」長い沈黙が続きました。
「地道ですが、魔族が現れそうな場所を巡回警備してはどうでしょう?」私は提案しました。
「ホルモン氏は狙われております。ですが正直な話、ホルモン氏と同行できる方は限られております・・・。今の通り、彼が苦手な案内人が多いです・・・」アスリウさんが言いました。
「それでは、こうしてはどうかしら? ホルモン氏の扱いが上手なヒトが、担当するの。何よりも、そのヒトは、初めて魔族の捕獲に成功したわ!」リコさんが言いました。
「精神が強いし、性格も真っすぐだ。問題ないべ!」大将が言いました。
「意見が一致したようですね」アスリウさんが言いました。そしてみんなが一斉に私を見ました。
「適役ね」リコさんが言いました。
「ねこた、お前しかいねぇ!」
「ゆきおさんも、ホルモン氏も自在に扱える適役かも知れません」アスリウさんが言いました。
「ワニゾウさんは、どうでしょうか?」私は質問しました。
「うちう空間と、魔族はほとんど関係ないからね~」リコさんが言いました。
「・・・はぁ・・・。私は、自由物書き(フリーライター)です。時間にゆうずうがききますが、いつでもお店に来れるわけではありません」
「飽くまでも、お前さんが暇なときでいいべ。現実世界の生活を最優先するべ」大将が言いました。
「魔族が現れたら、そこの時間と空間にねこたさんを送り込むの。案内人もサポートするから大丈夫よ!」リコさんが言いました。
「ぶつかっても、叩きのめされても、ケガをしませんから大丈夫です! お腹もすきません。案内人は時間を操れます! そしてあなたには誰も使えない猫忍法があります」アスリウさんが言いました。
「お客様方は、ここで半年過ごすことも珍しくねえべ。そんな物好きな客はゆきおしかいねぇが」
「あなたが来るまで、魔族を足止めしておくことも出来るわ。十年でも二十年でも」
「解決したらもとの時間軸に戻し、お客様が出発した時間の少し後に戻すことも可能です。だから時間的なロスはありません」
「ねこたが、間に合わなくても、他の案内人が解決できるかもしれねえべ」
「だから安心して! アナタは、クラッカー一本と蜂蜜の小瓶一個で魔族を捕獲できたのよ! どれだけ優秀なのよ!」という訳で、私はごまんたるでアルバイトとして働くことになりました。
「ねこたさんは、特別な存在かも知れませんね~」
「だって猫田銀杏でネコ隊長なのよ! ウッケる~」
「わっはっは!」
「案外、ねこたを中心に世界は回っているかもしれないべ」
私は、パシロ~とホルモン氏の言葉を思い出しました。
猫忍法【地軸】何ごとも順調に進んでいるからと言って、自分が中心ではありません。うぬぼれに注意しましょう。
「(使うときは、注意が必要だ)」とねこたは思いました。
私は、慎重になって問題点を指摘してみました。
「クラッカーは、10mが限界でした。私は、一本しか持っていませんでした。射程ももう少し長い方がいいかも知れません」私は不安の塊でした。
「よし、改良してやるべ! 50m飛ばせるようにするべ。捕獲範囲も広げるべ! 連射機能もつけるべ! めんどくせぇからマシンガンタイプにするべ! 捕獲ビンは、獲物が縮小するように改善して、50匹入れられるようにするべ! 他に武器はいるべか?」
「考えておきます・・・」
「何でも言え、すぐに作ってやるべ!」
「おじい様なら、簡単ね!」
「戦車にするべか?」
「鳥獣戯画があるから、かぶらないほうがいいかも・・・」
「ねこたさんに、手裏剣を持たせてはいかがでしょうか? まきびしも作ってみましょう」
「地味ね~」
「良し、作るべ。ねこたに持たせて遊ぶべ。メニウに猫忍者コースを作るべ」
「意表をついて、全員眠らせる道具はどうでしょう?」
「自分も寝てしまうんじゃない?」
「夢の中で寝たら、訳が分からなくなるべ・・・」
「ねこたさんに、ビームサーベルと、金属盾を持たせて、ミサイルも発射させてはどうでしょう?」
「お店に、そんなコースあったかしら?」
「なかったら、作ればいいべ。うちう戦争コースはどうだべ?」
「なかなか面白そうですね」
「ワニゾウさんの担当ね」
「あ~でもない、こ~でもない、そ~でもないから、ど~でもないべ」
「つまり、何でもないわね」
「真理はいつも、簡単です。難しく考える必要はないかも知れません」
「・・・」ドンドン話が広がってしまいました。
「店内の5番ボックス席を部室にして、魔族探偵部を起ち上げましょう!」リコさんが言いました。
「いいだべ。『ごまんたる探偵部(detective)』創設だべ」
「部長はもちろんねこたさんです」アスリウさんが言いました。
「キャプテンねこたの誕生だべ! 給与も出すし、待遇も改善するべ!」という訳で、私は部長に任命されてしまいました。
「各方面に連絡します」アスリウさんが言いました。私はアスリウさんに確認したいことがありました。
「私がお会いした限りでは、案内人の中で一番強いのはアスリウさんだと思います。アスリウさんが部長ではいかがでしょうか?」
「・・・」全員に沈黙が走りました。踏んではいけない地雷を踏んでしまったのかも知れません。
「何か、お気に触りましたか? 知らないこととは言え、失礼しました・・・」私は不安になりました。
「いえいえ、問題などありません。魔族と全面戦争になりましたら、当然、先頭に立って指揮をとらせて頂きます。今の段階で問題なのは、あくまでも魔族の捜索なのです。私も魔族を直接見たのは初めてなのです。久しぶりに魔族が現れたと言うので興奮しました。しかも捕獲できたのは初めてです!」
「店も、魔族と闘う態勢が必要だべ」
「まずは、案内人たちの結束が必要だわ」私は、もう一つ質問したくなりました。
「夢の中で死んでしまったら、二度と行けなくなるのですよね?」
「ん? そのことか。何度も行けるようにするか? 残機を1万にするか? こんぴーたーゲームじゃあるまいし」
「そんな話あったわね~」
「猫が何度も生き返る話ですね」盛り上がりそうなので、命を増やす話をためらいました。
「いや、そこまでは・・・」
「考えとくべ、命なんざ気にする必要はないべ。所詮、夢の中の話だべ」大将は、ヒトごとのように言いました。
「・・・なるほど、分かりました。出来る限り協力させて頂きます」
「決まりだべ!」こうして個性的でのどかな飲食店は、何ものかと闘うことになりました。出来れば魔族には来てほしくありませんでした。そして私は、最後に一番聞きたくない質問をしました。
「夢喰い魔一族は、レインボー姉弟以外にもいるのですか?」
「あぁ、ごまんといるべ!」
「! あぁ、・・・ごまんたる、べ・・・」私は、緊張と興奮で説明できない感情の昂ぶりを感じていました。
第八話「タベロニア空中庭園編」に続く




