第五話「ヒクマニア珍獣パーク」
先週のゆきおさんのコンサートの興奮が、まだ冷めていませんでした。だから本日は、予定よりも30分ほど早く店につきました。私は、今週のゆきおさんとの約束を心待ちにしていました。店に入った時は、白いペルシャ猫の姿でした。
「ガラガラ・・・」と言いながら、戸を開け店内に入りました。
「へい! っらしゃい。 よぉ! 猫のねこた!」虎の大将は元気よく迎えてくれました。
「今日もお世話になります」
「5番ボックスで待ってるよ」と言われて行ってみると、ゆきおさんは既に突っ伏して寝ていました。
「よっこらしょ、しずしず・・・」と席に着きました。5分ほどメニウを見ているとゆきおさんが目覚めました。
「おはようさん・・・」鉛筆のような一本線の目がくわっと見開き、何かを威圧しながら体を起こしました。
「おはようございます。お水をどうぞ」とコップを差し出しました。
「ぐびぐび、グビリ!」と、親の仇のような激しい飲みっぷりでした。
「おちついてください」
「ぐえっぷぅ~、おちつきました」と言いながら、
「ぶほっ」とデカい一発を生み出しました。
「失礼しました。親しき仲にも礼儀を忘れてしまいました」
「おならでないと思えば我慢も出来ます。大丈夫です」ぶしつけな振る舞いに、不快を覚える方もいるでしょう。ですが、私はねこたでした。全てが新鮮な体験でした。これから、このヒトとの関係性を作り上げていくのです。まずは、何事も観察しなければいけません。何せこのヒトは、伝説の『ゆきっぱ男』さんなのですから。
「ごはんはどうしますか?」
「さきほど食べたので、デザートだけ頂きます」ゆきおさんもメニウを見始めました。
≪銀河系・ステキ体験コース・13光年≫
≪珍獣系・あなたもわたしも稀少価値コース≫
≪なんだっ系? たあいのないきおくコース≫
注文は初めから決まっていたので、おさるのお姉さんを呼びました。
「珍獣系・あなたもわたしも稀少価値コースをください」私は注文しました。
「タスマニあんぱんと、ミルクセーきせきの味をください」ゆきおさんが、注文しました。
「はい」と言って、おさるのお姉さんは、ととと、と行ってしまいました。初めて注文されるコースなので戸惑っていました。
≪珍獣系・あなたもわたしも稀少価値コース・13種≫
◎ドリンク:ティー茶
◎メイン・メニュー:
・ダーウィンナーソーセージ
・がらぱごステーキ
・シートン汁
◎サラダ:おおげサラダ
◎デザート:
・ファーブルーベリーヨーグルト
メニウを見て、興奮がおさまりませんでした。
「(一体何が起きるのでしょうか?)」
「(ふふふ・・・。体験したことのない物語が始まります)」ゆきおさんが腹話術で教えてくれました。食事を楽しみながら、今日の計画を確認しました。
「今日は、どのような遊びになるのでしょうか? 楽しみで仕方がありません」
「いままで見たこともない珍獣たちと触れ合えるはずです。大将の渾身の傑作です。『おどげでね珍獣パーク』を5年かけて改装しました」
「なっるほど、ナビゲーターはワニゾウさんですか?」
「いや、こけら落としなので、おそらく大将のお孫さんでしょう」
「お孫さんがいらっしゃったのですか。知りませんでした」
「いつも『マゴにもいっしょうけんめい!』と気合が入りますからな。孫なのか馬子なのか区別がつきません」
「どちらの意味で使われているのでしょうか、気になります」
「私をよくしかる、しおらしい方なので、おそらく前者です。性格は苛烈ですが、体型は華奢です」
「相反する特徴ですな」
「それが、個性というやつです。際立っていなければ、刺激にも薬にもなりません。もっとも、際立っていないところが魅力的な人もいますが・・・」
「なるほど、勉強になります」食事が終わり、まどろみかけようとすると大将に呼び出されました。
「ねこた、一応これを持っていけ」渡されたのは、巾着に入ったミニたっぱ二つでした。
「黄色い方は沢庵漬けだ。ゆきおの興奮剤だ。緑色の方は胡瓜漬けだ。ゆきおはこれで冷静になる。手が付けられないときに使いなさい」
「分かりました。お預かりします」と言って受け取りました。何が起こるのだろうと、私は冷汗が出ました。それでは、張り切っていきましょう。Dream in, Dream ing,ドリームイング … お休みよ~。
パチクリと目が覚めると、目の前に狐のお姉さんが座って私たちを見守ってくれていました。私とゆきおさんは、半径5mほどの小島のテーブル席に突っ伏して寝ていました。けっこう日差しが強く、日傘が差してあるので助かりました。そしてあたりは、見渡す限り海でした。海風が心地よく、突っ伏して寝てたゆきおさんも目をさましました。
「初めまして、鷲馬狸狐です」細身というよりは華奢で切れ長の目をした娘さんでした。
「初めまして、猫田銀杏です」一応、名刺を渡しました。そこに、ゆきおさんが加わりました。
「ご無沙汰しております。河童頭雪男です。今日は、よろしくお願いします」リコさんは、「ふんっ」と、鼻を鳴らしそっぽを向きました。そしてゆきおさんに向き直り静かな口調で、
「ゆきおさん、今日は暴れないでくださいね」といましめました。
「わたしが暴れたことがあっただろうか? いや、無い」と古めかしい言葉で否定しました。
「まぁ、良いですわ。さぁ、行きましょう!」というと、小島はプカプカ浮きながら移動を始めました。二分ほどで、大きな島に辿り着きました。
「あらかじめ、説明しておきます。今から行く『ヒクマニア珍獣パーク』は、絶滅したり種の進化の過程で出現するハズだった生物がたくさん存在しています。簡単に言うと、架空の世界です。私たちが何をしようと現在の地球に影響を与えません。何度か体験してもらったように、ここはちきうの一部です。ですが、くれぐれも乱暴な行動は慎んでください」
「わかりました」
「心得ているでござる」ふざけた返事をしたゆきおさんを、リコさんはにらみつけました。
「ジロリ」
「・・・心のゆとりジョークです」タジタジしながら、ゆきおさんはこたえました。
「ふんっ」さすがに、大将のお孫さんだけあって、このそぶりは大将そっくりでした。コクリと紅茶を飲んでいるリコさんをみて、ゆきおさんは、
「尻尾が立ってるよ」と指摘しました。
「尻尾ではありません。小指です。コ・ユ・ビ」と言いました。リコさんは、小指を立てて紅茶を飲む癖があったのです。そこで私は、ひとつ確認したいことがありました。
「リコさんは、ゆきおさんを怒っているのですか?」誤解を恐れたリコさんは、あわてて説明してくれました。
「いえいえ、そんなことはありません。このヒトは、パフォーマンス以外はやっかいさんなのです。注意していないと、何十時間も同じところにいるのです」
「(ははぁ、仕事を済ませ、早く帰りたいヒトなのだ。ごまんたるにいるのだから、仕事で手抜きはしないだろう。責任感から、ゆきおさんに手を焼いているのだ)」と、二人の関係性を納得しました。
「ここも他と同じように、触覚に関して、痛いとか、苦しいとか、寒すぎるとか、暑すぎるというマイナスの感覚は感じません。だからといって、過度な挑戦は止めてください。節度を持って、遊びましょう」
「は~い」私は、素直に返事をしました。
「心得・・・」ゆきおさんは、リコさんに、ジロリと睨まれ、
「分かりました」と腹話術で答えました。
「まずは、レベル1。それほど手はかかりませんエリアです。レベルの数は、ただの区域整理のためのものなので、特に意味はありません。気にしなくても大丈夫です」
「はい」質問する前に、私は納得しました。
リコさんは、しゃなりしゃなりと、しおらしく歩きました。私とゆきおさんは、大人しくついて行きました。リコさんの歩き方は、何かステキだと思いました。歩き方にすら気品があります。私たちが上陸したあたりだけ、雪が残っていましたが有り難いことに寒く感じませんでした。ここは、何かの領域みたいです。ペンギンさんたちがうようよ100匹ほどいて、三匹ほど近づいて来ました。くちばしこそ黄色いのですが、体毛は黒くあるべき部分が水色でした。
「どうすっぺ、どうすっぺ」
「どうすっぺ、なじょすっぺ」
「こうすっぺ、どうすっぺ・・・」
近づいて来て、私の周囲をウロウロし始めました。仕方なく、声をかけました。
「いかがなされました?」
「絶滅するか、存続するか、どうすっぺ、どうすっぺ」
「乱獲だ、捕獲だ、とにかくだ」
「なじょすっぺ、どうすっぺ、こうすっぺ」
アドバイスが欲しい様子なので、声をかけました。リコさんとゆきおさんは、私の行動を何も言わずに見ていました。
「絶滅などせずに、存続した方がいいですよ」先頭の一匹目がおおげさに反応しました。
「! そうすっぺ、そうするべ!」ペタペタくるん、ペタペタくるん。二歩歩いては、回転する仕草が繰り返されました。あまりにも不思議な仕草なので、見とれてました。
「そうすっぺ、あーすっぺ、そうするべ」
「どうすっぺ、こうすっぺ、そうするべ」
「なじょすっぺ、てをぬくべ、なまけるべ」
ペンギンたちは、再びクルクル私のまわりを回りながら、悩み始めました。
「仕事に行くか、休むか、どすっぺ」
「残業だ、育休だ、ゆうきゅうだ」
「肉球だ、過呼吸だ、無呼吸だ」ペタペタくるん、ペタペタくるん、ペタペタくるん。アドバイスするまで、同じ仕草を繰り返しました。
「どうすっぺ、こうすっぺ、そうすっぺ」
「なじょすっぺ、どうすっぺ、どうすっぺ」
「おしえてけろ、かまってけろ、やさしくしてけろ」
アドバイスが欲しい様子なので、声をかけました。
「なまけぐせがつくから、いやでも行った方がいいですよ」
「! そうすっぺ、そうするべ!」ペタペタくるん、ペタペタくるん。
「そうすっぺ、あーすっぺ、そうするべ」
「どうすっぺ、こうすっぺ、そうするべ」
ペンギンたちは、再びクルクル私のまわりを回りながら、悩み始めました。
「おやつは食べるか、我慢するか・・・。どうすっぺ、どうすっぺ」
「昼寝をするか、起きてるか・・・。どうすっぺ、どうすっぺ」
「考え事をするか、しないか・・・。どうすっぺ、どうすっぺ」聞いていると、しだいにどうでも良い悩みが増えてきました。彼らは、口々に唱えながら私のまわりをウロウロしていました。見かねたリコさんが言いました。
「さぁさぁ、悩みが解決したなら行きなさい」と言って、ペンギンたちを追っ払いました。
「あれは『どうすっペンギン』です。簡単に言うと、かまってちゃんなのです。『どうすっぺ』と口に出すと、まわりが構ってくれます。なんの解決にもならない問いを投げかけて、こちらが前向きな解決策を出しても大して興味をもちません。時間の無駄だから放っておいてもいいのです」
「なるほど~。かまってちゃんの新しい作戦ですね~」
「この島は、退屈なので、誰かが来るたびにああして遊んでもらうのです。ゆきおさんは放っておくと三日くらい彼らと遊んでしまいます」ペンギンと遊び始めたゆきおさんを、リコさんはなかば引きはがして先に進みました。
「平和な島ですね~」私たちは、てくてくととと、と歩いて散策を続けました。てくてく歩いて岩場を抜けると、丈の低い草原に出ました。
「次は、レベル2。少し困りますエリアです」
「このあたりは草原気候なのです。いわゆるサバンナです」リコさんが説明していると、まわりにヒョウ柄の黄色い体毛の獣たちが寄ってきました。せいうちをほうふつとさせる牙がやたらと攻撃的でした。
「よぉ、リコじゃねぇか。何だよそいつらは? またゆきおを連れてきたのか? ゆきお!この! 河童と雪男の半妖怪め!」
「あなたたち! 下がりなさい! 近寄らないで!」リコさんは、怒鳴りました。
「けっ! ずんけね、だべずら、すっかだねぇ!」
「ちっ! ばいから、ぐっと、べっきらこ!」
「かっ! おごれよ、たがっと、わりもすね!」
「けっ! でべでべ、どぅぶどぅぶ、ばりでんと!」
「ちっ! まったぐ、ほにほに、どっぷんこ!」
「かっ! せいては、ことを、しそんじる!」
「退屈だからって、からまないの! 大切なお客様なのです!」
「ちっ!」
「けっ!」
「かっ!」態度の悪い、獣たちでした。私たちが通り過ぎようとすると、
「ゆきおめ! このカッパめ!」
「ゆきおは、ゆきおとこだ!」
「ずんけねぇ、そんざいだ!」この挑発にゆきおさんが切れました!
「どっこーん!! むかむかー!」鼻息を荒くし、頭から湯気が立ち上りました。お湯の沸騰のようでした。
「お? やんのかよ?」
「がおー!」
「か~~~~!」獣たちは戦闘態勢に入りました。
「(まずい!)」雰囲気を察した私は、仲裁にはいりました。
「みなさん、まず落ち着きましょう。けものたちさん、あなた方の領域に侵入して、申し訳ありませんでした」
「ん? 何だコイツは?」
「コイツも、けものか?」
「ネコか、イヌか、はっきりしろい!」興奮するけものたちを制し、
「まずは、ゆきおさん、これを召し上がってください」鎮静剤のきうりをあげました。
「ほっほぉ~」ゆきおさんは、ご機嫌で食べ始めました。
「けものさんたち、退屈ならば、『もしもしりとり』をして遊びましょう」
「何だそれは?」
「『もしも、好きな食べ物が食べれるなら・・・』というお題で、食べ物しりとりをするのです」
「ちょっとだけ、やってみるか」
「特別だぞ!」
「俺から始めるぞ!」
「『もしも、好きな食べ物が食べれるなら・・・』お前から行け!」
「やきにく」
「・・・くじゃくって食えんの?」
「くではじまって、くで返すんじゃねぇ!」
「高等テクニックだ!」
「・・・くじら」
「らでかえすな! 難しいじゃねえか!」
「知的せんりゃくだ!」
「・・・らじおねら」
「ちてき戦略やぶれたり! らじおねらは菌だ! くいものじゃねぇ!」
「くっ・・・ら・らーめん」
「はい! お前の負け~~~~」
「くっ、じばくした」
「おめ、弱え~・・・」
「次の勝負だ!」
「らっこ!・・・、ふふふ、『ら』つぶし!」
「コアラ!・・・、ふふふ、ツバメ返し!」
「どっちも食えんよ・・・」
「ぐわ~・・・」
「ぐは~~~・」
「次、いけよ」
「・・・」
「・・・」
私たちは、そろりそろりとその場を離れ、退散しました。
「仲が悪いのですか? 楽しそうですが・・・」
「あれは、しゃーべるキャットなのです。相手が分からない方言で悪口を言って挑発するのです。こまった存在です」
「何かと満たされていないのでしょう。退屈だからといって他人を攻撃して歩くのは迷惑です。あわれむべき存在かも知れません」
「うまく回避できました。ありがとうございます」
「次に行きましょう」ゆきおさんは、終始ご機嫌でした。さぞかしきうりが気に入ったのでしょう。
「つぎは、レベル3。 じんちくむがいエリアです」
少し歩くと、開けた平原に湖がありました。体が黄色と黒のしましまのワニが水浴びをしていました。
「んあ~、ばっふ~~」じゃぶじゃぶ
「んぱ~、はっぶ~~」じゃぶじゃぶ
大げさな呼吸をしながら、泳いでいました。一匹が我々に気付き、
「ん? おや? リコさんにゆきおさんではありませんか。ありがたい、ありがたい」
「こんにちは~、あたらしいお住まいはいかがですか?」リコさんはにこやかにたずねました。
「すみごこちが快適だ。ありがたい、ありがたい」やたらと感謝の多いワニさんでした。
「ありげータイガーです。日々の感謝を口にしながら生きる、じんちくむがいな存在です」
「本当に、えがたいですね~」私は感心しました。歳を取ったら、かくありたいものです。
「生きてるだけで、ありがたい」
「空気を吸って、ありがたい」
「ありがーたいが、ありげーたーい」
「ありがたいが、ありがとう」
「たいがー、tiger、ありがータイガー・・・」
「んっほ~」ゆきおさんも手を振って、感謝にこたえました。リコさんは、名簿を見ながら聞きました。
「トラさん、いますか?」リコさんは、ありげータイガーさんにたずねました。
「鈴もって、旅行に出かけたよ」
「んっも~。だからとらベルなんて名付けない方がいいのに~」リコさんは、やきもきしていました。
「スカンクさんは、いるかしら?」スカンクさんの家で呼び鈴を鳴らしました。
「・・・し~ん」
「いませんねぇ」わたしは、郵便ポストを見てみましたが、手紙はたまっていませんでした。
「ちょっとしたお出かけかもしれませんねぇ」
「いるのに出てこないだけかもしれません。何故ならおならの臭いがするからです」と、リコさんは推理しました。私は良いことを考えました。
「ゆきおさんにお願いしましょう」そして、ゆきおさんが手品のパフォーマンスを始めました。すると、
「ゆきおじゃねぇか!」と言って、興奮したスカンクは外に出てきました。
「あなたは、本当のいるすカンクねぇ?」
「名前がいけねえだ」いるすカンクは反省しました。
「ところで、ねこたさん」
「はい、何でしょう?」
「なぜ、ゆきおさんにお願いしたのですか?」
「それは猫忍法『アマテラス作戦』なのです」
「アマテラス作戦?」
猫忍法【アマテラス作戦】
天照大御神が、天岩戸にこもられたとき、パフォーマンスをして外に誘い出したとする神話を真似したもの。ゆきおの演芸力なくしては、いるすカンクを外に出せなかった。部屋の外で楽しい遊びをして、引きこもっている人を外におびき出す作戦。
「なるほど! さすがゆきおさん! それを思いついたねこたさんもさすがだわ!」リコさんが喜んでいました。
「最後は、たぬきツねコブらくだチョウさぎね。何に化けているのかしら?」
リコさんが名簿を確認しているとダチョウが走り過ぎました。
「待て~、まって~、まちなさい、まつべし、まてだべさ~、まってくんろ~」と言って、ウサギやタヌキやラクダたちが追いかけて行きました。よそ見をしていたリコさんは、たずねました。
「ねこたさん。今、何匹いましたか?」
「いち、にぃ、さん・・・七匹いましたね」
「う~ん、OKです」
何やら気分によって変身できる生き物みたいでした。
「このエリアは、問題なしね」リコさんに促されて次のエリアに進みました。
「次は、レベル4。少し面倒くさいエリアです」
ジャングルに入りました。奥から
「がお。がおがお!」
「ががおがおがお!」獣の吠える声が聞こえました。白黒のクマが威嚇し合っていました。
「がおって吠えたな! がおがお!」
「負けるか! がががおがおがお!」サーベルキャットとおなじ、せいうちをほうふつさせる犬歯をむきだしにしながらクマたちは吠えあっていました。
「あれは、サーベルぱんだです。ストレスなのか、一日中二頭で吠えあっています」
「退屈は、罪ですな」私はつくづく思いました。ゆきおさんが二頭の間に割って入り交互に顔を伺いました。
「観衆なんか、気にするものか! がががお~~ん!」ゆきおさんがじ~っと顔をみました。
「たんじゅんな攻撃だ、がおがおがお!」ゆきおさんがじ~~っと顔を見ました。
「おのれ! 三回も攻撃したな! 許さん! がっがおががおがおがおぉ!」
「長い攻撃だ! 待ち疲れたわ! が~がおががお~がお~!」
「伸ばす攻撃は、反則だ! がっがっがおっおっお~」
「はねる攻撃も、反則だ! が~が~お~が~お~」
「・・・」しばらく見ていると、二頭はゆきおさんの視線が気になり始めた様子です。
「か~お~」
「かか~ぉ~」
「チョコじゃあるまいし、か~お~」
「単純な攻撃だ、きかんな~お~」
「・・・」
「・・・」
「今日は許してやる! またな!」
「こっちの台詞だ! またな!」二頭はどこかに行ってしまいました。ゆきおさんは、物足りなそうでした。
「こんな仲裁の仕方もあるんですね~」リコさんは感心していました。
「はたして、けんかだったんでしょうか?」私は疑問に思いました。
「以前来たときは、三日も付き合わされました。とても疲れました。今日は短かったので、助かりました」リコさんは、ゲンナリしながら言いました。
「何かと大変ですねぇ~」私は同情しました。
「レベル5はホニウ類エリアです。危険性はありません」
少し離れたところで、カモノハシが、飛び上がって遊んでいました。
「あれは、カモノハシりたかとびです。時々、カモノハシりはばとびになります」
「ジャンプして遊ぶのが好きなんですね~」
「キミもやる~?」と誘われて参加しようとするゆきおさんを、リコさんが必死に止めていました。海沿いには、まんぐーすキューバダイビングがいました。海中から牡蠣やナマコを取って来てくれました。
「これやる」
「アリガト」リコさんは、お返しに木の実を渡しました。
「お店で出しましょう」と、持ち帰りました。
「レベル5は平和ですね~。散歩するのにちょうどいいです」
「危険もないから、これくらいがいいのかも知れません」
砂漠エリアにさしかかりました。
「ぐわ~っ! くそっ! また釣れやがった! ごしぱらガデム!!」怒りくるいながら釣りをしている動物がいました。
【ごしぱらガデム】
ごしっぱらやげる(怒る)+ ガッデム(くそっ!)= ごしぱらガデム
怒りの最上級表現であるが、他の人を威嚇してしまうので、公の場では使わない方が良い。
「(方言と英語の合体だ。言葉のヘレニズム文化だな~)」と私は思いながら、
「あの方は誰でしょう?」私がリコさんにたずねると
「コアラっきーです。とても運がいい動物ですの」見るからにコアラのおじい様でした。
「何を怒っているのでしょう?」
「さぁ、話を聞いてみないと分かりません」
「もしもし、どうされましたか?」と私はたずねました。
「どうもこうもあるかよ! 砂漠で釣りをしてるんだぜ! 釣れる方がおかしいよ!」
「何か釣れたのですか?」
「サソリとトカゲがゴッソリ釣れたわ! エサもつけていないのに!」網の中にサソリが二匹とトカゲが一匹入っていました。
「何をお怒りですか?」
「失敗の味を知りたいのだよ。だから、何も釣れないハズの砂漠の真ん中でエサをつけずに釣りをしておる」
「?」リコさんは、意味が分かりませんでした。
「と、言いますと?」私にも、意味が分かりませんでした。
「俺は、何をやってもうまく行く。失敗のない人生など成功していないのと同じだ。失敗してこそ成功の有難味が分かるというものだ」
「ほとんどの方は、失敗を望んでいません。あなたは、恵まれていると思います」
「そうかなぁ? いちがいには、肯定も否定も出来んの~」
「どれくらいの間、ここで釣りをしていますか?」
「かれこれ、十二年になるかのぅ?」
「釣り針を投げて、五秒以内に釣れなければ失敗にしてはどうでしょう?」
「それがいいかも知れんの。釣れるまで頑張っていたわ」
「砂漠とは言え、間違えて針に食いつくあわてんぼうもいるでしょう。よろけて釣り針に刺さってしまうどじさんもいるでしょう」
「なるほど、新発見じゃわ」納得したコアラっきーは、竿をしまって帰りました。
「あ~、充分に失敗したわ! 今度は成功するぞ~!」
ゆきおさんが、私たちの話をそっちのけて釣りを始めました。リコさんは、引っぺがして先を急ぎました。
「このヒト、平気で5年くらいここで過ごすのです」
「大変ですなぁ」と同情しました。同時に十二年で三匹釣って大漁だと思えるコアラっきーさんを、不思議に感じました。
「次は、レベル6です。ここは、危険で厄介です。早く立ち去りましょうエリアです。さぁ、早く帰りましょう」とリコさんが言った時、目の前に巨大なゾウが現れました。
「ゆるしてやるゾウ」
「面倒なのが現れたわね!」
「ゆるしてやるゾウ、エサをたんまり置いて行けば!」ゾウは、目の前に立ちふさがり、通せんぼをしました。
「エサの時間は決まっているでしょう? 邪魔をしないで通してちょうだい!」
「エサさえくれれば、ゆるしてやるゾウ!」困っている所へ、巨大なツキノワグマが現れました。のど元だけではなく、みけんにも三日月のように白い毛が生えていました。
「ごうよクマまで! めんどうなことになったわ!」リコさんが、あせり始めました。
「その通り! 今日の分も、明日の分も、来年の分までエサをたんまり置いて行け!」
ゾウとクマに挟まれてしまいました。
「だから、あなたたちを『おどげでね珍獣パーク』に置いて来るべきだと大将に言ったのです。あなたたちは、ここに居るべきではないわ。問題ばかり起こして!」
「エサさえくれれば暴れないよ。足りないから、満足しないのだ。だから暴れるのだ!」
「困ったわね」リコさんが言いました。
「困りましたね」私は、あいづちを打ちました。
「すみませんね。通してください」ゆきおさんがトコトコ通り過ぎようとすると、
「ゆきおや! 通行料払えや! どすこいパンチ!」と言って、ごうよクマがゆきおさんをぶちのめしました。
「どっかん!」とゆきおさんは、殴られて倒されました。
「ぱっひ~~~っ」聞いたことのないうめき声を出しました。
「! ちょっと、何すんのよ!」リコさんが怒りました。
「むだん通行は、しょばつされる!」クマは一歩も引き下がりませんでした。
「言う通りだゾウ!」
失神しているゆきおさんを勇気づけようと、私はタッパからたくあんを出しました。
「ゆきおさん、栄養を取ってください」
「まぐまぐ・・・」ゆきおさんは、美味しそうにたくあんを食べました。
「んっふっふ~」それは、あきらかに興奮の息吹でした。
たくあん一切れで復活したゆきおさんは、ガニ股のガッツポーズで、ゾウとクマをいかくしました。
「君たちぃ~、暴力はいかん。なぜならば、怪我人が出るからだ」
「怪我をするのは相手だから、かまわねぇんだ!」再びクマがゆきおさんに殴りかかりました。
「むんっ!」ゆきおさんは、全身に力をいれてどすこいパンチを受け止めました。
「べきっ!」何かが折れる音がしました。
「いっで~~」クマが痛がりました。
「猫忍法【自業自爆】。反省しなさい。わっはっはっは~~~!」と言って、高らかに笑いました。
猫忍法【自業自爆】
自分で働いた悪事で、自分が不幸な目にあうこと。自業自得と同じ意味なので、無理に使う必要はない。
「まぁ、悪いのはクマね。ゆきおさんは、手を出していないもの」リコさんの裁定が下りました。
「(自業自得でもいいと思うんだけど・・・)」私は、口に出しませんでした。
スタコラサ、と逃げていくクマをゾウはじっと見ていました。
「ところで、あんたはどうするの?」リコさんは、ゾウにたずねました。
「特別にゆるしてやるゾウ」といって、すたこらノソノソ逃げていきました。
「んっふっふ~。ねこたさん。沢庵の素晴らしさを、世間に広めてください。全国のちびっこ諸君を沢庵で元気にするのです!」
「分かりました! おおいに、宣伝しましょう」私は約束しました。そこにまた厄介なのが現れました。
「何だ? 何があったんだ? 強い方につくぞ」と言ってきた、らんぼーナマケモノをギョロリと睨み返し、リコさんは追っ払いました。
「お客さんをご案内するのは、もう少し先ね。じっくり会議しなければいけません」
「乱暴者のいないエリアなら、楽しそうですね」
「『どうすっペンギン』の扱いも、会議しなくちゃいけないわ。お客様を選ぶエリアになりそうだから、段取りをしっかりしなくちゃ。おじい様と会議しなきゃ!」
「そうですねぇ」私は、誰でもそれなりに楽しめると思ったのですが、そうでもないようです。




