第四話「ゆきお on ステージ」
私は、足しげく「ごまんたる」に通いました。すっかり本物の常連さんになった私は、お店が何曜日の何時ごろが空いているか分かるようになりました。しかしその日は、平日の昼間なのに満席に近い状態でした。シェパードの姿で、恐る恐る店内に入りました。
「? 変だなぁ。今日は、なぜこんなに混んでいるんだろう?」不思議に思っていると、大将が私に気付きました。
「よぉ! 犬のねこた、悪いな。今日は混んでいるんだ。相席でもいいかな?」
「いいですよ」私は、この店の料理が食べられるのなら、どの席でも気にしませんでした。犬の姿なのに、見破られるのが不思議でした。
「大将から伺っています。こちらにどうぞ~」猿のお姉さんに案内されたのは、ゆきおさんがいるボックス席でした。先日見かけた時は、茶色の毛むくじゃら姿でしたが、本日は真っ白な毛むくじゃら姿でした。頭の皿も手塩にかけて整えられていました。
「これはこれは、お久しぶりです」私は、丁寧にあいさつしました。
「お久しぶりです」ゆきおさんも挨拶を返してきました。食事が終わり、おしぼりで口まわりと手を拭いていました。
「カウンター席でのお隣りは何度かありましたが、ボックス席での相席は初めてですね」
「そうですねぇ。今日は特別な日ですから、私一人でボックス席を占領しております」
「何かあるのですか?」
「何かあるのです。ふっふっふ・・・」ゆきおさんは、意味ありげに笑いました。
「? 何でしょう?」
「今に分かりますよ。はっはっは」ゆきおさんの笑顔はとても輝いていました。
「(何があるのだろう?)」と考えていると、
「まぁまぁ、ご飯を食べながら話しましょう」と、うながされました。
「そうですね、私はご飯を食べに来たのです。忘れていました」
「本末転倒というやつですな。ふっふっふ・・・」私は、少し違うと思いましたが、
「その通りです」と答えました。そして、じっくりメニウをながめました。
「ふむ、ふむ、ふむ・・・」新しいコースが、いくつか自己主張をしていました。
【ランチショー・特別メニウ】今日は特別な日なのさ!
≪☆芸体系・トリックコンサートショー☆≫
≪銀河系・ステキ体験コース・12光年≫
≪それだっ系? カン違いもまた楽しコース≫
≪・・・≫
「本日はランチショーがあるのか・・・」私がつぶやくと、
「今日は何か、面白いものが見れるでしょう。お客さんが多いのは、きっとそのせいです」
「それは、楽しみです。それでは、今日は新しいコースを食べてみましょう」芸体系に挑んでみました。お猿のお姉さんは注文を聞くと、ととと、と行ってしまいました。去り際に、ゆきおさんに向かって
「楽しみにしています」と言い残しました。
「はっはっは!」ゆきおさんは快活に笑いました。
≪芸体系・トリックコンサートショー 第12回公演≫
◎ドリンク:すぱげ茶
(めん類だと思いますか? 実は飲料なのです)
・メイン・メニュー:
①ヨーグルとんかつ
(乳酸菌たっぷり、人類未体験の味!)
②フランクフルとむやん君
(パクチー抜きに出来ます)
③トースとんじる
(笑顔でお召し上がりください)
・サラダ:さるサラダ
(踊りたくなる、情熱の味)
・デザート:
①まんだんご
(食後に小ばなしをどうぞ)
②ぱえりアイスクリーム
(常に、未知なるものを求めて!)
私は感動してしまいました。メニウの組み合わせがステキでしかありません。
「ストライクゾーンにミットを構えているのに。後頭部にボールをぶつけられる、この気持ち! またらないなぁ~! ウッキキ、ウキキ、うっきうき~!」
「ふっふっふ・・・」私のウキウキしている様子を、ゆきおさんは静かに見守っていました。
「何が出てくるんだろうなぁ~。ナイフだろうが、フォークだろうが、この肉球で見事に使いこなしてやる!」と楽しみにしていると、
「あなたは、心底この店を楽しんでいらっしゃいます。私もこの店が大好きなのです」とゆきおさんが話しかけてきました。私は、かねてから疑問を抱いていたので思い切ってたずねてみました。
「一つ質問してよろしいでしょうか?」
「何でしょう?」ゆきおさんは、スキがありませんでした。何の質問でも答えてくれそうな威厳に満ちていました。私は、水をゴクリと飲んで思い切って質問することにしました。
「ゆきおさんは、もしかして伝説の『ゆきっぱ男』さんなのではないでしょうか? 私は以前から、お会いしたら色々と質問したいと考えておりました。差し支えなければ、取材を受けて頂きたいのですが・・・」ゆきおさんは、軽くあごを引いて微笑みました。私には、その仕草が、肯定にも否定にも受け取れました。そしてニヤリと笑いながら、
「まぁ、本人のそら似でしょう。あなたがそれにふさわしい人物になったとき、全てをお話いたしましょう」と言いました。私は全く安心しました。そして、慌てて謝罪しました。
「このようなプライベートな場所で、ぶしつけな質問をしてしまいました。たいへん失礼いたしました」私は冷汗をかきながら謝罪しました。
「いえいえ、問題ありません。当然の疑問です」食事が終わったゆきおさんは、私の料理が到着するタイミングで席を外しました。
「ちょっとの間、失礼します。そして、おおいに楽しんでください・・・」余韻を残し、厨房の裏に隠れてしまいました。
やにわに店全体の明かりがじっとりと暗くなりました。再び明るくなりながら厨房の三方向の壁が一斉に仰向けに倒れ、瞬く間に広いステージが完成しました。そして静かにスポットライトが灯り、光が一か所に集まりました。ステージ上には、すでにマイクがセットしてありました。
「キラキラ、ぴかり」ステージの中央に、光を一身に浴び、蝶ネクタイをした馬の大将が、マイクを持って立っていました。大将はマイクに向かってしゃべり始めました。店内がざわつき始めました。
「レディース・アンドロメダ・ジェントルマンがきっさ。じーちゃん、ばーちゃん、ろうにゃくなんにょ、お店においでのみなみなさま。今日は、抜き打ちランチショーです!」大将が宣言するや否や店内がどよめきました。
「やった~!」
「やっぱりな! 今日じゃないかと思っていたんだ!」
「今日こそは、ゆきおの番だな?」
「狸狐でもいいぞ~!」
「三日前から泊まり込んだかいがあった!」
「SNSでの宣伝がないからな~」
「今日は、ラッキーなハッピーデーだ!」
「みんな! 携帯しまえよ!」
「分かってるよ! マナーだ!」お客さんは、一斉に携帯電話をしまいました。どのお客さんも、動物に見えました。
「・・・(これだったのか!)」私は、これから何が始まるのか、すこし興奮しました。
「・・・」ほどなく、店内が静まりました。
大将が、ととと、と舞台袖に下がると蝶ネクタイをして黒いスーツに身を包んだゆきおさんが現れました。
「! やった~!」
「ど当たりだ!」
「興奮して、鼻血が出てきた」
「おまえ、落ち着けよ!」
「やべぇ、始まる前から失神しそうだ~」
「・・・」どよめきも十秒で消えました。ゆきおさんが、トランペットをくわえました。静寂の中で、情熱のトランペットが店内に響きました。
「『情熱を込めて誇り高く』だ!」舞台袖から、ドラムやヴァイオリンの伴奏が静かに流れてきました。哀愁の戦慄から、応援のメッセージが聴衆に伝わりました。目に見えてゆきおさんは、演奏にノッていました。
「す・ご・い・・・」私は、感動しました。普段の穏やかなゆきおさんの面影はありませんでした。トランペットの独奏が終盤に差し掛かると、ゆきおさんの背中のファスナーが下に開きました。
「でた~!」拍手と歓声は、すぐにおさまりました。みんなゆきおさんのパフォーマンスを邪魔したくなかったのです。背中から青い毛むくじゃらのミニゆきおが出てくると、ゆきおさんと同じ背丈になりました。ぺこりとお辞儀をすると、ステージに用意されたピアノを演奏し始めました。
二曲目は、一転して軽いリズムの『ラッキー・スター・パラダイス』の演奏が始まりました。私は、大いに驚きました。店内のお客さんは、誰もがリズムに乗って、楽しく聞きほれました。静かな相槌の手拍子が始まり、トランペットを吹きながら聴衆を煽るゆきおさんの姿は素敵でした。
「続けてどうぞ! 『めるし、僕のともだち!』」軽いリズムでしたが、しっとりとした落ち着いた雰囲気の曲でした。
「(心の豊かな人は、きっとこんな気持ちになるに違いない)」と私は、トランペットの音色を堪能しました。時に感情を込めたトランペットの暴走がありましたが、ピアノはどんなときにも優しく音色を包みました。トランペットは我を取り戻し、静かにピアノに寄り添いました。
「(トランペットとピアノは仲がいいな~。ケンカしないのかな~?)」などと想像を膨らませました。舞台袖で、白ゆきおさんと大将は、私の様子を見ていました。
「(楽しんでいるね~)」
「(楽しんでいますね~)」
演奏が終わり、MC(曲の合間のおしゃべり)が始まりました。
「皆さま本日は、ようこそおいでくださいました。ネットやメディアでの告知をしていないにもかかわらず、たくさん来ていただいたことに感謝したいと思います」
「パチパチ・・・・」
「わ~」
「待ってたぞー」店内には、何十人かのお客さんがいました。
「わたくし先日、カタツムリに話しかけました」唐突な語り出しに店内が静まりました。
「やはり、こんちうにはことばが通じないのでしょう。返事がありませんでした。カタツムリだけにで~んでん虫(ぜ~んぜん無視)」目をくわっと見開いて、オチを言いましたが、たらこ唇は閉じたままでした。
「どっ!」
「わっはっは~」
「ダジャレも切れ味が鋭いわ~」
「面白い!」店内は、爆笑の渦に巻き込まれました。ゆきおさんは、頭のお皿を取り、お客さんに頭を下げて挨拶をしました。カッパのお皿に見えたものは、帽子だったのです。
「そこで私は、話す相手を変えました。たまたまそこにいた、ヘビさんに質問しました」店内は再び静寂に包まれました。
「Are you HABU? (あなたはハブですか?)」
「Do you have poison ? (あなたは毒を持っていますか?)
わたしは、たて続けに二つの質問をしました。ヘビさんは、少し考えてこう答えました」
「Yes, I have(HABU). 何と、二つの質問に一度に答えたのです!」たらこ唇をとじたまま、目をくわっと見開てオチを言いました。ふだんは、鉛筆で線を引っ張ったような眼をしていますが、この時ばかりは四白眼になっていました。瞳は極めて小さいものでした。渾身の顔芸で笑いを取りに行っていたのです。
「どっ!」
「わはははは・・・!」
「パチパチぱちぱち・・・・」
「そのへび、天才!」
「へび~な、だじゃれだ」ゆきおさんは、鳴りやまぬ歓声につつまれて軽く頭をさげて歓声に応えました。
「わたくし、焼肉屋でよく聞かれるんですよ。
『大根のキムチは好きですか?』って。だからこう答えるんですよ。
『カクテキですか? 好きですよ。比較的ね』って」
「どわっはっはっは~」
「うまいなー」
「わはは!」普段無口に見えるゆきおさんは、舞台の上で輝いていました。
ゆきおさんのMCが終わると同時に、楽器の演奏が始まりました。次は「ジャグリング・ショー」でした。緑色のゆきおさんがステージに現れ、空中にりんごを四つ五つ放り投げて受け止めていましたが、一周するたびに、りんごがレモンやスイカに変化していました。果物は楕円形の軌道を描きながら緑ゆきおさんの周りを回っていましたが、軌道が横や縦に変化していました。
「ん? 糸で釣られてないの?」
「ゆきおは、糸を使わないよ!」
「ど~やって、操っているの?」
「磁石じゃね?」
「磁力? 新しいね!」
「喋らずに、演技を見ろよ!」
「ごめん!」観客たちは、数々の疑問に包まれていました。楕円形の軌道から、前後左右・上下斜めに飛び回る果物は回転しながらキウイフルーツやパイナップルに変化していました。
「あれ? 一周するたびに変わってなかった?」
「回転の途中で変わってるよな!」
「落ち着けよ! 軌道が変わり出したよ!」
5~6種類の果物たちの軌道は楕円になり、筆記体の「G」のような説明できない軌道を描き、自由気ままにゆきおさんの周囲を旋回していました。ついに軌道は長方形から星型になり、お客さんは詮索することをやめました。
「お~!!」どよめく店内。逆回転・無軌道な変則回転と、回転が変わるたびに飛び回る果物の数は一つずつ増えて行きました。不幸にもぶつかってしまった果物たちは、ハトになり、ワシになり、スズメになって、回転に加わっていました。
「ん? 今何種類回ってる?」
「十個は回っているよ」
「もっと多くないか?」
ワシやスズメに変わった果物は、三周も飛び続けるうちに再びフルーツに戻りました。
「え? また変わった!」
「いちいち驚くなよ!」
「いや、驚くのが礼儀だ!」
「どっちでもいい! 楽しめよ!」
「ただただ、すげぇ!」
観衆は魅了され、聴衆はどよめきました。礼儀正しく立ち見する客もいました。目が不自由なのか、演奏を中心に楽しんでいるお客さんもいました。興奮しすぎて、軽くリズムを取っているお客さんもいました。お客さんは固唾を飲んで、ショーに見とれていました。リズミカルなバックバンドの演奏に合わせて、果物や鳥たちはコミカルに回転を続けました。
「あの黄色いゆきおが合図を出してるな」
「あぁ、アイツだ!」
「奴がこのコーナーのリーダーだ!」
黄色いゆきおさんの、トランペットの合図に合わせて果物や鳥は姿かたちを変えていました。ひとしきりジャグリングを披露すると最後はすべての果物が七色のハトになり、それぞれに飛び去りました。
「おっお~!! すっげ~!!」湧き上がる歓声に、鳴りやまぬ拍手に包まれてゆきおさんは、ぺこりとお辞儀をしました。わたしも特大の拍手を贈りました。
次はマジックショーでした。担当したのは、桃色ゆきおさんでした。細身で黄色いリボンをつけ、赤色の蝶ネクタイをしていました。タラコ唇にはうっすらと色気が感じられました。
「新キャラだな」
「手品の担当が変わったか?」
「手品の担当は、前回は紫ゆきおだったな」
「しゃべるな! 始まったぞ!」
シルクハットを持ち、帽子の中身が空っぽであることのアピールから始まりました。ステッキを取り出し、シルクハットを逆さに持ち、ちょんとハットを刺激しました。なかから十羽ほどのハトが飛び出し、店内を飛び回りました。ところ狭しと飛び回ったハトは、透明になりながら消えて行きました。お客さんにぶつかってしまったハトはあめ玉に変わり、お客さんに美味しく頂かれました。
「新しい、手品だな」
「ハトがぶつかった客は当たりだな」
「おれ、ぶつかったぞ! ハトがチョコに化けた!」
「おまえ、運がいいな!」
桃色ゆきおさんが、ステッキをチアリーダーのようにクルクル回転させると、ステッキは一瞬で傘に変わりました。
「おっお~!」
「早くて見えなかった!」
傘を開くと花びらが舞い、花びらが地面に落ちるタイミングで、傘を差した桃色ゆきおさんのまわりだけ雨が降りました。
雨は傘に触れると音を出し、『雨つぶ銀河』の演奏が始まりました。傘に当たった色付きで特大の雨粒が重要な主旋律を奏でていました。傘に弾かれた雨粒は、透明になり消えてしまい、お客さんを濡らすことはありませんでした。
「舞台で水ものか~」
「やるな~」
「臨場感が半端ないな~」曲が終わると同時に雨もやみました。終わりの合図と同時に虹が舞台に彩を添えました。私はつくづく感心してしまいました。
「(発想が豊かだな~。見たこともない舞台なのだから、お客さんに人気があるわけだ)」
桃色ゆきおさんが、シャボン玉を膨らませました。一つ大きなシャボン玉を膨らませると、
「しゅぽん、しゅぽん・・・」と分裂を始め、十個・二十個・百個ほどの手のひらサイズのシャボン玉が現れました。桃色ゆきおさんの作り出すシャボン玉は、会場を埋め尽くしました。
「ぎゅい~ん、しゅぽん、しゅぽん」生み出されては分裂をして、生み出されては分裂をすることを繰り返しました。中には割れてしまうものもあり、割れると同時に黄色や水色の透明な蝶が現れました。蝶はシャボン玉を避けるように舞い続け、二分もたずに透明になり消えて行きました。
「おっおお~!」
「きれい・・・」
シャボン玉に触ろうとするお客さんもいました。触られたシャボン玉は、ハムスターに姿を変えると、ちょこちょこ逃げ回り居なくなってしまいました。
「え? 今触ったよ?」
「野ネズミかな? 逃げて行ったよ」
「リスだよ。きっと」
「(ふむふむ。リスに見えるか・・・。新ネタにしよう)」舞台袖で、ゆきおさんがメモを取っていました。
会場内のシャボン玉たちは、お互いにぶつかると小さな虹を放ち色を変えながら、透明になって消え去りました。
「しゃらん。きらきら、キラキラ・・・」
「キレイだな~」
「夢の中のよう・・・」
「花の蜜の香りがするよ・・・」
「消え去るときの音が幻想的だな~」
シャボン玉が消え去ると、桃色ゆきおさんは、お辞儀をして舞台袖に引き下がりました。
「ざわざわ・・・」
「不思議ね・・・」
「ここは、夢の中ですか?」
「余韻を楽しもう・・・」
「新キャラ、なかなかいいな~」
お客さんたちがしっとりと感動に浸っていると、白いゆきおさんの影に隠れるように茶色と桃色のゆきおさんが三体同時に現れました。まるで白いゆきおさんの動きを真似るようにパフォーマンスが始まりました。ゆきおさんの華麗なるステップに合わせた三位一体のダンスは、お客さんたちを魅了しました。舞台袖から、青色ゆきおさんが現れて、ピアノを演奏し始めました。そして、黄色いゆきおさんが現れてトランペットを演奏し始めました。緑色のゆきおさんがドラムのセットとともに現れて演奏に加わりました。
「ん? 今日は六人か? 新記録じゃね?」
「四人以上は初めてだ!」
「ラッキーなことこの上なし!」
「らきえすとデイだね、今日は!」
にわかに、お客さんの手拍子が加わり会場は一体となって盛り上がりました。どこから取り出したのか、白いゆきおさんはギター、茶色いゆきおさんはベース、桃色ゆきおさんは、ピッコロやオーボエやクラリネットを交互に演奏していました。
「あの桃色、器用だな~」
「一番目立っているよ」
「聞いたことのない曲だな~」
「ポップかな? ロックかな?」
「テクノだよ」
「いや違う、ユーロビートの発展版だ!」
「何でもいいよ!」
「音楽に国境はない!」
聞いたことのない曲のハズなのに、会場中のお客さんたちは、なぜか懐かしさを感じていました。ボーカルのない、楽器だけの演奏が四曲ほど続きました。私は食事をするのを忘れていました。ただただ、感動しておりました。パフォーマンスを見ることを止めて、食事に集中することが出来ませんでした。それでも興奮でのどが乾いたので、時々ゴクリと水を飲みました。ドリンクを頼んでいた事すら忘れていました。
「(何というぜいたくな時間だろう・・・。この日のために、毎日仕事を頑張って来たのかも知れない・・・)」日々の苦労をはんすうしつつ、パフォーマンスをたんのうしました。演奏が終わり、しばし会場にせいじゃくが訪れました。お客さんたちのきんちょうがいったん切れました。
「これで、終わりかな?」
「まだ、あるだろう」
「そうだな! 最後はあれがあるんだ!」
「コミカル・ダンス・ショーが、まだだ!」
会場の熱が少しだけおさまると、水色のゆきおさんが手拍子とともに現れました。十羽ほどの水色のペンギンを引き連れていました。
「あれ、絶滅危惧種じゃね?」
「ど~すっペンギンだ!」
「何故、ここに!」愛くるしいステップを踏みながら、コミカルなタップダンスショーが始まりました。ダンスで表現されたのは、困ったペンギンがゆきおさんに相談してダンスで解決する内容でした。お客さんの手拍子に合わせながら、一つひとつの問題をゆきおさんがダンスで解決していました。
二曲目は、牙の生えたパンダが出てきました。
「サーベルぱんだだ!」
「あれも、絶滅危惧種だぞ!」
「この店は、ど~なっているんだ!」
「いや、ここにいるはずがない! 映像だ!」
「この臨場感だ! 映像には見えない!」
「ごまんたるなら、何でもありだ!」がおがお吠えるぱんだ同士の争いを、ゆきおさんが話を聞いて、ダンスで解決する内容でした。
「ダンスで何でも解決するね!」
「踊れば、腹も立たないし!」
「お腹はすくよ!」
「争ってないで、ご飯食えよ。それで満足すれば解決だ!」
「何という、深いメッセージだ! やるな、ゆきお!」手拍子と、掛け声が店内で鳴りやみませんでした。
演目のクライマックスは、たぬき・キツネ・猫・こぶら・ラクダ・ダチョウ・ウサギが現れてドタバタ劇を始めました。もめているのか、ケンカをしているのか、それぞれの動物が他の種類に化けて、トラブルを起こしていました。それをゆきおさんが仲裁して終わる内容でした。
「ゆきおは仲裁がうまいなー」
「結局、食べて終わるんだ」
「それが、一番の解決策だ」
「やんや、やんや、えんや、こらや」
「ステキなメッセージをありがとう!」
会場はおおいに、盛り上がりました。そして、約一時間に及んだショーは終わりました。
閉会の挨拶を、大将が行いました。
「本日のご観覧は、5,234人でした。ありがとうございました」
「え! そんなにいたの!」
「ついに、5,000人越えか~」
「狸狐のときも3,000人を超えるからな~」
「今日は、運が良かった」
「はっきーで、ラッピーな一日だった」
「ハッピーで、ラッキーな一日だろう?」
「ごめん、興奮がおさまならいんだ」
「おさまっていないね、おさめなさい」
「当分、余韻で暮らせるな~」
「次が、楽しみだ~」
満足したお客さんたちに、大将は畳みかけました。
「お客様の中で、お時間に厳しい方は申し出てください。若干なら、巻き戻せます」
「それは、ありがたい!」
「昼休み中だ、少し戻してもらおう」
「並べよ、割り込むな!」
「そうだよ、時間はあるよ」
「楽しいショーの後だ、心根は優しくいこうぜ!」
「おまえ、良いこと言うな。一番マナーが悪かったが!」
「わっはっは~、改心出来たな~」
「うるせぇ、冷やかすな」動物さんたちの長蛇の列をみやり、私は自分の番を待ちました。時間がかかりそうなので、ボックス席でちょこんと座っていました。個室や座席を合わせても、三十人ほどしか店に入れなそうでした。
「(一体、この人たちはどこでショーを見ていたんだろう・・・)」少し疑問に思いました。
お客さんたちの精算が終わり、私もお会計を済ませて帰ろうと思っていましたが、大将とゆきおさんが話し合っていました。お猿のお姉さんも、忙しそうでした。仕方なく楽しソーダを飲みながら、頃合いを見計らっていました。
「ゆきお、お前のおかげできょうは大繁盛だ! ありがとう!」
「大将さんには、世話になっているので、お役に立てて嬉しいです」
「ほら、今日のアガリだ! お前さんの取り分だ」結構な金額の大金がゆきおさんの目の前に置かれました。私はジロジロ見てはいけないと思い、2㎞先を見ようとしましたが、店内なので見ることが出来ませんでした。
「それではこれで、お店の付けを払います」差し出された大金をそっくり大将に渡しました。
「付けを清算して、貯金が出来たな。これから2年くらいメシ代のことは気にするな! タダで食わせるよ」
「ありがとうございます。また、お世話になります」すがすがしいやり取りが交わされていました。
「それにしても、見事なショーだったな、今日は! 完璧だ!」大将は満足気でした。
「ええ、今日はどうしても楽しんで欲しいお客さんがいたのです」
「ねこたか?」
「ええ、そうです」私は驚きました。急に話題の中心になったからです。
「え? 私が?」
「お前さん、だいぶゆきおに気に入られているな」大将が私の顔を見ながら言いました。
「ええ、気に入っています」ゆきおさんが、私の顔を見て言いました。
「ありがとうございます」わたしは、ひとすじの汗を垂らしながら応えました。
「お前さんは、ゆきおが隣で大いびきをかいても、文句ひとつ言わねぇ。他の客は、すぐに席を移動しちまうんだ」
「それに、かれの食事はとても楽しそうです。隣にいるとほっこり楽しい気分になります」ゆきおさんが言いました。
「あぁ、ねこたは食事マナーがいい!」大将が誇らしげに言いました。
「ありがとうございます」私はその辺を、特に意識していませんでした。何気ない仕草が気に入られていた様子でした。
「ぜひ今度、ご一緒に旅行にでも行きませんか?」ゆきおさんに誘われました。
「楽しそうですね」わたしは、快諾しました。
「それなら、面白い場所があるよ」大将が言いました。
「遂に完成しましたか?」ゆきおさんが聞きました。
「完成したとも! お前さんたちが、一番客だ。『ヒクマニア珍獣パーク』のこけら落としだ! 楽しんで来い! ナビゲーターは孫の鷲馬狸狐に担当させる」
「おぉ~!」ゆきおさんは、見たこともない反応をしました。
私は、どきどきワクワクが止まりませんでした。




