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第三話「星を動かして遊ぼう。神さまのイタズラ」

三度目に来たのは、冬なのに気温が暖かい雨がどば降りの正午過ぎだった。行きたいと思ったら行けるようなので、適当に歩いていたらたどり着きました。ガラガラとドアを開け、

「ひとりです」

「ヘイ、一匹だね。カウンターどうぞ!」熊の大将が声をかけ、猿のお姉さんが私を席まで案内してくれました。店内のBGMは、「アラベスク」でした。

「(ドビュッシーが好きなんだなぁ)」と思いました。今日も店はそこそこ繁盛していました。隣の席では、相変わらず座席に仰向けにもたれかかっていイビキをかいている毛むくじゃらのお客さんがいました。

「ぐぴっぴ~、すぴっぴー、ガガんがガんがが・・・、も~ぐえ゛ん・・・」いびきと歯ぎしりと寝言が成長していました。

「お隣さんは、今日もにぎやかですね~」

「このヒト、120日か130日いるんですよ。有名な芸人さんらしいです」

「ヒトなのですか?」

「わかりません。では、メニウが決まりましたら、お呼びください」お姉さんは、追加の質問をこばみました。

『ふしぎ体験レストラン ごまんたる』

メニウ

 行きたい場所は、たんとある

 食べたいものも、ごまんとある

 ならば同時に楽しもう!


「!」私は、メニウを見て驚きました。普通の店になってしまっています! これだから、文句だけを言う(クレーマー)は嫌です。遊べる要素、楽しめる要素、突っ込める要素を一つずつ潰してしまいます。ちょっと悲しくなりました。


≪銀河系・ステキ体験コース≫

≪愉快系・面白さは世界共通コース≫

≪不思議系・世の中楽しいことだらけコース≫

≪だれだっ系・ネットで調べてみようコース≫

≪・・・≫


「色々なコースが増えている。なかなか追いつけないなぁ・・・」それでも私は、銀河系にしました。

≪銀河系・ステキ体験コース 3光年≫

・ドリンク    : アルタイルイボスティー

・メイン・メニュー: アンタレステーキ  

           ペルセウス豚

・サラダ     : デネブルーツサラダ

・デザート    : たいヨーグルト

※メテおにぎりか、ビックパンを付けることが出来ます!


少し気になったので、お姉さんにたずねてみました。

「3光年って、何ですか? 1光年が食べたいです」

「ありません。どのメニウも一度きりしか食べれないのです」言い終わると、ととと、と行ってしまった。お腹が空いたので、3光年を食べることにした。ね、ね、ぬ、ぬる、ぬれ、ねよ。Good night!


例によって、ワニゾウさんが現れた。

「うちうの本質とは、時間が進んでいるか、戻っているかのどちらかであります」

「そうなのですか?」

「まぁ、大将の理論ですから・・・」

「さようでございますか」

「広がるうちうと、閉じるうちうの両方を体験して頂いたので、本日は太陽系の遊びです」

「興味深いですな」

「ごまんたるの三大うちう遊びの一つです」気が付くと、私とワニゾウさんは太陽系銀河を抱えられるほど巨大化しておりました。太陽系銀河が目の前で、グルグル回っております。

「分かりやすいように、太陽系を色付けしておきました。ここです、このあたりにあります」

「こんな端っこで、必死に回っております。いじらしいですな~」

「拡大してみましょう」我々は、急に縮小化しました。木星がバスケットボールの大きさになりました。

「急に小さくなりすぎて、太陽の位置もちきうの位置も分かりません」

「太陽は、木星の10倍ほどの大きさなのですが、ここからだと1,300km先にあります。見えませんよね?」太陽に近づいてみましょう。我々は太陽に近づいて、ちきうがバスケットボールほどの大きさに感じられるくらいに縮小化しました。

「太陽って、大きいですな~」

「ちきうの100倍以上あります。何かやってみたいことはありますか?」

「ちきうは、太陽のまわりを地軸を傾けながらクルクル回っていますが、地軸の傾き直していいですか?」

「構いませんよ。これはちきうであり、地球ではありません。あなたの行為は、宇宙には何の影響も与えません。勉強だと思って色々試してみましょう」私は、傾いている地軸を公転面に垂直にしてみた。しばらくは何の変化も見られませんでしたが、北極と南極が露骨に凍りはじめました。赤道付近は、海水が沸騰しているように見えました。

「気のせいですか?」

「気のせいですよ。はっはっは」ワニゾウさんは、ただ笑っていました。

ちきうの軌道を太陽に近づけると、ちきう上の海水が蒸発してしまいました。

ちきうの軌道を太陽から遠ざけると、海水は凍り付いてしまいました。

太陽の光をさえぎってみても、ちきうは難儀そうでした。

「どうやっても、ちきうは悲鳴をあげます」

「太陽とちきうのバランスはデリケートですからな~。本当の奇跡です」神様の好奇心という奴は、残酷なのかも知れない。

「ちなみにゆきおさんは、ここで何をしましたか?」

「あの方は、太陽の上に大きい天体から順番に並べていました。天体はツルツルすべるので、重ねられるハズがありません。204回失敗したところで、見かねた大将が天体どうしの重力を少し働かせると天体どうしを重ねられるようになりました。全て重ね終わったのは、5,623回目でした」

「気の長い話です。ゆきおさんが、何やら新しい発明・発見を生み出しそうな話です」

「尊敬すべき集中力と根気です・・・」


「むにゃ、むにゃ」また、寝てしまっていた。目が覚めて、毛づくろいをして、くつろいでいると大将がそれもソーダを持ってやってきた。

「ねこた、おめぇ三度目だべ、サービスだ」

「ありがとうございます。ごちそうさまです」と頭を下げてたずねてみた。

「私は、ねこたなのですか?」

「何、いってるだ、名刺を置いてったべ?」

「(あれ? 名刺を置いて行ったかな?)」名刺には、


自由冒険家(ものずき)自由文筆家(フリーライター) 猫田(ねこた) 銀杏(いちょう)

アフリカ・エジプト、未来・過去、天国・地獄、どこでも行きます!

物書き(ライター)の仕事を募集しています!

と書いてあった。私は思わず赤面した。お酒を飲んで、酔った勢いで作った名刺だった。


「冒険家なら、ネコ隊長だ! いよっキャプテンねこた! カッコイイじゃねぇか!」

「それほどでも・・・」赤面は容易に治らなかった。落ち着きを取り戻して、再び質問した。

「この、3光年って何ですか?」

「店に来た回数だ。今度来て注文すれば、4光年か、4世紀か、4の付く何かになっているだろう」

「すみません、このお店に来た記憶がまちまちなのですが・・・」

「仕方ねぇべ。ねこたの食ったのは、≪銀河系・ステキ・体験コース≫だ。ステーキを食べて、宇宙を旅する素敵なコースを選んだんだから」

「・・・と、言いますと?」

「最近の、偉い人の研究じゃ宇宙では時間が行ったり来たりするらしいじゃないか。未来に行ったり過去に行ったり。だから、それを料理で再現したんだ」

「・・・す・ご・い、じゃないですか!」私は二重まぶたが一重になるぐらい目を大きくして驚きました。

「目が大きいよ」

猫忍法(にゃんぽう)『開いた目が塞がらない』。驚きの表現です」

「開いた口じゃないのか? まぁいいや。ごまんたるは、聴覚、味覚を刺激して、記憶にうったえかける新しい遊び(アミューズメント)の飲食店(レストラン)だべ」

「嗅覚や触覚は刺激しませんか?」

「今、研究中だべ」

「これだけのサービスをして、赤字になりませんか?」

「あんまり言うことじゃないが、感動しすぎて料金の10倍払う10倍客が何人もいる。その人らのお陰で、実験できるだ」

「実験?」

「いや、いや、サービスだ」大将は慌てて取り消した。

「記憶をいじる・・・。それでは、私が一回目に来たときが未来へ飛んで、二回目に来たときは過去へ飛んだんですか?」

「そ~だよ、たぶん(案内人からの報告がなければ、お前の見た夢は分からん)」大将はてきとーに応えました。

「過去か未来は選べるんですか?」

「料理を食べて、お客さんが見た夢の中で選ぶんだ。んだから、あんたが選んだんだよ」

「(・・・? 私が選んだのだろうか? 夢の中身を思い出してみた。・・・選んだ、かも、しれ、ない)同じメニウは、選べるんですか?」

「作り方を忘れたんで、無理だべな」ねこたは、水をごくりと飲みました。そして、最後にもう一つ聞きたいことがありまた。

「見ると、お客さんは、みんな動物さんですが、これは何か意味がありますか?」

「店も客を選ぶ時代だからな、文句の多い奴には来て欲しくないんだ。おめぇさんは、メニウに涸れた花が挟まっていても、虫の死骸らしきものが挟まっていても、メニウの落書きを見ても新鮮にとらえていた。あれが来店試験だ(虫の死骸じゃなくて、案内人なんだが・・・)」

「来店試験?」

「何を体験しても文句から入る奴は、相手をするのが面倒だ。すぐにSNSに悪口を書きやがる。この店の本当の楽しみ方を知る前に、居なくなるんだ。店に入った途端に聞こえてくる音楽もそれぞれに違っている。メニウの種類も、味の感じ方もそれぞれに感じ方が違うんだ。だから、どれだけ楽しく過ごせるかは、お客さんの想像力次第だ」

「なるほど~」ねこたは、店の遊び(システム)をようやく理解できました。

「お客さんの姿は、その時考えていた、その時見た、その時なりたかった動物の姿だ。特にないときは、訳の分からない生き物になっている。隣の客が良い例だ。動物ならば、携帯をいじらないし、あんまり文句は言わんものだ。動物になっても文句言う奴は救いようがねぇな」隣では、相変わらず派手なイビキや歯ぎしりがにぎやかだった。

「これを、邪魔くさいとか、やかましいと感じるようならば、あんたも次はここに来れない」

「邪魔くさいどころか、愛くるしい感じですが?」全身が白い毛むくじゃらの姿だった。頭に皿のある巨大な生き物でした。手は肉球なのか、ヒレなのか良く分かりませんでした。彼が、これから色々なところに一緒に旅をすることになる猫田の良き相棒(パートナー)になる存在でした。

「良いとらえ方だ」と大将は言いました。私は、すっくと立ちあがり

「大将、また来ます。今日体験したことを書きとめておきます」

「あぁ、また来るだ」


店の外に出ると、蔵王山に沈む夕日はいつもより大きかった。そして、お城に突き刺さりそうになるくらい沈みかけていた。

「(何時間、お店にいただろう)」食事をしに来ただけなのに、二日経っているといわれても、何の疑問も抱かないほどの時間感覚になっていた。週末は、富士山のようにたまった仕事に時間を使うことが多かった。自分のペースで仕事をして良い会社だったが、自分が納得するまで何度も原稿を書き直すので、いくらやってもいつも時間は足りなかった。

「本当・・・。猫の手も借りたいわ」とひとりごちた。

「(自分の納得する形を探し続ける・・・そうすれば・・・)」ねこたはつじつまが合うのを待っていた。頑張った分だけ、こだわった分だけ幸せになれるし感動できる量が多くなるという独自の『幸福量・感動量の保存の法則』をかたくなに信じていた。

「さて、(ねどこ)に帰って仕事を片付けるか・・・」たまりにたまった仕事を一つずつ片付けて、さし迫ってくる会議に使うための資料を整理することにした。

そして、自動的にやってくる、在り来たりな月曜日を待つことにした。


第二章:『謎の珍獣ゆきっぱ男』第一話「ゆきお on stage」に続く


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