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第十一話「変わらざる過去に鑑(かんが)みる」

「(なぜ、いろいろなことを強要してくるのか?

 みんなが同じ方向を向いていなければいけないのだろうか?

ぼくは逆らっているわけじゃない

ぼくはただ、従っていないだけだ!)」色々と昔のことを考えながら逃げていましたが、現実世界ではイジメは続いていました。周りの人たちは空気でした。ただの窒素だったのかもしれません。見かねた女子の一人が声を荒げました。

「ちょっと! アンタ達、いい加減にしなさいよ!」

「んだよ? ダブスが!」

「(お!)」助けが現れたと思いました。長く水中にいたので、体の奥底から酸素を求めていました。

「迷惑なのよ! 目の前でやられると! 外でやってよ!」

「(あ~、二酸化炭素だった・・・)」ねこた少年は、心が折れてしまいました。

「みんなで外に出たら、授業に間に合わなくなるだろ! 俺たちは品行方正なんだ!」

「どこがよ! 理事長の馬鹿孫が!」

「引っ込んでろ! ダブスが!」女子は、黙って座ってしまいました。不来方がこちらに向き直りました。

「出来損ないの兄貴が死んで良かったな~。俺たちが遊んでやるよ~。だから金持って来いよ~」(ゴスッ!)不来方が少年の頭に肘打ちをしました。その時、怒りに満ちたネコの鳴き声が聞こえてきました。

「に゛ゃ~~~~!」と言って、不来方の背後から飛び掛かって来たシャムネコが顔をバリバリと搔きむしりました。ベロンとめくれた顔の皮膚の下に、ハチウ類の爪のようなものが見えました。

「! リウさん、あれは!」

「! 不来方の内部にナイトメアが潜んでいますね! だから凶暴なんだ!」

「くぉの! クソネコ~!」と言った不来方にネコが捕まって、半殺しにされて二回の窓から放り出されました。

「ぐちゃ!」ネコは地面に激突し、ピクピクしていました。それを見て、ねこた少年は心の底から怒りがわいて出てきました。ハチウ類は、少年の怒りを察知して不来方の頬から飛び出してきたので、リウさんが素早く採集網で捕獲し、蜂蜜の小瓶に封印しました。

「ハチウ類で角が五本生えています! これは、ナイトメアの手下で五匹目です。下僕のクーゴです!」リウさんが叫びました。この捕獲によって私の心的外傷(トラウマ)の一切は消えてしまいました。

「ぬわ゛~~~~~!」と言って、ねこた少年はリーダーの顎にパンチをしました。ケンカなれしていないので、右手が不来方の顎下の喉に命中し、リーダーは倒れて脳震盪を起こしました。取り巻きは、ザザザと逃げて行きました。ねこた少年は、急いでシャムネコを確認しに行きましたが、姿はありませんでした。必死にシャムネコを探している少年に先生が三人駆け寄りました。そして、校長室に連れて行かれていました。その様子を遠巻きに眺めておりました。

「兄は、この次元から永久に追放されてしいました」

「・・・決まりですから・・・」リウさんは静かに言いました。


不来方は、一週間ほど入院になりました。仲間はいずれも三日間の出席停止になりました。そしてねこた少年は、他の地区へ転校させられました。

「ねこたくん、気の毒だったね」校長先生は、他人事のようでした。

「はぁ・・・」少年は叱られるのか、慰められるのか、身構えていました。

「目撃者が多かった。イジメられていたのは、ねこたくんの方だ。ねこたくんは、他の学校でゆっくり勉強した方がいいと思います」

「・・・何故ですか?」少年は、直接的な理由が聞きたかったのです。

「まぁ、お兄さんもいないし、ねこたくんは両親もいない。寮生活の方が難儀しなくて済むだろう。全てこちらで手配をしておいたよ。準備が出来てからで構わないので、そこでのびのび生活した方がいいだろう・・・」不思議なことに、校長先生の表情は全く変わりませんでした。

「はぁ、・・・い。分かりました・・・」ねこた少年は、力無く答えました。

「(今の自分が納得できないのだから、いくら正論を言われても僕にとっては不正解なのだ!)」

「三日後に車を出すから、準備しておくと良いでしょう」

「はい、分かりました・・・」軽く頭を下げて、校長室を出て行きました。トボトボと去っていく少年の後姿を見ながら、校長先生の独り言を聞きました。

「お兄さんがいないんじゃ、彼がいても宣伝になりません。不来方は理事長の孫だから大目に見てきたが、かばいきれないな・・・。あー、めんどくせー」と校長先生がつぶやきました。世の中には知らない方が良いこともあるのです。私はいたたまれなくなりました。


転校した学校には、不登校児が沢山いました。それぞれに好きな勉強をして良い学校でした。ねこた少年は、ただ何となく文章を書いたり、物語を読んだりして過ごしていました。人見知りが多かったので、少年には友達が出来ませんでした。

「(私みたいに、いじめられていた生徒はいるのだろうか・・・?

周囲に歩調を無理に合わせる必要があるのだろうか・・・?

ついていけなくても、あわせなければいけないのだろうか・・・?

『あわせなければいけない』と義務を感じることが間違いなのだろうか・・・?)」いくら考えても答えは見つかりませんでした。ひと月ほど過ぎた時、誰かがねこた少年を訪ねてきました。不来方順也でした。

「お前には、本当に悪いことをした! 許してくれ!」土下座をされましたが、困惑しました。毎週のように謝りに来るので、三カ月後には仕方なく話を聞いていました。

「兎に角みんな、お前の兄貴に憧れていたのさ。自分たちにはまねできない、凄い才能を持っていたからな」不来方が、今度は兄を誉めてくれました。

「はぁ・・・」少年は返す言葉がありませんでした。いじめられる理由が分かりませんでした。

「お前の兄さんが死んだときは、みなショックだったよ・・・」

「はぁ・・・」少年が欲しかったのは、これではありませんでした。

「残されたお前が、カワイソウだとみんなが言ってたよ・・・」少年はたまりかねて聞きました。

「それならば、なぜ私がいじめられたのでしょう?」不来方は、うなだれたまま答えました。

「はっきりした理由なんかないんだ」

「・・・?」

「反撃しても、怖くない奴が。反撃しなさそうなやつがイジメられるんだ・・・」

「!」ねこた少年には衝撃的な事実でした。

「お前は、我慢強いからな。だから狙われたんだ・・・」

「狙ったのは、君ですが?」

「いや、俺だけじゃない。俺が目立っていただけだ。俺がお前をイジメなくても、他のやつらにいじめられていたさ・・・」

「・・・」開いた口が塞がらないとは、このことでした。いじめられる存在であることが決まっていたのでしょうか。それから一週間おきに不来方は遊びに来ました。毎回ど~でもいいことを話し、ど~でもいいことに怒り、ど~でもいいことを語り合いました。少し仲良くなったと思い始めていましたが、半年後に不来方も死んでしまいました。ホジキン病だったそうです。ねこた少年はまた、一人(いっぴき)になってしまいました。


少年の空気のような生活は続きました。学校を卒業して就職を探しましたが、なかなか見つかりませんでした。卒業後、二カ月が経ってアルバイトで始めた雑誌社の自由記者(フリーライター)の仕事を何となく続けていました。もう5年ほどになりました。貯金を切り崩すことが少なくなりました。

「・・・ねこたさん、だいぶ苦労されましたね・・・」リウさんは、慰めてくれました。

「孤独と言うことが分からないのです。いつもこんな生活でしたから・・・」

「・・・」

「いつも思うのです。あの地獄みたいだった生活は、私の人生の1/10ほどを占めていたと思います。でもそれが今は、1/20になりました」

「・・・」

「もっともっと楽しい思い出を作るんです! そして、あの苦しかった思い出を、1/30にも、1/40にも薄めるのです」

「ねこたさんは、とても前向きです。応援しますよ!」

「ありがとうございます。私のお気に入りの場所は『ごまんたる』です。あすこは楽しいですよね。愉快で個性的な方が沢山おられます」

「わたしも、あすこは大好きです」

「でも、本日全てが分かりました。私の運命にも『ナイトメア』が関わっていたのです」

「そのようです・・・」

「見つけて、根こそぎ退治しましょう!」

こうして、私のナイトメアとの本格的な戦いが始まりました。


誰一人、同じ生き方はできません

誰かの幸せな生き方を真似したくても、真似できるものではありません

だからって、悲観する必要はありません

あなたは、アナタだけの人生をしっかり歩んでください

こんなぼくの生き方ですが、真似して欲しいことが一つだけあります

それは、これからのぼくの楽しい生き方です!

イジメられていた記憶が霞んでしまうくらい

楽しく、たのしく生きるのです!


迷ったら、いろんな人の色んな意見を聞くと良いです

ときには、間違えてしまうこともあるでしょう

間違えた方を信じてしまうのも才能ですが、

間違いじゃないことに覆せるのも才能なのです!


第十二話「神様のため息・ギリシャ神話編」に続く(予定)

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