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第一話「1,000兆個の風船で遊ぶ」

そのとき私の目の前で、

決して割れることのない、いくつもの風船たちが、

大きく大きく膨らんで、

色とりどりに輝いていました。

今まで見たことのない光景に、

私のワクワクは、止まりませんでした!

週末の平日の午後でした。ぬくぬくでぽかぽかな陽気に包まれながら食事に出かけることにしました。行きつけの店に行くための道順を考えてみました。あの道をあー行って、こー行って、そう行けば、行きつけの店でした。だけど私は、あまりにも天気が良かったので、少し遠回りをしたくなりました。あの道をこー行って、あー行って、こう行くことに決めました。そのとたんに、目の前を小さな動物が走り過ぎました。

「? ハクビシン? オコジョかな?」どう言うわけか、とても歩きにくくなりました。二足歩行がなぜかイズイ。ナゼダロウ。お腹が空いているせいだと思うことにしました。いつも見慣れている風景なのに、今まで気にもとめなかった、とても気になる店がありました。

 『(旧店名)(×)異空間体験型Restaurant うま・Year (〇)ふしぎ体験レストラン ごまんたる』

「はて? こんな存在感のある店に、なぜ今まで気付かなかったんだろうか? いや? 来たことがあるのかもしれない。しかし思い出せない。改装中なだけかも知れない」

と、ひとりごちながら店の中に入ってみました。

「ヘイ! らっしゃい!」威勢のいいあいさつで迎えられました。そして、お店の大将(てんしゅ)は馬でした。

「ひとりです」

「ヘイ、一匹だね。カウンターどうぞ!」

「(一匹?)」なぜか、なつかしいひびきでした。大将は、私を席まで案内してくれました。店内のBGMは、ドビュッシーの小組曲(管弦楽版)でした。落ち着いた雰囲気のいいお店です。カウンターは仕切りでへだてられて、一人用になっていました。他にも座敷、テーブル、一人用特別個室など、席が沢山ありました。その時間帯の店内には、お客さんが数人いて、そこそこ繁盛しているように見えました。それぞれのお客さんが、それぞれの座席で突っ伏して寝ていたり、立ち上がって何かと背比べをしたりしていました。足元にかがんで、ルーペで何かを観察しているお客さんもいました。案内された一人用のカウンター席の隣には、座席に仰向けにもたれかかってイビキをかいている毛むくじゃらのお客さんがいました。

「ぐぴ~、すぴー、ガガガが・・・、も~くえん・・・」いびきと歯ぎしりと寝言が混ざっていました。オーケストラさながらの迫力です。

「お隣さんは、にぎやかですね~」

「そいつ、50日か60日いるんだでよ」

「・・・さぞかし、いごこちが良いのでしょう」

「うっとうしいけど、にぎやかな奴でな~」大将は、まんざらでもなさそうでした。

席に座って、大将にたずねてみました。

「大将さん、ここはどういうお店ですか?」

「(あら? 覚えてねぇだか・・・)ここは、食事で非日常体験をしてもらう店だべ」

「それで、大将さんは馬さんなのですか?」

「簡単に言うとそうだな。それにしてもねこた、今日はねこか?」

「? 私は、猫ですか?」

「見るからに猫だべな」

どうりで、二足歩行がおぼつかなかったわけだ。納得できた。それにしても、いつの間に猫になったんだろう。気付かなかった。人間は、お腹が空くと猫になるのだ。

「赤い丸から出ないように気をつけてな。メニウが決まったら呼んどくれ」

「え? メニューですか?」

「料理だけじゃないから、メニウだよ。それから、トイレの時以外は丸から出るなよ~」ヒヒ~ンといなないて、大将は行ってしまいました。

「料理だけじゃない? どういうことだろう・・・。それに、ねこたって誰だ?」よく見ると、座席の足元には半径20㎝ほどの赤い丸があり、お客さんはそこから出てはいけない決まりのようでした。


私は、落ち着いて100ページほどもありそうな、百科事典のようなメニウを見てみました。

『(×)異空間体験型Restaurant  うまYear ごめんたる 

(〇)ふしぎ体験レストラン ごまんたる』

(×) お品書き メニウ 新しい目

(〇) メニウ

 行きたい場所は、たんとある

 食べたいものも、(×)ごまんたる (〇)ごまんとある

 ならば同時に楽しもう!

(×)There are so many places that you want to go.

There are so many foods that you want to eat.

You can go there, you can eat them at the same time !


見覚えのあるメニウでしたが、書き直している途中なのでしょうか? (×)のところが全て削除線で消されていました。削除線ばかりで、ページもバラバラでした。私はメニウを見てあまりにも懐かしくて感動してしまいました。注文して食べる前から楽しいのです。1ページ、1ページに花瓶の花がしおりのようにはさまっていたり、小さなこんちうらしきものもはり付いていました。

「(何だろう、これは? こんちうにも見えるが、はちう類にもりょうせい類にも見える)」ここにはさんであるのだから、きっと貴重なものに違いありません。きっと何かの意味があると思ったので、はがさずにそっとしておきました。味に関する落書き(コメント)も書かれていました。229ページにはニンニクが、30ページには味噌のかたまりが付いており、何かで拭き取られても少し残っていました。きっと40ページには塩のかたまりがあるハズですが、コース料理が気になったので、そこまでたどりつけませんでした。

≪銀河系・ステキ体験コース≫

≪歴史系・偉大な神様コース≫

≪偉人系・人類は麵類コース≫

≪そうだっ系・今まで気がつかなかったコース≫

≪・・・≫

≪・・・≫


「ふむふむふむ・・・、何を食べてもおいしそうで面白そうだ」値段も、驚くほどは高くありませんでした。何度も足を運びそうなので、一番上のコースをじっくり見てみました。

≪銀河系・ステキ体験コース 2光年≫・・・【光年】ちきうからの距離

・ドリンク     : あせるなアセロラ

           (時間はあります。次回もあります)

・メイン・ディッシュ: シリウステーキ  

           (【8.6光年】この辺じゃ太陽の次に明るいよ)

          : あんどろ目玉焼き

           (【250万光年】遠いね。行けるかな?)

・サラダ      : ギャラクシーフード・サラダ

           (ギリシャ語でミルクの道。うまいこと言うね)

・デザート     : 銀河鉄道ナツ

           (帰りもきっと、たのしいよ)

※オーロライスか、ビックパンを付けることが出来ます!


メニウが決まったので、呼び出しブザーで大将を呼びました。

「あ~い」と返事が聞こえ、大将がやって来ました。

パカラッ、パカラッ、パカラッと、駆け足で水を持ってきたので、水はあらかたこぼれていました。空っぽのグラスを手渡され、

「あら、ごめんよ~。ひづめだから上手に持てんのよ~。これでは飲めないね~」と言って、隣の席に置いていた水差しで、水を注いでくれました。そして、おもむろに、

「おめぇの言いてえことは分かる。みなまで言うな。馬耳東風になんねぇように、次までにやっとくよ」

「・・・(何も、言ってないのに。前にもこんな事あったな~)」


その後すぐに、料理が次々に運ばれてきました。

「むっふっふ。たのしみだなぁ。よし、猫忍法(にゃんぽう)を使おう! にゃんぽう『ねこにごはん』」というと、お隣さんが少しピクリと反応しました。

「起こしてしまったかな?」と、心配になりましたが大丈夫でした。

最初に運ばれてきたサラダは、ひときわ銀河系でした。小エビが大宇宙を泳ぎ回り、イカとタコが月でバレーボールをしていました。ミルクだとばかり思っていた白いドレッシングには金粉が入っており、時おり光が当たり、夜明けを連想させてくれました。

次に運ばれてきた目玉焼きは、立派な銀河でした。目玉焼き全体が回転して、白身が必死に回転に追い付いている様子でした。ふちがのこぎり状にギザギザになっており、気泡が沢山ありました。軟弱液体で目玉焼きのふちの形を整え、元気胡椒で気泡を作るのだそうです。1周、2周と、ふちをはじからはじに追いかけて、気泡の数を数えていたら目が回ってしまいました。

ステーキは、イヌの形に切り分けられていましたが何故でしょう? 付け合わせのバターコーンと焼き人参が、イヌのおもちゃに見えました。悪いと思いながら前足から美味しく頂きました。

デザートは、電車の形をした四角いドーナツでした。丸いはずのドーナツを四角に作り変えたのは、おやつ界の革命だと思いました。ドリンクを飲んで、満足しているとゆっくりと眠気がやって来ました。眠いな。眠るのか? 眠るだろう。ZZZzzz・・・。Good night!


「さぁ、行こうか! ステキな場所へ! ここからが始まりだよ!」目の前に二足歩行のワニさんが立っていました。丸い縁取り眼鏡をかけていました。頭には、ごあいさつ程度に小さな黄色い帽子をかぶっていました。手に待った旗には「ごまんたる」と書かれていました。

「おはようございます。今は、朝ですか?」

「どちらかというと、夜です」

「それでは、お休みなさい」

「それは困ります。今から朝になりました」

「それでは、あらためておはようございます」目をぱちくりさせながら、あたりを見渡しました。宇宙のど真ん中にいました。

「そちらでは、ありませんよ。ちきうは、こちらです。」

「背後にでっかいちきうがありました」

「あらかじめお伝えしておきますが、あれはあなたの知っている地球ではありません。私たちが、触ったり位置を変えてもいい『ちきう』です。そしてここは宇宙服無しでも普通に過ごせる『うちう』です。ここでは想像力次第で何でもできるので、色々挑戦してみてください」

「うちうでは、息が出来るのですか?」

「その気になれば、問題ありません」

「それは、便利です。死ななくて安心しました」

「私は、ごまんたるのうちう担当のナビゲーター・アリゲーター・ワニゾウです」

「漫才師のようなお名前ですな」

「役職がナビゲーターで、ミドルネームがアリゲーターで、名前がワニゾウです」

「それは、失礼しました。私は、ねこたと呼ばれています」

「ぞんじあげております。二度目だから大丈夫ですよね?」

「え? 二度目なのですか?」

「まぎれもなく、二度目です。覚えておりませんか?」

「半分だけ覚えております」とは言ったものの、全く覚えていませんでした。

「ねこたさん、それでは出発です。シリウス経由でアンドロメダまでご一緒しましょう」

「ご飯を食べただけなのに、楽しませてくれるのですか?」

「これが、ごまんたるのサービスなのです」

「こんど、みんなに教えます」

「ありがとうございます」こうして、ワニゾウさんに連れられて、まずはシリウスへ向かいました。

「シリウスまでは、8.6光年になります」

「時間で、どのくらいかかりますか?」

「80兆kmあるので、8分です」

「意外と早いですな」

「その気になれば、2分で行けます」私たちは、両前足を広げてバランスを取りながら、目的地まで飛びました。周りの星の位置が全然変わりません。3年も飛んでいる感覚になりました。

「どれだけ近づいても、イヌの形には見えませんね」

「何ごとも想像力が大事なのです。昔の人たちが描いたイメージですから、むげにはできません」

「素晴らしい考えです」そんなことを言っているうちに、シリウスに着きました。

「到着しました」キョロキョロとあたりを見回して、ワニゾウさんにたずねました。

「ひょっとして、これは練習ですか?」

「そうです。早く飛ぶための練習なのです」

「目的地のアンドロメダ銀河は、どのようなところですか?」

「そこでは、時間の流れを体験できます。過去でも、未来でも・・・」その言葉にねこたは、

「(未来がいいなぁ・・)」と考えました。

「それでは、未来に行きましょう!」ねこたの希望が通りました。何とアンドロメダ銀河まで5分で行けました。


「銀河の中心は、ブラックホールがあると思いましたが、大丈夫ですか?」

「ご存知でしたか、大丈夫です。広がる方を体験して頂きます」

「広がる方?」

「広がるうちうと、閉じるうちうです」

「広がると、未来に行けるのですか?」

「まぁ、大将の理論ですから・・・」

「あの大将は、何ものでしょうか・・・?」

(わし)(うま)(くま)(とら)さんです」

「個性的なお名前ですな~」

「歴史や不思議なことを研究して、料理で再現しています。とても個性的なお方です」

「友人に、一人は欲しい存在ですね」

「私も日々の生活が刺激的になっています。しばらくここでお待ちください。間もなく始まりますから」しばらく待っていると、銀河の中心から、風船玉が飛び出してきました。1億個、10億個、100億個もあるような、ものすごい数でした。

「始まりました! 1,000兆個の風船が飛んできます。ぶつかる勢いが激しいほど、遠くへ飛ばされますよ。銀河の中心に向かって、突進してください。どんどんぶつかって遊んでください」私は、ワニゾウさんの言うままに、どんどん銀河の中心に向かって飛びました。すると銀河の中心への侵入を拒むように風船玉がドンドン飛んできました。ポン、ポン、スポポポ~ン。

大・中・小の色とりどりの風船玉に弾かれて、私はドンドン外へ飛ばされました。風船は膜が分厚いので破れることはなさそうです。ですが、弾力は相当なものでした。だから安心して、思い切って勢いよく風船にぶつかることにしました。富士山ほどもある大きな黄色の風船に向かって、

「さよ~う!」と言って、突進しました。私の突進によって真っ黄色の巨大な月のような風船は、満月だった形が半月となり、上弦の月になり、三日月のように形が変わりました。風船は私を優しく包みこみ、頭をなでられている心地さえしました。風船を突き破って反対側へ届くと思いきや、

「はん~さよ~う!」と逆方向へ飛ばされました。

「た~のし~い!」ぶつかればぶつかるほど、私は外へ飛ばされました。作用反作用の法則を遠慮なく体全体を使って体験出来ることはめったにありません。そして、必ず私が負けました。私たちがぶつからなかった風船は、私たちを通り過ぎると行き場を失って、小さくなったり消えたりしました。ワニゾウさんが、

「風船の行く末を気にする方は、はじめてです」と感心してくれました。その後、タイミングを見計らって、等しい大きさで等しいスピードの風船が二つ同時にこちらへ向かってくるのに突撃しました。左側の青い風船にぶつかった直後に角度を変えて右側の水色の風船に飛ばされました。水色の風船にぶつかった直後に体を捻って角度を変えました。これで、永久に二つの風船に弾かれ続ける予定でした。ボンッ、ポンっ、ぽん? あらら、三回くらいで終わってしまいました。

「もっと、続くと思いました」とワニゾウさんに言うと、

「入射角が大きすぎると、反発係数が小さくなるのです」

「何やら難しそうな話ですな」

「過去に、1,528回続けたお客様がいて、危険なので修正されました。」

「危険ならばしょうがないですね」1,528回も弾かれ続けたのは(なぜか直感的に)(ゆきおさん)だと思った。そして、

「ねこたさん、見ててください」と言って、ワニゾウさんは青色の風船に突進しました。しかし角度が悪かったらしく、弾かれて別の赤い風船に飛ばされました。赤い風船に弾かれた後、オレンジ色の風船にとばされて、水色の風船にぶつかりました。そして、紫色の風船にぶつかって勢いがなくなりました。ボン、ポン、ぽ~ン、ポン、ぴと。

「やりました! 自己最高の5回連続弾かれです!」

「ワニゾウさん、スゴイ、すごい!」ワニゾウさんは、弾かれのプロでした。

「私も、何度やってもこの遊びは大好きです」その後も、二匹でドンドン遠くへ飛ばされました。

「ねこたさんは、風船を割ろうとしませんでしたね?」

「割ろうという考えはみじんもありませんでした」

「悪意で風船を割ると大変な目に遭います」

「それはどのようになるのですか?」

「割れた風船の中から真っ白い液体が飛び散ります。それが体にまとわりつき、すぐにセメントのように固まってしまいます。そして10日間ほどこうそくされます。悪意は悪意で返ってくるものです」

「こわいですねぇ。悪意って」

「悪意ではなく好奇心で風船を割った方がおられます」

「それは、どなたですか?」

「ゆきおさんです。あなたの横で寝ていらっしゃいました」

「あ~、やはり。あのにぎやかな方でしたか」

「悪意が無く好奇心で風船を割ろうとする場合、2日ほどかかります。風船が根負けして仕方なく割れてくれます。そして中から、アツアツのあんかけが出てきます。カレー色で味噌の香りがして、粘っこい液体が体にまとわりつきます」

「ゆきおさんは、どうなりましたか?」

「『んあ~』といいながら、10日間ほど感触を楽しんでおられました。全身毛むくじゃらですから、さぞかしうっとうしかったでしょう・・・」

「変わったかたですね」

「あの方は、悪意がないから店に通い続けることができます。悪意が無くて、好奇心で色々と試される方です。悪意はお断りしますが、好奇心は歓迎します」

「なかなか得難い存在ですね」

「何を考えておられるか、不思議です」その後も、風船への体当たりは続いた。128回ほど繰り返したところで、ぐったりしてきたので帰ることにしました。

「お疲れでしょう。帰りは列車を用意しました」帰ると決めた途端に、風船玉の数が減り、銀河の中心から列車がやって来ました。乗客が誰もいない貸し切りの列車でした。

「なにやら、不思議なことだらけで胸がいっぱいです」

「私も、毎回新鮮な気持ちでちきうに帰れます」もっと色んな体験がしたいなぁと思いながら、あせるなアセロラを飲みました。店に帰ると残念ながら記憶の半分は消えていました。そして、私の「ごまんたる」での時間軸が、お店を訪れた時よりもずいぶん先に進んでいました。だけど私は、時間がズレた事には気付きませんでした。


第二話「無限すべり台、悠久の花畑」へ続く

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