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5.レオリオ第2王子

 両親から結婚の話を聞かされてから1週間、公爵家の本邸には穏やかな時間が流れていた。


「エマ、何をそんなに張り切っているの?」


「ユナお嬢様、今日は花婿候補のレオリオ第2王子と初めてお会いになる日ですから、今日張り切らなくて、いつ張り切れば良いのですか……!」


「うふふ、いつも通りでいいのよ。普段の私を見せなければ、殿下も心を開いてくださらないわ。だから、いつもどおりでお願いね」


「ユナお嬢様……! 分かりました、いつもどおりでよろしいのですね?」


「えぇ、お願いね」


 ユナはいつもと変わらない身支度を終えて、両親が待つ応接間へ向かった。


「お父様、お母様」


「あら、ユナ。先日仕立てたドレスを着るのではなかったの?」


「お母様、昨夜までそのつもりだったのですが、いつもどおりの私を知っていただくのがよろしいかと思い、特別な装いをするのはやめたのです」


「そうね、あなたの言うとおりかもしれないわね。自分の思うとおりにやってみなさい」


「ユナはどんな格好でも美しいぞ!」


「お父様ったら……! 恥ずかしいですわ」


「うふふ、ベルナルドの言うとおりよ。あなたは何を着ても美しいわ」


 ユナが結婚すると決意したとき、ベルナルドは喜んで見せたが、内心では複雑な思いだった。3人の花婿候補の中から誰を選んでも、政局に巻き込まれるリスクが高くなるからだ。


 王太子妃になるにしても、第2王子や第2騎士団副団長の妻になるにしても、全員が王族の血を引いている。いずれにしても王族へ嫁ぐことになれば、国のために犠牲を強いられる可能性が出てくるのだ。


 公爵として建て前では、「貴族は爵位が釣り合う者と結婚すべきだ」という意見を持っているものの、自分の娘には愛する人と結ばれ、幸せな結婚生活を送ってほしいと願っていた。それはレリアナとあの靴職人の青年が想い合っていたものの、切ない結末を迎えたからだった。


 もちろんレリアナと結婚したことは一度も後悔したことはないし、あの青年にレリアナを譲ろうと思ったこともない。ただ、レリアナがひどく苦しんでいたことを思い出すと、ユナには同じ思いをさせたくないという親心からきている。


 とはいえ、国王の命に背くことはできない。愛する娘の幸せを願いつつも、結婚を決意してくれたことに感謝してもしきれなかったのだ。


 結婚への迷いが全て吹っ切れたユナの表情を見て、ベルナルドはやさしい眼差しで愛娘を見ていた。


 応接間のドアをノックする音が響いた。公爵の返事を聞き、応接間に入ってきたのは執事長のトマスだった。


「旦那様、レオリオ第2王子が到着されたとのことです」


 トマスが第2王子が公爵家に到着したことを告げた。


「あぁ、分かった。私たちも外で殿下をお迎えしよう」


「はい、お父様」


 4人はエントランスの外で第2王子の馬車が着くのを待つ使用人たちの元へ向かった。


 屋敷の外へ向かう途中、屋敷中がピカピカでいつも以上に使用人たちが掃除を丁寧にしてくれていることが分かる。使用人たちの服装も新調されたようで、シワ1つさえ見当たらない。


 使用人たちは口数が少なく、緊張した表情でエントランスに並んでいる。いつもとは違う使用人たちの様子を見たユナは、まるで使用人たちの緊張が伝染したように表情が次第に硬くなっていくのを感じた。


 第2王子を迎えるのに「これではいけない」と思い、右手を胸に当てて深く深呼吸をする。緊張が少しほぐれたのを感じると、口角を上げて笑顔を作った。


 第2王子を乗せた王宮の馬車が屋敷の前に停まった。御者が踏み台をセットすると、馬車から第2王子が降りてきた。第2王子は輝くブロンドの髪に、アメジストのような紫で力強い瞳の持ち主だった。


 ユナは、端正な顔立ちで爽やかな雰囲気を持つ第2王子に好印象を持ったのだった。


「出迎えご苦労、ベルナルド公爵」


「殿下、ご足労いただきまして、ありがとうございます。公爵家一同、殿下のお越しを心よりお待ち申し上げておりました」


「ここへ来る途中、公爵領はどこも管理が行き届いており、街は活気に溢れていた。民たちも皆幸せそうだ。ベルナルド、大儀であった」


「勿体ないお言葉でございます。公爵家の領地は陛下から管理を任せられている土地です。陛下のご威光と祝福あってのことでございます」


「うむ、そなたはいつも堅苦しいな。ここは王宮でもなければ、私が公爵家へ来たのは政の相談をするためではない。あくまでもプライベートで来たのだから、そう気を張らずとも良い」


「承知いたしました、殿下。では、さっそくご紹介いたします。この者が私の妻、レリアナです」


 ベルナルドが第2王子に自分の妻を紹介する。


 レリアナをじっと見て、レオリオは笑顔を浮かべながら口を開いた。


「あぁ、ベルナルドが家に帰りたがる理由がようやく分かった。これほどの美貌をお持ちの奥方が家で待つのなら、誰だって早く帰りたくなるものだな」


「まぁ、殿下ったら。お恥ずかしいですわ……!」


 レリアナは否定も肯定もせず、レオリオの表面的な世辞をさらりと交わした。


 レオリオは表情一つ変えず、視線をレリアナの斜め後ろにいるユナへ向ける。


「そちらがユナ嬢か?」


「はい、殿下。娘のユナでございます」


「……」


 レオリオは黙ったままユナの頭から足の先まで見ると、一言を放った。


「公爵令嬢にしては地味な装いだな……」


「……!」


 ユナはレオリオの不躾な一言に唖然とする。


「ユナ、殿下にご挨拶を」


「あっ、大変失礼いたしました……! 殿下、お初にお目にかかります。公爵家長女女のユナでございます」


 ベルナルドに促され、小さく深呼吸をして心を落ち着かせてから、公爵令嬢らしい優雅な挨拶をする。


「……」


 レオリオはユナの挨拶が終わると、声もかけずにベルナルドへ話しかけた。


「ベルナルド、そなたが話していた庭園を案内してもらえるか?」


「えぇ……。では、こちらへ」


「あぁ」


 ベルナルドはレリアナにアイコンタクトを取り、「後は任せた」とのサインを送った。


 レリアナはレオリオとベルナルドの姿が庭園の方に消えていったのを確認し、使用人たちに指示をする。


「さぁ、皆も中へ入り、今夜の宴の準備を進めてちょうだい!」


「はい、奥様!」


 使用人たちが屋敷へ戻っていき、外にはレリアナとユナ、エルザ、エマの4人が残っていた。


「ユナ、私たちも中へ入りましょう」


「えぇ、お母様……」


「……」


 ユナは第2王子の振る舞いに戸惑っていた。第2王子と会うのは今日が初めてだが、両親から聞く限りでは好青年という印象が強かった。実際に公爵家を訪れ、真っ先に公爵領の様子を的確に話している姿に感銘を受け、初めて会ったばかりというのに好印象を抱いたほどだ。


 しかし、レオリオのユナへの態度はあからさまに印象が悪い。使用人たちも相手が王族だと知っていたため表情に出さないようにしていたが、内心ではユナの心情を思うと、レオリオに怒鳴りつけてやりたい気持ちだった。


 メアリがこの場にいたら、きっと「殿下、ひどすぎです!」などと高貴な身分の第2王子にも文句を言っていたことだろう。だが、メアリはこの場にいなかった。恐らく公爵がこのような事態になるのを想定して、メアリをエントランスに他の使用人たちと待機させていたのだろう。


 レリアナとユナは応接間に戻り、エルザが入れたハーブティーを飲んでいた。


「ふぅ~」


 ユナはため息をついた。その様子を見ていたレリアナはレオリオの態度について、どう切り出そうか迷っていた。


「……ユナ、レオリオ殿下の態度を勘違いしないであげてほしいの」


「お母様、それはどういうことですか?」


「実はね、何て説明したらいいのかしら……?」


「レオリオ殿下は本当はもっと気さくな方なのよ。今日はどうしたのかしらね、ああ見えて緊張しているのかしら?」


「お母様……、あの様子は緊張ではなく、私には嫌う相手を見下ろすような態度に見えました……。好印象を抱いたのに正直なところ、奈落の底へと落とされたような気分です」


「あなたがそう思ってしまうのもよく分かるわ。でもね、レオリオ殿下は……」


「私への態度に、何か理由があるのですか?」


「ユナ、殿下の本音は本人にしか分からないことよ。気になることがあったら、本人に聞いてみたらいいわ」


「お母様、でもあの態度では私と2人きりで話すことも拒否されるのではないでしょうか?」


「それは大丈夫よ」


「お母様……?」


 レリアナは微笑みを浮かべて、レオリオのことはそれ以上何も言わなかった。


 レリアナは何も言わないが、レオリオの自分への態度に何か意味があると確信し、2人きりで話すチャンスができたら、聞きたいことを質問してみようと決意したのだった。


 レオリオのための晩餐が始まり、終始穏やかな時間が流れていく。会話を楽しんでいるのはレオリオとベルナルドが中心で、時折レリアナが会話に参加していた。


 本来ならもう1人の主役ともいえるユナも楽しく会話に参加しているべきなのだが、レオリオはユナと目を合わすことなく、食事中は一度も声をかけることはなかった。ユナは「嫌われているなら嫌っていればいい」そう思えるようになると吹っ切れたのか、1人黙々と美味しい料理に舌鼓を打っていた。レオリオはそんなユナの様子を密やかに観察していた。


 晩餐は何事もなく終わり、レオリオを見送る時間が近づいていた。


 使用人たちは晩餐の片付けで忙しそうに動いて回っており、見送りはベルナルドとレリアナ、ユナ、そしてトマスとエルザの5人だけである。


 レオリオがベルナルドやレリアナと挨拶を交わすと、ユナの方には目もくれず馬車へと向かった。


 ユナは一言もレオリオと話すことができず、意気消沈していた。


 そのときだった、レオリオは馬車へ乗らずにベルナルドのそばへ駆け寄り、再び口を開いた。


「ベルナルド、もう一度そなた自慢の庭園をゆっくり見てみたいのだが……」


「はい、分かりました。ユナ、レオリオ殿下を案内して差し上げなさい」


 ユナは当然、ベルナルドが庭園を案内するのだと思っていたが、突然案内役を抜擢されて驚いていた。


「あの、お父様……?」


「たしか、庭園はこっちだったよな?」


「えぇ、そうでございます」


 レオリオはベルナルドの返事を聞くと、1人庭園の方へ向かって歩き出している。


 ベルナルドはユナを見て「さぁ、今度はお前が殿下を案内するんだ。私が言っている意味が分かるね?」と言いたげに、やさしくうなずいた。


「……!」


 ユナはレオリオと話す最後のチャンスをベルナルドが作ってくれたのだと分かり、表情に明るさを取り戻した。


「はい! お父様、お母様、しっかり殿下と向き合ってきます!」


 そう言うと、庭園へ向かって歩くレオリオの元へ小走りして行った。


「殿下、足元が暗くなっていますので、お気を付けください」


「あぁ」


 2人が話している様子を見て、ベルナルドとレリアナはホッとしていた。


「さぁ、後のことは若者同士に任せて、私たちはワインでも飲もうか?」


「えぇ、いいわね。ユナならきっと大丈夫よ……」


「あぁ、そうだな。私たちの娘だからな」


 ベルナルドはレリアナの腰に手を当てて、仲睦まじく寄り添いながら屋敷の中へ入って行った。


 空は日が落ち、夕焼けが広がっていた。庭園に続く道の両端にはいつもよりも本数の多い灯ろうが置かれていて、幻想的な雰囲気が漂っていた。


 沈黙が続く中、何とかレオリオと話ができる雰囲気に持っていきたくてユナが話しかける。


「殿下、昼間と趣向が異なる夜の庭園もとても美しいですよ」


「あぁ、そなたの言うとおりだ」


 先ほどまでの刺々しい態度から一変し、レオリオは穏やかでやさしい表情をしていた。ユナはその表情にうれしくなって、続けて話を切り出す。


「殿下は庭園が好きなのですか?」


「……いや、ベルナルドほどではない」


「たしかに、お父様は土いじりが趣味というくらい本邸に戻ったときはお母様と庭園で過ごすことが多いのです」


「昼間も庭園を見て回ったが、公爵家はどこも管理が行き届いている。庭もいい香りがして、とても居心地が良いな」


「ありがとうございます。ですが、我が家の庭園よりも王宮の庭園の方が素晴らしいのではないですか?」


「……王宮の庭園は規模が大きいし、希少な花や薬草も多くあるが、ここほど居心地の良さは感じられない……」


「そう……ですか」


 レオリオの表情が一瞬冷ややかになり、余計な話をしてしまったかと思い、口を噤んでしまった。すると、今度はレオリオから話を切り出してきた。


「ユナ嬢はこのような温かい場所で育ってきたのだな」


 レオリオがどのような意図でそう言ったのか分からなかったが、ユナに心を開いてくれようとしていることだけは伝わってくる。


「はい、ここは私にとっての心の故郷です」


「心の故郷?」


「えぇ、私はここで生まれ、1歳になると首都の別邸で過ごしました。5歳になる頃には本邸に戻り、両親と離れ離れに暮らすようになったのです」


「そうだったのか、幼くして両親と離れ離れに暮らして寂しい思いをしただろう」


「はい、でも私には使用人たちがいましたから。皆とてもやさしく温かいのです。身分は違えど、皆家族のように大切に育ててくれましたから」


「そうか、ユナ嬢が他の貴族令嬢と何か違うと感じたのはそういう背景があったからなのだな」


 レオリオが立ち止まり、数歩後ろを歩くユナの方を見て深々と頭を下げた。


「殿下……?」


「ユナ嬢、今日はすまなかった! 実のところ、私は結婚するつもりはなかったから、何とかユナ嬢に悪い印象を持ってもらおうと必死だったのだ。だが、そなたは最初から他の貴族令嬢とは違っていた。着飾らない姿が慎ましく、振る舞いを見るだけで気品の高さが分かる。私の不躾な振る舞いにも怒りを露わにすることなく、冷静だった。正直、今日の私の振る舞いは恥ずべき行為だ。そなたに『愚弄された』と罵られても私に反論の余地はない。本当に申し訳なかった。私が間違っていた!」


「殿下……! お顔をお上げください!」


「愚かな私を許してくれるのか?」


 レオリオは下げた頭を少し上げると、ユナに許しを乞うてきた。


「殿下、まずはお顔を上げてください!」


「あぁ、分かった」


 レオリオが顔を上げて姿勢を正すと、ユナは自身の心の内を語り始めた。


「正直なところ、殿下の態度に困惑しておりました。私とも目を合わさず、会話もせずで、嫌われてしまったのだと思っていました。でも、殿下の立場で考えると、当然のことだと思ったのです」


「……?」


「殿下は国王陛下の御子であられるのに、私ごときが結婚相手を見定めるなんて、身の程知らずもいいところです。愚かなのは国王陛下の御慈悲に甘え、殿下に公爵家へ足を運ばせてしまった私の方です。こちらこそ大変申し訳ございませんでした」


 今度はユナが深々と頭を下げ、レオリオに詫びを告げた。


「待ってくれ! ユナ嬢は何も悪いことはしていないのだから、謝る必要はない! 令嬢に頭を下げさせるなど、男の風上にも置けない行為だ。頼むから頭を上げてくれ! ユナ嬢……」


 ユナが頭を挙げ、レオリオを見ると、本当に焦った表情をしていた。そんなレオリオの様子を見て、ユナは思わず笑ってしまった。


「うふふ……」


 するとレオリオもユナの笑い声につられて笑っていた。


「あははは……参ったな」


 レオリオは手で頭をかきながら、眩しい笑顔を見せた。


 レオリオの本音が聞けて、ユナは胸をなでおろしていた。レオリオも誤解を解くことができて、すっかり素の自分に戻っていた。


「殿下、まだお時間はありますか?」


「あぁ、このあとは王宮へ帰るついでに友人の家を訪ねる予定だ。急ぎではないから遅くなっても構わない」


「でしたら、私のとっておきの場所へご案内してもよろしいでしょうか?」


「とっておきの場所?」


「はい、こちらへどうぞ」


 少し歩くと、巨大樹が見えてくる。


「殿下、高い場所はお嫌いではないですか?」


「いや、子どもの頃から木登りをしていたから平気だが……?」


「殿下、こちらへ」


 ユナがレオリオを巨大樹の裏側へ案内する。巨大樹の裏側に回ると、幹を傷つけないように木製の階段が取り付けられていた。


「殿下、お先にどうぞ」


 ユナはレオリオに階段を上るよう促した。


「あぁ」


 レオリオは階段に両足を乗せて、階段が頑丈かどうかを確認し、安全だと確信してから階段を上っていった。


 ユナはレオリオに続いて階段を上る。


 十数段上ると、踊り場のような小さなスペースがあり、さらに上へ上ると小さなツリーハウスが見えてくる。ツリーハウスの中に入ると、レオリオは床や壁、天井、窓とそこら中を興味津々に見ていた。


「ここがユナ嬢のとっておきの場所か?」


「はい、そうです。ここは私が5歳せ本邸へ戻ってきたときに、使用人たちが総出で作ってくれたツリーハウスです。当時の私は両親と離れ離れになった寂しさの余り、何日も部屋に閉じこもっていたのです。使用人たちがこのツリーハウスを作ってくれて、子ども心にとてもうれしくて、それからは毎日ここで過ごしていました」


「だから、ユナ嬢はさっき『心の故郷』と言ったのだな」


「えぇ、そうです。殿下、そこのベッドに座っていただけますか?」


「あぁ、子ども用のサイズだな」


 ユナは天井の小窓を開けて、レオリオの隣に座った。


「殿下、上を見てください」


「星空も見えるのか……! これはすごい仕掛けだな」


「幼い頃はベッドに寝ながら、毎晩空を見上げていました。星空を見ていると、なぜだか心が落ち着いて安心できたのです」


「……」


 レオリオはやさしい表情を浮かべながら星空に見入っていた。


 ユナはレオリオに静かで穏やかな時間を過ごしてもらおうと、先に下りることにした。


「殿下、気が済むまでゆっくりしていってください」


「私は東屋におりますので」


「あぁ、分かっ……」


 レオリオはユナを見送ると、床に腰を下ろしてベッドにもたれかかりながら再び星空に見入っていた。


 ユナは東屋のガーデンチェアに腰を下ろし、エルザが用意してくれていた紅茶を飲んでいた。


 しばらくするとレオリオの姿が見え、エルザは屋敷へ戻って行った。


「殿下、紅茶を1杯いかがですか?」


「あぁ、せっかくだから1杯もらおう」


 ユナはティーカップに紅茶を注ぎ、レオリオの前に茶菓子と一緒に並べた。


「ユナ嬢、まずは君に感謝する。久しぶりに1人でゆっくり過ごせたよ。ありがとう」


「殿下、勿体ないお言葉です。ですが、少しでも気を抜いて過ごしていただけて良かったです。この紅茶はとても香りがいいのですよ。よろしかったら茶菓子と一緒にお召し上がりください」


 レオリオはユナが話し終わるのを待ち、紅茶をすぐに飲まず香りを楽しんでから一口味わう。


「このような香りのいい紅茶は初めてだ。とても美味しいな」


「お土産にお持ち帰りになられますか?」


「あぁ、頼むよ」


「では、ご友人へのお土産の分も一緒に用意してお渡ししますね」


「助かるよ。ありがとう」


「いえ、とんでもございませんわ」


「今日、ユナ嬢に会って、こうして話せて良かったよ。私への心遣い、感謝する」


 レオリオが頭を下げて感謝の気持ちを表した。


「殿下、頭をお上げください。公爵家の者として当たり前のことをしたまでです」


「君はそうかもしれないが、私はうれしかったのだ。この礼はいずれする」


「お礼だなんて、その必要はございません」


「私が婚約者殿にプレゼントを贈るのなら良いだろう?」


「婚約者……」


「いや、すまない。今の発言は早まりすぎた。君の婚約者は兄上やクレイグになるかもしれないからな……」


「……。殿下、申し訳ございません。まだ王太子殿下やクレイグ様とはお会いしていないので、お返事は……」


「あぁ、分かっている。前言を撤回させてほしい」


 照れくさそうにするレオリオを見て、ユナはやさしく微笑む。


 2人で再び笑い合った。


「では、私はそろそろ失礼するよ」


「お見送りいたします。父と母を……」


 レオリオが、ベルナルドとレリアナを呼び戻そうとするユナを制止する。


「ベルナルドたちとは先ほど挨拶を交わしたから、呼ぶ必要はない。それに今頃あの者たちはワインでも飲んで楽しんでいるさ。それに、公爵家には……いや、ユナ嬢にまた会いに来る」


「えぇ、私もお待ちしております」


「……。では、また」


「はい、殿下もお気をつけて」


 ユナはレオリオを乗せた馬車が見えなくなるまで、レオリオを見送った。


 レオリオはユナからお土産にと渡された紅茶をうれしそうに眺めていた。


「貴重な紅茶だ、あいつにくれてやるのは少々もったいない気がするな。このまま渡さず持って帰ろうか……」


 公爵家の屋敷はもう見えないが、屋敷の方を静かに、そして柔らかな表情で見つめていた。


 こうして、ユナは無事に第2王子との初対面を終えたのだった。

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