辺境騎士団、現在の物語
辺境騎士団とは、魔物の討伐を主な仕事とし、屑の美男をさらって教育するという変、いや、変わった騎士団だと知られている騎士団だ。
男性ばかりで構成されていて、現在は160名位の団員を抱える大所帯だ。
第一隊、第二隊。計40名しかいなかった5年前と比べれば、大幅に増えたと言える。
情熱の南風アラフ。北の夜の帝王ゴルディル。東の魔手マルク。三日三晩の西のエダル。
辺境騎士団で知られている凄腕?いや、変態? 四天王と言われている連中だ。
屑の美男をさらって教育する責任者である4人。
金髪美男のアラフと黒髪でいかつい大男のゴルディル。二人は古くからの親友である。
触手を操る黒髪好青年のマルク。そして彼と気が合うのが、黒髪の男、美男という訳ではない普通の容姿で、名はエダル。
そして、今、アラフは酷くイラついていた。
一人、騎士団詰所のベッドに腰かけて部屋で飲んでも飲んでも、気が晴れない。
二度も女性を手にかけた。
今まで人を殺した事なんてなかった。
異世界から召喚された聖女。
二人の聖女達は、身体に毒を持っていた。
五年前、異世界から呼び寄せられた勇者達が村や街の娼館で遊びまくった。
彼らは病気を持っていて、その病気のせいで娼婦達や更に感染が広がって多くの女性達が亡くなった。
娼婦達は貧しさ故に仕方なく娼婦をしている可哀そうな女性達。
アラフはメリーナと言う少女がお気に入りで。
彼女の胸に甘えている時にとても幸せを感じた。
それが、勇者達のせいで、亡くなったのだ。
「沢山の男の人に抱かれたけど、アラフ様に会えた時が一番幸せだった……私の事、忘れないで。ううん。忘れてくれていいの……忘れて……」
アラフの腕の中でメリーナは亡くなったのだ。
もし、メリーナを娼館から引き取って結婚していたら、メリーナは今も生きていた?
いや、魔物と戦って怪我が耐えない当時、まだ新人だった頃、メリーナを引き取って幸せにする自信なんてなかった。
メリーナは家族を養っていた。メリーナの家族達や他の生き残った村人達は村を捨てて遠くへ行ってしまった。
貧しい村。今はそこには彼らの先祖やメリーナ達、娼婦のお墓しか残っていない。
メリーナを殺した異世界人。毒をまき散らす異世界人。
アラフはガルド王国で聖女が王太子と交わって、王太子が死んだと聞いた時、許せないと思った。
だから、聖女が隔離されたという神殿に忍び込んで、彼女を斬殺した。
他の四天王達も協力してくれた。
ゴルディルは涙を流して、
「娼館の女達は良い人ばかりだったなぁ。それがみんないなくなっちまった。異世界人が悪い。異世界人を殺すなら手伝うぞ」
マルクも泣きながら、
「俺も手伝う。だって、許せないっ。俺の事を可愛いって、可愛がってくれたんだ。だから、聖女を殺すなら手伝う」
エダルも頷いて、
「聖女を殺そう。異世界人は殺してしまおう」
だから、四人で忍び込んで、アラフ自ら、聖女を斬殺した。
聖女は、信じられないという顔で、こちらを見たが、知った事ではない。
二人目の聖女は、身体に毒を持っていることを隠した罪で、処刑された。
処刑人にすり替わって、首を斬ったのもアラフだ。
許せなかった。毒を振りまくな。俺のメリーナを返せ。
俺のメリーナをっ。俺のメリーナを。
涙がこぼれる。
5年前の事なのに、メリーナの事が忘れられない。
ゴルディルが酒瓶を持って入って来た。
「荒れているな。アラフ」
「そりゃ荒れるさ。くそっ。異世界人を呼びだすなよ。全部潰してやりたい」
「それは無理だろ。どこの王国だってその気になれば、異世界人を呼び出せる。俺達にはそれを潰して回る力がない」
「そうだよな。仕事もあるし、騎士団長が怒るよな。きちっと魔物討伐の仕事をしないとな」
二人で並んでベッドで腰かけて、酒を飲んだ。
聖女達を斬った場面が蘇る。
真っ赤な血。
真っ赤な……
メリーナの笑顔が蘇る。
「ごめんな。メリーナ。守れなくて。俺が君と結婚していたら今、君は傍にいたのかな」
ゴルディルが肩をポンと叩いて、
「当時のお前なら無理だろう?今だって、魔物討伐は過酷だ」
「ああ、そうだよな。そうだよな…」
アラフは悲しくて涙を流した。
ああ、なんて俺は無力なんだ。
コンコンとドアをノックする音がして、マルクが情報部のオルディウスを連れて入って来た。後ろからエダルも入って来る。
オルディウスは情報部長で、銀髪に青い瞳の美男子だ。情報部の貴公子と呼ばれている。
手に持つファイルを見せながら、
「アラフ、なんだ?落ち込んでいるのか。屑の美男子の情報だ。元気出せ」
マルクも触手をウネウネさせて、
「そうだぜ。元気だせよ」
背後からエダルが顔を出した。
「屑の美男の教育、どうするか、相談すれば元気が出るさ」
オルディウスはファイルをテーブルに置き、
「エフェル王国のアダル公爵家の次男がとんだ屑だ。顔は整っていて凄い美男だがな。情報は細かくここに書いてある。さらうかどうか、検討するがいい。ほれ、甘い物、お前ら好きだろう。差し入れ」
甘いチョコレート菓子をテーブルに置いて、
マルクは嬉しそうに、
「街で売っている高いチョコじゃん。有難う。オルディウス」
「用は済んだ。俺は仕事があるからな」
オルディウスから差し入れを貰い、チョコをつまみながら、酒を飲む。
エダルが、チョコを食べながら、
「なぁ、俺達の屑教育、今のままでいいのか?」
現在30人程いる屑の美男達。5年の間に実は20人程がこの辺境騎士団を密かに去っている。
騎士団員達の性の餌食と、正義の教育、孤児院への慰問などを2年間受けた後、改心したものは、教会に預けるのだ。
今更、いなくなった王子や令息が戻って来ても身内も困るだろう。
だから、監視の厳しい教会に預けて、そこで彼らは仕事を与えられて働いている。
孤児達や老人達の面倒を見る仕事だ。貧しい人達に炊き出しをする仕事だ。
20人は、反省をし、一生懸命働いている。
アラフはエダルの問いに頷いて、
「俺達は勇者達からうつった病気は、もう心配はいらなくなったけど、今更、娼婦を買って抱く気はしないし、それは当初からいた40人すべての思いだ。俺達に感化された連中も多くて、皆、美男達を抱く事を目標に危険任務を頑張っている」
ゴルディルが酒をあおりながら、
「中にはまともな女性好きもいるがね」
マルクがハハハと笑って、
「これからも、正義を貫くしかないんじゃない?だってさ。女性を苦しめる屑を許していいの?」
エダルは酒をぐいっと飲んでから、
「許せない。三日三晩、じっくりと愛の教育をっ」
アラフは大きく頷き、
「そうだな。俺達の屑の美男における正義は続けていった方がいいな」
皆で大いに飲んで、それぞれ部屋に帰って、一人、ベッドに寝転がるアラフ。
いい仲間に恵まれて俺は幸せだな。
これからも、屑の美男に正義の教育を。
それにしても、また、どこかの王国が勇者や聖女を召喚しないといいんだが。
召喚したらその時は、いや、奴らが毒をまき散らしたら、また、俺が殺してやる。
メリーナ、君はそんなことをしないでと、言うだろうけれども。
だけど俺はメリーナっ。
どうか、許して欲しい。
俺は毒をまき散らす異世界人を許せない。
この手を血で染め続けるよ。
騎士団長談
「情報部、屑の美男よりも魔物討伐の情報をしっかりと集めて来い。おいこら、四天王。仕事をしっかりとこなせ。まったく……」