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  作者: 柴犬
1/1

 


 昔の事だ。

 僕は人を殺した。


「ふう」


 ビールを飲みこむ。


「くそ」


 事故で。

 信号無視で突っ込んで来た乗用車の人間を殺した。

 事故は正面衝突だった。

 とはいえ向こうの過失だから此方に罪はない。

 罪は無いが負い目はある。

 親を失った子供の目が怖かった。

 向こうの両親は即死だった。

 重症を負い救急搬送される子供の目が。

 噂によると子供は暫くして死んだらしい。

 その時からだ。

 乗り物に乗れなかなくなったのは。

 

 仕事は無断欠勤。

 恐らくクビだろう。

 あの日から家で引きこもった。

 他人の視線が怖いのが原因だ。

 視線が怖いからだ。

 責められてる気がしたからだ。

 だがら一日中引きこもった。

 家でテレビばかりみていた。

 ビールを片手に。

 だが人間だからお腹がすく。

 しかし御腹が空いても御飯を買いに行く気になれなかった。

 そこで無人販売を利用するようになった。

 若しくは近所の家庭菜園の野菜を失敬したりもした。

 まあ~~ビールは腐るほど有るが……。


「それはそうと……深夜とはいえ人が居ないな……」


 田舎特有の田園風景。

 幾ら田舎だと言えども此処まで人が居ないのも珍しい。

 コンビニの近くを通ったが人の気配が無かった。

 いつも溜まり場にしてる不良はおろか店員すら居ない。

 休憩中だから店員はいなと思うが……。


 そんな時だ。

 その少年に会ったのは。

 その少年は突然現れ僕に話しかけてきた。


「これを見てください小父さん」


 意味不明な事を。

 というか知り合いで無いのだが。


「お前誰?」


 奇妙な少年だった。

 妙齢の女性のようだし精悍な男性に感じられる。

 そんな奇妙な感じの少年だった。

 どこか見覚えが有る。

 

「良いから見てください小父さん」

「小父さんではない御兄さんと呼べ」

「分りました小父さん」

「……」

「この手にある物を見てください」

 

 見知らぬ少年に見せられた物。

 恐らく物。

 恐らく物というのは理由がある。

 見せられた物が無いのだ。


 完全に。

 何もない。

 それを恐る恐る手に持ってる。


「何もないが?」

「何言ってるんですかっ! 此処に有るじゃないですか」

「どこに?」

「ここに」


 うん。

 分からん。

 付き合ってられん。


「帰るの小父さん?」

「付き合ってられん」

「そんな僕を捨てるのっ!」

「人聞きの悪いことを言うなっ!」

「え~~良いじゃん小父さん」

「疲れる」

「またね~~」


 二度と会いたくない。

 そう思いながら帰宅した。


 次の日。


「これを見てください小父さん」

「またお前か」


 昨日の少年が居た。

 またも。


「良いから見てください小父さん」

「小父さんではない御兄さんと呼べ」

「分りました小父さん」

「……」

「この手にある物を見てください」


 この手の下りやったな。

 

 見知らぬ少年に見せられた物。

 完全に。

 何もない。

 本当に。

 それを恐る恐る手に持ってる。


「何もないが?」

「何言ってるんですかっ! 此処に有るじゃないですか」

「どこに?」

「ここに」

「どこに?」

「ここ」


 うん。

 これもやった。


「帰るの小父さん?」

「付き合ってられん」

「そんな僕を捨てるのっ!」

「人聞きの悪いことを言うなっ!」

「え~~良いじゃん小父さん」

「疲れる」

「またね~~」


 また明日も会いそうだな……。


次の日。


「これを見てください小父さん」

「またお前か」


 昨日の少年が居た。

 またも。


「良いから見てください小父さん」

「小父さんではない御兄さんと呼べ」

「分りました小父さん」

「……」

「この手にある物を見てください」


 この手の下りやったな。

 

 見知らぬ少年に見せられた物。

 完全に。

 何もない。

 本当に。

 それを恐る恐る手に持ってる。


「何もないが?」

「何言ってるんですかっ! 此処に有るじゃないですか」

「どこに?」

「ここに」

「どこに?」

「ここ」


 うん。

 これもやった。


「帰るの小父さん?」

「付き合ってられん」

「そんな僕を捨てるのっ!」

「人聞きの悪いことを言うなっ!」

「え~~良いじゃん小父さん」

「疲れる」

「またね~~」


 また明日も会いそうだな……。


  次の日。


「これを見てください小父さん」

「またお前か」

 

 一昨日の少年が居た。

 またも。


「良いから見てください小父さん」

「小父さんではない御兄さんと呼べ」

「分りました小父さん」

「……」

「この手にある物を見てください」

「分ったよ」

「おや?」

「どうした」

「今度は素直に見てくれるんですね~~」


 にひひっと笑う少年。


「まあな」


 そう言いながら見てみる。

 見てみるが何もない。

 本当に。


「何もないぞ」

「あれ? おかしいな~~」

「はあ……もう良いか?」

「ああっ! 忘れてたっ!」

「なんだよ」

「自分で指を組んで御呪いを言わないと駄目なんだ」

「はい?」

「真似して」

「あ~~」

 


 メンドイ。

 しかしまあ付き合うか。

 

「特別な指の組み方をして」


 眼前で狐のような指の組み方をして素早く変化させる。

 それを真似する僕。


「呪文を唱え」


 はいはい。


「けしやうのものか、ましやうのものか正体をあらわせ」

「けしやうのものか、ましやうのものか正体をあらわせ」


 そうして僕は指の隙間から見る。


 

 何も見えない。

 何も。

 物など。

 物は見えなかった。


 そう見えない。



「ねえ……見えた?」


 指の隙間から見た世界は一変した。



「……」


 そこに見えたのは囂々と燃える炎。

 赤く燃える炎。

 囂々と。

 囂々と。


 あたり一面見渡す限り炎の光景だった。


 見渡す限りの田園風景は無い。

 あたり一面囂々と燃える炎の大地だった。


 この世ではあり得ない光景。


 その中で踊る人影。


「ぎやあああああっ!」

「熱いいいいいいっ!」


 いや此れは踊っていると言えるのだろうか?

 炎に焼かれ苦しむ亡者とも言うべき存在。


 此処はまるで……。


「地獄へようこそ」

「待ってたよ」

「いらっしゃい」


 僕に声を掛けた人物。

 少年が居た方から声が聞こえたので振り向く。

 そこには何処か見覚えのある親子が居た。

 


 何処か。


 そう何処か。


 血まみれの顔で思い出した。

 事故死した相手の家族。


 あ……。


 ああ……。


 僕は悪くない。

 僕は悪くない。

 僕は悪くない。

 僕は悪くない。

 僕は悪くない。

 僕は悪くない。

 


「飲酒運転していてもかい?」


 その言葉に僕は冷や汗をかいた。

 声の主は眼前の父親。


「アルコール検知器に運よく引っかからなかったがな」


 その言葉に血の気が引いた。

 事故の日。

 飲み会の帰りの事だ。

 車の中で眠り少し酔いを醒まして帰宅途中で事故にあった。

 アルコールが完全に抜けてない状態で。

 事故を起こし警察を待つ間にアルコールは完全に抜けていた。

 アルコール検知器に運よく引っかからなかった僕はそのまま黙秘。

 飲酒運転の事実を隠した。

 自己保身のために。


 幸い向こうが信号無視をしてたのが幸いだった。

 筈だった。


 結局僕は罪の意識に耐えられなかったという訳だ。


「地獄に堕ちたという事は僕は死んだのか……」

「さて……」


 いつ死んだのは分からない。

 落ちた理由はどうでもいい。

 問題は此れから。



 延々と地獄の責め苦をいつまで受け続けるのか。


 その未来に何処か僕はホッとした。








 


 


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 短編のようですが連載するんですか? [一言] 『罪の意識に悶える煉獄のループ』より『罰を与えてくれる地獄』の方がマシ』という解釈で宜しいのかなと。 ただ読み込んでいないので『少年の正体…
[気になる点] その3人によって、地獄に引きずり込まれたのか。 自ら落ちて、その3人はただの幻なのか。 [一言] 普通の人の心の動きがよく表現されていると思いますよ。 楽な方に流されつつも、罪の…
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