[第七話、これが愛の力]
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どうぞよろしゅうに〜
「はぁ…はぁ…これがガイ先生の言う個人的な仕事ってやつかよ…!」
息を切らしながら、俺は森の奥へと走り続ける。
時を遡ること10分前。
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「俺から個人的な仕事があるんだけど、引き受けてくれるかい?」
「え?」
ガイ先生が思わせぶりな笑みを浮かべながら、俺に向かってそう言った。
「ユウマは、まだ実戦で魔法を使っているところを見たことがないだろ? だったら、一度本物の戦いを見て学んでこい! …報酬は3000ルーメントでどうだ?」
3000ルーメント。
俺にとっては2日分の食費に相当する大金だった。
「まじすか!? たったそれだけで!? 見るだけで金もらえるんですか!?」
「そういうことだ。良い勉強にもなるし、君にとっても損はないはずさ」
「……なんか裏がありそうな気がするけど……」
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そんなこんなで、俺はまんまと口車に乗せられ、こうして全力疾走するハメになっている。
「くそっ、見学するだけで金もらえるなんて、やっぱり何か裏があるに違いない…!」
そう思いつつも、先輩たちの姿が見えた今、考えてる暇はない。
「とにかく、まずは彼女たちの戦いを見届けることが最優先だ!」
俺は力を振り絞り、森の奥へと足を踏み入れた。
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──森の奥。
すでに、レイヴンとメリファは戦闘を開始していた。
「満月でもないのに、なぜゴブリンが群れをなして現れたのかしら……マヤ、あなたの力でゴブリンの数を把握してちょうだい」
メリファが口にすると、彼女の星獣マヤが軽く頷き、羽ばたきながら宙へと舞い上がった。
「蝶の使者、周囲の情報を収集せよ──」
マヤが静かに呪文を唱えると、彼女の持つ本から無数の蝶が生まれ、淡い光を放ちながら四方八方へと飛び散っていく。
その小さな使者たちは、森の奥へ潜む敵の情報を収集し、マヤのもとへと届け始めた。
「レイヴン、聞こえるでちか?」
「聞こえてる。」
念波を通じて直接レイヴンの脳内に語りかけると、マヤはすぐに状況を報告した。
「東に6匹、大きな木の陰に隠れてるでち。武器は持ってるけど、まだ動いてないでち……南にも6匹、そっちはすでにこっちへ向かってるでちよ!」
「了解、メリファ、強化魔法を頼む。」
『ええ、ブルームブースト。』
メリファが黄緑色の本を開くと、彼女の手から優雅な花びらが舞い上がる。
その花びらがレイヴンと彼女の星獣リュカに降り注いだ瞬間、二人の体に力が満ちるのを感じた。
「リュカ、二人で3匹ずつ倒そう。」
「了解だぎゃ。」
黒狼のリュカが低く唸りを上げると、次の瞬間にはすでに駆け出していた。
レイヴンも彼に続き、ゴブリンの集団へと突撃する。
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レイヴンの拳に雷のエネルギーが集中し、彼女は力強く呪文を放った。
『雷撃拳!!』
その一撃はゴブリンの腹部を貫通し、獣のような悲鳴とともに奴は地に沈む。
その間にも、リュカは鋭い動きで次の敵へと襲いかかった。
「サンダーブリッツ!」
雷のような速さで駆け抜けたリュカの体が、ゴブリンの胴体を一瞬で貫いた。
ゴブリンは目を見開く間もなく、その場に崩れ落ちた。
「次!」
レイヴンは二体目に狙いを定める。
しかし、先に動いたのはゴブリンの方だった。
「っ…!」
分厚い斧が容赦なく振り下ろされる。
だが、レイヴンは瞬時に側転し、その勢いを利用して跳び上がると、宙からもう一撃。
『雷撃拳!!』
拳に帯電した雷がゴブリンを直撃し、爆発するような衝撃が辺りに響く。
ゴブリンは悲鳴を上げながら、黒焦げになって倒れた。
リュカもまた、次の獲物を一瞬で仕留める。
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ユウマが現場に到着したとき、すでにゴブリンの影はどこにもなかった。
「すげぇ……。」
ただ、息を呑むことしかできない。
地面にゴブリンの亡骸。圧倒的な力の差を見せつけられた気分だった。
「おい、お前……何をしている!?」
鋭い声が響き、振り向くとレイヴンが真っ直ぐこちらへ向かってくる。
その真剣な眼差しに、俺は慌てて事情を説明した。
「えっと、その……ガイ先生の手伝いというか、見学というか……『実戦を見て学んでこい』って言われたので……。」
「お前が……あのユウマか。」
レイヴンさんは俺をじっと見つめ、何かを考え込むような表情を浮かべた。
「私はレイヴン。そして、こいつは私の星獣、リュカ。」
「よろしく、だぎゃ。」
「よ、よろしくお願いします!」
黒狼…しかも、喋るとか……めちゃくちゃカッコいいじゃん。
「メリファ、この人誰でちか……?」
小さな影がメリファ先輩の背後に隠れる。
指をさして俺を警戒するその子は、緑の帽子にローブを纏い、ブロンドのミディアムボブの髪を持ち、背には蝶のような美しい羽を生やしていた。
「この子は新しい新入生くんよ。ごめんなさいね、うちのマヤはちょっと人見知りで……。」
「この子も星獣なんですか?」
「そう、私のパートナーよ。子供みたいで可愛いでしょ?」
「うるさいうるさい! 子供扱いしないでほしいでち!」
「はいはい、可愛い可愛い。」
「でちぃぃ……!!」
和やかな空気が流れた
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「ここは危ない。私たちもひとまず帰ろ…」
その時だった。
「ガァァァァアアアアアア!!!!」
獣のような雄叫びが響き渡る。
空気が震え、森が軋むような音がする。
「な、なんだ今の声……?」
俺の視界の先、森の奥から姿を現したのは──。
「……でっかー!!」
巨大な魔物が、ぬっと影から姿を現した。
「これも……魔物っすか!?」
森の静寂を引き裂くような咆哮が、俺たちの前に立ちはだかる。
先輩たちの表情が引き締まる。
「おいおい……マジかよ……。」
どうやら、ここからが本番らしい。
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「トロールだと……?」
レイヴンが鋭く目を細める。
目の前に立ちはだかるのは、尋常ではない巨体の魔物。
通常、トロールは満月の夜にしか活動しないはずだ。
なぜ今、ここに現れたのか。
「レイヴン! ユウマ君、避けて!」
メリファの叫びと同時に、トロールが大きな棍棒を振り下ろす。
レイヴンは瞬時に後方へ跳び、ユウマは咄嗟に身を引いたが、それでも回避が間に合わない。
黒狼の星獣が疾風のごとく駆け寄り、ユウマを弾くようにして押し倒す。
棍棒が地面を砕く轟音が響いた。
「……助かった、ありがとう、リュカ。」
「問題ないぎゃ。レイヴン、こいつと戦うなら魔力供給しかないぞ!」
レイヴンがリュカの言葉に頷く。
そして、静かにメリファへと視線を送る。
「頼む、メリファ。」
「……はい。」
まさか……生で魔力供給を見られるとは。
ユウマはごくりと唾を飲んだ。
二人の足元に魔法陣が現れた。
手を取り合い、見つめ合うレイヴンとメリファ。
静寂の中、魔法陣が淡い光を放ち始める。
「久しぶりね。」
「嘘つけ。二週間前にシたばかりだろ。」
「もう、あまり強く噛まないでよ? あなたがすると跡が残るんだから。」
「……私以外に、誰とこういうことをするつもりだ?」
レイヴンが低く囁くと、メリファは小さく肩をすくめる。
そして、呪文を唱えた。
「我が魔力よ、汝の力と共鳴せよ」
レイヴンはそっとメリファの首筋に手を添え、唇を寄せる。
そして、軽くキスをしたあと、ゆっくりと歯を立てた。
「んっ……♡」
メリファの口から、甘い吐息が漏れる。
その瞬間、彼女の身体が微かに光を帯び、魔力が流れ込む。
「……毎回のことだけど、これ、少し気持ちいいのがダメよね。」
視線を逸らし、頬を赤らめるメリファ。
それに対し、レイヴンは冷静に言い放つ。
「次はお前の番だ。」
「はいはい……急かさないで。」
メリファもまた、そっとレイヴンの首筋に唇を寄せる。
同じように魔力が流れ込み、レイヴンの体が微かに震えた。
「……ん、ぁ……♡」
「可愛い声出しちゃって。」
メリファが小さく微笑むと、レイヴンは眉をひそめる。
「うるさい……// 後輩が見てるんだから、余計なことを言うな。」
ユウマはその様子を見ながら、思わず言葉を失っていた。
(……これが魔力供給。なんつーか、めちゃくちゃエロい。)
魔法陣が消え、二人の魔力が完全にシンクロしたことを示す。
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「さぁ、やるわよ。」
メリファが手を本にかざし、呪文を唱える。
『大きなトロールさん、私が捕まえてあげるわ。花のツタよ、奴を縛りつけよ… クレマチス・デスペア・ノット!』
彼女の言葉と同時に、地面から無数のツタが伸び上がり、トロールの巨体を絡め取る。
圧倒的な力を持つはずのトロールが、あっけなく拘束される。
「クレマチスの花言葉は、束縛よ。」
自慢気に微笑むメリファ。
その横で、レイヴンが静かに構えを取る。
「よくやった、メリファ。あとは私がやる。」
リュカに下がるよう指示を出し、雷のエネルギーを全身に巡らせる。
『雷鳴轟く天の声よ、我に力を与えたまえ 雷神の波動』
天へと突き上げられたレイヴンの腕から、雷光が迸る。
空が唸り、眩い閃光が辺りを照らす。
次の瞬間、その雷がトロールの体を直撃した。
──圧倒的な雷の奔流が、トロールを飲み込む。
叫び声すらあげる間もなく、トロールの巨体は跡形もなく消え去った。
「……これが、魔力供給の力。」
ユウマは呆然と立ち尽くす。
「どうだ?」
ガイ先生がいつの間にか隣に立っていた。
「魔力供給は、すごいだろ?」
「……すごい、なんてもんじゃないっすね。」
ガイ先生は笑いながら俺の肩を叩く。
「今日はいい経験になったんじゃないかな?」
「ええ。……先輩たちの力が、想像以上にすごすぎて。」
「まぁ当然さ。彼女たちは学園で唯一、真契約してる二人だからね。」
「それだけ信頼してるってことですね。」
「色んな意味でな。」
「えっ、それってどういう……?」
「さぁさぁ、帰って飯にでもしよう! おーい! レイヴン、メリファ、一緒に飯でも行こう!」
ガイ先生の唐突な誘いに、疑問を抱く間もなくその場を後にすることになった。
けれど──今日の戦いを目にして、俺は決めた。
もっと強くならなきゃいけない。
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4月15日
──あの日から4日後。
それから、俺は放課後に毎日魔法の練習をするようになった。
だが……。
「くそっ……また失敗か。」
鉛筆すら浮かせられない。
ただの小さな物体を浮遊させることすら、俺にはできなかった。
「ユウマ、今日も放課後に練習? 偉いなぁ。」
ジョンが教室の壁にもたれかかりながら声をかけてきた。
「こうでもしないと、俺だってレイヴンさん達みたいになれないだろ。」
「やっぱり近くで見た魔力供給は、すごかった?」
「……あぁ、すごいなんてもんじゃなかった。エロかったな。」
「僕も見たかったー!」
「なにがエロよ、気持ち悪いわね。」
せっかく盛り上がってたのに、レイラの一言で台無しだ。
ムカついた俺は、思わず睨み返す。
「なんだよ、レイラ! 文句あんのかよ!」
「ありますけど?」
「あっ! 忘れてた! ライラ先生に呼ばれてたんだ! 僕はこの辺で! それじゃ、また明日!」
「逃げるな! クルクルパーマ!!」
ジョンは全力で逃げ、レイラが追いかける。
そして俺は、ふと黒板に目を向けた。
(……今日は場所を変えて練習するか。)
東の図書館の隣に、自由に魔法を練習できる広場があるらしい。
今日の放課後は、そこで特訓だ──。
[おまけ]
「今日もたっぷり太陽の光を浴びて、美味しいお水を飲んで、すくすく育ってね〜♪」
メリファは軽やかな声で植物たちに語りかけながら、水を丁寧に撒いていく。
優しく葉を撫でるその仕草は、まるで子どもを慈しむ母親のようだった。
「ねぇねぇ、メリファ! あっちのお花、ちょっと元気がないでちよ。」
マヤが小さな羽をばたつかせながら、温室の奥を指差す。
「ほんと? ちょっと確認してみるわね。教えてくれてありがとう、マヤ。」
メリファはひょいと立ち上がり、マヤの示す方向へ向かった。
そこに咲いていたのは、黄色い可愛らしい花──ミモザ。
「あら、このミモザ……レイヴンが植えた花ね。」
メリファはしゃがみ込み、指先で土の状態を確かめる。
「植えるだけ植えて、ちっとも世話しないなんて……ほんと、ダメな人なんだから。」
「誰がダメな人だって?」
突如、背後から囁くような低い声が響いた。
次の瞬間、メリファの背中に温もりが押し寄せる。
しなやかな腕がふわりと彼女の体を包み込み、心地よい重みがのしかかる。
そのまま、レイヴンはメリファの背中に顔を埋める。
「どうしたの? 今日は一段と甘えん坊さんね。こんなところで誰かに見られたらどうするの?」
くすくすと笑いながら、メリファは彼女の頬をつつく。
「……この時間は誰も来ないさ。」
レイヴンは小さく息を吐く。
微かに、疲れの滲む声。
「少し……疲れただけだ。このままでいさせてほしい。」
メリファは驚きつつも、彼女の髪を優しく撫でる。
甘えるような仕草を見せるレイヴンは珍しい。
レイヴンが無防備になるのは、自分の前だけだと知っている。
「ふふっ、仕方ないわね。」
彼女は微笑み、そのまま作業を続けた。
「あ、あわわ……二人とも、なにしてるでちか!? //」
マヤが顔を真っ赤にしながら、バタバタと羽を羽ばたかせる。
「マヤ、あれが"大人の恋愛"ってやつだぎゃ。」
少し離れたところで、リュカが悟ったように頷いた。
その表情は、どこか達観した黒狼そのものだった。
次回!「第八話、デートだと思っていい?」
第七話を読んでくださったそこのアナタ!
次回も読んでくれると嬉しいです(。•̀ᴗ-)✧