[第八十四話、不幸せな青い糸]
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鋭い息を吐きながら、ユウマは拳に力を込めるとグローブが瞬時に鉄化する。
「おぉぉぉらぁぁ!」
ユウマは全身の力を込めて拳を振り抜く。鉄の拳がトロールの巨体に直撃し、鈍い音が森に響き渡る。トロールは一瞬だけよろめいたが、すぐに態勢を立て直した。
「ミシェル、大丈夫か?」
振り返るユウマの声には焦りと真剣さが滲んでいた。ミシェルは大きな目を見開きながら小さく頷くが、その手はかすかに震えている。
「よし、ホッパー! 頼んだ!」
「任せてルー!」
ホッパーはちょこまかとトロールの背後に回り込み、拳を振り上げる。
「ホッパーパンチ!」
小さな拳がトロールの背中に直撃するが、トロールはピクリとも反応しない。
「ルー!?」
ホッパーが驚いて後ずさる間、トロールは低い唸り声をあげ、再び棍棒を持ち上げる。その動きは予想以上に速く、そして威圧感に満ちている。
「 避けろ!」
ユウマは叫びながらミシェルの腕を引いて飛び退く。ホッパーもなんとかトロールの足元をすり抜け、間一髪で距離を取った。
「ぐっ...!」
ユウマは息を切らしながら再び拳を構えた。
だが、その時、トロールが振り下ろした棍棒の軌道は、ユウマの予想を超えていた。巨大な力が放つ一撃がユウマの拳を弾き、彼の身体を真横に吹き飛ばす。
「ぐあっ!」
ユウマは宙を舞い、そのまま大木に激突して地面に崩れ落ちた。
「ユウマくん!!」
ミシェルの悲鳴が遠くに聞こえる中、ユウマは荒く息を吐きながら顔を上げた。
ユウマを叩き潰そうと、トロールは低く唸り声をあげながら巨大な棍棒を振りかざした。その動きには容赦のかけらもなく、まるで地そのものを砕きそうな威圧感が漂っている。
(くっ…これは、アバラが数本…いってるかもな。息がしにくいし、視界も霞む…。)
ぼんやりと、揺れる視界の中でトロールの巨体を見上げるユウマ。だがその瞬間、漆黒の雷がトロールの腕を直撃した。黒紫の閃光が弾け、トロールの身体が弓なりにそり、轟音のような唸り声をあげる。
「なんとか…間に合った。」
荒い息をつきながら、ミシェルが薄く震える声でつぶやく。彼女は肩で息をしながら、手にした淡いピンク色の魔法書を開き、その小さな手をトロールに向かってかざしていた。
「うがぁぁぁ!」
雷に包まれたトロールは痺れたように動きを止めるが、その赤黒い瞳は明らかに怒りを宿している。ミシェルは一歩も退かず、さらに魔法の詠唱を続ける。
「私だって…戦えるんだから!」
彼女の声に決意が込められる。開いた魔法書のページから黒紫の光が溢れ出し、重々しい雰囲気を纏いながらトロールを狙う。
『カースドライトニング!』
呪文の言葉と共に放たれた黒紫色の稲妻が、不気味な軌道を描いてトロールを直撃する。暗黒の呪いと雷撃を融合させたその魔法は、鋭い音とともにトロールの体にまとわりつき、痺れるような苦痛を与える。
「ぐっ…ぐぁぁぁ!」
トロールは苦しげな呻き声をあげ、両手で頭を抱えるような仕草を見せる。その巨大な体が一瞬だけ揺れ、ミシェルの魔法の威力を物語っていた。
しかし、呪文の効果が持続するのは長くなかった。ミシェルの息が荒くなるにつれて、黒紫色の稲妻は次第に勢いを失い、やがて消え去る。
立ちすくむミシェルの瞳には焦りが見えた。トロールはその大きな腕を振り回し、さらに荒々しい唸り声をあげる。その姿は、怒りと憤怒そのもの
『だったらあたちがトドメさすにょ! ダークサンダーアロー!』
アイシャが黒い雷を纏った弓を構え、小さな手にしては驚くほど精密な動作で狙いを定めた。その瞳は、トロールの頭を射抜こうとする覚悟が宿っている。そして、雷の弾丸が放たれた。黒い軌跡を描くように飛ぶ雷弾――。
しかし、トロールの分厚い皮膚と鋼のような体がその攻撃を弾き返す。小さな閃光が弾け、次の瞬間、トロールは荒々しく吠えながら地面を踏み鳴らした。その衝撃で地面が揺れ、小石が跳ね上がる。
「ぐっ…!」
なんとか正気を保とうとするユウマは、痛みを押し殺してミシェルの元に駆け寄る。彼女の肩に手を置き、すぐさま治癒魔法を唱え始めた。ユウマの掌から放たれる淡い光が身体を包み込む。
「これで…少しぐらいはもつだろう。」
息を切らしながらも微笑むユウマ。その姿を見たミシェルの胸の中に、複雑な感情が渦巻く。彼を助けたい気持ちと、自分も役に立ちたいという焦り、そして淡い恋心が交錯していた。
(今なら…もしかしたら…。)
「トロール相手なら私達だけじゃ敵わないけど…でも、二人でならなんとかなるかもしれない…。」
ミシェルの言葉にユウマは口角を上げ、疲れた瞳を少し細めた。
「確かに、二人ならやれるかもな。」
「じゃあ! 私と――」
ミシェルが言いかけた瞬間、ユウマが力強く続けた。
「俺がアイツの動きを止める! ミシェルは自分の持ってる魔力を全部使って、アイツにぶち込んでやれ!」
「え…あ…う、うん!」
「どした? なんか不満か?」
「ううん! そんなことないよ!」
会話が終わる間もなく、ホッパーが高く跳びながら叫んだ。
「二人とも! トロールが向かってくるルー!」
「よし! 任せたぞ!」
ユウマはミシェルに力強い笑顔を見せると、トロールに向かって全力で駆け出した。その後ろ姿を見つめるミシェルは、小さく「絶対成功させる…」と呟いた。
「ホッパーキック!」
ホッパーが俊敏にトロールの顔面に飛び込み、全力の蹴りを放つ。一瞬怯んだトロールの隙をついて、ユウマは地面に拳を突き出した。
『鉄よ、敵を貫け! メタルスパイク!』
ユウマの呪文とともに、地面から鋭い鉄の棘が突き出し、トロールの動きを封じ込めた。その巨大な体が鉄の棘に絡め取られ、動きを止める。
「いまだ! ミシェル!」
ユウマの叫びに応え、ミシェルが両手を広げ、魔法の力を全身に集める。
『深淵より現れし、闇の棘よ。我が敵を貫き、その命を砕け! ダークスパイクブレイカー!』
暗黒の力が渦巻き、ミシェルから無数の闇の棘が放たれる。その棘はトロールの体を次々と貫き、命中するたびに爆発する暗黒エネルギーが大きな衝撃波を巻き起こした。
「ぐぁぁぁぁ!」
トロールは最後の悲鳴をあげ、その巨大な体が音を立てて崩れ落ちた。地面に横たわるその姿は、闇の棘に覆われ、完全に息絶えている。
「や、やった…!」
ミシェルが呟き、魔法書を抱きしめる。ユウマは膝をつきながらも、満足そうに笑った。
「すげぇな…ミシェル、やっぱりお前強いじゃん…。」
その言葉に、ミシェルの顔は嬉しさで赤く染まる。
「それよりユウマくん、怪我は大丈夫!?」
ミシェルは慌ててユウマに近寄ると、すぐさま治癒魔法を唱え始めた。柔らかな光が彼女の手から溢れ出し、ユウマの傷を癒していく。その光景を見つめながら、ユウマはふっと笑みを浮かべた。
「ミシェルの魔法、初めて見たけどさ、すごいな。ミケロスやリンなんかにも引けを取らないくらいの魔力だよ。」
「そんなことないよ… 私なんてまだまだだもん。」
謙虚な態度で俯くミシェルだが、その声には少しだけ誇らしげな響きが混じっている。
「いやいや、お前がいたから勝てたんだ。本当にありがとな。」
ユウマは屈託のない笑顔でミシェルの頭をポンポンと撫でた。その温かさに、ミシェルの顔は一気に真っ赤に染まり、俯いたまま小さく「うん…」とだけ答える。
「あたち、めちゃくちゃ強かったにょ! どうだ、ホッパー!」
腰に手を当て、勝ち誇った表情で得意げにホッパーに向かってアピールするアイシャ。
「アイシャすごかったルー! マヌケルー!」
「な、なに言ってるにょ! あたちはマヌケじゃないにょ!」
「え? でも、マヌケってカッコいいってアイシャが教えてくれたルー。」
ホッパーの無邪気な言葉に、アイシャは真っ赤になって飛び上がった。
「あれは人間に使う言葉にょ! 星獣には『カッコいい!』ってちゃんと言わないとダメにょ!」
お互いに言い合いながら飛び跳ねる二匹の星獣を見て、ユウマとミシェルは自然と笑いが漏れた。
しばらくの休息を終え、ユウマたちは再びセイレーンの涙を目指して歩き始める。森の中はひんやりとした空気が漂い、木々の間から薄く差し込む光が幻想的な景色を作り出している。
「もう少しで着くかな?」
「うん、きっともうすぐだよ。ほらもう見えてきた」
木々の間から淡い光が差し込み、その先に現れたのは、小さな泉――セイレーンの涙と呼ばれる場所だった。泉の周囲は苔むした岩や絡み合う樹木に囲まれ、まるでこの森の中だけ時間が止まっているかのような静寂が漂っている。水面は鏡のように静かで、わずかな風でさえ波紋を描くたびに、周囲の神秘的な雰囲気をさらに引き立てている。
「誰もいないな。」
ユウマは周囲を見回しながらぽつりと呟いた。
「もしかして、私たちが一番最後なのかな?」
「多分な。でもまあ、水を汲んで帰るだけだし!」
「そうだね。じゃあ、始めよう。」
二人は並んで泉の前に立ち、息を整える。そしてユウマが小さく頷いたのを合図に、二人は声を揃えた。
『『セレナード・アクアスティルム!』』
二人の声が泉を覆う結界に響き、呪文の響きが共鳴する。薄い光の壁が揺らめき始め、それが徐々に消えていく。まるで透明な膜が剥がれるように、泉の水面が完全に姿を現した。
「やったー! 一発でできたー!」
ユウマはガッツポーズをしながら嬉しそうに叫んだ。
「よかったね、じゃあこの瓶に詰めて帰ろう。」
ミシェルが肩にかけていた鞄から小さな瓶を取り出し、慎重に水を汲む。瓶に入った水が淡い光を帯び、魔力の強さを物語っている。
「これで中間テストも終わりだー!」
ホッパーを抱きかかえたユウマは、その場でアハハハと笑いながらくるくると回り始めた。
「子供にょ。」
アイシャが呆れたように腕を組みながらぽつりと呟く。
「そこがユウマくんらしくていいよね。」
ミシェルはくすりと笑い、ユウマを微笑ましそうに見つめた。
「えーどこがー? あんなガキ嫌にょ。」
その時、ミシェルは少しモジモジとしながらアイシャに声をかけた。
「ねぇ、アイシャ… ホッパーと二人で先に帰っててくれない?」
突然のお願いにアイシャは少し驚いた顔を見せたが、すぐに察したように「わかったにょ」とだけ言う。そしてホッパーの腕を無理やり引っ張り、ユウマから引き剥がすようにして連れ去った。
ユウマとミシェルだけが静かな泉の前に残される。周囲は再び静寂に包まれ、森のざわめきが二人を優しく包み込む。
「実はユウマくんに話したいことがあります。」
ミシェルの声は小さかったが、はっきりとしていた。
「どうした?改まって。」
ミシェルの胸が高鳴る。この瞬間、自分の人生でこれほど緊張した場面はなかっただろう。しかし、彼女は決意したように口を開いた。
「ユウマくんと出会う前の私は、ずっとお兄様の影に隠れて生きてきました。」
ミシェルは自分の過去を振り返るように、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「私の家はとても厳しい家柄で、簡単に友達を作ることも許されなかったんです。ずっと、お兄様だけが私の味方で、話し相手でした。でも、私はずっと友達がほしかった。放課後やお昼休みに、楽しそうに話しているみんなを見て羨ましいと思ってたんです。」
ユウマはその言葉に耳を傾け、彼女の表情をじっと見つめた。
「だから、この学校に入ると決めた時、自分の目標を立てました。それは、友達を作ること。小さいけど、私にとってはとても大きな目標だったんです。」
ミシェルの声は震えていたが、彼女の目には決意が宿っていた。
「そうか。」
ユウマは静かに頷くと、優しい笑顔を見せた。
「でも、今のミシェルには俺もいるし、リンもレイラだっている。だから、その目標はもう叶ったな。」
「うん、ユウマくんのおかげで。」
ミシェルは少しだけ笑顔を見せたが、すぐにまた真剣な顔に戻った。
「でも、もう一つ私には目標ができました。」
「どんな目標?」
ミシェルは一瞬息を飲み、ユウマをまっすぐに見つめた。
「好きな人に、好きって言ってもらうこと。その相手はユウマくんです。」
「お、俺!?」
「林間学習の頃から…ずっとずっと好きです。誰よりも。」
ミシェルの言葉は、静寂の中で泉の水面に反響するように響いた。
一瞬の沈黙が訪れた後、ユウマは小さく息を吐いた。
「ありがとう…こんな俺を好きになってくれて嬉しい。」
その声には真摯さがあった。だが、次の言葉はミシェルの胸を締め付けた。
「だけどごめん。俺はミシェルの恋人になることはできない。」
まるで心臓をえぐられるような痛みに襲われたミシェル。
「理由を聞かせてくれると嬉しい…」
必死に震える声を抑えながら、彼女は問いかけた。
ユウマは少し視線を落とし、再びミシェルを見た。
「ミシェルのことは大事だし、好きだ。けど…俺にとってミシェルは妹みたいな存在なんだ。だから、ごめん。」
「そ、そっかぁ…そうだよね。」
ミシェルの声はかすれていた。
「こちらこそ、いきなりこんなこと言ってごめんね。」
ミシェルの頬を涙が伝う。振られた悲しみと絶望が胸を埋め尽くす。初恋は、こんな形で終わりを迎えるのだと実感した瞬間、まるで世界が崩れるような感覚に襲われた。
「これからも…友達でいてくれるか?」
ユウマの優しい声が耳に届いたが、ミシェルは答えることができなかった。ただ泣きながら頷くのが精一杯だった。
こうして、ミシェルの淡い初恋と中間テストは終わりを迎えた。静寂の中、泉だけが変わらず穏やかに水面を揺らしていた。
[おまけ]
「やっぱミシェル嬢、振られたねー」
上空でフワフワと浮かびながらユウマとミシェルのやりとりを見ていた雛音とアリヤ
「むしろ好都合でしょ...」
「あーそんなこと言っちゃうコン? アリヤちゃんって悪い子」
「魔王様を完全体にするには犠牲が必要」
「にゃはは! 確かにそうだね…」
「絶対に殺してやる...ハヤシ・ユウマ」
次回![第八十五話、回遊魚のクセに、同じ海が恋しくなる]
第八十四話を読んでくださったそこのアナタ!
次回も読んでくれると嬉しいです(。•̀ᴗ-)✧




