[第十四話、初回クエスト]
毎週、月、水、土、絶賛更新中!!
※夜の21時までには投稿します!
どうぞよろしゅうに〜〜
よぉ、俺っちはマジカラビアの裏通りに棲みついてる、スリのネズミだぜ。
なんで俺っちがいきなり語り出したかって?それはな……これから“戦場”に向かうからよ。
目指すは“幽玄の隠れ道”にある酒場――《ダークエリクサー酒場》。ここには、日々とんでもねぇ“食い物”が落ちてる。今日こそ……腕が鳴るっても……
――バチュッ。
「……あらやだ、汚いネズミを踏んでしまいましたわ」
その一言とともに、あの意気揚々だったネズミは、赤いドレスのツインテールダミアナのハイヒールによって、あっさりミンチと化した。
世の中とは、いつだって世知辛い。
ダミアナはヒールの先に付いた肉片を気にもせず、鼻歌まじりで酒場の扉を押し開けた。
カツ、カツ――と響く足音が、場違いなほどに整っている。
《ダークエリクサー酒場》。
それは、古びたレンガ造りに黒い煙が染みついた、魔都の片隅の腐れた胃袋だった。
空気には酒と汗と血と煙草の匂いが入り混じり、奥のカウンターでは無精ひげのバーテンダーが魂を抜かれたようにグラスを拭いている。
テーブルの間では、荒くれ者たちがカードを投げ合い、怒号を飛ばし、今にも拳を叩き込まんとしていた。
ダミアナは、そんな空間を一切意に介さず歩く。
ツインテールの先をくるくると指に巻きつけながら、小さな鼻歌とともに。
「イカサマしやがったな、この野郎!」
怒号とともに、痩せた男が投げ飛ばされ――よりにもよって、ダミアナのすぐ横に激突した。
「大丈夫か? すまんな、嬢ちゃん」
「……いえ。お気になさらずに」
一瞬、鎌に手をかけた。
が、相手の謝罪が早かったため、見逃してやることにする。
ダミアナは踵を鳴らして、また歩き出そうとした――その時。
「おいおい、嬢ちゃんよ……どこにすまして来てんだぁ?」
さっきまでひょろ男をぶん投げていた大男が、フラフラと近づいてきた。
酒に酔っているのか、それとも素で馬鹿なのか。ダミアナのドレスの裾を指でつまみながら、鼻息を荒くする。
「……なにか御用?」
「その、すぅかした態度が気に入らねぇんだよ……誰にモノ言ってんのか、わかってんのか?」
「ええ。あなたですわよ」
「なら、黙って――……あ?」
その言葉の続きを、大男が口にすることはなかった。
――コツン、と音を立てて、男の頭が床に落ちたのだ。
首の断面からは、異様な勢いで血が吹き出す。
酒場の床に赤が広がり、喧騒が一瞬で凍りついた。
「お酒の飲み過ぎは、身体に毒ですわ。ゆっくり、お休みなさいな」
女は血飛沫の中、口角だけをゆるく上げて告げた。
その目は最初から変わらず、ただの“退屈しのぎ”を観察する目だった。
そして、静寂の中、二階から――
「ひゃー、また派手にやったね、ダミアナ」
柵越しに手を振っていたのは、オレンジ色の尻尾を四本も揺らす女だった。
顔立ちは狐そのもの。だが、身体つきは人間に近く、髪は肩で切りそろえた艶のあるボブ。
狐面のような表情に、ちらりと嗤うような口元を浮かべて――まるで火遊びの続きを誘うかのように柵へ手をかけた。
「女狐さん……お久しぶりですわ」
ダミアナは笑みを浮かべたまま、返事だけをして二階の階段を上がっていく。
血まみれの床も、騒然とした空気も振り返ることなく。
「遅いコン! 完全に遅刻だコン!」
部屋に入った瞬間、鋭い声が飛んでくる。
この狐の女――雛音。この場の召集役であり、魔王復活を志す者たちを束ねる“案内人”でもある。
「申し訳ありませんわ、雛音さん」
ダミアナは小さく頭を下げた。だが、それは形式的なものだった。
雛音も、それをよくわかっている。だから咎めるようなことはしない。ただ、話を進めるだけ。
「この方たちは、オブキュラスの新しいメンバーだコン。魔王様の復活を心から望んでいる“選ばれし者”たちだコン」
雛音の隣に並んでいた三人の女たちが、静かに前へ出る。
一人目が、ゆっくりと口を開いた。
「はじめまして。サミラと申します」
落ち着いた低音。言葉の端に芯がある。
黒髪のストレートロング、その毛先には深い緑のメッシュ。衣装は薄絹を重ねたアラビア調の装束で、その眼差しはまるで毒を孕んだ湖面のよう。
「ウチはナディア! よろしくねっ!」
二人目は対照的に明るい。
黒髪を高めのサイドポニーにまとめ、毛先には鮮やかな黄色のメッシュが混じっていた。
その無邪気な笑顔は、まるで花火のように刹那的で危うい。
「よろしく……アリヤ」
三人目はやや声が小さい。
目を合わせるのが苦手なのか、微かに俯きながらの挨拶。
ミディアムボブの黒髪の先には、淡い赤のメッシュが滲む。周囲との距離を測るような気配をまとっていた。
三人を見渡して、ダミアナはすぐに察する。
顔立ちと気配の共通点――この三人は、間違いなく姉妹だ。
「わたくしは、ダミアナと申します」
それだけ名乗ると、サミラが小さく笑った。
「もちろん、存じ上げております。……なにせ、私たちの“憧れの存在”ですから」
ナディアが両手を胸の前で組み、跳ねるように言った。
「早く魔王様を蘇らせて、世界をぶっ壊しちゃおーよ!」
その言葉に、アリヤがちらりとサミラを見上げたが、特に否定はしない。
ダミアナは、ふと目を細めた。
「そう焦らずとも――いずれ、そうなりますわ。……ところで、雛音さん。魔王様のご様子はいかがかしら?」
雛音は尻尾を揺らしながら、ぴしゃりと答えた。
「まだまだコン。封印がガチガチすぎて、意識すら呼び起こせないコン ……このままじゃ、長い眠りの中に埋もれちまうコン」
その言葉に、サミラの瞳が僅かに光を帯びた。
「でしたら、まずは“意識”を揺さぶって差し上げましょう。……ほんの少しだけ、夢の中に“混乱”を加えればいい」
女たちの間に、静かな熱が生まれていた。
それは、確実に“目覚め”へと繋がる兆しだった。
――ギルド、サンクチュアリ。
「では、二年生のみんなから紹介する。新しいメンバーに自己紹介を」
レイヴンさんの号令で、2年生らしき人たちが前に出てきた。
「僕の名はルーシー・ノーザンライトです。魔法遺産調査団副隊長をしています。よろしくお願いします」
おお、知的な雰囲気。水色のミディアムボブに、メガネ。口調は丁寧だけど「僕」って言ってるあたり、芯が強そうな感じ。いわゆる僕っ娘ね
「はじめまして、俺はキース・ウッドロー。魔術学研究所、副隊長をやってます。よろしく」
茶髪にクセっ毛。ぼんやりした雰囲気なのにどこか冷静さを感じる人。……え、メリファさんの弟? う、羨ましい……。
「うちの名前はヤン・フェイ言います! 怪我したら、うちの医学ギルドにおいでや! すぐ治したるさかいな!」
関西弁!? しかも子供っぽい外見なのに、しっかりしてる雰囲気あるな……可愛い顔して、たぶん怒ったら怖いタイプ。
「ルナ・ドレイク。よろしく」
金髪ロングに透き通った肌、背筋も表情もピシッとしてて……これは反則だろ。ビジュアルだけなら間違いなく今日のMVP。こっちの視線が刺さるくらいクールで美人だ。
と、思ってたらすぐに3年生のターンが来た。
「園芸委員で委員長を務めています。それと、サンクチュアリ副リーダーでもあるわ。メリファ・ウッドローです。よろしくね」
癒しの声。天使のような微笑み。こんなお姉ちゃんが現実にいたら世界のバランス壊れるって……ありがとう神様。
「魔法遺産調査団、隊長レオ・デュークだ。よろしく☆」
相変わらず爽やかすぎるキラースマイルに、リンもレイラも横で微妙に赤くなってる。バレバレだぞ、お前ら。
「魔術学研究者、隊長シルベスター・ボサムだ。よろしく。お前たちに一言……俺様の実験台になってくれるテスター、募集中とだけ言っておこう」
毛先だけ紫の肩まで髪、鋭い目つき。危険な香りがするけど、妙に惹かれる不思議な人だ。
「3年生にもう一人、ローザ・パットン。2年生にジュリア・ペシュールが本日欠席となっている」
ジュリア・ペシュール。あの、入学式の日に助けてくれた――あのガーターベルト美人の……! またお会いできるとは……!
「こいつ、いきなりヘラヘラしだして気持ち悪いんだけど」
うぐっ、レイラの視線が痛い。腕組みされながら、露骨に眉が吊り上がってる。助けてジョン。
「仕方ないよ、レイラ。これは発作みたいなものだから」
ジョンが俺の肩をポンと叩いた。やさしさって身にしみる……。
「以上で自己紹介は終わりだ。皆、時間を取らせてしまったな」
レイヴンさんの言葉とともに、皆それぞれの持ち場に戻っていく。
だが、俺にはまだ逃げ道がなかった。
「さて。これで終わり……と言いたいところだが、他のギルドや委員会に所属していないのはユウマ、君だけだ」
「えっ、マジで? リンもレイラもどこかに入ってるの?」
「うん、私は医学ギルド。」
「私は……家系的に魔法遺産調査団って決まってるから」
なるほど、剣崎の家は代々そっち系か……お嬢様って感じ出てるもんな。
「というわけで、最も暇そうなキミに仕事を頼みたい」
……え? ええええええ!?
***
――スターリット・ウェイ。歌舞伎町と夜のネオンを足して三で割ったような混沌街。俺が今いるのは、そんな“光と闇の通り”だ。
「なぁ、ホッパー。これ、どう見ても場違いすぎない?」
「キラキラしてて綺麗ルー☆」
「……聞いた俺がバカだった」
今日のミッション。それは“夜な夜な街に出没するジュリア先輩を見つけ、連れ帰ること”。
さっきから街の様子を伺ってるけど、目移りするほど人が多い。ギラギラ、ヒラヒラ、ドキドキ……どっちの意味でも目に悪い。
そして見えてきた地獄の並び。ズドーンとそびえ立つラブホ群。俺の精神が、削られていく。
「……っく、これは強烈な痛みだ……!」
「ユウマ! ユウマ! 建物の上にデッカイ船が乗ってるルー!」
「だめだ、もうHPが持たん……!」
そうして逃げようとした瞬間、その船が乗っているホテルから出てきたのは――
「……ジュリア先輩!?」
しかも横には、どう見ても小汚い中年のハゲジジイが……腕組んでんじゃねぇ!
「隠れろホッパー!」
街路樹の陰に身を潜める。やばい、気まずすぎる。
「今日はありがとう、始めましてなのにリリカちゃんの『聖水』まで貰っちゃって、おじさん嬉しいよ♡」
今、なんて言った? ……今、“聖水”って言ったよな?
「そろそろ行かないと、電車間に合わないんじゃない?」
「そ、そうだね。また連絡するよ♡」
ジジイは去った。ジュリア先輩はため息をつくと――
「もう出てきていいよ、ムニン」
「遅いじょ! ハラペコだじょ!」
現れたのは黒い小カラス……いや、ピンクのリボンとスカーフつけてる。ツンツンとクチバシで先輩の頭をつついてるってことは、こいつが星獣か?
チャンス……だけど……!
「話しかけるなら今しかない!……って、ホッパー!?」
気づけばホッパーがジュリア先輩の足元でピョンピョン跳ねてる。おいバカ、空気読めー!
「始めましてルー!」
「やーん♡ 可愛い♡ どこから来たの?」
「気安く僕のジュリアに話しかけるなじょ!」
そして最悪の展開へ。
「ユウマも一緒ルー! ユウマー!」
「……ユウマって?」
うわああああ! 終わった! 俺の作戦、完全に崩壊した!
「ども、お久しぶりです先輩」
「だれ?」
ズコー! 漫画みたいに崩れ落ちる俺。
「入学式の時に校長室案内してもらったんですけど……」
「あー、あの時の! 懐かしいね♡」
思い出してくれた……いや、遅いよ!
なんとか俺は事の説明を終えると、先輩はケロッとした顔で言った。
「せっかく来てくれたのに悪いけど、帰るつもりないから」
「えっ、でも授業にも出てないって聞きましたよ? このままだと退学に……」
「別にいいかなーって。頑張るとかダサいし」
「え、でもせっかくギルド一緒に……!」
「じゃあね♡」
箒を呼び出して、先輩は夜の空に消えていった。
……俺の初仕事、まさかの失敗……?
[おまけ]
「新しい一年生、実力者ばかりみたいですね」
クイッとメガネを持ち上げるルーシー。どこまでも冷静だ。
「せやなぁ。ケンザキの嬢ちゃんに、レイラちゃん言う子もおったやろ?」
たこ焼きをほおばるフェイ。地味に焼き加減が完璧でうまそう。
「俺の研究所に所属してるジョンも、なかなかの切れ者だ。……副隊長の座が危ういぐらいだし」
「んで、あの子はどう思いますか?」
ルーシーの質問に、フェイはもごもご口を動かしながら答える。
「あふ、あー、あのユウマっちゅう子? なんかさえへん男やな、なんで選ばれたんやろか?」
「謎だけど……なんか、変な人」
銃の手入れをしながら、ルナがぽつり。
「ルナが言うなら、なんか持ってる男なんやろうな!」
「これからが楽しみですね。……あ、僕もたこ焼き一つ……って熱ッ!」
「俺の副隊長の座が~!」
次回![第十五話、あぁ愛しの先輩]
第十四話を読んでくださったそこのアナタ!
次回も読んでくれると嬉しいです(。•̀ᴗ-)✧




