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フツメンofウィザード 〜地味な俺が異世界魔法学園でなぜか注目される件〜  作者: ベルガ・モルザ


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[第十二話、初めての経験だったのに♡]

毎週、月、水、金の更新を予定してます。

※夜の21時までには投稿します!

どうぞよろしゅうに〜


アリの数は確かに減っている。 けれど、終わりが見えない。長引く戦いのせいで、俺たちの魔力は底を突きかけていた。


「ハァ……ハァ……結構倒したつもりなんだけどな……。まだ湧いてくるのかよ、こいつら」


「そう……みたい。わたしも……あと二発、撃てたら上等ってところ……」


「しつこいルー!」 『ホッパーパンチ!』


――コツン。 そんな音がしただけだった。


ホッパーの拳はアリの外殻に無力に当たり、揺らすことすらできない。彼の体はふらつき、魔力の尽きた瞳はうつろだった。


そしてそのとき、アリの群れの背後から現れたのは――グラトニーペタル。


まるで「待ってました」と言わんばかりに、花の怪物は触手を伸ばし、俺とリンをまとめて絡め取った。


「なっ……やめろ! 離せ!」


「や、やだ、パンツ見えちゃうっ!」


宙に逆さ吊りにされた俺とリン。リンは慌ててスカートを押さえたが、そんな羞恥さえ恐怖で霞んでいく。 目の前の怪物は――本気だった。


「ユウマ! リン! 今助けるんだルーッ!!」


ホッパーが叫び、ちっぽけな拳で必死に怪物の足を殴る。だが―― グラトニーペタルは煩わしげに足を振るい、ホッパーを無造作に蹴り飛ばした。


「ピシュー!」


いやに楽しそうな声を上げやがった。ムカつくほど、上機嫌だった。


やめろ……そんなときに思い出すな。 「最悪の展開」が頭をよぎった瞬間――それは、往々にしてフラグなんだ。


グラトニーペタルの蕾。俺たちはそれを“花”だと思っていた。 違った。あれは“口”だった。


触手が俺たちを運ぶ。花の中へ。 どろりとした粘液と、息が詰まる臭い。俺たちは、抵抗も虚しく――飲み込まれた。


あっけなかった。


まるでごちそうを平らげた後のように。 グラトニーペタルは軽い足取りで、森の奥へと帰っていく。


「……ま、だ……戦える……んだルー……」


ホッパーの声が、遠ざかる。 湿った草のにおいと、消えゆく声が、森に吸い込まれていった。



---


「――ッパー……ホッパー!」


誰かの声が、遠くから聞こえた気がした。

まぶたが重い。体は鉛のようだった。

けれど、声に導かれるように、ホッパーはゆっくりと目を開けた。


「よかった、目を覚ましたココ」


目の前にはモナーク。安堵に揺れる瞳で、ホッパーをそっと抱きかかえていた。


「うぅ……ユウマは……?」


かすれた声が漏れる。


「それはこっちのセリフッスよ! リン様たちはどちらに行ったでござるか!?」


慌てたように割り込んできたのはヤマトマル。羽をばたつかせ、焦った表情を浮かべている。


「ユウマたちは……魔物に食べられて……ホパが助けようと戦ったけど、負けてしまったルー……」


ホッパーの顔が、悔しさに歪む。

その体は小刻みに震えていた。


「大丈夫ココ。きっとユウマたちは無事ココ」


モナークがそっと言葉をかける。

不安を打ち消すように、静かに、けれど力強く。


沈黙が落ちた。

その場の空気を裂いたのは、教頭・マーシャルの低い声だった。


「――恐らく、グラトニーペタルでしょう。この近辺で、凶暴な花の魔物といえば、奴以外に考えられません」


背筋がひやりとするような事実だった。だが、同時に確信でもあった。


「もし捕まったとしてもすぐに食べることはないでしょう、ホシノ先生は生徒達と私は教頭先生と手分けて探しましょう」


ソフィアの一言に、全員が即座に頷いた。

迷いはなかった。ユウマを、リンを――取り戻す。その意思だけがあった。


そして、二手に分かれた捜索が静かに始まった。



森の奥。


その空気を切り裂くように、どこかから声がした。


「フフフ……♡ 探してますわね。――先回りして、ふたりの様子を見に行きましょうか」


赤いドレスをまとった少女が、意味ありげに微笑む。


次の瞬間、彼女の姿は霧のように揺らぎ――黒いコウモリへと姿を変え、森へと滑り込んでいった。


---


どこかで頭を打ったのか、ズキズキと痛む。

鼻をつく悪臭と、全身を包むぬめり――目を開けると、そこは暗闇だった。


「……リン?」


呼びかけても返事はない。

手を伸ばせば、すぐ目の前にリンの姿。どうやら俺たちは――まだ、あの魔物の中にいるらしい。


「うぅーん……」


リンも目を覚ましたようだ。


「え? ここどこ?」


「……アイツの口の中、だな」


「ベタベタする……最悪」


「怪我はないか?」


手を伸ばしてリンの体を確かめようとした、そのとき――


「きゃあっ! どこ触ってんのよ!」


――むにゅ。

思いきり掴んでしまった。柔らかい、たわわな部分を。

「ご、ごめん!」慌てて謝ったものの、遅かった。リンの足が迷いなく、俺の股間を打ち抜く。


「おおぉ……そこは……ダメだよ……」


「貴方が悪いんでしょ! ……それより、暗いと厄介ね」


リンが指先を掲げ、呪文を唱える。


「ルクス・クラリオ」


やわらかな光が灯り、空間を照らした。ようやく互いの顔が見える――って、顔近っ!

息がかかるほどの距離にリンの顔があるせいで、心拍が跳ね上がった。


「……これ、いつ消化されるんだろ」


「そんなの、わかるわけないでしょ」


「……だったら、俺が中から突き破ってやる!」


『スチールスマッシュ!』


拳に魔力をこめ、壁をぶち破ろうとする――が、ビクともしない。


「アハハ……無理みたいだ。うわっ!」


魔物の体が突然揺れ出す。俺たちの動きに反応したらしい。

空間が激しくねじれ、俺とリンは押し潰されそうになりながら、必死に体勢を保った。


「ご、ごめん。上に乗っかってる……すぐ退くね!」


とっさに身体をどかそうとするが――


「あれ? 下がれない……」


「そんなわけ……あ、ほんとだ……」


「しかも、なんか……さっきよりヌルヌルしてきてない?」


空間が狭く、粘液も増えている。これ、絶対に――消化が始まってる。


「な、なにか方法は!? ケンザキさん!」


「そんなこと私に言われたって――あっ、靴から煙が……!」


リンの足元から、白い煙が立ちのぼる。

靴が、溶け始めていた。


「……なにか……なにか方法は……そうだ!」


何かを思いついたらしいリンの顔が、ふいに真っ赤になった。


「どした? 顔、赤いぞ。何を思いついたんだ?」


「ま……」


「ま?」


「魔力供給で……魔力を増幅させれば、ここから出られるんじゃないかと思って……」


あぁ、それか。確かに、それなら――

でも、言いにくそうに体をくねらせながら話すリンのせいで、俺のジュニアがこの状況に反応してしまう。


「……それしかないなら、リンがいいならシよう」


「えっ?」


「ダメ?」


「……嫌じゃないけど……」


「たった1年だし、リンなら、こんなピンチにならないと必要なさそうだから、大丈夫だろ」


「そ、そういうことじゃないの! ……ただ……」


――この様子、さてはリン……初めてだな。


「は、初めてなの……」


「別に、口にしなければいいだろ?」


「……そ、そうよね。それなら……安心した」


――キスする気だったのか?


「じゃ、じゃあ……始めるね」


リンは俺の上に跨ったまま、俺の手を握り――契約の呪文を唱えはじめた。


「我が魂と汝の魂を繋ぎ、共に歩む力を授けよ。この契約により、我らの魔力は一つとなり、限りなき力を発揮せん」


俺の背中に魔法陣が浮かび上がる。

リンは顔を紅く染めながら、問う。


「ど、どこにキスすれば……いい?」


「……頬でいいよ」


下を向いた彼女の吐息が、熱い。

こっちはこっちで、こんな状況だってのに、気持ちが高ぶって仕方がない。


最後のキスが“頬”って、あまりにも……儚すぎる。

せめて――間違って“口”にいってくれたら……


そう思った瞬間、魔物が再び激しく動いた。

リンの体が傾き――


「……んぅっ!」


完全に、やってしまいました。

口と口、がっつり触れてます。これはもう、ファーストキスです。


(うそ……間違えて……キスしちゃった……でも、なんでこの人、こんな濃厚なキス……え、ちょ、離れようとしても、狭くて……でも……これが魔力供給……? 気持ちいいって聞いてたけど……たしかに……)


光が溢れる。

目も開けていられないほど、眩しい光が――ふたりを包んだ。





「レイラ! ホシノ先生! あれじゃないですか!?」


「……あの魔物よ。でかしたわ、ジョン君。でも……様子が変ね」


「見て、蕾の中……光ってるわ!」


グラトニーペタルの巨大な蕾が震える。

次の瞬間、内部から竜巻が巻き起こり、魔物の身体を引き裂くように駆け抜けた。

咆哮を上げる間もなく、その巨体は空高く舞い上がり――地面に叩きつけられたときには、原型を留めないほどに無残な姿になっていた。


「おーい! みんなー!」


ユウマの声が響く。


「あっ、ユウマだ!」


「ユウマ〜! ルー! ルー!」


ホッパーが弾けるように飛びつき、ユウマの顔に何度も舌を這わせる。


「やめろって、くすぐったいってば(笑)」


再会の喜びに、みんなの顔が緩む。


「ねぇ、さっきの竜巻って……リンが出したの?」


レイラが驚きの表情でリンに尋ねる。

ドキリとしたリンとユウマは、視線を交わし――即興の言い訳で切り抜ける。


「そ、そうなの。実は試しに上級魔法を唱えてみたら……たまたまうまく発動できちゃって。ね? 火事場の馬鹿力ってやつよね、ユウマ君」


「お、おう! いや〜リンさんがいなかったらやばかったな〜ほんと、ありがとうな!」


「なんで“さん”と“くん”で呼び合ってんのさ。なんか……変」


ジョンがジト目で二人を見つめる。


「お二人とも、無事で何よりです」


静かに声をかけたのは、教頭・マーシャルだった。


「教頭先生……すみませんでした!」


「ケンザキさん。謝る必要はありません。よくぞ、乗り越えましたね」


ああ……なんとか誤魔化せた。

この絶妙なタイミングで現れてくれた校長と教頭――ナイスすぎる。


「さあ、二人も戻ったし。カレー作りの続きをするわよ〜♪」


ホシノが手を挙げて笑う。

ユウマたちも、笑顔でその手に続いた。

陽の光の差し込む道を、みんなで歩いて帰る。


……だが。


その様子を、じっと見つめる視線があった。


「あーあー……もう少しで魔法使いの新鮮なハート、いただけましたのに。でも、まぁいいですわ。次はこうはいきませんから」


赤いドレスの少女は、木の上。

片足でピクシーの足をねじ折りながら、瞬きひとつせず、ユウマたちを見つめ続けていた。


「全ては……あの方の復活のために」


---


時間はとっくに制限を過ぎていた。

だが緊急事態だったこともあり、今回は特別に遅れての審査が許された。

なんとか全チームがカレーを完成させ、審査が始まる。


「ん〜♡ このカレー、絶品ね」


「ミシェルさんのチームのですね。これは……お店に出せますよ」


「フム……誠に、美味です」


審査員の三人が、それぞれボードを掲げる。


「先生が95点、校長先生が97点、教頭先生が……99点! すごいじゃない! 高得点よ!」


さすが、ミシェルのいるチーム。

あの子がきっと全部調理したんだろうな。くぅ……ミシェル、彼女にしたい。


「兄様、やりましたね」


「フン……当たり前だ」


そして、最後のチーム――俺たちの番。

あの死闘の末に完成させたカレーだ。絶対に、美味しいはず……!


「「「いただきます」」」


だが、次の瞬間――


「ブゥゥゥッ!!」


三人の審査員が、キャラも何もかも吹き飛ばしてカレーを一斉に吐き出した。


「おい、嘘だろ……」


「僕たちのカレーが……吐かれるほどマズいなんて……」


「なにかの手違いよ! 私たちも食べてみましょう!」


「そうね……」


「「「「あむ」」」」……「ブゥゥゥーーッ!!!」


不味い。不味すぎる。

カレーでこんなにも味覚が壊されるとは思わなかった。

もはやこれはカレーの皮をかぶった何かだ。


結果は当然、全員0点。

林間学習の優勝は、ミシェル・ミケロスチームの勝利となった。


全員が洗い物を終え、点呼も無事に済ませたころ、バスの出発時刻を迎える。

空はすっかり夜だった。


「……今回も、なんか色々あったな」


ぽつりと呟いた俺の耳元に、そっとリンが顔を近づける。


「仮契約したことは……みんなにはナイショね」


そうだ。

俺たちは“秘密”を作ってしまったんだ。


――神様、お願いだから。

これからは、平穏な日々が続きますように。


バスの車内、皆が静かに眠るなか、星獣たちは小声でなにやらヒソヒソと話し合っていた。


「もしかして……ホパが拾ってきたキノコがダメだったルー?」


「それ言ったら、ワタシがレイラの鞄から勝手に出したドラゴンの火吹チョコかもピィ」


「オレっちの特製、ユニコーン体液でコーティングしたドライフルーツのせいかもでござる」


「ボクが入れたかぼちゃ……ちょっと腐ってたかもココ……」


そう、原因は――こいつらだった。


[おまけ]


「きゃー! お野菜が勝手に動いてる!」


「貸してみろ。こんなこともできないのか、バカな妹め」


「兄様、お米を炊いてる土鍋から……黒い煙が!」


「まったく、俺がやる! どけ!」


「きゃー! お皿、割っちゃった!」


「もういい、ミシェルは鍋でも混ぜてろ!」


てきぱきと動くミケロスに、同じ班のクラスメイトたちは小声でつぶやいた。


(意外と……ミケロス君のほうが頼もしいんだね)


「フフ……兄様、いつもありがとうございます」

 

次回[第十三話、何でも屋実行部!?]

第十二話を読んでくださったそこのアナタ!

次回も読んでくれると嬉しいです(。•̀ᴗ-)✧

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― 新着の感想 ―
レビューを見て読ませていただきました。 話の流れもよくサクサク読めるのがいいですね 妹のミシェルより意外にしっかりしている兄のミケロスの話し好きです
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