[第百十七話、休戦協定:有効期限は気分次第]
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ボロボロの顔が上がり、片目の奥で黄金の光が燃える。
「我が……この程度で死ぬとでも……?」
その声は、怒りでも、怨嗟でもなかった。
ただ、淡々と――静かに。
そして、確かに――
“立ち続ける者”の声だった。
「執念というか…バカなのか…」
エレナは、胸ポケットに手を入れた。
カチ、という音とともに一本のタバコを取り出し、唇にくわえる。
「だけど、もう終わりよ。魔王」
言葉と共に、軽く煙を吐く。
その言葉に、イクノシアは唇の端を引きつらせながらも、わずかに笑った。
「お、お前こそ……ここでし……死ね……」
かろうじて使える右腕を持ち上げる。
魔力がかすかに指先に集まり、術式を形づくろうとしていた。
ふぅ……
ため息混じりの白煙を吐きながら、エレナがヒールの音を鳴らして歩き出す。
その足音は、戦場の喧騒すら断ち切るほどに静かで、無慈悲だった。
「終わりにしてあげるわ」
彼女は手を広げた、空間がひしゃげ、金属のうなりと共に銀のバトンが姿を現す。
展開されたバトンに、青白い稲妻が走る。
エレナは腕を振り上げた。
雷光を纏ったバトンが、焼け焦げた地に立つイクノシアへと振り下ろされ――
バシュッ!
その軌道を、鋭い大鎌が横から割り込んで止めた。
「っ……!」
エレナの金色の瞳が、かすかに見開かれる。
立っていたのは、ダミアナだった。
その身体もすでにボロボロ。服は裂け、肩は血に染まり、魔力も明らかに限界を超えている。
それでもなお、彼女は魔王の前に立っていた。
「魔王様……早く、お逃げなさって……雛音が、迎えに来ますわ……」
「ダメだ……お前も一緒でなければ……」
イクノシアの声は、今にも消えそうだった。
だが――その背に立つ者がいる限り、彼は倒れられなかった。
エレナは、その光景をじっと見つめ――ふっと目を細める。
その瞳に浮かんだのは、満足げな微笑。
「逃げる? お前たちオブキュラスは……ここで、全員死ぬのよ」
その言葉と同時に、彼女は握っていたバトンを一度手放し――空中で再び掴み直す。
ギュンッ!!
二撃目は、一切の容赦なく振り抜かれた。
「終わりにしましょう」
鎌ごと、ダミアナをへし折るつもりの殺意。
その一撃は、処刑ではない。断罪だった。
だが突如として、空気が裂けた。
「グオォォォォッ!!」
赤鬼と青鬼が咆哮を上げながら、エレナに向かって襲いかかる。
「っ……!」
その気配に、エレナは即座に反応した。
ヒールをきつく鳴らし、身体を反らすように後方へ跳躍。地面を抉るような脚力で、一気に距離を取る。
「まさか……敵の召喚術……!」
反撃の体勢に移ろうとした瞬間、空間が震えた。
「なっ……まだ来るか!」
視界の端から次々に現れる異形たち。一本角の鬼女、三つ目の猿、ぬらりとした白蛇――数え切れない妖怪が一斉に出現し、シンデレラたちS級エージェントの周囲を包囲していく。
「数が多すぎるっしょ……!」
ジャスミンが鞭を閃かせて雷を走らせるが、焼かれた鬼の後ろからすぐに別の化け物が躍り出てくる。
「この妖怪たちは……!」
イクノシアが目を細めて呟く。
記憶にある雛音の式神だ。
「さぁ! 魔王様、早く早く!」
ぱたぱたと袖を振って駆け寄ってきたのは雛音だった。嬉しそうに笑みを浮かべ、まるで遠足でも誘うかのように手招きする。
「わたくしが手を貸しますわ」
ダミアナが静かにそう言い、魔王の右腕を自分の肩に回す。
「うぅ……雛音、逃げるとは……どこへ行くのだ?」
「わっち達が1000年前に建てたお城、覚えてるコン? 世界を作り変えたら一緒に住もうって言ってたあのお城! 地中に埋もれたままだったけど、ゴブリン達に探させてたコン」
「ということは……あったのか」
「ビンゴ! もうすぐ捜索班の誰かが空間を開いてくれるはずコン!」
その言葉に呼応するように、目の前の空間が歪んだ。
青い渦を巻くような物質が空間を裂き、その中からフードを深く被ったローブの男が現れる。
「さぁ、こちらです! 魔王様、お早く!」
「……ヨシ」
重い足を前へと出すイクノシア。片腕をダミアナに預け、雛音に支えられながら、ゆっくりと裂け目へと向かっていく。
しかし、その道を――
「魔王……お前は逃さない」
血を滲ませた足取りで、ルナが立ちはだかった。
ダミアナとの死闘で身体はボロボロ。だがその瞳だけは、決して折れていない。
彼女はハンドガンを構え、照準を魔王の額に合わせていた。
「やめましょう、ルナ先輩!」
ジョンが駆け寄ってくる。その瞳には、焦燥が浮かんでいた。
ジョンの足元には、モナークとアルインがいる。
アルインは神獣化と戦闘の影響で意識を失っている。
その身体を支えるモナークは、眉をひそめながらルナを見つめていた。
「ルナ……戦うのはやめてココ……」
それでもルナは足を止めない。
「ここで終わりにしなきゃ……誰が止めるのよ」
静かな声。だが、そのトリガーには震えるほどの怒りと悲しみが込められていた。
「クソッ! どけろ、邪魔だ!」
焦るエレナが叫び、振り払おうとするが、目の前には立ちはだかる二匹の鬼。
その隙に――裂け目がさらに広がる。
「魔王様、今です!」
ローブの男の声が響く。
そして、イクノシアが、ゆっくりとその裂け目へ足を踏み入れた――
空間の裂け目に、魔王イクノシアの姿が吸い込まれていこうとしていた。
「待てよ、イクノシア!」
その声が戦場に響いた。
肩で息をしながら駆け込んできたユウマ。その足元には、星獣に戻ったホッパーが小さな体を踏ん張っていた。
「一緒に来るか?」
イクノシアの問いに、ユウマは即答した。
「行かねぇよ」
「……そうか、残念だ」
その声には、どこか空虚な響きがあった。
「これから、どうする気だよ」
「我は……世界を変える。大切な人を取り戻すために、千年を費やした。だが……まだ終わっていない」
「じゃあ、俺がお前を止めるって言ったら?」
鼻で笑ったのはダミアナだ。
「は、何を戯けた……」
「よすんだ、ダミアナ」
「……でも!」
「いいから」
イクノシアは、息を整え、ふっと口元を緩めた。
「今のお前では、我を止めることは不可能だ。……だが、チャンスをやろう」
「チャンス?」
「我は、二ヶ月後。12月25日、世界を滅ぼし、新たな世界を築く」
「そんなことしたらダメルー!」
「ホッパー、大丈夫だ落ち着け」
ユウマがしゃがみこみ、ホッパーの頭を撫でる。
「その日、ユウマ。お前と仲間たちで、我の城へ来い。相手をしてやる。勝てば世界を救い、負ければ全てが終わる。シンプルだろう?」
ユウマは拳を強く握り締めた。
「……わかった、受けて立つ」
「グハハ! それでこそ……我の転生者だ、そういうことなら一時休戦だな」
そう言い残し、イクノシアは裂け目へと消えた。
最後に顔を覗かせたのは、雛音だった。
「ねぇねぇ、世界のどこかに、わっち達の城に入る“キー”が二つあるから探してくるコン♪ それから——」
小さく跳ねながら、笑みを浮かべる。
「無闇に城に近づいたら、超やばい爆弾が——どっかーん! だから気をつけるコン♪」
ぴょーんと跳ねて空間に消えた雛音。裂け目がゆっくりと閉じていく。
——その時だった。
ゴゴゴゴゴ……
「な、なんだ……?」
地鳴りのような音。大気が震え、視界の奥に、異様な構造物が出現した。
エンチャントレルム魔法学校の西に位置する街——マジカラビアの中央。
そこに、黒く、禍々しい城が、地面を破って突き出てきた。
「嘘……だろ……」
巨大な影が空を覆う。城は、街ごと空中へと浮かび上がり、雲の向こうに止まった。
その異様な光景を、誰もがただ、黙って見上げるしかなかった。
だが、事態はそれだけでは終わらない。
「A級、S級エージェントに命令を下す。サンクチュアリおよびエンチャントレルム魔法学校の校長、ソフィア・スカーレットを拘束せよ」
エレナの冷酷な声が響いた。
「了解」
シンデレラが短く答え、ジョンとルナの手首に魔力の拘束具をかける。
「シンデレラさん……!」
ジョンが抗議の声を漏らすが——
「……すまない。これは規則だ」
静かな声が、その余地を潰す。
何も言わず、従うルナ。
「やめろよ! 痛っ……!」
怒りを込めて抵抗するユウマに、ベルが微笑みながら囁く。
「暴れると……斬りますわよ?」
言葉と同時、優雅な手付きで腕を捻り拘束する。
次々と保護され、拘束されていく生徒たち。星獣たちも魔導機構に囲まれ、手出しができない。
そして、ソフィア。ドラゴンの姿のまま、魔導封印術でその身体を押さえ込まれ、無力化されていった。
現場の混乱がようやく落ち着いた頃だった。
焦げた船体、地に伏した星獣たち、折れた杖、割れたガラス——そこに立ち尽くすのは、数名のエージェントと、残された生徒たち。
そんな中。
エレナ・アーチボルドは、誰よりも静かだった。
彼女のヒールが焦げ跡の上を歩くたび、乾いた音を立てる。その視線の先には、地面に倒れた——いや、下半身を失いながらもまだ息をしているレイヴンがいた。
「頑張って、頑張るんやレイヴン先輩……!」
声を震わせながら叫ぶのはフェイだった。レイヴンの傍に膝をつき、必死に治癒魔法を施している。
だがその手は震えていた。魔力が乱れ、術式が滲んでいく。
「うちが……うちがやめへんかったから……!」
その肩に、無慈悲な声が降りる。
「もういいわ」
フェイが顔を上げる。
「え……?」
「この子はもう助からない」
あまりにもはっきりと、冷たい声だった。
「そんなことない! うちが……!」
「いいえ、アンタは取り押さえられるの」
エレナの命令に応じ、数人のエージェントが現れる。制服の衣擦れが、現実を突きつける音に聞こえた。
「やめてや! なにするんや! レイヴン先輩!! レイヴン先輩ぃ!!」
悲痛な叫びが夜空に響く中、フェイの体が無理やり引き剥がされた。
残されたのは、血に染まったレイヴンと、彼女の姉だった。
エレナは何も言わずしゃがみこみ、胸元のポケットからタバコを取り出す。指先がわずかに震えていたが、火をつける瞬間だけは完璧だった。ふぅ、と煙を吐き、淡く揺れる煙越しに妹を見る。
そのレイヴンが、まるで搾り出すように呟いた。
「……お姉ちゃん……私を、笑いに来たのか……?」
「そうよ」
エレナは即答した。そこに迷いはない。
「私は……できそこないの……妹だったか……?」
「そうね」
ただし次の言葉は、ゆっくりと、噛みしめるように。
エレナは妹の頬に手を添えた。
「でも、レイヴン……アンタは私の大事な妹よ。もう頑張らなくていいわ。後はお姉ちゃんが頑張るから」
そして、言葉の隙間に少しだけ、震えが混じる。
「メリファさんと、天国で幸せに暮らしなさい」
レイヴンの目が、かすかに開く。
「……メリファは……ダメだったのか……? すまない……メリファ……私のせ……い……で」
そのまま、彼女は静かに目を閉じた。
まるで安らかな眠りにつくように。
エレナはタバコをくわえたまま、すうっと息を吐く。
「……おやすみ、レイヴン」
空は、もう夜だった。誰も喋らなかった。
——死亡者
3年生
——レイヴン・アーチボルド。
——メリファ・ウッドロー。
2年生
——ルーシー・ノーザンライト。
——そして、被害者数、数百。
黒き旗を掲げた魔王イクノシアと「オブキュラス」との戦いは、こうして一時、幕を閉じた。
次回![第百十八話、サヨナラとありがとうは紙一重]
第百十七話を読んでくださったそこのアナタ!
次回も読んでくれると嬉しいです(。•̀ᴗ-)✧




