Side Story Luna [世界でいちばん緊張する“おめでとう”]
前半はルナの一人称
この後半は三人称にして書いてみたよん
サイドストーリーが面白いと思ったら
いいねくーださい(。・ω・。)ノ♡
グレイスタウン。
マジカラビアの東、石畳の街並みを抜けた先に広がるのは、現代的で洗練されたトレンドの中心地。煌びやかなショーウィンドウ、絶え間なく流れる音楽、人々のざわめき――この街は、いつだってエネルギーに満ちていた。
そんな雑踏の中を、一人と一匹が歩いていく。
黒のトートバッグに白いタンクトップ、黒いミニスカートにショートブーツ。洗練されたシルエットのその少女――ルナ・ドレイクは、どこか浮世離れした空気をまといながら、真剣な面持ちで小さな星獣と会話していた。
「ジョンに似合いそうな財布のお店は、こことここにしようと思う」
ルナは手元のソサマをアルインに見せる。アルインはふわりと宙を舞い、ルナの肩のあたりに舞い戻りながら頷いた。
「いいと思うのだ……」
夏の陽射しは容赦がない。街のアスファルトは熱を孕み、見えない陽炎が空気を揺らす。ガラス張りの建物が反射する日光は、まるでルナを包み込むようにキラキラと跳ね返っていた。
道行く一般ピーポーの視線が彼女を追う。
すれ違う人の目が、ふとこちらを向き、何度も振り返る。ルナはそれに気づくと、眉をひそめてアルインに問いかけた。
「ねぇ、アルイン……私、変かな?」
「普通なのだ」
パタパタと小さな翼をはためかせ、アルインは迷いなく答える。
「もしかして……竜人族って、バレてるのかも」
「違うと思うのだ……」
「……そんなことない」
ルナは小さくため息をついた。人混みの熱気、ざわめき、視線の波。そういったものは、彼女の心をじわじわと削っていく。
――やっぱり、人混みは苦手だ。
そう思いながら、足を速める。目指すのは、あらかじめチェックしていた財布の専門店。
すると、すれ違った人がルナを見て会話をしている。
「え、めっちゃ可愛くない?あの子……」
「芸能人かと思った……」
それは――竜人族への警戒ではなかった。ただただ、可愛いからであったからだ。
ルナはその声に気づくことなく、アルインと並んで静かに歩き続けた。
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ガラス扉に手をかけると、からんと柔らかな音が鳴った。
ルナが足を踏み入れたのは、グレイスタウンでも人気の高い革製品専門店。
外の喧騒とは一転して、店内はしっとりと落ち着いた空気に満ちている。温かな間接照明が照らす棚には、丁寧に並べられた革財布がずらりと揃い、品のいい木の香りとレザーの匂いが微かに混じって漂っていた。
「わぁ……」
思わず、ルナは小さく声を漏らす。高級感のある空間に圧倒されつつも、ゆっくりと歩を進め、ガラスケース越しに陳列された財布のひとつひとつに目を走らせる。
「ジョンに似合いそうなの、あるかな……」
黒やブラウン、ネイビー。どれも大人っぽくて落ち着いた色味ばかり。
シンプルなステッチのもの、ブランドのロゴがさりげなく刻まれているもの。どれも「良いもの」だと分かるが――ルナの胸に「これだ」と響くものは、まだ見つからなかった。
「これなんてどうなのだ?」
アルインがショーケースの上にちょこんと乗り、焦げ茶色の二つ折り財布を指差す。その財布は品のある型押しがされており、大人の男性にぴったりな渋みがあった。
「うん……たしかに素敵。でも、なんだろ……なんか違うの」
ルナはそっと首を振った。店員が軽く微笑みながら近づいてきたが、彼女は丁寧にお礼を述べて、視線を他へと移した。
(ジョンらしいって、なんだろう)
それがわかっているようで、実は掴みきれていない。彼の無邪気さ、真面目さ、時々見せる頼もしさ……そういう全部を包み込めるような、特別な何かを探しているのだ。
ふと、ショーケースの一番端にある長財布に目が止まる。
だが
「……これも違う」
そっと目を伏せて棚に財布を戻し、ルナは一つ深呼吸した。
「ここじゃないのだ?」
「そうだね…、、まだ候補はあるから。次のお店、行ってみようか」
そう言って微笑むと、ルナは扉へと向かう。扉を開けると、再び夏の熱気が肌を撫でる。
財布はまだ見つからない。けれど、妥協する気はなかった。
――大好きな人への贈り物だからこそ。
ルナはまっすぐ前を見据えて、次の目的地へと歩き出した。
グレイスタウン中心の交差点。ビル風も夏の日差しには敵わず、熱気がアスファルトをゆらゆらと揺らしていた。
「それにしても暑いね……」
ルナは汗で首に張り付いた金の髪をかき上げると、手で首元を何度も扇いだ。顔を上げると、頭の上でぐでーんと潰れた黒い小竜が口を開けてぐったりしている。
「暑いのだ……ルナ、溶けるのだ……」
「もうちょっとだから、頑張って」
そう言いながら交差点に足を踏み入れた瞬間、ルナのソサマが震えた。画面に浮かぶのは──“レイヴン先輩”。
「……はい、どうされましたか?」
『休みのところ悪い。今、大丈夫か?』
「えぇ、いまグレイスタウンに来てます」
『ちょうどよかった。実は“泥棒ウルフ”がこの街に出没しているらしい。サンクチュアリに討伐依頼が来てたんだが……うっかり忘れてしまってな』
「それは……先輩らしくないですね」
『ルナに言われるとヘコむ……』
冗談めかした声のやり取りが、次の瞬間に現実へと一変する。
「キャー! 魔物で泥棒よー!」
甲高い悲鳴と共に、交差点の向こうから灰色の毛並みのウルフたちが飛び出してきた。宝石を抱えたまま全速力で駆け抜ける、ボロボロの服と刃物を手にした、7体の“泥棒ウルフ”。
画面の向こうから聞こえるレイヴンの声が何かを告げる前に、ルナはきっぱりと宣言した。
「その依頼、私が受けます」
『えっ、ちょっ──!?』
ルナは泥棒ウルフたちに向かって駆け出していた。
「アニキー! 宝石ゲットっす!」
「おう、そろそろズラかるぜ!」
嬉々として逃げようとするその前に、ルナが道を塞ぐように立ちはだかる。ハンドガンを片手に、姿勢はぶれず、銃口はぴたりと相手を捉えている。
「待ちなさい」
その一言は、真昼の喧騒を一瞬だけ凍らせるほど、静かで、鋭かった。
「な、なに者だてめぇ……!」
「通りすがりの、ただの学生よ」
ルナの声は静かだった。けれど、銃口から放たれた弾は、確かな意志を伴っていた。
バンッ。
轟音と共に放たれた弾丸が、ウルフの身体を撃ち抜いたわけではない。電撃を内包した“弾”が命中した瞬間、ウルフの体がビクンと震え、膝から崩れ落ちた。
「ぬ、ぬぅお!? な、なんだこの感覚……!」
「……サンダー弾。身体に当たると痺れて、しばらく動けなくなるわ」
「コイツ、魔法使いか!? お、お前ら、全員でかかれぇー!!」
ルナの目に一切の動揺はなかった。ただ一歩、前へ踏み出す。
「まとめて相手してあげる」
交差点に響くのは、靴音と風切り音、そして――銃声。
ルナが放つハンドガンの一撃が、ウルフの右腕に命中した。青白い電撃が弾け、獣の悲鳴が響く。
「一体やられたぁっ!」「囲め囲め!」
ウルフたちが左右から迫る。だがルナは動じない。
(動きを読めば、全部撃ち抜ける)
風がスカートの裾をさらりと揺らし、金の髪が日差しを跳ね返すように閃く。
「アルイン、カバーお願い」
「任せるのだ!」
一体が跳びかかってくる――その瞬間、ルナは壁へと駆け、軽やかに壁を蹴り上げる。身体が宙を舞い、壁面を斜めに走るように駆けながら――
バン! バン!
二発。ウルフの足元に電撃の花が咲き、跳躍していた個体が落下して気絶した。
着地と同時に、後方からの斬撃に反応。ルナは咄嗟に地面に手をつき、両足を頭上に振り上げて――
後方回転。
そのまま華麗に後転しながら敵の懐を抜け、着地と同時に低くスライディング。狙いを定め、横転しながら撃ち上げる。
「逃さない……!」
銃弾はウルフの胸に突き刺さり、また一体が地に伏した。
だが――カチリ、と虚しい音。ハンドガンの弾が切れた。
「……終わりじゃない」
ルナは迷いなく、手のハンドガンを投げ捨てる。その瞬間、彼女の手元に黒の魔法陣が咲き、新たなハンドガンが出現する。
召喚と同時に、再び二体のウルフが連携して襲い来る。片方が正面、もう一体が背後から。
(あえて前に跳ぶ)
ルナは小さく前転するように飛び出し、そこから軽やかに空中で一回転――前宙。その身体の回転中、正面の敵の肩を撃ち抜く。回転の勢いのまま、着地と同時に背後の敵に拳銃を向け、銃口から閃光が走る。
「残り一体」
その瞬間、最後の一体――ボス格のウルフが目を見開いた。
「く、くそ……こいつマジでヤバい……!」
くるりと背を向け、逃げの体勢に入る。
(逃がさない)
風が吹いた。ルナの髪がふわりと舞い、スカートの裾がひるがえる。彼女はしゃがみ込み、深く腰を落として、スナイパーライフルを召喚する。
「捕らえた……」
ライフルのスコープを覗いたその刹那、ルナの瞳に静かな蒼の光が灯る。
撃鉄が上がる。引き金に指がかかる。
その一瞬――空気が止まったように感じられた。
「沈め」
バンッ!
放たれた銃声が空を裂き、逃げるウルフの背中に雷光の如き一撃が直撃する。
その巨体が前のめりに崩れ落ちる。転がりながら地面に激突し、そのままピクリとも動かなくなった。
ルナはそっとライフルを下ろし、風に舞うスカートの裾を押さえるようにして立ち上がる。
そして、息を一つ吐いた。
「ふぅ……ミッション完了、かな」
通りの向こうで、騒然としていた人々がようやく歓声を上げた。
「す、すごい……あの子、魔法使い?」
「いや、何者よ……!」
賞賛にも戸惑いにもルナは振り向かない。ただ、ひとつ。
「……財布、選ばなきゃ」
そう呟いて、彼女はまた歩き出した。
グレイスタウンの夕暮れ。柔らかな光が街路に差し込むなか、店の扉がチリンと軽やかに鳴った。
「ありがとうございましたー」
店を出てきたルナは、ほんの少し口角を上げて満足そうに笑った。
「やっと見つかった♡」
心の中で何度もイメージしたその瞬間。世界の誰より自分が幸せだと、そう言い切れるほどの気分だった。
その足で女子寮に戻ると、玄関で靴を脱ぎながらすぐにシャワーへ直行。サッと浴びて、手早く髪を乾かし、慣れない手つきでメイクを始める。
鏡の前。問題は――髪型だ。
「ポニーテール……違う」
髪をくくってみるも、しっくりこない。
「ツインテール……レイラは似合うけど、私はない」
お団子にしてみたが、どうにも落ち着かない。
「なんか私じゃない……」
ハーフアップにして一瞬手が止まった。
「可愛いけど……ジョンって、こういうの好きじゃなさそう」
悩みに悩んだ末、ルナはしょんぼりとヘアアイロンを置いた。
「……結局、いつも通りのストレート」
それでも自分に言い聞かせるように微笑んでみた。
「これでいいよね……」
その時、アルインが時計を指差して言った。
「もう時間なのだ……」
「うっ……!」
現実に引き戻されたルナは慌ててケーキを袋に詰め、プレゼントをその下に隠した。
そして――
夕方の空の下、女子寮を出て、男子寮へ。数分の距離がやたらと長く感じる。
ようやくジョンの部屋の前に着いた。
(……押せない)
指がインターホンに触れたまま、ルナは硬直する。
(む、無理……緊張しすぎて死ぬ)
戦場ではあれほど冷静でいられるのに、恋愛ではこうも脆いなんて。
その時だった。
「……あんれ? ルナ先輩?」
不意に、数件隣のドアが開き、ユウマが顔を出す。
「ユ、ユウマ……!」
(よりにもよって今!? 空気読めないこの男が……!)
そして当然のように――
「わー! アルインだルー!!」
おバカなカンガルー、ホッパー登場。
「二人とも、どこ行くの?」
「あ、俺たち今から飯行くんすよ! で、ジョンも誘おうと思って」
その瞬間――最悪のタイミングで、ホッパーがルナの袋に鼻を突っ込む。
「うわー!! 美味しそうなケーキの匂いがするルー!!」
「こらっ!」
慌ててユウマが引き離そうとした瞬間、ジョンのドアが開いた。
「なんの騒ぎー? ホッパー、ちょっと静かに……って、えっ」
視界に飛び込んできたルナとユウマを見て、ジョンはきょとんと目を丸くする。
「どうしたの?」
「俺は飯に誘おうと……」
「私は今日、お泊りだから……」
言葉が重なり、しばし沈黙。
そしてジョンが、照れたように、でもちゃんとした声で言った。
「そ、そうだよ。今日はルナ先輩が……泊まりに来る日なんだ。だから、ごめん。今日はご飯いけないや」
「別にいいよー! ほら行くぞ、ホッパー!」
「ホパもケーキ食べた……ふんぐッ!!」
ユウマがホッパーの口をふさぎ、強制的に撤退。
ようやく二人きりになった部屋に、ジョンの手招きでルナが入っていく。
ジョンの部屋は素朴な居心地の良さを持っていた。整えられたベッド、書き込みの多いノートが並ぶ机、使い込まれたマグカップが1つ。何も特別なものはないはずなのに、ルナにとってそこはどこよりも落ち着く場所だった。
軽い夕食を終え、ジョンが「ちょっとトイレ行ってくる」と席を外す。
その瞬間、ルナの表情がきりっと変わる。
「今のうちよ、モナーク、アルイン。準備するわよ」
「わかったココ!」
「なのだ!」
部屋の照明を落とし、ルナは手早くテーブルの上にいくつかのキャンドルを並べた。火を灯すと、柔らかい光がじわりと広がり、空間をふんわりと包み込む。
小さなケーキの中央にはロウソクが立ち、白い蝋の周囲をキャンドルの光が反射して、淡くきらめいていた。
「これで……よし」
ドアが開く音がして、ジョンが戻ってくる。
「ただいま――ん?」
戸口で足を止めた彼に、ルナたちは息を揃えて声をかけた。
「「「ハッピーバースデー トゥー ユー!」」」
突然の演出に、ジョンはぽかんと口を開けたまま固まった。照明の落ちた室内、キャンドルの揺れる光、そして自分を見つめるルナと星獣たち――すべてが彼のために用意された、たった一夜の魔法のような光景だった。
「これ……」
「誕生日おめでとう、ジョン」
ルナはゆっくりと隠していたカバンの中から包みを取り出し、彼の前へ差し出した。手はわずかに震えていたが、視線はしっかりとジョンを見ている。
「プレゼント……これ、受け取って」
ジョンは受け取った包みを、まるで宝物のように丁寧に開いた。中から現れたのは、黒を基調とした落ち着いたデザインの財布だった。端にあしらわれた小さな星の飾りが、どこか彼の雰囲気にぴったりと合っていた。
「……これ、僕に?」
「うん。……ずっと選んでたの。ジョンに似合いそうなもの、って」
ジョンは財布を手にし、何度も手のひらで確かめるように撫でた。
「……ありがとう、ルナ先輩。本当に……すごく嬉しい」
ルナは小さく息を呑んだ。そして、キャンドルの光に照らされた顔で、ほんの少しうつむきながら、それでもはっきりと気持ちを伝えた。
ルナの言葉は、震える声とともに空気に溶けていった。
ジョンはゆっくりと顔を上げる。その瞳に宿るのは驚き、そして――喜びだった。言葉にできない何かが胸に満ちて、彼の唇に自然と微笑みが浮かぶ。
ロウソクの炎がやさしく揺れている。テーブル越しに見つめ合うふたりの間に、ぬくもりがそっと流れていく。
その少し離れた隅では、モナークとアルインが静かに抱きしめ合っていた。小さな体をぎゅっと寄せ合って、まるで「おめでとう」の気持ちを共有しているかのように、ちょこんと身を寄せて。
キャンドルの灯りが、ルナの頬を淡く照らす。ジョンの手がそっと、ルナの手の上に重なった。
ふたりは言葉もなく、おそるおそる、けれど自然に――少しずつ、距離を縮めていく。
どちらからともなく瞼が閉じられ、静かに、やさしく――唇が触れ合った。
短く、あたたかなキスだった。
不器用で、照れくさくて、でも確かにお互いの想いを伝え合う、ふたりにとってのはじめての一歩。
揺れる炎の中で、それは小さな祝福のように、そっと夜に溶けていった。
サイドストーリーを読んでくださったそこのアナタ!
次回も読んでくれると嬉しいです(。•̀ᴗ-)✧




